極大暗黒弾を作成する
「ええ!? ギルド抜けてきたって……そんなことして大丈夫なんですか?」
「問題ないわ。つい先日立ち上げたギルドだったし、あまり思い入れもないもの」
先日立ち上げたギルドならなおさら、抜けられたら困るのではとカイは思ったが、もう抜けてしまったのなら仕方ない、カイはノワールに訊ねる。
「どう? 彼女、ギルドに入れてもいいか?」
「ええ、私としては問題ありません。ブランも賛成するでしょうし」
「ありがとう。早速、ギルド加入申請送るから、ギルド名を教えてくれるかしら?」
マリンはギルド申請画面を出しながら、ノワールに言う。ノワールは困った様子で、
「あ、すみません……。まだギルドは立ち上げてないんです。作ろうって話をしていただけなので……」
「えっ! そうなの? お金が足りないの? それなら私出せるけど……」
「そういうわけではなく、メンバーが足りないんです」
「人数ね。……ブランって子がもう一人いるみたいだから、あと一人いればいいのよね? 私が、ギルドから引き抜いてくるわ!」
そんなことしたら、元居たギルドのほかのメンバーが黙っちゃいないだろう。カイとノワールはそこまでしなくても大丈夫といきり立つマリンを止めた。結局その場は、カイかノワールが何とかメンバーを集めるからとマリンを説得して解散した。カイは、夕食のためログアウトしたのちまた潜ろうかとも思ったが、攻略記事を読んでいたら、中途半端な時間になったのでその日のログインはしなかった。
次の日、海斗が学校に行くと、陸也が興奮した様子で話しかける。
「おいおい知ってるか? 昨日、『極大暗黒弾』を使用するプレイヤーが現れたんだぜ」
カイがログアウトしたのち、ノワールは『極大暗黒弾』の使用感を確かめるために試し打ちをしに行っていた。それが多くの人に見られていたらしく、『極大暗黒弾』の使用者が現れたと話題になっていたのだ。
「くそお。『極大暗黒弾』は俺たちのギルドが最初に手に入れようと思ってたんだけどなあ」
「でも、陸也は戦士職だからまだいいじゃん。……あれってそういうことだろ?」
海斗が指をさした先には空大が机に伏して寝ていた。
空大は海斗、プレイヤーネーム『カイ』や陸也とともにゲームを始めた友人である。
魔法職である彼もまた、固有スキルを所持している。
「あ、ああ。空大は『極大暗黒弾』を獲得しようとしていた一人だったからな。まあショックも大きいだろ。しかも、どこのギルドに所属しているかもわからないプレイヤーだったらしいからな」
海斗は陸也たちには『極大暗黒弾』を作ることができたことは伝えようと思っていたが、伝えづらくなってしまった。海斗が獲得した方法は正攻法ではない。仕方ないので、あとで掲示板に取得条件を書いておくかと決心して授業に臨んだ。
「はあ……。これは厳しいね……」
海斗と空大が一緒に下校していると、空大がスマホを見ながらため息をつく。
「どうしたんだ?」
「いや、『極大暗黒弾』を獲得する方法が掲示板に書かれていたから、読んだんだけど。これは流石に難しいなと思って」
海斗は昼休みの間に書き込んでおいた。早めに書き込んでおいた方が、使用者を捜索されずに済むと考えたからだ。
「まあその投稿が本物かどうかわからないし、そんなに落ち込むことはないんじゃないか?」
海斗はそう言いながら自分が投稿したコメントを指さしながら、自分が書き込んだ投稿にケチをつけるのは面白いなと思った。
「うーん。それが、その方法で『極大暗黒弾』をとった人がいるみたいなんだよね。『光の栄光団』の奴みたいなんだけど」
『光の栄光団』はつい先日、『光の太陽』から分裂した、小さなギルドである。なんでも『光の太陽』のサブギルドマスターが、ギルドマスターと喧嘩をして数名の優秀なプレイヤーと共に出て行って建てられた。
カイは上位プレイヤーって化け物かよ、と思いながらその話を聞く。
「すごいな、それは。俺も獲得条件見たけど永遠にとれる人が出てこないんじゃないかと思ったぞ」
「だよね。まあしっかり準備すれば僕たちのギルドでも獲得する人は現れそうだけど」
「ふぁー。化け物ですかねそれは」
笑いながら会話をして、海斗は空大と別れた。その時は空大も元気を取り戻していた。
その夜、カイはスキル集めをしていた。その日の0時からアップデートのためのメンテナンスが行われる。まる一日使った大型のアップデートだ。そう、前々から告知されていたスキルAIの強化のためとイベントのためのものである。そのため、あまり熱中するようなことはやめておこうと、軽くできるスキル集めをしようと考えたのだ。
カイはパーティを組んで、レアドロップスキルを集めようと考えた。ゴミレアドロップスキルならだれもいらないから譲ってもらえるからだ。はじめはノワールかブランを誘っていこうかと思ったが、ノワールはログインしていなかったし、ブランはいまだにダブルマジッカーを周回している様子だった。
結局、レアドロップアイテムを集める予定のパーティに参加させてもらった。レアドロップスキルが出たら譲ってほしい、逆にレアドロップアイテムは全部譲るという条件を提示して。彼らは不思議に思ったが、狙っているモンスターのレアドロップスキルは軒並みゴミだったので、その条件を飲んだ。
カイが参加したのは鍛冶職1人と調合職2人で組んだパーティだった。4人は黙々とモンスターを狩る。
鍛冶職である男が、主にモンスターを狩り、それを調合職のという一人がサポートするという形をとっていた。もう一人の調合職と、カイは個人でモンスターを狩る実力があったのでそれぞれ個別に狩っている。
「そおい! がはは、やはり回復を気にしなくていいのは楽でいいな」
鍛冶職の男は笑いながらモンスターを蹂躙していく。受けたダメージは調合職の男が回復させている。その二人の効率はけた違いだった。カイは狩るモンスターの数は少ないが、多く所持しているドロップアイテムやスキル増加のスキルのおかげで比較的多くのアイテムを回収する。
小一時間すると、どうやら一人で狩りをしていた調合職の女とサポートしていた調合職の男は必要なアイテムが集まったらしく、パーティを離脱した。
「ははは、二人だけになっちまったな。どうだ、お前は回復スキル持ってるか?」
「ええ、一応ありますけど」
「よし、じゃあサポート頼むぞ」
カイは『ヒール』で男を回復させながら、『麻痺攻撃』や多彩なバフスキルなどで男がモンスターを狩りやすいようにアシストする。
「おうおう、お前すげえな。そんなにいろいろなスキル持ってて」
「まあ、スキル集めが趣味なので」
男はああ、こいつはステータスを気にしていないのかと考えたが、まあプレイスタイルは人それぞれだと思い笑いながらモンスターを狩り続ける。
そして、さらに二時間たったとき、メンテナンスの警告が入る。あと三十分でメンテナンスが始まるというものだった。
「そろそろ終わるか。楽しかったぜ」
「こちらこそ。ありがとう」
二時間共闘していたおかげで二人はずいぶん仲良くなっていた。カイは約束通り、レアドロップアイテムを渡し、代わりにレアドロップスキルを受け取る。そして、カイは考える。この人ならギルドに入ってくれるんじゃないかと。
「ギルドには入ってるのか?」
「ははは。今は入ってねえよ」
その男はギルドに入っていなかった。鍛冶職にもかかわらず、前へ、前へと行く性格が大きなギルドにとっては扱いづらかったのだ。
「じゃあ、うちのギルドに来ないか? 今、4人しかいなくてメンバーが欲しかったんだ」
「いいのか? 俺、鍛冶職にもかかわらず補助系のスキルをほとんど持ってないぜ」
「大丈夫、むしろ前衛が一人しかいなかったから助かるよ」
「ははは、わかったぜ。入ってやるよ」
こうして鍛冶職の男、バロックはカイたちのギルドに入ることとなった。ノワールがログインしていなかったためメッセージだけ送って、ギルド設立はメンテ明けにしようということで、カイはバロックとフレンドになってログアウトした。