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あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。

 翌日の昼も過ぎた頃。


 頭も尻も心も軽そうな、ふわふわと浮かれる女性を腕にぶら下げて、自称レシィの旦那様は屋敷の前に立っていた。


 もちろん、昨夜は隣の恋人とあはんうふんとお楽しみあそばしやがり、テンプレ通りに一緒に住むつもりでのご帰宅である。


「? なんだ、騒がしいな」


 屋敷の慌ただしさに眉をひそめて、門番に声をかける。


「おい、門を開けろ」

「あ、お嬢が拒否ってるので無理っすー」


 しかし返ってきたのはなんとも軽ーい言葉。門番ではなく、門の内側にいた執事である。執事の言葉遣いか、これ?


「なんだと!? 当主の命令が聞けないのか!!」

「え、誰が当主です?」


 激高のあまり怒鳴りつけるも、相手はどこ吹く風。今日もいい天気ですねー、と門番と笑い合う始末。完璧に舐められてるでござるの巻。


「えー、入れないのぉ? 早くお部屋で休みたぁい」

「あ、ああそうだな! おい!」

「当屋敷はホテルではございません」

「そんなことはわかっている!」


 どうにも沸点が低い男である。わざと煽られてるのにいい加減気づけ。


 一方的にギャーギャーと騒いでいると、玄関に人影が見えた。


「あら、ウェル。なにしてるの?」

「不審者で侵入未遂の犯罪者を追い払っております、お嬢様」

「不審者?」


 白いドレス姿のレシィは、てか昨夜のまんまウエディングドレスである。なんなら徹夜でもある。


 少しお疲れであるが、心は晴れやかだ。やっぱりストレス解消って大事だよね。すっきりさっぱり。


「っ、おい!」

「あら、侯爵子息様。どうなさいましたの?」


 こんな場所でお会いするなんて奇遇ですわねぇ、と微笑まれて、自称レシィの旦那様は言葉に詰まった。


 あれ、自分たち、昨日婚姻、したよな? と。


「ああ、戻ってきたのかい?」

「!? なっ、昨日の今日でお前不貞か!?」


 ひょこりとレシィの後ろから現れた男性を見て、思わず叫ぶが見事なブーメランである。阿呆か。


「まぁ、貴方じゃあるまいし、そんなことしませんわ。ドレスだって脱いでませんよ?」


 まぁ、ぶっちゃけちまえば脱がなくたって問題はないが、レシィは無実である。念の為。


「レシィの無実はわたくし達が証明しますわよ?」


 不貞相手に間違われた男性の隣には、彼の婚約者であり、レシィの友人が立つ。公爵令嬢なので、自称何某は黙った。


「昨夜、わたくし忘れ物をしてしまって戻ったの。お邪魔かと思ったのだけど、貴方が屋敷から出かけるのを見かけて、レシィを訪ねたわ。ドレスを脱ぐ前に決別の挨拶なんて、仮面夫婦になるつもりもないのね」

「だから、皆でレシィ嬢の婚姻しなくてよかったパーティーをしていたんだ」


 そう、昨夜はレシィのおひとりさま逆戻りやったねパーティーだった。王命? ナニソレオイシイノ?


「は? 婚姻しなくて?」


 婚姻証明書は教会に届けただろう? とばかりに首を傾げる何某。可愛くなーい。


「婚姻に関する誓約書を作成したのをお忘れ?」


 レシィに呆れた表情で言われたが、さらにはてなマークを飛ばす何某。阿呆だな。


「あれには、婚姻に関して白い婚姻は認めないとの一文がございましたのよ。もちろん国王陛下の口添えです」


 なんのためにわざわざ王命での婚姻なのか、考えたこともないんだろうな、この男。


「ですから、貴方がそれを拒否なさった場合、速やかに婚姻をなかったことにする、との一文も加えましたの」


 昨夜、誓約書に(のっと)って教会に走った従者は婚姻証明書を回収し、伯爵家に走った従者は伯爵に説明をし、笑顔で激怒のパパンは王宮に乗り込んだ。国王陛下は無事だろうか。


「そもそも、父いや陛下が侯爵家に目をかけるのは、侯爵夫人が初恋の女性(ひと)なんて、しょうもない理由だからね。それで伯爵令嬢が犠牲になるのは違うだろう」


 なんて、婚約者である侯爵令嬢がレシィの友人だからと同席していた王太子殿下がポロリするしょうもない暴露話に、レシィが困りましたわ、と微笑んだ。


「我が父の野心は商売繁盛ですので、これ以上の爵位などいりませんのに、侯爵子息様は爵位目当てだとか自分への一目惚れだのと、まぁ見当違いも甚だしい勘違いをされておりましたし。訂正しようにもお話ししたのも昨夜が初めてでしたでしょう?」


 それがまさかの「お前を愛することはない」なーんて馬鹿げた一言だったわけだが。


 ちょっと何言ってるかわからないです、な何某の脳みそはフル回転していた。


 やっと思い出した誓約書の内容も、確かに書いてあったし、なんなら妻を蔑ろにすることなかれ、と最初に書いてあった。あったのにあの態度かい。


 レシィのパパンは娘に不幸な婚姻をさせるつもりなんか、これっぽっちもなかったわけだが、そんなこと何某に気づけるわけがない。


「ですので、この屋敷は父からの婚姻のお祝いでわたくしに譲られたものでしたので、婚姻がなくなれば父の所有に戻ります。わたくしも伯爵家に帰りますので、荷物の搬出中ですの」


 貴方の荷物は侯爵家に送りましたので、そちらにお帰りくださいな、と朗らかに言われて、きゃぁ、と隣の恋人が声を上げた。


「えー、じゃぁこうしゃくふじんになれるってことぉ? 早く行こうよぉ!」


 いや、誰もそんなことは言っとらんが? 頭に花が咲き乱れとるんだな多分うんきっと間違いない。


 与えられた情報にフリーズしてショートして再起動し損ねた何某は、そのままズルズルと笑顔の恋人に引きずられて行った。


 侯爵家で修羅場が待っていると、誰も疑ってないが、皆ぬるーく見送った。だってもう関係ないもーん。


「皆さま、今回はありがとうございました。王命を覆せたのは皆さまのおかげですわ」


 綺麗なカーテシーで感謝を述べるレシィに、友人たちはとんでもないと楽しげに笑う。


「しばらく社交界を賑わせる噂の真実を知っているだけで、優位に立てるのよ? ありがたく使わせてもらうわ」

「わたくしも、王妃殿下にお願いして、陛下のオイタをちくりと刺していただくつもりよ。臣下をなんだと思ってらっしゃるのかしら」


 侯爵令嬢、公爵令嬢に笑ってない笑顔でふふふと敵認定された国王陛下。さらに王妃である奥方の激怒もお買い上げのようだ。すでにレシィのパパンによって瀕死の国王なんだが……まあいいか。


 真実の愛とか、国王に必要ないもので家臣を振り回したツケが回ってきただけだものな。


「それでは皆さま、今度は伯爵家でお茶会をいたしましょう」


 優雅にカーテシーを決めたレシィを、徹夜の疲れも見せない友人たちは笑顔で見送った。


 それは晴れ晴れとした良い笑顔であった。



「ねぇ、ウェル」

「はい、お嬢様」


 馬車に乗り込んだレシィは、前の座席に座る男を見た。


 栗色の髪に緑の瞳。きっちりと執事服を着こなす、あらまぁイケメンな男は、爽やかに胡散臭く微笑んでいる。


「貴方、いつまで擬態しているつもり?」


 はて、擬態とは。首を傾げるイケメンに、レシィはわかっていてもため息をついてしまった。



そしてやっぱり前後編にしなくてよかった続きます!

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