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それから一年近く経った今日。
とても天気がいい日だった。しかも日曜日は王太子妃教育も休み。そこで学生時代の友人を呼び、お茶会をすることにしたのだ。
久しぶりに会う友人たち。ついお洒落にも気合が入る。選んだドレスは……
ホワイトピンクのドレスは、身頃に立体的な薔薇の飾りがある。スカートは三段ティアードで、フリルもとても美しい。ウエストのビジューのついたリボンベルトは、いいアクセント。お誘いした友人たちを、エントランスホールで迎えると、庭へ移動。
庭のガゼボ(東屋)で、香りのいい紅茶と、三段スタンドにサンドイッチやオードブル、スイーツを用意し、談笑していたら……。
突然、ドルフ第一王子が現れたのだ。同席していた伯爵家の令嬢も、子爵家の令嬢も、ビックリ! 「お二人のお邪魔はできません」と帰ってしまう。この事態に、歯軋りする思いだった。
空色のセットアップに白いマントを合わせた金髪碧眼のドルフ第一王子は、声を出さずにそこへ立っていれば、まさにゲームのスチル写真通りの完璧王子様。
このまま無言でいてほしいと思うのに……。
「会いたかったよ、ユリアンナ」
まだ友人たちが近くにいるので、ドルフ第一王子は王子様らしく、ゲームで言いそうなセリフを口にしている。でもばっちり、私のことを抱き寄せていた。それでもってして耳元で囁く。「君が欲しい――」と。
宮殿に仕えるメイド、宮殿に出入りする商人の娘。彼女達にも同じような甘い言葉を囁き、手を出していたのだろうと思うと……無性に腹が立つ。おかげで推しに抱きしめられ、耳元で囁かれても、なんとか理性を保てている。
裏の顔があるとはいえ、推しだったのだ、ドルフ第一王子は。「抱きたい!」とストレートに言われるのではなく、ゲームのセリフで言いそうな「君が欲しい――」を言われると、本音は……もうたまらない、だった。腰が砕けそう!と。
……いや、ゲームは全年齢版ですから、「君が欲しい――」なんてセリフ、そもそも言わないような言葉なのだ。二次創作で聞けるような囁きを、リアルゲームの世界で聞けるのは、嬉しい。でもここで心を持っていかれてはダメだ!
「離れてください、殿下!」
いつも通り、ドルフ第一王子の胸を押し返し、後はもう「いつも顔を見る度に、体を求めるってどうなのですか!」「遊学中なのに、何やっているのですか!」と言い争いとなる。
そして――。
「何を言っている! この僕をこれ以上愚弄するなら、不敬罪に処すぞ!」
ずっと我慢していた、メイドや商人の娘の件をぶちまけると、ドルフ第一王子が、不敬罪を持ち出してきたのだ。
これにはもう脳内では「やったー!」となっていた。この国では、不敬罪になると、一生宮殿へ出禁となる。仕官している貴族は大問題だが、私は関係ない。宮殿の舞踏会へ行けないのは残念だが、舞踏会は宮殿以外でも行われている。不敬罪になったということで、社交界ではいい笑いの種になるだろうが……。そうなったら、一人で地方へ行ってもいい。王都で何かやらかし、牢獄に入るほどではない貴族はみんな、地方へ逃げのび、そこでなんとかやっている。何よりも。不敬罪=実質婚約破棄。女漁りに励むような婚約者とは、おさらば確定だ。
「不敬罪! 本気ですか、殿下?」
待っていましたの一言に食いつくと。
「ああ、本気だ。ここまで僕の気持ちを無下にして! いくら誘っても、もったいぶる。ここ一年は、僕を寄せ付けないため、神殿での誓約まで盾にしている。一体、何を考えている!?」
「そうですね。本当に大変失礼しました。不敬罪、謹んでお受けします」