ギルドハウスを購入する
次の日、カイとブランとノワールの三人でモンスター狩りを行っていた。獲得ゴールドやドロップアイテムが高価なものを選んで狩っていく。
「あ、カイくん。ゴールデンラビットいたよ!」
「ああ、任せてくれ。『バインド』!」
「よーし。『剣の舞』!」
ブランが拘束されたゴールデンラビットを切り刻んでいく。ゴールデンラビットが倒されると経験値と大量のゴールドを獲得する。
「あ、また『黄金兎の皮』がドロップしたよ」
「よしよし。これで3つ目だな」
「あ、こっちにはロックリザードが湧きました」
「ほいほい。『マジックブレイク』!」
「ありがとうござます。『炎弾』!」
魔法防御力を下げらえたロックリザードにノワールの火の玉が炸裂する。
「いやー。カイくんがいると効率がいいなあ」
「そうだね。本当に助かります」
ブランと、ロックリザードからドロップしたアイテム『とかげ石』を回収しながらノワールが会話する。
カイはブランとノワールに対して敬語を使わなくていいよと伝えた。ブランはわかったといってタメ口で話すようになってくれたが、ノワールはこちらの方が慣れているのでと、敬語のままだ。
「これでやっと10万くらいですか。まだまだ道のりは長そうですね」
「まあ仕方ないよな。コツコツ稼いでいこう」
そんな会話をしながらモンスターを狩っていると、『白と黒の道』が正式に設立されました。とのメッセージが届く。
「お、マリンさんが承認してくれたみたいだな」
「これで、経験値効率が少しだけよくなりますね」
ギルドメンバーはログイン中、他のメンバーが経験値を得ると、そのプレイヤーにも経験値が入る。極小ではあるが、これも塵も積もれば山となる。
「どうする? いったん町に戻って、マリンさんとも一緒に行くか?」
「いえ、その必要はないみたいですよ」
そういうとノワールはマップを見るようにとカイに指示する。どうやらマリンもこちらに向かっているようだった。しばらくすると、マリンがやってきた。
「いやー。入れてくれてありがとうね。あら、あなたがブランちゃんね。よろしく」
「はい、こちらこそよろしくお願いします」
「かたいわねー。別に敬語じゃなくてもいいわよ。カイくんとノワールちゃんもよ」
ああ、わかったとカイは返事をする。ノワールはやはり慣れないからと敬語のままであった。
「それで、今何をしているの?」
「ギルドハウスを建てるための資金集めです。マリンさんも手伝ってくれますか?」
「ええ、いいわよ。それに今の手持ちから100万くらいなら出せるけど、あとどれくらい必要なのかしら」
「わっ。ありがとうございます。そうですね、バロックさんから30万と、昨日ブランたちが稼いでくれたのと今までの狩りで20万くらい……。あと150万くらいですね」
「まだ結構遠いわねー。いいわ、一緒に狩りましょう」
マリンがパーティに加入したことで効率がさらに上がる。マリンは『ホーリーレイン』で広範囲のモンスターを一度に討伐できるうえに、傷ついたブランをすぐに回復させる。これによってカイはサポートに専念できるため、見る見るうちにモンスターを狩ることができるのだ。
「お、おい。あそこのパーティやばくないか……」
「というかあの短剣の少女がやばい感じがする」
「名前は……『ブラン』か。聞いたことないな」
同じようにゴールドを稼ぎに来ていた別のパーティが口々にそんなことをいう。ブランが高い戦闘能力を持っているにもかかわらず話題になっていなかったのは、ソロでひたすらボスモンスターを周回していたからである。ちなみにいまだにダブルマジッカーのレアドロップは落ちていない。
他のパーティに噂されながら、数時間。50万ほど稼いだのち、切り上げて町に戻る。
「そういえば、思ったんだけど、『極大暗黒弾』を作って売ったら300万なんてすぐ溜まるんじゃないかしら」
街へ戻る途中、マリンがいう。
「あー、確かにそうだけど、『極大暗黒弾』ってレアスキルだし、ノワールだけ使えるって状況の方がかっこいいなと思って」
「あら? 『極大暗黒弾』ならもう5人以上習得してるみたいよ。私のもといたギルドメンバーもとったみたいだし」
「まじで!? うーん。上位プレイヤーのことをなめてたな。それなら作って売ってみようかな。いいかな、ノワール?」
「はい、大丈夫です。それに流通したほうが使いやすくなりますし」
ちなみに、『獄炎の一撃』も習得者が10人を超えた。次のイベントがレイドイベントで高火力を出せるスキルが重要であることが分かったからである。
カイたちは町に戻るといつものごとく路地裏へと向かった。『極大暗黒弾』を作るための素材となるスキルは、スキル屋ですでに購入した。カイはマリンからMPをあげる装備を借りて、限界突破MPポーションをもらうと、『極大暗黒弾』を作っていく。
「そういえば、このスキル見るのはじめてだねー」
「確かにそうですね。こういう風に作るんですか」
ブランとノワールが口にする。あー、言われてみれば二人には見せてなかったなとカイは笑いながら言う。
こうして、『極大暗黒弾』を10個ほどつくると、それを売りに行く。まとめて売ると、少し金額が落ちるため、1つずつ売っていく。
「まじかまじか。これ1つで300万ゴールドと2万マナ……。いままでの苦労は何だったんだ」
「だねー。まあ、素材集めだったと思えばいいんじゃない?」
そんな会話をしながら、『極大暗黒弾』が売れたのを確認すると次々と売っていく。結果、3000万ゴールドと20万マナを獲得した4人は浮かれながら、ギルド管理局へ赴く。
「ど、どうしますか? これなら最高レベルは無理でもかなりの規模のギルドハウスが、しかも中心部の方に買えますよ」
「だな。500万くらいはギルドの運営資金として置いておくとして、2500万くらいのギルドハウスは買えるな」
そういいながらギルド管理局へ向かっていると、バロックがログインしてきた。カイはバロックに事情を伝えると笑いながらそんなことできるんならさっさとやれよと軽く頭を小突いてきた。
5人が揃って、マリンとバロックの顔合わせも済んだので全員でどのギルドハウスを買うか相談する。あーだこーだと話し合って、結局2000万とちょっとする豪華なギルドハウスを、町の中心街に近い場所に建てた。
「いいわね、これ。ちゃんと町の外に転送されるゲートもあるし」
「ははは、工房がついているところを選んでくれて助かるぜ。調合するところもあるから、調合職のやつもいつか入れればいいな」
「わー。地下もある。すごいね」
「まさかこんなにいいところが買えるとは思いませんでした、カイさんありがとうございます」
5人は大広間に集まる。そして、ノワールは改まると、
「皆さん、これからよろしくお願いします。あまりギルドマスターらしくはできないかもしれませんが頑張ります」
ぱちぱちと拍手が起きる。その後、ノワールが個のギルドを立ち上げることができた功労者としてカイにも一言をもらおうと立たせる。
「みんな。ありがとう。俺はトッププレイヤーになることは諦めていたんだが、このスキルと皆がいればこのギルドをトップギルドにできる気がするんだ。どうか、力を貸してほしい。よろしくお願いします」
再び拍手が起きる。ノワールはぐっと拳を締めると、
「トップギルド、いい目標ですね。そのためにも明日からのイベント、頑張りましょう!」
おお! と盛り上がってその日の活動は幕を閉じた。
☆☆☆☆☆☆
魔法スキル『バインド』
・モンスターに抱き着いて5分経過。
《敵一体に拘束を付与》
技スキル『剣の舞』
・攻撃を100回連続で命中させる。
《高速の刃で10~20回攻撃》
魔法スキル『マジックブレイク』
・魔法防御力が50を超えるモンスターを魔法のみで討伐する。
《相手の魔法防御力を30%下げる》