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影の境界線 - 現世常世=異世界 -  作者: 九条飄人
異世界干渉編
16/72

15 -王の決断

「本当にあの国に関与なさるおつもりですか?」


 嫌雪(けんせつ)とのやりとりを話した所、クレアは昨日と同じく硬い口調で問いかけてきた。


「ん〜…とりあえず探りから入れてみようかなぁ」

「しかし、あの国の王は「神」ですよ?」


 タロウも少し緊張しているようだ。


「神だからなんだってんだ?属性の違いはあるが俺と神との違いは信者の有無でしかない」

「そんな軽く仰いますが***様は神々の中でも最上位に属する方ですよ?」

「そもそも最初にイチャモンつけてきたのは***だけどな」

「***様を呼び捨てにするのは王くらいだと思いますよ」

「俺に文句垂れてきた奴に「様」なんて付けてやる義理はないからな」

「でも彼方(あちら)の世界へ関わるのは一応、御法度なのでしょう?」

「一応、でしかないしアイツらはあっち側でも信者を得て、何だかんだ関わっているんだぞ」

「それは神の特権、というものかと思います」

「特権なんてものはそれで得をする奴が身勝手に振りかざすもんだ」

「けれど王が考えている事は神の所有物たる只の人を助けたい、正論で言うのなら他国の民を他国の王が助けるという異例な事態。きっと王を悪と糾弾する神々が出てきます」


 この王に怖いものはないのかもしれない。

 神々からの糾弾と聞いてもどこ吹く風だ。


「それがどうした?」

「どうした、ではないでしょう!」

「どれだけそれが重く大変かがお解りですか!?」


 普段は冷静な2人の声が珍しく荒くなっている。


「どこかの重鎮でも無く助けを直接、請われたのでもない他国の只の一般人を助けに一国の王が動くのがどれだけ危険であるかお解りですか?」


 ここまで聞いて俺は少し間をおいて答えた。


「只の一般人…か」


 ハッとした顔をして


「申し訳ございません、言い過ぎました」


 すぐに詫びるクレア。

 きっと気付いたのだろう。

 それを言うのならこの国は只の人を助けた所から始まった、という事に。


 しかしそこは追求しない。他国の王が他国の民を助けるなんてのは常識で考えれば確かにおかしいからだ。


「何かをしたい。それに必要なのはこの場合【どちらが強いか】だけだ。只の人を助けたい、どうにかしたいと思った時に結果を左右するのは相手に勝てるか勝てないか、それだけの問題でしかない」


 息を呑んだような気配を出して2人は黙ってしまう。

 もう少し柔らかい言い方が必要だっただろうか。


 居心地の悪い沈黙が続いてしまい場を和ませる何かを言おうと考える。


 俺はそういうのが苦手だからなぁ…怒っているのではないし、クレアとタロウの言い分が最もなのはよく解っている。


 でも俺は特権とやらが大嫌いでな。

 只人だからと特権者に好き勝手され、虐げられるのは嫌なんだ。


 特権を持つ奴が己より下位であると決めた者へは、どんな残虐な行いも簡単にすると俺はよく知っている。


 そんな心の内を読んだかのようにクレアが口を開いた。


「王であるあなたがそう言うのなら、私達に止める術はありません。したいようになさるのが宜しいでしょう」


 その後すぐにタロウが言う。


「けれども、そこまで言い切ったからには策があるのですよね?」


 ん?策…?策か。

 不意に聞かれて初めて考えてみた。


 現在の状況において策なんてものは立てようが無い。だから何も考えていない。


 こういう場合、出たとこ勝負しかないと俺は思っている。しかし何だかんだ言っても「神」という地位は人にとって大きな影響を与えるものだから、ここで2人に「無策だよ〜」なんて言えば不安を煽るだけだよな…何か気の利いた言葉を言いたい。


 口を衝いて出た言葉は「んー…なんとかなるんじゃね?」だった。


 いやいやいやいや!!!

 自然と出てしまったがそうじゃない。もっと気の利いた言葉があるだろ!


「いや、策っぽいものはあると言えばある気がする」


 気がする?…ダメだ。取り繕おうとすればするほど、碌でもない言い訳しか出てこない。そりゃ無策なんだから仕方ないってもんだ。


 それ以外に何か安心させられる言葉がないか、考えてみたが全く思い浮かばない。ただ単に目が泳いだだけだ。


「はぁ…」


 ため息が聞こえてきた。


「特に何も考えはないのですね」

「神を相手に何も考えず行動をなさる、と」


 クレアもタロウも心からの呆れを全く隠す気が無い。


 再度、大きなため息を吐き出した後


「王はとてもお強いので信用し留守は私達が預かります」

「ですが、あなたは私等にとって必要な唯一の王。必ず無事にお戻りください」


 静かに言うクレアの表情は先の呆れ顔のままだったが、とりあえず2人の許しは出た。


 後は適当に用意して旅立とう。こういった出かけ方はこの国がまだ「アスパー・ギド」だった頃。旅行へ行った時以来だろうか。


 まぁ、あの時は誰かを助けよう、なんて目的ではなく「きな臭い国があるからちょっと見てくる」なんて軽い気持ちで出かけたんだけどな。


「返信が届いてから出かけていただきたいですが、すぐに向かわれますよね?」

「あー…向こうの出方も気になるけど時間がかかっちまうから用意をし次第、出る予定にしてる」

「常に連絡が取れるのでしたら後から対応をお知らせしますがどうですか?」

「途中までは可能だろうけど、あの国に近くなれば通信妨害くらいは張ってあるはず。だから1日1回、戻ってくるよ」


 …え?


「言った先に(エニシ)を刻みつけ、そこからここに戻れるよう(エン)を結ぶ。通信妨害があってもそれくらいは可能だぞ」

「通信妨害が張られている中でそれくらい、と言える人はなかなかいませんよ」

「解りました。それなら私達も安心して待っていられます」


 あの神(あいつ)は汚い。

 俺が行けば留守中、国に何か仕掛けてくる。

 行かなければたぶん、精神的な嫌がらせをし始めるだろう。


 どちらにせよ、動くしかないんだ。


 俺はあの世界(現世)との関わりを止めない。

 リックとの関係を止めるつもりもない。


 使者を助ける助けないに関わらず、(あいつ)を黙らせるのなら、俺が行動に移すしか解決方法は無いと承知している。

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