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影の境界線 - 現世常世=異世界 -  作者: 九条飄人
異世界干渉編
23/72

22 -亜人

 先へ進み、草原が後方のみに緑明るく見え始めた頃、風景は変わってくる。


 緑が減り、やや湿気った土が剥き出しで石が増え、暖かい不受けから不穏な気配に変わってきた。


 植物も少しだけ生えているが、草原にあるものとは異なり地面を這うような生え方をする低い種が、まばらにある程度。それには小さな花が咲き、無骨な風景を少しだけ和ませているが、先の草原とは違い、どこか暗い雰囲気が漂っていた。


 ここは、自由区域(フリーゾーン)の中で、どの国とも隣接がない区画だ。


 旅人や国家間配達をする者の大半はここを迂回し、通りたがらない。この区画にはモンスターと亜人種が出没するからである。


 亜人の中には好んで人を狩る種や、いたぶる為だけに人や動物を飼育する種も存在しているので、戦い慣れていない者であるなら、ここを避けるのが懸命な判断だ。


 中には友好的な亜人種も居るのだが、見てすぐにそれを判断するのは難しい。旅慣れていて亜人に顔見知りができれば、この地の往来は楽になるけれど、友好的な亜人は少ない。少数の友好的亜人と知り合う為にここを通るのは、ハイリスクハイリターンなので試せる者は限られる。


 信じられないかもしれないが、亜人種も元は現世での姿は人間である。人間は彼方(あちら)で死んだ後、あの世と称される此方(こちら)に来て、人間種や現世には存在していないその他の人種、そして亜人と様々な姿となり、この世界で生活の続きを開始する。


 ——基本、ではあるが。


 この世界で命を落とせば現世で赤子となり生まれ変わる。中には人間だった者が人間外の動物に生まれ変わる場合もあるとのことだが、それは例外中の例外。


 簡単に言ってしまうと「この世」と「あの世」というのは死を介して行ったり来たりの関係なので、現世で死が訪れれば再び此方(こちら)の世界での生活が始まる、というわけだ。


 その中で、亜人となる人間は概ね決まっている。


 人間としての死を迎えた後、此方(こちら)で亜人であるか人間であるかを見分けるのは、比較的容易だ。


 所謂「人間の世界」で交戦的な人種、他国を侵略するのが好きな人種、他国の土地を勝手に占有したがる者や利己的で暴力を好む者。それらの殆どが現世で生を終えると、此方(こちら)で亜人種となる。


 その性質上、国や人種によって、亜人であるか否かが、そこそこ高確率で振り分けされている状態だ。


 現世では知られざる事実だが、これを言った所で「差別」と言われるか、変人扱い、はたまた嘘つき呼ばわりされるのが関の山。この事実を知る者も居るが心の内に留めておくのが、この世で人間として生きるのなら利口な生き方である。


 ともかく、此方(こちら)に来るとオークやオーガになる者は「現世のうちに霞体(本体)を始末しておこう」というのが今の主流となっていた。


 また、人間種であっても犯罪者や素行の悪い者が、一気に大勢で入ってきてしまえば民度が下がり治安もまた同様に悪化してしまう。現世から此方(こちら)へ来る前、彼方(あちら)側で始末して、魂の選別をしておきたいのである。


 それが各国の共通認識になったのは、ここ100年くらいの事だ。


 現世……新月丸が行き来し、リックを手伝っているあの世界の人間種はそう、遠くなく滅ぶ。


 勿論、1年10年といった短い期間で滅ぶわけではない。しかし、おおよそ文明と呼ばれる社会形成をしてから、今までの時間ほどに人類の未来は長くない。


 滅ぶ際におきる大量死の時に、まとめてゴッソリ、此方(こちら)に来られても受け入れる国も大変であり、亜人種や素行の悪い人間種が大増加するのは好ましくない、というわけだ。


 だから今、現世では壮大な間引きが行われている。都合の良い事に、彼方(あちら)に生きる者は肉体が亡くなるまで霞体()が滅されている事には気付けない場合が殆どである。だから問題視もされないし、現世に生きる者は肉体に命ある間は困らない。


 新月丸は頻繁に現世の魂を始末している。

 リックもまた同様だ。


 些細な事、と思われがちな悪事や迷惑行為でも、新月丸やリックの近くでそれをしてしまえば簡単に転生を断ち切るし、地獄と称される所へ落とす場合も割と頻繁にある。


 そして多くの神々もそれを実行していた。


 但し、信者を抱える神々は現世に於いて不品行な人間であっても、此方に来て亜人になる者であっても「熱心な自分の信奉者」は己の手元に置きたい。


 都合の良い駒や兵士になるからだ。


「彼方の世界に関わるな」と新月丸に命令をしてきた神も信仰の名の下、現世で戦争や内乱を頻繁に起こさせている。その上、異教徒なら害することすら善である、なんてとんでもない教えを広め、都合よく霞体()を間引き、手駒を増やしている。


 神々のみそれをする権利と自由がある、と思い込んでいるのだ。


 神ではない、ただの国の一介の王である新月丸が、現世で好き勝手に魂の間引きをしているのは、一部の神にとって不都合だった。そして現世に生きる者と関わりを持つのも助けるのも、ちょっとした奇跡を起こすのも全てが許せないのである。


 神ならではの尊大な態度に新月丸が反感を抱くのも当たり前といえよう。


 新月丸の所感では自分やリック、神々以外にも魂の間引きを行っている者が、現世に生きる人間の中にもチラホラいると踏んでいる。それが、どういった者であるかは調べていない。知った所で余計な事態に発展する可能性もあるからだ。


 この区域に入った時「ここで亜人に襲われたら情け容赦なく消してやろーっと」なんて新月丸は思っていたが、幸いと言うべきか、驚異的なスピードでケケイシは駆け抜けている。出会った所で突風の如く一瞬で過ぎ去るので、交戦にはならないだろう。


 現世の事情をよく知っている新月丸は、亜人に嫌悪感を持つ。


 亜人の中にいる友好的な者はその限りではないが、友好的な亜人は本当に極めて少数である。真意を嘘で隠す亜人も多く、それらは読心術を使わねば解らない。言葉や素ぶりで仲間だ味方だ、と思わせておいて隙ができたら裏切る亜人は決して少なくない。


 新月丸は読心術も使えるので、すぐに見分けられるのだが、嘘をペラペラと並べ友好的な振りをする亜人と接するのは、とても気分が悪い。


 ちなみに今、新月丸を乗せ疾走しているケケイシは獣人に属する人狼である。


 亜人種と間違えられがちだが獣人はまた、別種だ。この種は人と獣が混じった姿を基盤とし、時として獣化できる。但し、近年では獣化出来ない者も増えてきた。それは人間種と獣人との混血児が増えたのもあれば、以前に比べ獣として過ごす必要がなくなった為、退化しつつある能力とも言える。


 人との混血が一切無い獣人であれば練習次第で80%程が獣化出来るが、皆が当たり前に獣の姿を取れるわけではなくなっていた。余談になるが獣人はリックが住む現世と、生死によって行き来していない。別の星の現世に住まう人類の生死により此方(こちら)彼方(あちら)を行き来をしている種族だ。


 新月丸が関わりリックが住まう世界の単語で言い表すのなら獣人とは「宇宙人」になるのだろう。リックの居る星の人類は猿から進化をしているが、他の星では猿以外の動物から進化している場合も多い。


 周囲の湿度が高まり独特な霧が薄く出てきた。

 そろそろ、この地域最大の難関がある。


 ここまで順調に駆け疾走していたケケイシがスピードを緩め、立ち止まった。


 その前方には大きな大きな川が流れている。

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