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影の境界線 - 現世常世=異世界 -  作者: 九条飄人
異世界干渉編
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65 -頓挫と新たな企み

 一万の兵が忽然と姿を消した。


 最初にエルフィンとの連絡が途絶えたとき、戦闘が始まったのだろうと深くは考えなかった。


 長い付き合いの中で、あやつがその程度で音信を絶やすような者ではないと知っていたが、それでも戦いの流れによって、もしかしたらあり得ることだとも思えたのだ。


 けれど、その考えが甘かったのだろう。


 姿も気配も消してやり強い将に率いさせ、完全に有利な形で一般国民を蹂躙しに行ったのだ。戦闘にすらならず、ただの民を一方的に片付けるだけの極めて簡単な仕事。


 しかし、国が陥落(かんらく)しておかしくない時間が過ぎても、彼からの連絡は一向になく音信不通。本来ならば兵士たちが帰還しているはずの時刻になっても、誰一人姿を現さなかった。


 焦りを覚え、こちらから連絡を試みても、途中でプツリと切れるだけで、それ以上、繋がる気配はまるでない。


 急ぎ、あの国近辺の自由区域(フリーゾーン)間諜(スパイ)を送り込んだ。だが、現地には争いの痕跡すら見つからず、攻め入ったはずの国には全く、ダメージを与えられた形跡がない。


 兵士たちの行方を探ろうと、匂いで追跡できる種族を送り込んでも、何一つ有益な情報を掴むことはできなかった。


 時間だけが無駄に過ぎていく。夜が訪れる頃になったが、エルフィンの安否も、兵士たちの行方も、依然として何も分からないままだ。


 ただ、胸に広がる焦燥感と、己の命令がすんなりと遂行されない苛立ちが、じわじわ大きくなっていく。


 数年前に突然現れた、訳の分からぬ生意気な王。私の大切な宝を二つ破壊し、右腕とも呼べる部下を二人殺した。


 私の命令に背く愚民には、力をもって従わせるほかない。私の力を見せつけ、その頭を地面に垂れさせるのが道理なのだ。


 あいつの国を壊し奪い取ることもまた、私の正しい目的にかなう行いである。支配下に置き、ジフトニアのように属領として永遠に搾取し続ける。


 私が善と言えば善。

 それこそ神が掲げる正義だ——


 順調に事が運べば、今頃は私の領地になっていたはずなのに、ただただ兵が消えて終わった。


 何も得られず、何も残らない。


 理解できない。


 何が起きたのか、その意味が全く分からない。


 何が起きたのかわからない、わからない、ということだけがわかっている。


 軍はまだ用意できる。使い捨ての兵は、いくらでも作ればいい。ルルフィンは用意できないが、依頼すればまた代わりの天使を派遣してくれるだろう。


 問題はそこではなく、何度も何度も小国の王にしてやられている、ということだ。


 アレだけは絶対に許せない。

 自分の手で潰さなければ気にすまない。


 時を見計らい、神々に審判を委ねるのだ。

 その前で堂々と、あいつを消し去ればよい。


 必ず実現してみせる。


 今はただ、耐えるときだ。私の愛らしい右腕たる双子は新たに造り上げるとしよう。有翼の兵士も、属国に命じればいくらでも生み出せる。


 全てはまだ、私の掌中にあり何一つ不可能なことはない。


 ……そうだ「私が理解できない」だなんて、あってはならぬこと。私の軍が向かったのなら、その国も、そこに住む国民も、大人しくいたぶられた上で占領を受け入れるのが当たり前だ。


 あの数の兵が向かったのに、誰一人として見ていないのは不自然というもの。今、私が直接向かうのは神として体裁悪いが、今さっき造り終えた(・・・・・)あいつを偵察に向かわせ何か1つでも証拠を掴んできてもらおう。


 証拠を理由に国家間問題として、大きく騒ぎ立ててから神前試合に持ち込めば、私がどれだけ手荒な真似をしても審判が大目に見るようになる。


 ことを荒立てる必要はない。国へ入り街で観光客のごとく振る舞い自然に情報を持ち帰ってもらえばいいのだ。


「ジフトニアからの荷にあったアレをここへ呼べ」


 近くに控えていた兵に命令する。兵は「はい」とだけ返事をし、ほどなく男を連れてきた。


 造りたてと思しき男はまだ全裸。玉座に座る王である神の前へ、兵に追い立てられるように歩いてきた。ペタペタと足音がする歩調は、まだ歩き慣れていない人や、両足が痺れているかのような、ぎこちない歩き方をしている。


「お呼びですか、王」


 そう言うと、深く深く……額が地面にめり込みそうな強さで平伏した。


 王はその男へ命令をくだす。


 言葉を受ける間、男は1度も顔を上げることなく黙って聞き続ける。部屋が寒いのか、男の手足は青白い。顔を上げればたぶん、唇の色も悪いだろう。それでも、姿勢を崩さず延々と話を聞いている。


「以前のお前は大して成果を上げられなかったが、今回のお前はどうだろうな……私をガッカリさせてくれるなよ? オゥンシフモ」


 王の言葉を黙って聞く男は、一度たりとも顔を上げない。部屋の寒さに手足が青白く染まり、どこか震えているようにも見えて辛そうだ。それでも彼は姿勢を崩すことなく、王の言葉を受け入れている。


 今度こそ、この男に何かを掴ませねばならない。

 あの国を属国にするきっかけを掴むのだ。

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