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人前では完璧な未来の国王陛下として振る舞う。でも人の目がないと、なんだかワイルドになるのだ。しかもやたら精力が強いようで、女癖が悪い。特に目を当てられないのが女癖の悪さ。
王族の結婚は、純潔が重視される。つまり王族では婚前交渉はご法度なのだ。それなのにこのドルフ第一王子の頭の中は、あのことでいっぱい! 見た目イケメン、脳内はエロじじぃ。ドルフ第一王子は、私の顔を見れば「抱きたい!」ばかり。
しかも私に匿名のフリをして下着を贈りつけてくるのだ。それもこんなデザインの下着、どこで見つけたのか!?という随分と卑猥な物、極端に布面積が低い物を贈ってくる。他にもロマンス小説のそういう行為のページを大変美しい封筒で贈りつけてきたり……。
親に見つかると大変だし、まさかあのドルフ第一王子がそんな物を娘に贈りつけていると知ったら、ショックを受けると思う。
おかげで私はそれらをメイドにもバレないように隠し、焚火でこっそり燃やす――ということをしていたのだ。
私の推しが……あれだけ課金した推しが、こんなに変態だったなんて……。
今も爽やかな空色のセットアップを着て、純白のマントを揺らしているのに、口にする言葉は最悪なものばかり。イケメンだからって何をしても許されると思っているの、このドルフ第一王子は!
ああ。前世で一人のプレイヤーとして、乙女ゲーム『ラブ・ナイト~姫君の秘め事~』をプレイしていた時は、本当に楽しかった。ドルフ第一王子は裏の顔を一切見せず、手をつなぐ時さえ「君の……その白魚のように美しい手に、僕は……触れてもいいのでしょうか?」と言っていたのに!
舞踏会のシーンで、多くの令嬢に囲まれた時、「僕には心に決めた人がいるんだ、レディたち。君たちの王子様は、きっと他にいる。ごめんよ」と、ドルフ第一王子は一切、他の令嬢になびかなかったのに!
でも裏では、自分に盾つくことができないメイド、宮殿に出入りしているパン屋や花屋の娘に、手を出しているというのだ。しかも揉め事になりそうになると、権力を振りかざす。メイドなら紹介状無しでクビ! 宮殿でメイドをしていて、紹介状なしでクビになるなんて、よほどのこと。もう二度と貴族の屋敷に仕えるなんてこと、できなくなる。出入りの商人の娘には、騒ぎ立てれば取引中止、国外追放すると脅す始末。
もうゲームと現実……というか転生したリアルゲームのドルフ第一王子が酷過ぎて、私は一刻も早く彼と別れたいと思っていたし、ヒロインの登場を切望していた。ヒロイン……。こんなイケメンだけど、クズなドルフ第一王子のこと、本当に攻略してくれるのかな? あ、外面はいいから、攻略されている時は、あくまでゲームで見せているスマートイケメンだ。でもやがて……。
この時ばかりは。ヒロインではなく、悪役令嬢に転生できて良かったと、心から思った。ゲームのシナリオの強制力、万歳! 見えざる力、ウエルカム! 恋路は邪魔しないから、断罪もないはず。もしもの時に備え、潔く身を引くプランはもう立ててある。というか実行中! それこそが、ドルフ第一王子が言っていた「ここ一年は、僕を寄せ付けないため、神殿での誓約まで盾にしている」これです、これ!