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ふらふらと、どこかへ導かれるように歩いていた弥助は、気がつけば大きな桜の木で名高い寺の前に立っていた。境内には黒衣の人々が集まり、どうやら葬儀が行われているらしい。
門の外から覗くと、見知った顔がいくつも目に入る。町内の者たち――隣の長吉や向かいの老夫婦、大家の長次郎の姿まであった。祭壇には備前屋の家紋が掲げられ、喪主も備前屋のようだ。大層立派な葬儀であった。
「どなたかお身内のご葬儀だろうか……」
弥助はそう思いながらさらに奥を覗きこみ、はっと息を呑んだ。女たちに取りすがり、声をあげて泣いているのは――おふみだった。頬を涙で濡らし、子どものようにわんわんと泣いている。
「……ふみ?」
思わず声をかけて堂内へ足を踏み入れた。だが、おふみは弥助の呼びかけに気づく様子もなく、ただ泣きじゃくり続けている。
胸の奥に重苦しい違和感が広がった。どうして長屋の者たちが皆ここにいるのか。なぜ、おふみは自分の声に応えてくれないのか。




