最高位レイドモンスター
魔獣の使い手・ブルスター。それが今回の最高位レイドモンスターの名前であった。
「まず、第一形態は地面に立っているわ。そこから、様々な攻撃、魔法を使ってくる。それに、フィールドには名もなき魔獣が湧くからこれの対策もしないといけない」
イベント広場につくと、マリンは4人に最高位レイドモンスターの特徴を伝える。バロック以外は大体知っているような特徴でもあった。
「だから、まずは、いきなりノワールちゃんに『極大暗黒弾』を使ってもらいましょう。二形態目以降は魔法防御力が格段に高いから、MP切れは気にしなくてもいいわ。それとブランちゃんは『斬斬舞』で攻撃力をあげておいて」
分かった、わかりましたと、二人が口々に言う。
「バロックは本体に『破砕連撃』を入れた後は魔獣の相手をして。カイと私も支援魔法を入れた後はそっちに回るわ」
それからマリンは第二形態以降の立ちまわりを伝えたうえで、イベントの受付と話をつけて、遂に最高位レイドモンスターと戦うフィールドへと飛ばされた。
闘技場のようなフィールドの真ん中に最高位レイドモンスターであるブルスターが立っていた。不気味な鎧を着て、鞭を手に持っていた。
「さあ、行くわよ!」
マリンの号令に合わせて、それぞれ予定していた動きをとる。ノワールは『極大暗黒弾』の準備を、バロックは本体に『破砕連撃』を入れに。
ブランはバロックから少し遅れて『斬斬舞』を打ちに行く。
その間に、カイとマリンはフィールド系の魔法をそれぞれの仲間に使っていく。
もちろんその間も、ブルスターは黙ってはいない。鞭をしならせて、最高位の風属性スキル『薫風の一撃』を浴びせてくる。ブランや後衛3人は何とか回避するが、バロックは回避が間に合わないので盾で防御する。
その一撃はバロックの盾の上からでも体力の9割以上を削ってしまう。
「おおう……。風耐性Ⅴがないと死んでたな」
バロックはブルスターに『破砕連撃』を入れると、後ろに下がる。防御力は10%も削れていなかったが、ないよりはましである。
ここから、ブランが『斬斬舞』を放つ。ブルスターも、鞭を引っ張ると、周囲に踏んだら麻痺を付与するフィールドを繰り出すが、アンチパラライズフィールドによって付与された麻痺耐性Ⅴがあれば食らうことはない。引き続き攻撃を続ける。
バロックはマリンに『ハイヒール』を入れてもらうと、フィールドの左右に湧き始めた、魔獣の対処に向かう。カイも残りのアンチフィールド系を張るのはマリンに任せてそれについていく。
ブランは深追いをせず、ブルスターにダメージを与えるとすぐに下がる。ごり押し戦法が通用しないのは間違いないからだ。
マリンはアンチフィールド系を仲間全員に貼り終えると、魔獣の対処に向かう。なるべく魔獣のヘイトがブランやノワールに向かないようにするためだ。
しばらくたたかっていると、ノワールが叫ぶ。
「準備ができました。『極大暗黒弾』行きます!」
ノワールが言うと、宙に浮かんでいた巨大な暗黒の球から無数の闇属性の弾が降り注ぐ。第一形態は魔法防御力はそこまで高くない。少しずつ、ブルスターの体力を削っていく。この闇属性の弾に巻き込まれて、名もなき魔獣はすべて光となって消えていった。
今がチャンスと、魔獣の相手をしていた三人も攻撃に加わる。バロックはひたすら『破砕連撃』を、カイたちもそれぞれが持つ最高火力の技を打ち込んでいく。ブルスターの高威力の属性の攻撃はバロックが前に出て受け止める。毎回体力が1割を切る威力だが、すぐにマリンがHPを回復させるため、何とか持ちこたえていた。幻惑攻撃や、麻痺攻撃はアンチフィールドのおかげで状態異常になることなく戦えた。おいしい攻撃であるといえる。
そうして、ブルスターの体力が6割を切ったとき、丁度『極大暗黒弾』が終わったとき、ブルスターは大きく咆哮をする。この咆哮により、5人はフィールドの端に飛ばされてしまう。ダメージはないが最大のノックバック攻撃だ。そして、この攻撃の恐ろしいところはそれではない。
「うん、やっぱり情報通りステータスが減少してるわね」
形態を移行するときに放つ『魔獣使いの咆哮』。この音を聞いたものは最大HP、攻撃力、魔法攻撃力が2割減少してしまう。現状、この攻撃を回避する方法は報告されていない。
一応と、カイは『スキルマテリアル』を使っておく。そしてすぐに魔獣の方を見る。
ブルスターは口から、グレイトビーストを吐き出すと、翼を生やし、空へと飛んでいく。ブルスターの周りには光り輝く透明な壁のようなものが貼られていた。
グレイトビーストはボスモンスターとして存在するモンスターであり、強さは中程度である。しかし、カイたちの目の前にいるのはそれとは異なっていた。ブルスターによって、防御力が格段に上昇、生半可な攻撃では貫けなくなっていた。さらに、攻撃を与えるとフィールド全体に数十もの風の刃を飛ばしてくる。躱すことはほとんど不可能だ。
そして、ブルスターはというと、現れた防御壁によって、遠距離攻撃が無効化されている。魔法は貫通するが、第二形態以降のブルスターの魔法防御力ではダメージを与えることはほとんどできない。
グレイトビーストを倒すと、防御壁は壊れるのだが、そのグレイトビーストを討伐することは困難であった。
そのため、直接攻撃が可能なブランとバロックに『飛翔』を持たせて、直接たたくというわけだ。
「まずは俺が行くぜ。『飛翔』!」
バロックが宙に浮かび、ブルスターのもとへと飛んでいく。ブルスターの弱攻撃は盾で防御し、属性攻撃は気合でかわす。今までは防御していればよかったが、最大HPが2割削られた今では、死んでしまう。
地上に残った4人はグレイトビーストに攻撃を与えないように、ひたすら相手の攻撃をかわし続ける。
「おらあ! 『破砕連撃』!」
バロックはブルスターに攻撃をたたきこむ。第一形態と比べて、防御力は減少しているブルスターにそこそこのダメージを与える。一発入れると、戻って来るという作戦だったが、バロックは隙を見てもう一発、『破砕連撃』を加える。この二発の攻撃によってブルスターの防御力は3割ほど減っていた。
よし、とバロックが下がろうとしたとき、グレイトビーストの口からレーザーがバロックに向けて放たれる。
「うわ! あぶねえ!」
バロックは間一髪でかわす。しかし、そのレーザーに気をとられていたバロックはブルスターの『深淵の一撃』を躱すことができず、光となって消えてしまった。
それに気づいたブランは急いで宙へと飛び立つ。武器は『風撃の短剣』。第二形態の弱点である風属性の武器である。
それを見送った残りの三人はグレイトビーストに攻撃を始める。ヘイトを買って、攻撃がブランに行かないようにするためだ。
当然、攻撃を与えてしまっているので、無数の風の刃が3人を襲う。あまり威力は高くないものの累積すると、簡単に死ねるくらいになってしまう。マリンが全力で回復魔法を唱え、3人の体力を管理する。カイはグレイトビーストの攻撃を様々な防御スキルを使って被ダメージを減らす。ノワールは残り少ないMPをうまく使いながら、グレイトビーストの魔法を魔法で打ち消していた。
その間に、空を飛んだブランはブルスターに到達する。そこで、ブランは『剣の舞』を放つ。ブランの体力は既に3割を切っていた。ここから『斬斬舞』を放つと、体力が持たなくなってしまう。もちろん削られ斬る前に攻撃をわざと外せばいいが、すでに一度、『斬斬舞』を40発近くあてていたブランにとってこれ以上の攻撃力アップは望めなかった。
見る見るうちにブルスターの体力が削られていく。バロックが二回『破砕連撃』を入れてくれたおかげで予定よりも早く体力が減っていく。ブルスターも反撃するが、被ダメージがでかくならないように、でも攻撃は当たるようにギリギリでかわしていく。そして、遂にブルスターの体力が4割を切ることになった。
ブルスターは再び咆哮する。それと同時に、下の三人を襲っていたグレイトビーストも消滅する。四人は弾き飛ばされフィールドの端へと追いやられる。そして、再びステータスの減少が入る。このスキル、累積可能であるため、全員の攻撃力、魔法攻撃力、HPは始めの6割となっていた。
ブルスターは地面に降りると体が崩壊していく。その際の紫色の煙によって姿が見えなくなっていく。
煙が晴れるとそこになにもいなくなっていた。
「みんな!」
「ああ、わかってる。『見破る』!」
マリンが叫び、それにすぐカイが答える。他のメンバーも予定していた通り『見破る』を使用する。
すると、フィールドの中心にブルスターが見えだす。ブルスターは禍々しいスライムのような姿となっていた。
そしてそのすぐあと、フィールドに名もなき魔獣が10体近く湧く。マリンは慌てて、MPポーションをノワールに渡すと、『極大暗黒弾』の準備を指示する。
「え、なんで!?」
マリンは再び魔獣が湧くことは知らなかった。これは上位プレイヤーが、簡単に攻略方法のすべてを教えるとでも、といった意思なのか、それとも、名もなき魔獣ごとき報告することではないといったことなのかはわからなかったが、マリンたちにとってこのモンスターの出現は予想外である。
マリンは魔獣全員に、弱い魔法を入れ、ヘイトを買う。魔獣はマリンに向けて突進する。マリンは必死に、攻撃を躱し、スキルで守り、HPを回復させてぎりぎりで生き残る。カイも数体、ヘイトを受ける係を引き受ける。こうして何とか、ノワールの『極大暗黒弾』の準備が整うまで耐え忍ぶつもりだ。
さて、ブランはというと武器を『氷撃の短剣』に持ち替えて、『氷葬の一撃』を加えるタイミングを計っていた。第三形態となったブルスターは魔法はまったく効かず、攻撃もすり抜けてしまう。しかし、高威力の氷属性のスキルで攻撃すると、実体化し、通常の攻撃や魔法でもダメージを与えらえるようになる。もちろん他の方法もあるみたいだが、プレイヤーはそれを見つけることができなかった。
ブルスターはヘドロのようなものをブランに放つが、それをすべて回避し続ける。やがてその攻撃をやめると、今度は口のような部位から猛毒の霧を吐き出してきた。
アンチポイズンフィールドに守られているブランにその攻撃は効かない。今がチャンスと、『氷葬の一撃』をブルスターに打ち込む。ブルスターの体力が1割ほど削れ、その姿が実体化する。
それと同時に、『極大暗黒弾』の弾が降り始めた。これによって、魔獣はダメージを受け消えていく。
マリンがほっとしたのもつかの間、ブルスターから放たれた巨大なレーザーがマリンを打ち抜き、跡形もなく消し飛ぶ。
「マリンさん!」
カイが叫ぶ。これ以降、マリンの回復なしで戦わなければならない。カイも回復スキルはいくつか持っているが、当然、その回復力はマリンに及ばない。
カイは急いて、自らに『ヒール』をかけていると、もう一発レーザーが放たれる音がした。カイは慌てて、ブルスターの方を見る。ブルスターが放ったレーザーはノワールがいた方向に打ち出されていた。
「これ、まずいぞ……」
カイは急いで、ブランのもとへと向かう。ブランは、『剣の舞』で攻撃を与え続けていた。
「はあ……はあ……。カイくん。私たちだけになっちゃったね」
「ああ。ノワールが遺してくれた『極大暗黒弾』で少しずつ削ってはくれているが。まだ3割近くある」
二人はブルスターの攻撃を何とか回避しながら会話を続ける。
「お願い、カイくん。私の装備を変える時間を作ってくれないかな。それで決着をつけたい」
ブランの言葉に、カイはああわかったと言うと、ブルスターに攻撃を加える。
その隙にブランはブルスターから距離をとる。
「『発煙』!」
カイは体から煙を発すると、その姿をくらます。そして、単純な動きで宙に飛び上がると『フレイムブレス』をブルスターに与える。しかし、その攻撃も空しく、ブルスターの体力は数ミリしか削れない。
ブルスターは口をカイの方向へと向けると、レーザーを放ち、カイを消し飛ばした。
が、煙の中からカイが現れると、ブルスターに『バインド』を入れる。ブルスターに状態異常は効かないがレーザーを放った後の数秒は、弱耐性になるということを知っていた。当然すぐにこのバインドも解けるだろうが時間稼ぎには十分だった。
カイは『発煙』をしたのちに、『分裂』をつかってもう一体のカイを生み出していた。レーザーで消し飛んだのは分裂体のほうというわけだ。
この隙に左手に『氷撃の短剣』、右手に『風撃の短剣』を装備したブランがブルスターに突っ込む。
「これが最後の力、お願い!『斬斬舞』!」
ブランの放った攻撃でブルスターの体力が削られていく。攻撃力アップや反攻、怒り狂う意思によって攻撃力が増加している。自身のHPを削りながらブランはブルスターを滅多切りにしていく。
カイは、『分裂』によって半分となったステータスではもう見ていることしかできなかった。
そして、ブランのHPが0になる直前、先にブルスターの体力が0になった。わずか一撃の差であった。これはノワールの『極大暗黒弾』やカイの『フレイムブレス』がなければ削り切れていなかったということだ。
レイドモンスターを討伐したファンファーレと共に、2人の体はイベント広場に戻される。
観戦モードとなっていた残りの三人に称えられながら、それぞれ笑ってハイタッチをする。
そして、その数十分後、イベント終了を知らせる通知がプレイヤーに届いたのだった。




