カミングアウト
波瑠音ちゃんは、あしを引きずりながら退場していった。
…
しばらく試合をそのままみていたんだけど…
オレはどうしても心配になり、嫌がられるかなと思いつつも救護室へと向かった。
救護室のドアの前までくると、ちょうど先生が出てきて、
「おぅ、広大!いいところに。先生氷持ってくるから、少し天音のところにいてあげて。二人は、結構仲良いよな?先生生徒のことは、結構みてるんだ。じゃ、よろしく」
と、先生は行ってしまった。
…
そっと部屋に入ると波瑠音ちゃんは、
「あ、広大くん…」
と、少し顔色を曇らせたかと思うといきなり笑顔になって
「わたし、ダサいよねー」
って笑いながら涙を流した。
それをみたオレは、同じく涙を流すどころか、号泣していた。
ズビッ
グズっ
それをみた波瑠音ちゃんは、
「え、なんで広大くんまで…てか、泣きすぎだよー」
っていいつつ、波瑠音ちゃんもめっちゃ涙を流していた。
二人してめっちゃ泣いた。
わかるんだ。
オレも怪我で一度挫折してるから。
でもさ、オレは…
波瑠音ちゃんになにをしてあげれるわけでもなく、魔法で傷を直してあげることもできない。
「あのさ、その…オレなにもしてあげることできなくて…ごめん。」
謝ると波瑠音ちゃんは、
「ううん。一緒に泣いてくれて、ここに来てくれただけで、じゅうぶん心が癒されたよ。いてくれてよかった」
って、微笑んでくれた。
波瑠音ちゃんは、強いなー。
あんなに楽しみにしてた試合を、最後まで出ることも出来なくなってしまったのに、そんなテーピングまみれのあしをみて、微笑んじゃうんだもんなー。
「ここに来て欲しいのって…オレじゃなかったよね…」
ほんとは、リアム先輩に来てほしかっただろうな。
「え?どういうこと?」
「その…ほんとはこんな時は、彼氏がそっと抱きしめて癒してくれるんだろうけど、リアム先輩…今、審判の手伝いでさ…。」
「え?なんでリアムー?広大くんの方がダントツで嬉しいに決まってるじゃない」
「え…そんなこと言ったら彼氏に怒られるんじゃ…」
「えー?彼氏とかヤダー…ただのいとこだから」
⁉︎
「い、いとこ⁉︎」
「うん。そうだよ。実はさ、わたし今までずっと好きな人がいたの。」
「うん。」
知ってる…それは過去のオレだろう。
「でね、いつかまたあいたいって思ってた。すごく頑張り屋さんで大好きだったの。でもね、今は…今は…それを勝る人がいて……ね…」
「それは…そうだよね。仕方ないと思う」
…
「うん。でね…それが…広大くんなの」
⁉︎
「えっ⁉︎オレっ⁇」
「うん。広大くんって、その人にどことなく似ててね、でね、名前も優樹くんっていうの。名前も一緒なんだって思ってね、すごいよね?偶然ってあるんだね」
なんていうから…オレはきちんと白状することを決めた。
「オレ…あのときの優樹だよ。はるちゃん」
波瑠音ちゃんは、昔オレが呼んでいた呼び方で名前を呼んだので、びっくりした顔をしていた。
「えっ⁉︎ゆうくん?」
「うん。ガッカリしたでしょ?もう水泳やってないし、この間まで太ってたし…」
「え、え、え⁉︎ゆうくんなんだ⁇」
波瑠音ちゃんは、マジマジとオレの顔を覗き込んだ。
近い…
波瑠音ちゃんが急接近しております‼︎
「あの…はるちゃん…近すぎ…かも。あんまり近いとオレそのまま…キスしちゃいそう」
それを聞いた波瑠音ちゃんは…
「あ、ごめん キャッ」
体勢を戻そうとして、あしに力が入ってしまったみたいだ。
「大丈夫⁉︎」
とっさに波瑠音ちゃんをおさえると、今度はオレが近づきすぎた。
てか、なんなら軽く抱きしめていた。
「あ、ごめん」
「ううん。あったかいし、癒される」
「ほんと?なら、このまま…」
「このまま…?」
このまま延長していい?って言おうとしたら、先生が戻って来た。
「おう、広大はやっぱりいい友達だな!さっきまで今にも泣き出しそうだった天音が元気そうじゃないかー‼︎」
と、肩をパシんとされた。
「あははは…そうっすかね」
「うん!ほんと広大くんのおかげで元気出たよ!なんなら、過去のびっくり発言もいただいてさ。でも、ほんとはもっと…」
「ん?もっとなんだ?二人きりがよかったとか言ったら先生ないちゃうぞ?わざわざ氷持ってきてやったのになー。氷だけに冷たいぞ!なんちゃってなぁ」
と、なんとも楽しそうな先生。
「「あはは」」
と、とりあえず合わせるオレたち。
「あ、先生次の試合審判なんだ。天音、このまま少しここであし冷やしておきなさい。広大も試合時間になったらいっちゃっていいからな。ありがとな」
先生は、忙しそうに部屋から出ていった。
「あ、広大くんもありがとうね。もうわたし大丈夫だから。ほんとありがとう」
って言ってくれたんだけどね…
でも、まだ時間じゃないしいけるわけがない。
「あのさ、はるちゃん…」
「なに?」
「オレね…怪我のあとのリハビリ付き合うよ。専門的なこと詳しいし。」
「え、いいの?」
「うん。あと…なんならさ、ずっとリハビリを永遠に付き合いたい。」
「プッ、やだ。それってわたし永遠に怪我してるってことじゃない」
「あー、それはだめだ。じゃあ、治るまでの短期間、そばに居させて。はるちゃん…幼い頃は、勝手に居なくなってごめん。でも、もういなくならないから」
「うん。ならずっと一緒にいて?」
「ずっと?」
「うん。」
「わかった。オレもそうしたい。はるちゃん、オレもはるちゃんがずっと好きでした。」
「わたしも。」
こうしてオレたちは、体育館の試合中の声援とは全く別空間で、日のあたるシーンとした部屋で、怪我をしたあしをかばいつつ、キスをしたのでありました。
おしまい。