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影の境界線 - 現世常世=異世界 -  作者: 九条飄人
異世界干渉編
44/72

43 -有翼の傀儡

 新月丸によって手足をもがれ他箇所も大怪我を負っているケプシャルは、双子のエプシャルによって何かを施され、翼を得た。

 手足の再生は全く無いが、今は自由に動ける翼がある。だから何も問題ないし一切、困らない。


 翼を得る直前の施しを、少し前のケプシャルは激しく拒んだ。

 しかし、今のケプシャルにそんな記憶は無く、頭の中で同じ言葉がずっと、繰り返し響いている。


 ——可愛い可愛いケプシャルや——

 ——月光国の使いが一般階級民の奴隷を治療している——

 ——そこに居る、使いも奴隷も苦痛を与えてから殺せ——

 ——可愛い可愛いケプシャルや——

 ——月光国の使いが一般階級民の奴隷を治療している——

 ——そこに居る、使いも奴隷も苦痛を与えてから殺せ——

 ——可愛い可愛い……


(我が父であり唯一の光たる神よ、仰せのままに……)


 命じられた自分。

 命令を行使する自分。

 なんて美しく、幸せなのだろう!


 多幸感(たこうかん)が心も精神も支配し、ケプシャルはとても満ち足りていた。


 神の命令はどんな事柄にも勝る。

 言葉を疑いなく信じ命令を聞く。


 神以外の全ての存在は皆、そうして生きるべきなのだ。

 神によって与えられる身体への痛みは、最大の慈悲(ギフト)であり、そこからの死は罪が許された証拠。幸せに気付けず、治療をする愚か者は罪に見合った苦痛を与え、断罪せねばならない。


 特権と力を使い、苦痛の中で命を略奪してやるのだ。


 他国の者(異教徒)へする暴力と略奪は神から許された正義なのだから。

 異教徒に助けを乞う異端者へする暴力と略奪は神に愛された者の義務なのだから。


 神の代行者として、今から愉しい正義と義務を果たしに行く。


 ——可愛い可愛いケプシャルや——

 ——月光国の使いが一般階級民の奴隷を治療している——

 ——そこに居る、使いも奴隷も苦痛を与えてから殺せ——


「このケプシャルは理解しております」

 口元を醜く歪め、幸せそうな笑みを浮かべ目的地へ向かう———


 ———さて……


 命の危機だけ何とか救った所でケケイシは立ち上がった。


 けれども、当面の危機が去ったというだけで、危険な状態であることは何も変わっていない。このままここで今まで通りの看病を家族から受け続けているだけでは、回復が望めない状況だ。


 じわじわと悪化して最終的には絶命するだろう。


「今以上の治療をするには君のお父さんを、ここから他所(よそ)へ連れ出す必要がある」


 少年はケケイシを見上げた。


 ケケイシの背は高い。

 獣人形態の今は耳を含めると2.5メートル程もある。

 小柄で痩せこけた少年にとってケケイシは、大きさだけで多少の恐怖と圧を放つ。ましてや、この辺りではあまり見かけない獣人。


 それでも、今までの治療を見てきた少年にとって、今は死にかけ苦しんでいる父親を救えるかもしれない存在である。


「他所ってどこだ?ここからどう、外へ出るんだ?」

「僕がお父さんを担ぎます。君は……」


 ケケイシはここで少し考えた。

 この者を完全に救うには、この場で今以上は無理なのは明白だ。しかし、少年を連れて行くとなると、誘拐に当たる可能性が出てくる。しかも国家間を跨ぐ誘拐……いや、国境たる門を破壊し、王自らが堂々と侵入している時点で今更か?


「君は……いや、その前に。名前は何と言う?」

「名前は2丁6番20のM100228。家族や近所の人からはニパってあだ名で呼ばれてる」

「そうか、ではニパくん、君も一緒に来るといい」

「でも、お母さんと妹を置いては行けない」

「お母さんと妹さんは、今どこにいるんだい?」

「今日は地下にある浄水作業に行っている」

「どれくらいでここに帰ってくる?」


 昼過ぎに一度、昼食を食べに戻ってくるとニパは言う。

 家で昼食を食べられるくらいなのだから、以前の自国よりマシなのかと思ったケケイシだったが、すぐにその考えは改めさせられた。


「奴隷が浄水場で食べると場所が汚れるからって一旦、魔法で返されるんだ。でも、食べ物の提供はないから、そこらへんの草を薄く塩で炒め週に一度、配られているパンに足して食べる。休憩時間は10分、そこからまた魔法で戻され10時間の労働がある」


(ああ、帝国アスパーと大差ない)


「……そうか、あと少しで10分程、家に居られるんだな?」

「うん……お母さんと妹も一緒にいける?」

「行けなくはないのだが……」


 さて、どうやって運ぼうか。獣の姿に変わり、3人を背に乗せ父親が落ちないように支えていて貰えば、移動は可能だ。しかし早くは走れない。ゆっくりでもハーララを出て、後から王が応援を遣わせてくれるのを願うくらいしかできなさそうだ。


 敵から襲われなければ、それも可能だが……


 考えを巡らせている、その時。


 目の前に光る魔法陣が浮かび上がった。

 そこから母親と妹と思しき2人が出てくる。


 ———それと同時に、屋根が吹き飛ぶ。


 ケケイシ達を踏まないよう着地したウデー。

 翼を生やし宙に浮かんでいるケプシャル。


(このタイミングで関係者が勢揃いかよ!)


 敵襲が無いとは思っていなかったが、さっきまで荷として運んでいた胴体のみのケプシャルが、羽を得て戻ってくるのは想定外だった。

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