第五十八話 怪物達の饗宴
第五十八話 怪物達の饗宴
「しぃ……!」
迫る槍を回避すると共にスケルトンの頭蓋を砕き、背後から突撃してくる個体には回し蹴りを叩き込んで背骨をへし折る。
思ったより数が多い。それだけ被害者がいたという事か。だが……!
突きだされた槍を左手で横から押す様に受け流し、すれ違いざまに一閃。頭を粉砕する。
これで最後。三十近くいたアンデッドはただの骨として石造りの橋で転がり、まるで地獄の一角めいた光景を作っていた。
背後をチラリと見れば、当然イオさん達の姿はない。村の方が騒がしいが、彼ならきっと被害者達を安全な所に連れて行ってくれるだろう。
あいにくと、こちらも他人の心配をしてはいられないのだ。信じさせてもらおう。なんせ、かなりの速度で迫る足音が聞こえてきているのだから。
「ミぃぃアぁあああああああ!!」
雄叫びと共に突き出されたレイピア。その刺突に石突きを合わせ、受け流す。
その勢いを無理に殺さず後方へ跳躍し、着地しながら銀のナイフを左手で引き抜いた。
ジェイソン・ドゥ・フィレンツ。思ったより遅い到着だったが、こちらとしては好都合。じきに相棒もこちらに来るだろうし、敵の援軍がくる前に叩きたい。
奴は丁寧に撫でつけてあった金髪を振り乱し、レイピアの切っ先をこちらに向け歯をむき出しにしていた。
「貴様、貴様ぁ!」
「……どうした、色男。青い顔が真っ赤だぞ」
「ぎ、ざまぁあ!」
ものは試しと煽る様に言ってやれば、ジェイソンが激昂し斬りかかってきた。
奴が振るうレイピアはよく研がれており、その斬撃も脅威だ。村に来てすぐにあの刃が吸血鬼の首を刎ねたのを見ている。
正面から受ければ木製の柄ごとこちらの体が両断されるのは確実。防御に専念する。
「よくも、よくも私を裏切ったな!お前も、お前も私を見下していたのか!馬鹿な男だと、心の中で!」
「馬鹿というよりクズだと思っていた」
「おのれぇ!」
打てば響くとまでは言わないが、挑発の類は有効らしい。
高速で繰り出される斬撃と刺突。純粋種の吸血鬼だけあってその身体能力は桁外れであり、予め身体強化の魔法を使っていなければ目で追う事も難しかったかもしれない。
だが、挑発が効き過ぎたのか?太刀筋はともかく、この動き……。
「死ねぇ!私を馬鹿にする者は、皆死ねぇ!!」
上段からの一撃をナイフで受け流し、続く逆袈裟を一歩下がって回避。横薙ぎを斜め右に踏み込んで凌ぎ、右手の石突きで奴の胸を殴って押しやる。
だがそれでは止まらない。僅かに上体が傾くもそれだけだ。ジェイソンは不快気に舌打ちし、乱暴にこちらの頭へ剣を振り下ろしてくる。
それを紙一重で回避。カツラの髪が数本散るも、それだけだ。
ひたすらに左のナイフで防御をし、右の石突きで殴打を繰り返す。有効打を与えられないまま、橋の上で後退しながら防戦を続けた。
「どうした、ミーア!先ほどまでの威勢はどうした!」
「………」
「その眼……その眼は、なんだ!この私に、そんな眼をぉおおおお!」
感情のままの踏み込み。それでも切っ先の速度は音のそれを凌駕するレイピアの一撃が放たれる。
だが───やはり、その軌道は直線的過ぎだ。
突きだされた刃に合わせてこちらも一歩前に出る。石突きを切っ先に合わせ、そのまま滑らせるように刀身に張り付かせた。
ほぼ同時に、相手の剣がこちらの指へ届く前に右足を軸に半回転。勢いそのままアッパーの要領で逆手に持ったナイフを叩き込む。
ずぐりと、ジェイソンの右肘に銀の刃が入った。
「が、っ」
「はぁ!」
吸血鬼にとって銀は天敵。教会戦士から渡された物だけあって、多少の抵抗はあったものの見事その右腕を切断してみせた。
間髪入れずにジェイソンの脇腹へと蹴りを入れて距離を取らせ、全力で木製の柄を顔面へと叩き込んだ。
こちらは銀ではないが、それでも牽制にはなる。鼻骨を砕き、紫色の血を散らせた。
「あ、がぁああああああ!?」
そこでようやく悲鳴をあげる余裕ができたのだろう。ジェイソンは絶叫しながら煙をあげる右腕の切断面を押さえた。
その隙に後退し、橋の上に落ちた奴の右腕の所へ。流石に切り離された部位がひとりでに動く事もない様で、爪先が触れる頃にはレイピアだけを残し灰になっていた。
「わ、私の腕ぇ!腕がぁ!」
数秒で鼻骨は治り流れた血もなくなっているが、切り落とされた右腕は生えてこない。
先ほどの戦闘でわかった。こいつ、太刀筋は綺麗だがそれだけでしかない。フェイントの類はないし、ひたすらに高い身体能力任せで突っ込んでくるだけだ。
恐らくやみくもに素振りをするだけでまともに誰かと戦った事がないのだろう。防具をつけた誰かと戦う等もなく、案山子か無抵抗な相手にしか剣を振るっていない。
斬撃の流麗さは『ソードマン』に匹敵するものがあったが、それ以外は剣士と呼ぶのも憚られる。奴と比較する事自体が非礼な様にすら思えるほどだ。
……もっとも、ズル(チート)をしている自分が言えた事ではないので口には出さないが。
「ミーアぁぁ……!何故だ、何故この様な事をする!せっかく私の妃にしてやろうと言うのだぞ!?」
「単純にお前が嫌いだ」
「きっ……!?」
視線を奴から外さずに足でレイピアを蹴り上げ、右手に納める。
ナックルガードや柄頭にやたら装飾があるが、普通に使う分には問題ない。一振りして感覚を確かめ、構えた。
剣術の技能は『両手剣』や『片手剣』といった区分があるが、逆を言えばそれだけ。普段使わないこの武器も自分のチートは十全に使う事ができる。
問題は立ち回りか。流石にそこまでは知識だけではどうにもならない。
「……そうか……そうか……やはり、お前も私を否定するのか……」
傷口から手を離し、ジェイソンの体がだらりと脱力する。
それに嫌な予感を覚え踏み込んだ直後、奴の体が霧に変わった。一瞬で広がる濃霧に、どういう物かもわからないので慌てて踏みとどまり二度後ろに跳ねて距離をとる。
『もう、いい……もうたくさんだ。そうも私を否定するのなら……』
霧はそれ以上広がらず、横風も無視して一カ所へと急速に集束し始めた。
形づくるのは一体の異形。黒いロバの頭は赤い瞳を輝かせ、口元からは草食獣にあるまじき牙を覗かせる。黒い体毛に覆われた身の丈三メートルはある巨体は筋骨隆々であり、その爪は鋭く長い。
背後でゆらりと犬の様な尾を揺らし、隻腕の怪物は吠えた。
『オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛───ッ!!』
* * *
サイド なし
「撃ぇええ!」
先頭に立つ鷹の様に鋭い目の男───ジョナサン神父の号令に合わせ、教会戦士達が発砲。村を囲う壁の近くに来ていた吸血鬼達がその身を衝撃で仰け反らせる。
「が、ぁぁ!?」
「お゛、げぇぇ……!?」
打ち込まれたライフル弾は、しかし彼らの肉体を貫通しない。弾が抜けて銀による『浄化』の効果が薄まらぬ様、先端に窪みが作られたホローポイント弾が使用されている。
たとえ心臓から外れようが、下級では体内に銀があるだけでただ人の様に動きは鈍る。
「着けぇ剣んん!!」
ジョナサン神父の声に、銃剣を装着する背後の神父たち。淀みなく瞬時に行われたその動作は、正規軍すら上回る。
そして、彼らは一様にコルクで蓋をされた小瓶を取り出した。
ジョナサン神父は歯で蓋についた紐を引っ張って開けると、吠える。
「総員っ、信仰をぉ───キメろおおおおおおおおおぅ!!」
彼が小瓶の中にある水色の液体を飲み干すのに合わせ、背後にいた他の教会戦士達も小瓶を傾けた。更にその数歩後ろにいたウォルター神父さえも。
一息に飲み干し、彼らは小瓶を地面に投げ捨てた。ガラスの割れる音が、しかし直後に響いた咆哮にかき消される。
「オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛!!」
教会戦士達の額に血管が浮き上がり、口端からは蒸気の様なものさえ出始めたのだ。
『狂信薬』
端的に言えば、副作用を度外視した即効性のドーピング薬。
血液に異様なとろみをもたせ、更に心臓を過剰な速度で動かせる。筋肉のリミッターも解除した、死をも厭わぬ狂信の証。教会の上層部が昨今教会戦士による使用を停止させようとしている危険な薬物である。
その効果は絶大ながら、副作用も重い。また、この薬には凄まじい激痛が伴う。薬への依存をなくすため、そして例え相手がアンデッドであろうとも破壊と虐殺への戒めとして。
痛覚の鈍化も、無論ない。これは正しき信仰ではなく、自らの意思で武器を手にし血を流す事を是とした狂信者への罰ゆえに。
それらを理解したうえで、教会戦士はこの薬を使う。死後の安寧を投げ捨ててでも、神の、世界の敵を討つ事こそを使命とする。
極限まで鍛え抜かれた肉体と、鋼のごとき精神力。そして、教えを狂える程の信仰心。
この三つこそが、第一エクソシストの条件。
「我らが神の敵を掃討せよ!世界を守れ、戦士達よ!!」
「「「オオオオオオオオ───!!」」」
左手にも拳銃を握ったジョナサン神父を先頭に、教会戦士達が村への突撃を開始する。
ジョナサン神父を含めても十一人。たったそれだけの人数だと言うのに、その圧力は騎兵隊のチャージにすら匹敵した。
「う、撃てぇ!」
「撃ちまくれ!」
対する吸血鬼達も指を咥えて待っていたわけではない。家の壁や樽の陰に身を隠し、マスケット銃を手に待ち構えていた。
一斉に放たれる黒色火薬で押し出された鉛の弾丸。それらを前に、教会戦士達は怯まない。
神父服の下に着込んだ厚さ四ミリの籠手と胸当てだけを頼りに、腕を顔の前に掲げた状態で駆ける。
ライフリングもまともにできていない素人の作った銃。それらならば鎧でも『ある程度』は防ぐ事が可能だ。多少貫通しようとも、彼らは止まらない。
一番に敵へ肉薄したジョナサン神父が、靴底に銀の板を仕込んだ蹴りを吸血鬼の顔面に叩き込んだ。
そのまま吹き飛んだ相手の心臓を銀の弾丸で撃ち抜き、重い撃鉄を親指で軽く持ち上げる。
流れる様に二丁拳銃で吸血鬼達を蹴散らす彼に続けと、他の教会戦士達も銃剣突撃を続行。銀でできた銃剣を怪物共の胸に突き立て、引き裂き、次弾を装填したライフルを発砲する。
「こ、この」
「来るなぁ!」
「ジョナサン神父に遅れるな!!」
「天誅ぅうう!!」
薬の強化で彼我の身体能力は互角。であれば、後は技量と装備。そして覚悟で決まる。
下級吸血鬼達の赤い血を浴びるもそれらはすぐに灰へと変わり、教会戦士達を濡らすのは己の流した血のみ。
吸血鬼の爪で腕を裂かれようが怯まず、構わず銃剣を突き立て心臓を破壊していった。
「く、くそ、なんで……銀の弾丸はライフルじゃ使えないって……!」
逃げようとした吸血鬼の心臓が、しかし逃さぬと撃ち抜かれた。
彼の言う通り、鉛よりも頑丈な銀ではライフリングの恩恵を受けられないどころか最悪暴発する場合もある。
だが、新型の火薬なら?そして、弾頭以外を鉛で固めた弾丸を使ったのなら?
それを提供できる『王国でも有数の名家』があるのなら、怪物共を人の手で討ち取る奇跡は作り出せる。
「ぬ……」
だが弾丸も無限ではない。ガチリと、ジョナサン神父の銃が音をたてて弾切れを伝えて来た。
それを好機だと、吸血鬼の一体が飛びかかる。鋭い爪を伸ばし彼の首目掛けて振り上げた。
「ぬぅんん!!」
しかし、その吸血鬼の心臓が貫かれる。
それを成したのは───拳銃の銃口付近に取り付けられた、銀のスパイク。
彼がもつ銃はただの銃にあらず。一見して装飾銃といった姿をしたこの武器は、その重量弾丸抜きで十二キロ。銀で外装が作られたこの拳銃は、火薬の炸裂に耐える為。そしてこうして接近戦を行う為に異様な頑強さが求められたのだ。
貫いた吸血鬼を投げ捨てる様に銃を振るい、ジョナサン神父は拳銃を『開く』。
折れた瞬間に排出される金属薬莢。片方の銃を横向きにして口に咥え、開いた手で彼は新たな弾を流れる様に装填していく。
常識はずれにも程がある光景。されどそれを気にする者などこの場にはいない。
化け物共は己の命を守る為に。狂信者共は眼前の敵を討ち取る為に全力を注いでいた。あらゆる非常識は、この場において常識になり得る。
圧倒的に教会戦士達が優勢の戦場。当然の様に盗賊上がりの吸血鬼達は逃げ腰となり、散り散りに撤退を始めた。
その時、濃密な血の臭いが辺りを満たした。
「っ、散開!!」
ジョナサン神父の声に合わせ、教会戦士達が一斉に散る。直後、彼らの中心に巨大な土煙の柱が出来上がった。
砲弾でも撃ち込まれたような轟音と衝撃。神父たちは冷静に物陰へと体を隠しながら煙を睨む。
ゆったりと、土煙の中から姿を現す一人の少女。黒煙の舞う村の中だというのに、身に纏う深紅のドレスには汚れ一つない。
フィレンツ家の長女が、優雅なカーテーシーを行う。
「初めまして、エクソシストの皆さま。私はエリザベート。エリザベート・ドゥ・フィレンツ。この度は突然の訪問に大変驚いてしまいましたが……猿から一歩も進化していない皆さんにアポイントという文化はあるのかしら?」
顔をあげ、クスクスと嗤う彼女。それに対し、正面からジョナサン神父が姿を現す。
「これは失礼。蝙蝠の家へ入る作法を知らないものでしてね。ドアノッカーがなかったので、我ら流の挨拶をさせて頂きました」
エリザベートを嘲笑う様に、彼は告げた。
それに対し彼女はまた笑い、己の胸に手を当てる。
「そうでしたか。では、獣に作法というものを教えてあげましょう」
「ほう。蝙蝠の中にも礼儀があったのですか。ではこちらも、神父らしく説法をば」
互いにニッコリと笑みを浮かべた、直後。
「家畜がいっちょ前に逆らってんじゃねぇぞ、クソがぁ!!」
「キィキィうるせぇんだよぉ、蝙蝠風情がぁあああ!!」
ジョナサン神父の放った弾丸を背に蝙蝠の翼を生やして回避したエリザベートが、空中からその爪を彼に振り下ろす。
鉄を容易く引き裂くその一撃を前転で回避し、ジョナサン神父はすかさず二丁拳銃で彼女を撃ち落さんと連射する。
それらを高速で飛んで回避するエリザベートだが、周囲から放たれたライフル弾全てを回避はできない。ドレスを突き破り、銀の弾丸が食い込む。
「小賢しい!」
だが、体に突き刺さった銀の弾丸は彼女が宙で横回転しただけで遠心力により全て排出された。そして、瞬時にその身が霧となる。
「聖水散布!」
「聖水散布ぅ!」
それを待っていたとばかりに、神父達が壺を投擲し空中で弾丸をあてて砕いた。
割れたその中身が宙に散った直後、女性の悲鳴が響く。
絹を裂く様な……などと言うものとは程遠い。首を絞められた鳥の様に、怪物は絶叫をあげた。
『貴様ら……!!』
「これが教会流のもてなしだ、たっぷり味わえ怪物よぉ」
霧から響くエリザベートの震えた声。それに対し、ジョナサン神父は口角を目一杯あげて答える。
続く聖水の投擲に、霧は一点に集中しだした。神父の顔から笑みが消える。
『いいわぁ……そんなに死にたいなら、とっておきを見せて上げる』
「総員、散布中止!距離をとれぇ!」
瞬間、大気が揺れた。
地面に降り立った、七メートルを超える巨体。ロバと人、そして犬を混ぜた様な怪物が、赤い瞳を輝かせて教会戦士達を見下ろしていた。
石造りの家を蹴散らし、化け物は鋭い牙の並んだ口で笑みを浮かべる。人間など一飲みにできる巨大な口腔から、不釣り合いな少女の声が聞こえてきた。
『さあ、これからが本番。そのまずそうな血を、私が残らず飲み干してあげる』
「やかましいっつってんだろうがこのダボがぁ!でけぇ口で喚いてんじゃねぇぞぉ!」
装填を終えたジョナサン神父が、怪物を見上げて吠える。
一歩近づく度に体毛に覆われたエリザベートの胸へと銀の弾丸を撃ち込みながら、ずんずんと足を動かし腹に響く様な低い声で。
「的がでかくなっただけじゃねぇか、蝙蝠がロバになって粋がってんのかぁ、あぁん!?」
『……そう。なら、貴方から殺してあげる』
長い爪の生えた腕を振り上げ、怪物が駆ける。
同時に、ジョナサン神父も突撃を開始した。
『死に晒せ、猿どもぉ!!』
「てめぇが死ねや、蝙蝠ぃ!!」
吸血鬼の令嬢と人間の神父が放った言葉が、村中に響く。
それらをよそに、村の奥へと向かう影が一つ。
「ど、けぇ!」
愛用のレバーアクションライフルに銀の弾丸を詰めて、金髪をなびかせて少女が駆けていた。
腰の後ろに相棒の剣を提げ、アリサは立ちふさがる吸血鬼達を蹴散らし進む。
「女だ、女がいるぞ!」
「こいつを捕まえてから逃げるぞ!」
新鮮な処女の血を求めて群がる怪物ども。それに臆すことなく、彼女は銃を放つ。
多勢に無勢など知った事かと、彼女は次々と吸血鬼達の心臓を撃ち抜いた。
だが、銃口は一つ。背後に回った吸血鬼が飛びかかる。ライフルでは間に合わないと拳銃を抜こうとしたアリサだが、それより先に空中で吸血鬼の心臓を撃ち抜かれて灰となった。
「どぅるぁぁあ!!」
更に、銃の主は雄叫びをあげながら右腕で別の吸血鬼の胸を『殴り』ぬいた。
「う、ウォルター神父!?」
「どうも、アリサさん」
ニッコリと穏やかな笑みを浮かべる隻腕隻眼の神父。彼は『銀色の』右腕を振って彼女に答える。
肘から先を義手としているウォルター神父。その右腕は、武骨な爪を持った銀腕となっていた。
彼は左手に持ったレバーアクション式のライフルを回転させ、次の弾を装填する。
「シュミットさんを迎えに行くのでしょう?お供いたします」
「え……いいんですか?」
ちらりと、一瞬だけアリサはジョナサン神父達がいる方を見る。そこでは巨大な化け物となった女吸血鬼を相手に踊りかかる教会戦士達がいた。
「ええ。ラインバレル公爵家の方々には我ら教会戦士一同、返しきれぬ恩がございますれば。それに」
彼が無造作にアリサの背後に銃を向け、片手でありながら反動を完全に押さえ込んで発砲。彼女の背後で一体の吸血鬼が灰に変わる。
「今回の依頼を貴女方にしたのは私です。最後まで責任を持ちますとも」
「……感謝します、神父」
「こちらこそ」
わらわらと道を塞ぐように現れた吸血鬼達。それらに対し、片や隻眼をぎらつかせ、片や明確な殺意を向けて睨みつける。
「派手に行きましょうか、レディ」
「もちろん。あの城からでも見えるぐらいに、ね」
銃声と爆音は、未だ止まない。
雲に覆われた夜空を、燃え盛る村の炎が赤く照らした。
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