レイドモンスターに挑戦する
カイたちは、まず最も弱い雑魚モンスター狩りをすることにした。ハッパマンは今回のイベントで下位のレイドチケットを落とす。これを集めて、レイドモンスターに挑戦しようというわけだ。
「ははは、やはりお前と一緒に戦うのが一番やりやすいな!」
「どうもありがとう! バロック、そこの茂みにたくさん湧いたぞ」
「おうよ、そら!『破砕』!」
バロックは振り上げたハンマーを茂みに向かって打ち下ろす。数体のハッパマンが宙に浮かぶと、光となって消えていく。そしてそこには2枚の下位レイドチケットがドロップしていた。
バロックとブランの二人でモンスター狩りに行ったときは、非常に効率が悪かった。どちらも回復手段を持たない前衛であり、動きも若干被るので結局、ソロと同じようにそれぞれで狩っていたようだ。
「しかし、俺たちは効率悪いよなあ」
「しょうがない。高威力の範囲攻撃をほとんど持っていないからな」
バロックとカイは二人一組でモンスターを狩っている。というのも、ハッパマンがあまりに弱く、他のメンバーは範囲スキルで一掃できてしまうからだ。ノワールとマリンは『極大暗黒弾』と『ホーリーレイン』等の広範囲スキルで、ブランは『剣の舞』で次々と連続でモンスターを狩っていってしまう。
しばらく二人でモンスターを狩っていると、パーティメッセージが届く。どうやらノワールが20枚チケットを集めたようだった。カイは俺たちはまだ7枚だ、と伝える。すると今度はマリンが私は13枚超えてるわよ。ブランちゃんはどう?と書き込む。ブランも10枚は超えたと伝えたので、いったん集まってレイドモンスターに挑戦しようという話になった。
レイドモンスターは今回のアップデートで建てられたイベント広場から挑戦できるようになっている。パーティの人数分のレイドチケットをそこにいるお姉さんに渡すと、全員でレイドモンスターと戦うフィールドに飛ばされる。そこに出現するレイドモンスターを60分以内に討伐すればよい。
「じゃあ行きますね」
ノワールがチケットをお姉さんに渡すと、お姉さんの合図で、カイたちはイベントフィールドに飛ばされた。
下位のレイドモンスター、エルダートレントである。自慢の枝を伸ばし、プレイヤーを捕まえると、たたきつける。また、葉っぱを飛ばして攻撃したりするのだが。
「『獄炎の一撃』!」
ブランがそう言って大技を繰り出すと、エルダートレントの体力は一瞬で溶けてしまった。
「一撃で溶けちゃったんだけど」
「うーん、この下位のレイドモンスターって初心者に狩らすためにいるかもしれないわね」
「まだ、リリースされてから3週間くらいしか経ってないからな。初心者の参入も多くあるだろうし、そういう人たち向けの難易度なのかも」
ブラン、マリン、カイが話す。実際その通りであって、運営として用意したレイドボスのうち下位及び中位は初心者向けである。エルダートレントに至っては少しプレイを進めた初心者がソロで討伐できるくらいの難易度に設定してある。
「次は1つ飛ばして上位のチケットを集めようか」
「そうね。そっちの方がよさそう」
カイとマリンが話していると、イベント広場に転送された。そして、メッセージが届く。
そこにはイベントポイントを30pt獲得したという内容と、スキル『老樹の意思』を手に入れたという内容が記載されていた。
特性スキル『老樹の意思』
・エルダートレントを討伐する。
《HPが0.3%アップする》
「ちりつもかもしれないけど、ゴミスキルね」
「しかもこれ、エルダートレントを討伐するだけで手に入るから、そのうちスキル屋であふれ出てそう」
カイは30ptという数字を見る。これってどうなんだろうかとマリン尋ねると、マリンは攻略サイトを開く。
「うーん。エルダートレントを最速で撃破すると30pt貰えるみたいね」
今回のイベントはレイドモンスターに応じてもらえるポイントが異なる。以下のとおりである。
下位レイドモンスター撃破 15pt
中位レイドモンスター撃破 50pt
上位レイドモンスター撃破 100pt
高位レイドモンスター撃破 300pt
最高位レイドモンスター撃破 1000pt
さらに、これに討伐時間ボーナスが乗る。10分以内に撃破すると撃破ポイントと同じだけポイントが加算され、そのポイントは10分以降1分経過するごとに2%減少していく。高位以上のレイドモンスターはさらに10分以内に討伐するとその時間に応じてまだポイントが加算されるのだが、攻略サイトにそのことはまだ載っていなかった。
カイたちは上位レイドモンスターに挑戦しようと、その雑魚モンスター、ジュエルスネイルを討伐することにしたのだが……。
「ひいい……! スネイルってカタツムリなの!? 戦いたくないよう……」
ブランはそういうと前へ出なくなった。
「まあ確かに気持ち悪いが、そこまでじゃないか? モンスター用に少しデフォルメされてるし」
「私は普通の小さいカタツムリでもだめなんだよ! こんな大きいの無理に決まっているよ!」
「うーん。じゃあ、俺たちのところで遠距離攻撃をしといてくれ」
カイはそう言って、ブランを自分とバロックの後ろに立たせる。先ほどと同様に、ノワールとマリンはそれぞれで狩りに行っている。雑魚モンスターも強くはなっているが、まだまだあの二人ならソロでも余裕で戦える。
「おらあ!『破砕撃』!」
振り下ろされたハンマーはジュエルスネイルの防御力を減少させ、その殻を貫く。みぎゃっ、と音をたたてそのカタツムリはつぶれると光となって消えていく。
「うええええ。キモ過ぎるよお」
ブランは声を震えさせながら、そのカタツムリが蹂躙されていくのを見る。とはいえ、プレイヤーの一人として何もしていないのは良くないと思っているのか、『旋風』でちまちまと遠くのカタツムリに攻撃を与えう。
……結果、数匹のカタツムリが一斉にブランに近づいてくる。
「ああああああ! もう無理だ、ごめん皆!」
そういうとブランはログアウトしてしまう。
「まじか! バロック、こいつら倒せるか?」
「たぶん行けるぜ、『破砕撃』!」
カイがノックバックのあるスキルで、一度にやってきたカタツムリのタイミングを少しずつずらす。こうして一列になったカタツムリを一撃一撃丁寧にバロックが沈めていった。
「ふう。なんとかなったな」
「これもしかしたらブランにとってレイドモンスターも厳しいかもしれないぜ」
「だな、ポイズンスラッグ……、まあカタツムリが無理ならナメクジも無理だろう」
そう会話していると、ノワールからメッセージが届く。
「ブランがログアウトしたけどどうしたんですか?」
「カタツムリの限界を超えてしまったみたい」
「まあ、昔から彼女はカタツムリとかダメですしね……」
メッセージのやり取りをして、結局このレイドモンスターはブラン抜きで戦おうという結論に至った。それから十数分後、必要なチケットが集まったのでレイドモンスターに挑戦する。
ポイズンスネイルは、ブランがいないせいで多少時間がかかったが、マリンの『アンチポイズンフィールド』とノワールの『極大暗黒弾』のおかげで、何とか10分以内に討伐することができ、200ptを得ることができた。
ブランがログインしてきたのはそれからさらに30分後のことだった。
☆☆☆☆☆☆
技スキル『破砕』
・ハンマーで同時に二体以上撃破。
《打ち付けた場所から1m範囲の敵に小ダメージと小ノックバック》