安楽椅子ニート 番外編12 セノキョン探偵倶楽部 消えた肖像 A面
優「あのさぁ、杏子ちゃん!あのぉ、家ん中、もう少し、片付けた方がいいんじゃない?ちょっと、散らかし過ぎよぉ!」
瀬能「・・・今日は綺麗な方ですけど?」
優「これで?これで?これでぇぇ!」
瀬能「ええ。これで。」
優「まあ、いいけどさ。・・・これ、彼氏とか、呼べないないじゃん?どうしてるのよぉ?」
瀬能「・・・優ちゃん。本当に私の事を好きな彼なら、どんな所でも来てくれるもんですよ?」
優「・・・う、うん。そ、だよ、ね?」
瀬能「なんですか?なんですか?言葉、選ばなくてもいいんですよ?」
優「そんな事より、杏子ちゃん、相談したい事があって来たの!」
瀬能「そんな事より?」
優「・・・だって、杏子ちゃん。彼氏いないでしょ?絶対いないでしょ?」
瀬能「失敬な!絶対って何ですか?今はいませんけど、最近までいましたよ。」
優「はいはい。そういうのいいから。いいから。いいから。」
瀬能「彼氏ぐらい、いましたよ!彼氏の一人や二人!なんだったら三人、四人!」
優「どうせゲームでしょ?乙女ゲーでしょう?」
瀬能「そういう優ちゃんこそ、彼氏、いるんですか?現実の、生身の、ちゃんとしてる、」
優「え?いるわよ。」
瀬能「は?・・・そういう見栄は張らなくていいですから。」
優「嘘、言ったってしょうがないじゃん。いるもんはいるんだから。写真見る?プリでもいい?」
瀬能「ええぇ!優ちゃん、来年、受験でしょう?彼がいたら勉強に身が入らないじゃないですか!」
優「関係ないでしょ?受験は受験、彼は彼。勉強は勉強。部活は部活。」
瀬能「なんですか?私生活が充実しているから自慢しに来たんですか?年上の私を笑いにきたんですか!」
優「怒んないでよ!聞いてきたのは杏子ちゃんの方でしょ?」
瀬能「・・・まさか中学生にマウントを取られるとは思いませんでした。」
優「だからさぁ、杏子ちゃん。そういう話はいいから、今日は相談しに来たの。大事な相談。」
瀬能「・・・相談?・・・彼氏と結婚したいなら赤ちゃんを作っちゃった方が手っ取り早いですよ?」
優「あのねぇ!そういう話じゃないから!それから、結婚の相談にしても雑!雑過ぎる!もうちょっと丁寧に相談に乗りないさよ!」
瀬能「それで?それで、何ですか?相談って。・・・なるべくなら痴情のもつれで罵り合う様な展開を期待します。」
優「あのねぇ?杏子ちゃん?・・・あのさ、杏子ちゃんってうちの学校の卒業生でしょ?」
瀬能「・・・違いますよ?」
優「え?」
瀬能「・・・優ちゃんが通っている学校の卒業生では、ありません。」
優「うそ?」
瀬能「嘘、言っても仕方がないですよ。私、しばらく前に越してきたのでここが地元ではありません。」
優「思いっきり町内に馴染んでんじゃん?え?だって町内会のお祭りで、先頭きってお神輿、担いでんじゃん!おまけに、太鼓叩いてんじゃん!あれ、なに、嘘なの?」
瀬能「お祭り、好きだから神輿も担ぐし、太鼓も叩くし、炭坑節も踊りますし、何なら、焼きそばも焼きましたけど。」
優「エンジョイしてんじゃん!地元民以上にエンジョイしてんじゃん!え?なにそれ?・・・騙された!杏子ちゃんに騙された!・・・信じてたのに!」
瀬能「何をもって騙したって言っているか、よく分かりませんが、私が優ちゃんの中学校の卒業生じゃないと困る事があるんですか?」
優「う、うん。・・・杏子ちゃんなら何か知ってると思って、相談に来たんだけど。・・・卒業生じゃないなら関係ないし。」
瀬能「そうですか。・・・ま、優ちゃん。せっかく彼氏以外で家に遊びに来たんですから、話だけでも、伺いますよ?・・・彼氏以外で。」
優「あ、そ、だね。あ、うん。」
瀬能「憐れんだ目で見ないで下さい!」
優「じゃあ、さぁ、思い切って杏子ちゃんに話すけど、誰にも言わないでよ?いい?約束できる?」
瀬能「・・・あのう優ちゃん?普通、逆でしょ?相談する方が言う台詞じゃないですよ?」
優「杏子ちゃん、口、軽そうなんだもん!絶対、約束できる?」
瀬能「・・・ええ。優ちゃんからの私の信用度はこれで推測できましたけど。はい。言わない様に心がけます。」
優「誓って?」
瀬能「誓って。」
優「じゃあいいわ。あのさ、杏子ちゃん。実は、うちの学校で、女の子が行方不明になったの!」
瀬能「女の子が行方不明ぃぃぃぃいいい!」
デデデデデデデデデ♪ デデデデデデデデデデデデ♪ デデデデデデデーン♪
セノキョン探偵俱楽部 『消えた肖像』
→捜査開始
デデンデンデン♪ デデン♪ デンデン♪
優「声が大きいぃぃぃぃいいい!しーっ!静かに!・・・杏子ちゃん、静かに。いい?」
瀬能「ちょっと驚いてしまいました。」
優「二年二組の子なんだけど、八代 妙さんって言うの。私、八代さんとそんなに面識がある方ではないのね。会えば話はするけど、その程度。仲が良かった訳でもないし。ただの同級生。その八代さんが三日前に行方不明になっちゃったの!」
瀬能「あの、優ちゃん?行方不明って尋常な事じゃないですよ?分かってます?」
優「分かってるわよ、それくらい。学校にさ、警察が来たの。・・・学校に警察が来るって滅多な事じゃない訳じゃない?そしたら、二組の子が、警察に八代さんの事を聞かれたって言うの。八代さん、休んでて、今日で三日目。どうも家にいないんじゃないか?って噂になってね。行方不明じゃないか!って話になっているの。」
瀬能「・・・たかが三日、休んだ位で、行方不明あつかいですか?その八代さんって人の家に、ちゃんと所在の確認を取ったんですか?勝手な噂話で行方不明にされたら、大変な事になりますよ。」
優「私達だって、そんなにバカじゃないから、八代さんの友達に聞いた訳。家にいるかどうか。どうも、いないみたいなのよね?」
瀬能「いないみたい?・・・そこ、重要ですよ。」
優「電話しても繋がらないし。もちろん、家の電話よ?個人の携帯じゃなくて。お母さんが出るんだけど、本人に取り次いでくれないんだって。それで直接、八代さんの家に行っても、合わせてくれないらしいの。おかしくない?家にいるなら、顔くらい見せてくれてもいいと思わない?」
瀬能「うーん。うーん。でも、優ちゃん。人に感染する病気の類だと、合わせてもらえない場合もありますよ?ああ。あと、盲腸とか?」
優「モウチョウ?」
瀬能「ああ?ええっと。今は、急性虫垂炎って言いましたか?」
優「あ、知ってる、知ってる、脇腹ね。痛くなる奴!」
瀬能「緊急性の高い病気なら、家にいない場合もありますし、今の話だけでは、すぐに行方不明と断定は出来ないと思いますが?」
優「杏子ちゃん!学校に警察が来たんだよ!八代さんがいない日に!しかも、八代さんの事を根掘り葉掘り、聞いてきてさ!おかしくない!しかももう、三日だよ!学校に来てないの。電話は通じない、家に行っても会えない。・・・行方不明しかないじゃん!どっか消えちゃったのよ!」
瀬能「はい。優ちゃん。落ち着いて。落ち着いて。・・・カルピス飲みます?カルピス、めちゃめちゃ濃い奴。とりあえず落ち着きますから。まずは落ち着きましょう。」
優「杏子ちゃん家、冷蔵庫あるの?もしかして常温?」
瀬能「あのね?ありますよ、冷蔵庫ぐらい。今、待ってて下さい。カチンコチンに冷えたカルピス、出しますから。話はその後で。優ちゃんの彼氏くらい濃い奴、出しますから。」
優「・・・杏子ちゃん、いくら女同士でも、ひくから。そういうの。下ネタにしてもつまんないから。オヤジか?オヤジだって今、はばかられてその程度の事は言わないわよ?」
瀬能「・・・今は言わないんですか?・・・かわいい女の子に軽蔑した目で見られるにはどうしたらいいんですか?」
優「別に杏子ちゃんは軽蔑した目で見られる必要ないでしょ?・・・えっ?そういう趣味?・・・杏子ちゃん、どん引きです。」
瀬能「こっちが、どん引きですよ。今の子は潔癖だと思います。潔癖過ぎると思います。」
優「ふつぅうにしてればいいと思うけど?」
瀬能「かわいい子と話す時は下ネタはむしろデフォですよ?」
優「だから、そういうのがウザいの!下ネタがデフォって何よ?それ!」
瀬能「はい。そうこう言ってたら、濃い目のカルピス完成でぇす!はい。どうぞ。」
優「いいの?じゃあ、遠慮なく。いっただきぃぃ。・・・・おお!濃い!濃い!いいね、杏子ちゃん、濃い!いいね!」
瀬能「カルピスはこれ位、濃くないと美味しくないですよね?
じゃあ、ですよ?優ちゃん。優ちゃんが言う通り、その何某っていう女の子、」
優「・・・八代さん」
瀬能「八代さんが行方不明になったとしましょう。相談する相手を間違えてはいませんか?」
優「・・・どゆこと?」
瀬能「いいですか?優ちゃん。
人が一人、居なくなるって、大変な事なんですよ?むしろ、いなくなれないと言った方がいいでしょう。
昔話の神隠しならいざ知らず。この現代で、日本で、行方不明になるなんてそうそう起こり得る話ではないです。はっきり言って。どこに行っても、人の目があり、監視カメラもあります。更に厄介なのがスマートフォンの類の、持ち運べるカメラです。他人のプライバシーを無視して、パシャパシャ、写真を撮る時代ですよ?何処にいたって、何をしてたって、人の目にさらされる時代です。いなくなりようがありません。
誘拐にしても、連れ去りにしても同様です。車や建物に連れ込もうとして、抵抗をすれば、すぐに人目に付きますから。そういう犯罪は起こしにくい時代です。
おまけに、既に警察も動いているのでしょう?
中学生の行動範囲なんて、たかが知れているから、とっくに警察は情報を得ていると思いますよ。
事件や事故なら兎も角、ご家族が事を荒立てていないのだから、そっと見守っていた方がいいと私は思います。
子供がいなくなったら、心配しない親なんて、どこにもいないと思いますよ?
よく漫画やドラマで行方不明になってしまう子供がいますが、探偵とか警察が騒ぐより先に、親が騒ぎ立てるのが自然じゃないですか?あの手のドラマの不自然なシナリオはそこなんです。どうしてもドラマだから主役に活躍してもらわなければならないので、仕方がないと思いますが、まるで親がいないかの様な設定は、あまりにも不自然です。
そもそも相談する相手を間違っていると思います。
ジェーン・スーも言っています。法で解決できる問題、時間とお金で解決できる問題、アドバイスが欲しいだけの問題。
八代さんの件は、一般人である私が何とか出来る範囲を超えています。行方不明の捜索は警察の仕事です。
それに、優ちゃんは親族でもありません。学校の同級生に過ぎません。心配するのは分かりますが、問題の本質が違うと思います。」
優「違うのよ、杏子ちゃん。」
瀬能「何が違うんですか?」
優「・・・学校で噂になってるの。三十年前に失踪した女子生徒と同じだって。」
瀬能「・・・ん?」
優「だから、うちの学校で三十年前に同じ様な失踪事件が起きたの。その事件と八代さんの事件が、同じじゃないかって、噂になってるの!
最初に、杏子ちゃんに聞いたじゃない?うちの卒業生か?って。うちの卒業生なら皆、昔の失踪事件の事、知ってるから、何か、知らないかなって。それで杏子ちゃんに相談に来たの。昔の失踪事件と今回の失踪事件、何か、繋がってないかなって?」
瀬能「ちょちょ、ちょちょ、ちょっと待って下さい。優ちゃん?学校の七不思議の話と、実際に起きた八代さんの失踪。失踪とも言いたくないですが、所在がはっきりしないだけですから。ともかく学校の七不思議と八代さんの件を一緒するのは、不謹慎だと思いますよ?」
優「学校の皆も、皆、噂してるのよ!」
瀬能「優ちゃんの言う、学校のみんなって誰ですか?・・・どうせ、女子生徒ばっかりでしょ?女子生徒は馬鹿な噂話が好きだから。」
優「バカとは何よ!バカとは!」
瀬能「中学生の女子はみんな、毒電波ポエムとオカルトが好きなんです。ホントかウソかも分からない噂話を真に受けて、所在がはっきりしない子の件と一緒にするのは、本当に危険な事ですよ?分かってます、優ちゃん?」
優「・・・杏子ちゃんが、まともな事、言ってる。・・・なんか悔しい。杏子ちゃんなら喰いついてくる話だと思ってたのに。」
瀬能「私をどういう人間だと思っていたんですか?」
優「・・・無職、引き籠もり、人の噂話と不幸な話が好きな独善的な女とばかり。」
瀬能「偏見が過ぎますよ?偏見が。」
優「・・・見たまんま、だけど。」
瀬能「そうですか。・・・ま、人は見た目が九割ですからね。否定はしませんけど。
八代さんの件は件で、私なりに調べてみますが、」
優「杏子ちゃん、アテがあるの?」
瀬能「アテがない訳ではないのですが、それより、私が気になるのは三十年前に失踪した、女子生徒の話です。いったいどんな話なんですか?」
優「うちの学校じゃ有名な話よ。私も先輩から聞いたの。たぶん先輩もその上の先輩から聞いたんじゃない?学校の先生達も知ってる位、有名な話なんだから。
この話が、学校の七不思議程度の話じゃないのは、そのリアリティにあるの。夜、階段が一段多いとか、理科室の模型が動くとか、二宮金次郎像が動くとか、バッハが笑うとか、そういう子供じみたものじゃないのよ。」
瀬能「まあ、木造校舎でしたら怪談話も怖さが増しますけど、平成になってから建築された学校で、その手の話をされても、反対にリアリティが少ないは事実ですよね。今の学校はホテルと一緒ですから。」
優「うちの学校、玄関口の下駄箱の奥がホールになっているんだけど、昔、そこに少女の肖像画が飾られていたんですって。大きい油絵。人間の大きさと同じ大きさの絵。等身大で人間をそのまま描いたんじゃないかって言われてて、当時から有名だったみたい。その肖像画のモデル、中学生か高校生くらいで、学校の生徒達と同じ位の年齢だったそう。着ている制服が、今の私達とも違うし、もしかしたら戦争の時代の人かも知れないって。とにかく学校に入って一番、目立つ所に、いつの時代か分からないけど、女子生徒の肖像画が飾られていた、らしいのね。」
瀬能「はあ。」
優「それで事件が起きたのが三十年前。女子生徒の失踪事件が起きる。その女子生徒は、見た目も綺麗、頭も良い。スポーツ万能、おまけに家柄も良い、お嬢様だったってい言うの。そんな目立つ人だから当時の生徒会長をやっていて、先生からの信頼も厚かった。そんな人が何の前触れもなく、突然、いなくなってしまったの。全く、いなくなる理由がない。常に生徒の中心で活躍して、将来も期待されて、何もかも上手くいっていて、しかも家はお金持ち。いなくなる理由がまるで見つからなかったって言うの。」
瀬能「ちょっといいですか?こんな郊外の田舎町で、お嬢様がいるっていう設定に無理がありませんか?あと、絵の話はどこにいっちゃったんですか?」
優「ちょっと待ってよ、杏子ちゃん。今、調子が良い所なんだから。絵の話もお嬢様の話も続きがあるから。そりゃあ、お嬢様がここら辺に住んでいたっていう話自体、うさんくさいけども、よ?
女子生徒の失踪に関して、当然、警察が捜索したけど手がかりがまるで見つからない。誘拐の線も疑われたけど、一向に犯人から連絡も来ない。結局、失踪事件として処理されたんだって。
だけど、同時に新しい謎の事件が起きる。
女子生徒の失踪と相対するように、学校の玄関ホールに飾られた、女子生徒の肖像画が消えてなくなってしまったの!
すぐに噂になったわ。消えた女子生徒は、誤って肖像画を壊してしまった。あれだけの大きな絵だもの、高価なものだって誰だって察しがつく。弁償したくても弁償できず、謝りたくても謝れず、ついに肖像画と一緒に何処かへ消えてしまったのではないか!
別の噂では、大きな肖像画は人間の等身大で描かれている。女子生徒は失踪したんじゃなくて、絵の中に取り込まれてしまい、生きた女の絵画として、売られてしまったのではないか!
もともとあの絵に描かれている女の子は、その消えた女子生徒で、絵の方が消えたから、女子生徒が消えたんじゃないか!っていう説まで、流れたわ。
杏子ちゃん!ここで重要なのは、色々、噂になっているけど、女子生徒と肖像画が一緒に、消えてしまったっていう事なの。
そして、未だに両者とも見つかっていない。」
瀬能「・・・う~ん。何ひとつ、信ぴょう性がありませんね。まるっきり、リアリティが無いです。こんな事を言って申し訳ないですが、稲川淳二の怪談話の方がまだ説得力がありますよ?」
優「どゆことよ!」
瀬能「ええっと。女子生徒の失踪と絵画が無くなった、この二つを関連づけたい様ですが、そこに無理があると思います。話を怖がらせたい為に、小道具として肖像画を加えたのでしょうが、それが返って話のリアリティを失わせる原因だと思います。女子生徒は女子生徒、肖像画は肖像画、で別けた方が話がすっきりまとまると思いますが?どうでしょう、編集長。」
優「だれが編集長やねん!」
瀬能「学校の七不思議だから、それにツッコミを入れる自体、野暮なんですけど、三十年前に失踪事件が、仮に、仮に本当に起きていたとしたら、ご近所で有名になっていると思いますよ?全国紙に載らなくても地方新聞なら記事になっていると思うし。先程、優ちゃんは学校の先生も知っている位、有名な話だと言いました。ならば、先生で当時の事を覚えている方だって、いらっしゃるんじゃないですか?
それから肖像画の方ですが、優ちゃんの学校に行った事がないので分かりませんが、下駄箱の奥に、ホールがあるんですよね?そこに人間大の大きさの絵を飾れる実際の空間はあるんですか?人間の大きさだと一・五メートルと仮定しても、額やら何やらいれたら二メートル程になると思います。そんな大きな絵を飾れる場所があるんですか?」
優「なに?なに?なに?なに?詰将棋ですか?杏子ちゃん、詰将棋ですか?」
瀬能「設定が甘いって言う話です。今、先生に聞くことはできなくても、玄関ホールに人間の大きさの絵を飾れるか位、分かるでしょ?」
優「うーん。・・・無い。無いわ。吹き抜けでもないし、飾る壁もないし、よくよく考えたら、場所がないわ。壁はあるけど、学校のお知らせとか掲示物が張ってあって、絵を飾れる様な場所じゃない気がする。」
瀬能「所在がはっきりしない生徒さんと、七不思議を絡めて面白おかしくしているのは、明らかだと思います。・・・こう言ってはなんですが、そういう話を面白がって吹聴している生徒がいるんじゃないですか?優ちゃんも踊らされない様にした方がいいと思いますよ?
そういう話って、噂の出所は特定できないんです。科学的に証明されている現象の一つです。噂が噂を呼ぶって奴で、一番最初に言いだした人も、尾ひれはひれ
が付いて噂が出回ると、自分が言った事と違う話になっているから気が付かず、更に噂が大きくなるって現象です。
怖いのは人間です。人の口に戸は建てられませんからね。」
優「あのねぇ杏子ちゃん。言いたい事は分かるわ。生きている人間が一番恐ろしい、っていうオチでしょ?それは分かる。私が話を聞いた人だって、たぶん話の又聞きだと思うわ。でも、こう言うじゃない?火のない所に噂は立たぬって?」
瀬能「今は自分で火を焚く人が多いですからね。そのことわざも通用しない時代ですけど。・・・優ちゃん、その今、所在が不明な八代さんってどういう人だったんですか?そっちの方も気になります。写真などあったら見せて欲しいのですが。」
優「八代さんの写真・・・かぁ。私、交流があった方じゃないから一緒に映ってる写真は持ってないけど、二組の友達なら、持ってる子、いると思う。後でもらってきてあげる。」
瀬能「助かります。」
優「八代さんって、派手な子なのよ。男子受けが良いって言うか。」
瀬能「派手?男子受け?」
優「彼氏がいたって話は聞かないんだけど、顔立ちも性格も派手って言うか。はっきりした物言いをするタイプの子で、とにかく気さくなのよ。男子受けが良くっていつも男子が周りにいる印象だったわ。だからと言って、男とつるんで遊んでいる訳でもなさそうだったし。チャラチャラしてるのか、まじめなのか、良く分かんないのよねぇ。」
瀬能「男子にモテていた、と?」
優「う、ううん?そうねぇ?かわいい感じの女の子じゃなかったから、モテるって感じじゃないけど、男友達?は多いみたいよ。ほら、男子と女子の架け橋って言うの?男子と女子で対立する事よくあるじゃない?八代さん、男女の仲介役だったって。」
瀬能「へぇー。男女の仲を取り持つとはなかなか出来るもんじゃありませんね。その年齢でコーディネーターですか?」
優「・・・男子に敵意まるだしの女子もいるからね。・・・私も、男子の意見だってちょっとは聞いてあげた方がいいって思う時、あるもん。」
瀬能「鉄の処女を気取って男子に敵対する、頭のおかしい女子、いますからねぇ。ほんと痛いですよ。痛い痛い。」
優「私、彼がいるじゃない?彼氏がいる子にも噛みついてくるの?どういう性格って思っちゃう。」
瀬能「男子と交流がない、ひがみ以外ないと思いますけど?」
優「だよね?やっぱりそうだよね。」
瀬能「八代さんでしたっけ?その人、男子と分け隔てなく話せるから、特定の女子に嫌われていたんじゃないですか?だから、そんな学校の七不思議みたいな事を言われちゃうのではないでしょうか?処女特有の陰湿さは異常ですから。」
優「はははははは。・・・わかる。」
瀬能「私、アレは猫の陰湿さと同じだと思う時があります。猫って何もしてなくて大人しくてかわいいと思いますが、発情期の変わりようと、猫どうしの喧嘩の狂気さは、人間以上だと思う時がありますし、やっぱり獣は獣だなぁと思います。猫って和解がないですから。相手の猫を殺すまでやりますからね。」
優「・・・猫も動物だし。生き物の本質を見てしまうと、確かに引いちゃう事、あるよね。ネズミとかヘビとか、殺さないで見せにくる事、あるもんね。」
瀬能「それこそ八代さんは、学校生活で誰かと揉めていたり、トラブルをかかえていたって話はないんですか?」
優「そこまでは、分かんない。私はね。・・・八代さん。生徒会で書記やってるのよ。二年生でなれる役職で、上から二つ目。来年は生徒会長に立候補するんじゃないか!って言われてる。みんなから慕われてた方が多いんじゃないかなぁ。」
瀬能「生徒会の書記。・・・。」
優「・・・。」
瀬能「・・・・・・う~ん」
優「・・・だからね。三十年前の失踪事件と同じ様に考えたくもなるでしょ?気持ちは分かるでしょ?」
瀬能「うーん。優ちゃんの話だと、類似点があり、七不思議と絡めて考えたくなる気持ちは分かります。・・・分かりますが、だからと言って、謎の失踪と煽るのもどうかと思いますが。」
優「おまけにね。生徒会室にある、生徒会の写真から、八代さんの写真だけ無くなっているんだって。」
瀬能「無くなるっていうのはどういう状況なんですか?意味が少し分かりませんが。」
優「生徒会の役員一同が記念に撮った写真とか、個別に撮った写真とか、生徒会活動で撮る写真あるじゃない?」
瀬能「あるんですか?」
優「知らないけど、あるみたいよ?そういう写真の中から、何故か八代さんが映ってた写真だけ、無くなっているんだって。・・・あの時と一緒だって、噂になってるの。」
瀬能「・・・アハハハハハハハ。アハハハ。ハァ。・・・消えた肖像画ですか?女子生徒が消えた、七不思議の。」
優「そうなの。だから、みんな噂してるの。・・・三十年前の失踪事件の再来だって。」
瀬能「・・・四十点です。四十点。七不思議にしろ、怪談話にしろ、落第です。やり直しです。」
優「どういう事?」
瀬能「話が出来過ぎています。だから反対に怖くないんです。怖くさせようとしている意図が見え見えです。得点は四十点。
八代さんの所在が不明なので、まだ何とも言えませんが、私にしてみたら、意図をもって現代の七不思議にさせようとしている魂胆を感じます。
八代さんにしろ、そのご家族にしろ、良い迷惑だと思います。」
優「まあ。そうだよね。確かに杏子ちゃんの言う通りだよね。」
瀬能「優ちゃん、何度も言いますが、人が一人消えるって大変な事ですからね。大事ですからね。中学生の、モラトリアム全開の、現実と妄想の境界で語られる話とは違います。
人がいなくなったら、大抵はまず事件、事故を疑います。今でこそ日本も先進国と言われていますが、ちょっと前までは、地方の田舎町では、人さらいが横行していたんですから。女性が夜、一人で歩くなんて考えられなかったんですよ。それに、野犬がたむろしていたし、大人だって襲われる事だってありました。工事で道に大きな穴が開いていたり、河川の氾濫だって頻繁にありましたし、事故に遭う確率だって多かったと思います。
大陸の他国に拉致されて十数年後に発覚するケースだって、現実にあった訳です。」
優「そんな事、言ってたら何処にも遊びに行けないじゃない!」
瀬能「何処にも遊びに行かなかったんですよ!」
優「なに?杏子ちゃん、お婆ちゃんなの?」
瀬能「優ちゃんは危機感が足りないって話です。」
優「・・・そんな事、言ったって今、平和だし。」
瀬能「平和だからと言って、油断していい訳ではありませんからね。特に優ちゃんはまだご両親の保護下にありますから。」
優「はいはい。ママみたいな事、言う!」
瀬能「それでですね、優ちゃん。現代で人がいなくなるとしたら、大概は、自分の意思でいなくなる事が多いです。先程までは昭和の話でしたが。」
優「・・・!どゆことよ、杏子ちゃん。」
瀬能「ですから、自分の意思で失踪するんです。雲隠れとか夜逃げとか言い方はそれぞれですが、現代社会だからこそ抱える問題で失踪する事が多いそうです。
あと、私が読んだ小説で、十代が失踪したり死亡する事件が起きますが、だいたい自分の意思でやってますからね。散々引っ張っておいて、え?自分?って何それ!ってなりますよ。それが賞なんか取ってたりすると、審査員の感性を疑いたくなります。」
優「・・・ん?」
瀬能「今でこそ時代劇作家みたいな顔している宮部みゆきのなんとか裁判、あるじゃないですか?事件の発端になった。自分で死ぬなんて最後まで意味わかりませんでしたよ?最後、いい風に話まとめてましたけど、違くない?って思いました。どうせ失踪するなら、涼宮ハルヒくらいぶっ飛んだ設定にしないと、面白くないと思うんですよね。だからと言って面白いか別ですけど。」
優「急な書籍批判!」
瀬能「ちがいますよ!ちゃんと買って読んだブックレビューですよ!・・・宮部みゆきなんかはわざわざ文庫本で買っちゃいましたからね。あ、優ちゃん、読みます?重たいですよ?涼宮ハルヒはスニーカーで買うより学童文庫で出している奴の方が文字が大きくて読みやすいですよ?」
優「今は・・・いいかな。また今度で。」
瀬能「私の感想ですけど、」
優「え?まだ続くの、このアマゾンレビュー?」
瀬能「違います。ええっと?誰でしたっけ?八代さん?の件です。私の予想だと、今日が三日目ですから、一週間以内に決着がつくと思います。どんな形にせよ、出てくると思いますよ?」
優「怖い事、言わないでよ!」
瀬能「何度も言いますが、人間、そんなに、いなくなれませんよ。
文壇の先生方が、ホテルに缶詰めにされた逸話を聞きますが、もって一か月くらいだったそうで、それでも、担当者の目を盗んで、パチンコ行ったり、遊楽でハメを外したりしていたそうですから、人の目は隠せないものです。それと比べても、どこにでもいる中学生がいなくなったとして、もって一週間が限度だと私は思いますね。」
優「・・・そうなの?」
瀬能「それより、私は、八代さんの写真が消えた問題の方が、あとあと尾を引く気がします。にんじょう沙汰にならなければいいのですが。あまり、関係がないなら優ちゃんは、生徒会に近づかない方が良いと思います。」
優「あ、そうなんだ。ま、そうね。杏子ちゃんに話して良かったわ。・・・杏子ちゃんなら、魔法陣描いて、死者を降臨させて、事件を解決してくれると、思ってたから」
瀬能「あのぉ、私ってそういうイメージなんですか?」
優「真面目過ぎちゃって面喰っちゃったけど、他の大人と違って、まともに話を聞いてくれる人なんだって。引き籠もりで無職だけどね。」
瀬能「・・・そうですね。他の人より、時間に余裕がありますから。」
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=どうしますか? =
= なぐる =
= タバコを吸う =
=→寝る =
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瀬能「とりあえず、寝ましょう。事件が進展したら起こして下さい。」
優「事件は解決するの?」
※本作品は全編会話劇となっております。ご了承下さい。