ギルド設立
「おー。なんだか町の雰囲気も変わったなあ」
メンテナンス明け直後、カイはログインするとその町の様子をじろじろと眺める。メンテナンスによってサーバーにも強化が入って町の中のオブジェクトも増えていたのだ。
しばらくすると、ブランが、その直後ノワールがログインしてくる。
「こんばんは。カイさん」
「こんばんはー、カイくん」
「ああ、こんばんは」
軽く挨拶を済ませると、町の中央部にあるギルド管理局へと赴く。
「ゴールドは足りますし、遂にギルドを建てられるんですね」
ノワールはそう言いながら申請フォームを受け取る。ここに必要な情報を記入して提出すれば晴れてギルドが設立される。
「ええと、メンバーは私とブラン、カイさん、それにマリンさんとバロックさんでしたね」
「そうそう、よろしく頼む」
ノワールはメンバー登録に5人の名前を記入すると次の項目へと移る。
「ギルドマスターとサブギルドマスターですか。どうしますか?」
「俺はノワールとブランがやればいいと思うが」
「マリンさんもそれでいいとは言ってましたが、バロックさんはどうでしょうか」
「あー、まああいつもあんまり管理職に向いてなさそうな性格だったし問題ないんじゃないかな」
では、分かりましたとノワールはギルドマスターにノワールの名前を、サブギルドマスターにブランの名前を記入する。
「人が増えたらカイさんもサブギルドマスターにしますからね」
そう言ってノワールは次の項目を開く。
「あとは……ギルド名ですか。どうします?」
「まあ何でもいいんじゃないか? 結構大手のギルドだって適当につけたところもあるみたいだし」
「じゃあじゃあ、『白と黒の道』とかは?」
「えー。私たちの名前だけ入れるのは恥ずかしくない?」
「いいじゃん、それにしようぜ」
ノワールはカイさんがそれでいいのなら、とギルド名を記入する。そしてそのフォームを送信すると、カイとブランのもとにギルド加入の申請が届く、二人はそれを承認する。
「あとは、マリンさんとバロックさんが承認してくれればギルド設立ですね」
「だねー。あ、そうそう、カイくんはイベントについての要項見ましたか?」
「ああ、見たぞ。よくあるレイドモンスターの討伐だったな」
運営が第一回のイベントとして用意したのはレイドモンスターの討伐である。それぞれ新たに出現する5種類の雑魚モンスター、これを討伐するとドロップするチケットを10枚集めるとレイドモンスターに挑戦できるという内容だった。それぞれの雑魚モンスターにそれぞれ違う種類のチケットがドロップするようになっていて、それによって戦えるレイドモンスターとその強さはそれぞれ異なっていた。レイドモンスターに挑戦するのはパーティ単位でもできる。その人数分だけチケットが必要となるが。
「イベントの効率だけ考えるとパーティ単位で挑んだ方がいいですよね」
「だな。レアドロップ周回ならそれぞれ個人で挑んだ方がいいみたいだけど」
イベントのポイントはレイドモンスターの種類と討伐時間によって決定される。また、ソロで狩ってもパーティで狩ってももらえるポイントは同じ。パーティに参加していれば等しくポイントがもらえるため、時間効率としても、もらえるポイントとしてもパーティで挑んだ方が得である。
三人がイベントが開始したらパーティを組んでガンガン稼ぎましょうなどど会話をしているとバロックがログインしてくる。
「あ、バロック。ギルド申請送ってるから承認しておいてくれ」
「あいよ。わかった」
バロックはメッセージ欄を開くとそれを承認する。
「初めまして、バロックさん。私がギルドマスターになりましたノワールです。で、こっちがサブギルドマスターのブランです」
「おう、よろしくな。俺の専門は鍛冶関係だが、前衛もいけるぜ。武器や防具の製作、それから戦闘での盾役、攻撃役は任せてくれ」
「それで、バロックはどうする? イベント始まったら一緒にパーティ組んで挑むか?」
「なんだ? 次のイベントはパーティ組めるのか」
「まだ確認してなかったのか」
「まあな。イベント始まってから見ればいいと思ったしな。ははは」
バロックは事前情報などは基本的に見ない。メンテナンスなどの重要な通知はかってに来るようになっているし、イベントなんかも始まってから確認すればいいと思っているからだ。
「ああ、それならいいぜ。いつからだ?」
「今週の土曜の13時からだ、今が日付が変わって金曜日だから明日だな」
「おう、わかった。その時間からならログインできるし一緒にやろうぜ」
4人は特に冒険に行くわけでもなく、会話をする。
「あ、そういえばノワール。『極大暗黒弾』をつかったプレイヤーがいるって話題になってたぞ」
「本当ですか。人も少なかったですし、低レベルの狩場だったので問題ないと思ったのですが」
「は!? 嬢ちゃん、『極大暗黒弾』使えるのか!?」
「ちょ、声が大きいって」
幸いにもメンテナンス明けでギルド管理局にいた人はまばらだったためあまり他の人には会話を聞かれずに済んだ。
「ほら、掲示板で『極大暗黒弾』をつかっていたプレイヤーを見たって話題になってただろ。それがノワールだ」
「掲示板は見てねえが、『極大暗黒弾』がすげえスキルだってのは知ってる。実力者なんだな」
「そ、そういうわけではないんですが……」
「どういうことだ?」
カイは事情をバロックに説明する。カイが『スキルシンセサイズ』という固有スキルを持っていること、それによって『極大暗黒弾』を作り出したこと、そしてそれをノワールにあげたことを。それを聞いたバロックは納得して、
「それでカイはレアドロップスキルを欲してたのか」
というと、笑う。
「しかし、ふと思ったんだけどギルドハウス欲しいな。さっきの会話もそうだけど、俺の『スキルシンセサイズ』を見られない場所で使いたいんだ」
「確かに言われてみるとそうですね。ただ、もうお金がありません……」
ギルドハウスを購入するには安くても300万ゴールドほど必要になってくる。カイはスキル合成のために使っているためほとんどゴールドはなく、ブランとノワールのお金もギルド設立のための100万に消えていった。普通これくらいの人数であればギルドハウスを購入する必要はない。ただ、町中で使う固有スキルを持っているメンバーがいる場合は別だ。カイも路地裏でスキルを使うようなことはあまりしたくない。実際、マリンにもみられているのだ。他の人に見つかるのも時間の問題だ。
「バロックはどうだ?」
「俺は武器や防具の制作の委託とかで50万ほどはあるが……。素材を購入したりすることを考えると20万は残しておきたいな。残りの30万なら出せるぜ」
「ありがとう。それなら、明日は金稼ぎでもするかな。全然たまらないだろうけど、こつこつ集めていれば買えるようになるだろう」
そういうと、バロックが立ち上がる。
「それならこの後はどうだ? 俺はスキルが増えたらしいし、適当にモンスターを狩ってこようかと思うんだが。お前らも来るか?」
「俺は遠慮しておくよ。もう2時になりそうだし、明日も学校だからな」
「私もそうですのでここらで落ちさせていただきます」
カイとノワールはそう言ってログアウトする。一方ブランは、いいですよ。私はついていきます、と言ってバロックとモンスターを狩りに行った。