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弥助は川沿いの桜でも眺めて帰ろうと、いつもとは違う道を選んだ。
(桜……あれ?)
何かを思い出しかけたが、気分を直して、おふみを花見に誘ってみるかと考えながら土手を歩く。
やがて、昨日土左衛門が引き上げられた辺りにさしかかった。ふと橋の下に目をやると、笠を目深にかぶった僧が立ち、片手で合掌して低く念仏を唱えていた。
風に流されるはずの声が、なぜか耳の奥にまとわりつくように響く。
(あの坊主……まさか、幽霊ってことは……)
ぞわりと背に寒気が走る。僧が顔を上げ、笠の影からのぞく目がこちらを射抜いた。光を帯びたようなその視線に、思わず息を呑む。
弥助は慌てて目を逸らし、肩をすくめて土手を上がっていった。振り返る勇気はなかった。




