表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
影の境界線 - 現世常世=異世界 -  作者: 九条飄人
異世界干渉編
48/72

47 -月光国の状況

 便利係の嫌雪(けんせつ)が部屋に避難したが、部屋に居るクレア達に気付かない。でも、クレア達は嫌雪の存在に気がつき、声をかけた。


 それでも気付かない嫌雪。


「嫌雪さん、ここっす!」


 ティールが声をかけ、やっとクレア達の存在を認識できた。


「ずっと、ここに居ましたか?」

「居たわよ」

「気配を隠していたっす。ささ、嫌雪さんも手を繋ぐっすよ」


 そうして輪になり、外が落ち着くのを待つ。


 ザファグ砂漠からケプシャルを追う前。


 たぶん、敵は執務室へ行かないと思うが──


 そう、前置きをした後に新月丸はティールに命じた。


 岩の上に刻んだ(えにし)は月光国の執務室に繋がっている。そこから瞬間移動(テレポーテーション)で城にコッソリ戻り、クレア達の気配を消し、侵略者から見つからないように隠しておいてくれ、と。


「俺の留守中に、絶対、国に攻撃を仕掛けてくる」


 命喰魚ソウルイーターフィッシュを倒した後、新月丸はティールにそう告げた。


 大抵の攻撃に耐えられるよう、魔防壁(ディアヴォリウォール)を国全体にかけている。でも、個人に特化して狙ってきたら厄介だ。念の為ではあるが、クレア達もお前達も気配を消していてほしい。


 そう言ってティールとドラリンを月光国へ向かわせたのだった。


 先を見通す力が強いのだろう。

 新月丸がティールに告げた通り、攻め入ってきたのである。

 街を焼き払い城を落とし、破壊するべく実行に移した。


 しかし、それは叶わなかった。


 何かの力が邪魔をしている。

 ケプシャルが打つ魔法を通さない。


 ケプシャルが何度、焼き払おうと魔法を使っても街に火は付かず、それどころかあっという間にかき消されてしまう。遠くから最大限の魔素を込めた火球を飛ばしても、城はびくともしなかった。


 国内にダメージが与えられないのであれば、仕方ない。

 もう1つの達成させるべくターゲットを探しだす。


 連れ帰りたいのは、月光国国王側近に居るという噂の美人だ。

 その者は攻撃要員ではなく、あくまでも秘書兼宰相だという。


 連れ帰って主に献上し、ケプシャル自身も愉しませてもらう予定であったし、月光国の王への嫌がらせとして最適だと考えたからだ。


 しかし、探しはしたものの、残念ながら目的とする存在の気配が全く無い。献上品となる美人秘書がどこに居るか、ケプシャルは見つけられなかった。


 クレア達は新月丸の作戦で、ティールが気配を隠している。もし、最初にクレア達の執務室へ向かっても、絶対に見つからないと新月丸は確信していた。


 ケプシャルは酷く不機嫌になったが、何の守りもなく1箇所だけ、開かれている所を見つけ城内へ乗り込む。


 それが、新月丸の策だとも知らずに。

 あえて簡単に侵入できるように開けておいた御用口。


 ここに誰も居なければ、作りだけは固くしている御用口に遠隔操作で侵入者を閉じ込められる。同時に、責任感が強い嫌雪が最後まで、御用口に残る確率が高いとも予想をしていた。


 案の定、と言うべきだろう。仕事熱心な嫌雪は御用口に最後まで残り、望まぬ来訪者であるケプシャルと対峙する結果となる。


 新月丸の様々な目論見は見事に当たり──


「もう、大丈夫そうっすよ」


 いつも通り口調も声も、ティールには緊張感が全くない。

 巨大な熱球が城に当たり、溶岩と思われるものに包まれた。


 振動はビリビリと伝わり、オレンジ色に光りながら窓の外に溶岩は流れ、室内や廊下が不気味に照らされていても「何とかなるっす」と言っていた。


 そして今──


 窓からの光も熱も落ち着いている。


「もう、外の様子を見てもいいかしらね?」

「そうっすね、見てみるといいっす」


 クレアとタロウは窓に急いで近寄った。

 ここから見えていた風景は、どうなってしまったのだろう。


 窓から街を眺めるのは今や、クレアの日課のようなものだ。


 荒れ果てた頃からずっと、復興を願いながら1日に数回は執務中に街を眺めていた。少しずつ整う街並みを見るのは、誇らしく嬉しい。


 けれども、あれだけの熱が城を覆えば、少なからず街に被害が出てもおかしくない。侵略者が街に一切、手を出さないなんてあり得ないだろう。


 しかし、その不安とは裏腹に……街は普通に静まっている。

 そこに住む人々が何名かちらほら、不安げに街を見て回っている様子はあるけれど、大騒ぎにはなっておらず建物にも被害は見られなかった。


 大量に垂れ落ちた溶岩状のものは跡形もなく消え、何も起きていない。

 いつもの見慣れた街並みが広がり、城周辺も攻撃を受けた痕跡は何も無かった。


「ほら、だから大丈夫っていったっすよ」

 (ほが)らかな声が聞こえてきた。


「これは……どういう事ですか?」

 タロウは率直な疑問を口にする。


「新月様は国全体を守る結界を張っていると仰ってました」

 そこに嫌雪が言葉を挟む。


 ケプシャルとの対峙、その結末。

 そして、ここに避難しろと言われた経緯。


 それを事細かに、クレアとタロウへ説明した。


「それだけじゃなく攻撃で発生した、全てのダメージあるものを消し去る仕掛けもしてあったっすよ」


 ティールは話を続ける。


「皆様はまだ、新月様との関わりが数年しかないっす。だから、どんな力を持っているとか、よく知らないっすよね」


 クレア、タロウ、嫌雪は神妙な顔をして、それを聞く。


 少年ぽい見た目。

 どこか幼さが残る雰囲気。

 それでいて、落ち着き過ぎているところがある。

 何が起きても動じず、口調も軽い上におふざけ感を出す。

 それなのに、近くにいれば安心してしまう、独特な気配を持っている。


 確かに謎が多い。

 強いだろう、というのは解る。

 解るけれど、それはとても曖昧なものだった。


「僕が今ここで、新月様のことを皆様に話をしてもきっと、嫌がらないと思うっす。僕の知っている限りになるっすが、皆様に伝えるっす」


 ……でも、他言は無用っすよ?


 どこか王に似た、いたずらめいた言い方でそう付け加え、ティールは語り始めた。


 現王、新月丸の能力の一端を──

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ