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ナー部劇風異世界で  作者: たろっぺ
第一章 剣の少年と銃の少女
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第五話 野盗

第五話 野盗



「数は?」


 寝ぼけ眼だった彼女の眼がするりと細められる。


 どうやら目はハッキリと覚めたらしい。


「数は六。まだ距離はありますが、二人ずつに分かれ三方向から包囲する様に移動しています」


「……え、そんな事までわかるの?」


「森は慣れていますから」


 ついでに、不自然にならない範囲で乾いた枝を周辺の地面に置いてある。それらが出す音を頼りに相手の位置を把握していた。


「相手が冒険者の可能性は?」


「わかりません。ですがこれは『攻撃』を想定した動きです」


 こっちの方は経験則なので、上手く説明ができない。


 距離があるのに夜の森で接近に気づいた事といい、これでは説得力がないな。


 まさか、『ほとんどチートのおかげです』などと言うわけにもいかない。かと言って、これはただ森に慣れているというだけでは説明が足りないだろう。そもそも、森だって一つ一つ細かい所が違うのだ。少なくとも自分なら疑う。


「……信じ難いのもわかります。僕が対処しますので、アリサさんは別の所で身を潜め休んでいてください。その間に終わらせますので」


 疑心暗鬼のまま戦われても誤射が怖い。更に、今は夜なのだ。『色々』あって夜目の利く自分と違い、アリサさんがどこまで夜の森で戦えるかわからない。


 なんなら、通常時の彼女の腕前だって知らないのだ。


「うんにゃ。信じるよ」


「はい?」


 あっさりと頷き腰に提げた二丁のリボルバーのうち右側のを引き抜いて、彼女がカウボーイハットを被る。


「君がかなり『やる奴』だってのは知っているからね。良くないお客さんが来ているのは確かなんだろうさ。それにね」


 銃口で帽子のつばを上げながら彼女はウインクをした。


「これが君の初仕事。何かミスがあっても先輩として笑って許してやろうじゃないか」


 彼女の答えに思わず一瞬だけ呆けた後、思案するふりをして口元を隠す。


「……先輩と言っても、半年のはずですが」


「ふふん。それでも先輩は先輩さ。ついでに、これでも前におっきな事件を解決した事もあるんだぞー?」


「なるほど。では頼りにしていますよ、アリサさん」


「そこは『相棒』か『先輩』って言ってほしかったなぁ」


「……今後は前向きに検討していきます」


 ……なんとなく恥ずかしいから、ちょっとそれは勘弁してほしい。



*    *     *



 夜の闇の中をスルリスルリと移動する。


 拠点から三分ほどいった辺りで、松明の明かりを発見した。


 ガラの悪い男が棍棒と松明を持っている。男はチラチラと右斜め後ろを気にしながら、ゆっくりと進んでいた。


「おい。もっと速く進め」


「へ、へぇ。けど気づかれたら」


「そんときゃ俺が仕留めるから一々気にすんな……!」


「わ、わかりやした」


 松明の男の右斜め後ろ。そこにもう一人男がいる。


 小声で怒鳴るという無駄に器用な事をしているその男と松明男の口調から、上下関係がある様に思えた。なるほど、松明を持っている方は、襲撃予定の相手が反撃してきた時の囮か。


 ついでに、偉そうな男の手にはピストルが握られている。


 アリサさんから道中聞いた話から、恐らく『フリントロック式』。先込め式の単発銃だ。火打石か雷管を外側につけるタイプかはわからないが、一発撃ったら次の弾を撃つのに時間がかかる。


 彼女からリボルバーピストルの値段は弾薬代を抜いても七セル前後と聞いた。旧式でも半分ぐらいはするらしいから、お高い代物のはず。それを持って指示している辺り、あいつがリーダーか。


 運がいい。初手であの首が獲れれば乱戦になっても有利に動ける。


 二人が通り過ぎるのを待ち、背後に回る。可能ならあの銃を撃たせたくないが、引き金に指がかかっているので一撃で仕留めても反射で引かれかねない。


 かと言って腕を押さえてから、というのはリスクが高まる。仕方がない、か。


「け、けど前の襲撃の時……」


「ちっ……ビビるんじゃねぇ。今までも四人殺してるんだ。今回の奴らが持っている物によっちゃお前らにもピストルを持たせてやるよ」


「ほ、本当ですかい?」


「ああ。ま、流石に殺し過ぎたから保安官に気づかれる前に別の所へ移動するがな」


 ……本当に運がいい。『不幸な事故』という可能性はあちらから消してくれた。


 確認作業は不要。ただ殺せばいい。


 可能な限り音を消して、ゆらりとリーダーの背後に。


「───」


 声もなく、呼吸を止めて剣を振り抜いた。それと同時に銃を持った男の頭が飛ぶ。


 首を切り落とすのは難しいが、こうも無防備に歩いてくれているのなら造作もない。


 チートありき、だが。


────パァン……!


「ええ?」


 首を失ったリーダーの体が、反射か何かであらぬ方向に引き金を引く。その銃声に松明の男が驚きながら振り返った瞬間、一足で間合いを詰めて逆手に引き抜いたナイフでその首を刺した。


「ごっ!?」


 左手で握ったそれを捻り、引き抜く。


 倒れた男の胸に念のため剣を突き立てながら松明の火を踏みしめた。さて、次だな。


 人を殺すのは少ししか経験がないので、まだ感触に慣れていない。不快感を抱きながらナイフについた血を男の衣服で拭いながら姿勢を低くして耳を澄ませた。


 ……落ち着け。開拓村での事を思い出せば、こんな事で動揺なんてする必要はない。


 村に盗賊がやってくる事も偶にだがあった。銃をもたず、錆びれた農具しか持っていない村を失った農民くずれだったが。


 彼らもどこかの開拓村の者達だったのだろう。それが災害か獣か、あるいは魔物や他の盗賊に村を亡ぼされた結果かは知らない。


 それらを相手に男衆が防衛をした後、盗賊の生き残りがいたら村の子供たちの教材になるのだ。


 村長曰く。『生きていく為に、殺しに慣れろ』と。


 生き残りへの止めは次男三男だけでなく、長男や村長の孫だろうとやらされる。そして、それが終わった後はいつもより良い物が食えるのだ。自分の場合はパン一かけだったのがその晩だけ二つになった。



 それが、開拓村での殺しの値段。



 小さく深呼吸。高鳴った心臓はおさまった。


 ナイフをしまいながら音を探れば、先の銃声を戦闘開始の合図と思ったのか自分達の野営に急いで近づく音が二方向から聞こえた。


 片方にはアリサさんが迎撃の用意をしている。自分はもう片方に行こう。


 と、そこで銃声が二回響いた。


 音の方角的にアリサさんか?倒れた気配は二人分。彼女が無事仕留めたと思おう。


 だが残り二人の足が止まった。リーダーの銃ではないと判断したらしい。逃げられて逆恨みされるのも面倒だ。ここで仕留めよう。


 リーダーの腰の後ろにあったナイフを引き抜いた。錆びと刃こぼれだらけだが、使い捨てにするなら悪くない。ピストルや他の『戦利品』は後回しだ。


 迅速に、しかし音を極力たてずに残り二人のもとへ。近づけば、男二人が冷や汗を流しながら慎重に進んでいる様だった。


 まだリーダーの死を確信していないらしい。加勢に向かうつもりか……いや、それにしては足が遅いあたり惰性で進んでいるだけなのかもしれない。まあ、彼らの心情などに興味ないが。


 片や松明と棍棒。片やナイフ。ガタイもいいしナイフ持ちを狙おう。


 物陰に潜み、タイミングを計る。ナイフの男が通り過ぎた瞬間、首を刎ねた。そのまま足を止めずにさっきとは別の物陰へ。


 どさりと首をなくした体が膝をつく音は、神経を研ぎ澄ませている最中では大きく聞こえたのだろう。松明の男が慌てて振り返る。


「ひっ」


 その喉から悲鳴が出るより先に、ナイフを投擲。首を貫いた後に接近し膝裏を蹴って跪かせた。


 訳が分からないという顔で首を押さえる男。彼の背後から胸にかけて剣で貫き、捻ってから抜く。


 念のため周囲を警戒しながら倒れ伏した男の服で刀身を拭っていれば、自分に近づく足音が聞こえてきた。


「や、無事?シュミット君」


「ええ。そちらもご無事な様で何よりです」


 リボルバーを手にしたアリサさんに振り返り、一応目視で確認する。


 星明りと今しがた落ちた松明しか光源はないが、自分の眼ならハッキリと彼女の姿が見えた。怪我らしい怪我はなし。余裕の表情で立っている。


「ふふん。私の事を心配してくれたのかな?」


「はい。無用な心配だった様ですが」


「まーねー。私は拳銃でも十メートル以内ならよっぽどの相手以外は外さないよ。凄いでしょ?」


「十メートル……それは凄いんですか?」


「凄いわーい!?五メートル以内でも全弾外す奴はいるんだからなl!」


 そうなのか。それはいい事を聞いた。


 ピストル相手に奇襲以外でどうやって戦おうかと思っていたが、意外と命中率は高くないらしい。油断はできないが、ともすれば被弾せずに接近も可能か……?


 そう考えていると、アリサさんが転がっている死体に視線を向ける。正確には、首を切られた者の断面を。


「それにしても、躊躇がないねー。流石にこれはビックリ」


「慣れ……とまでは言いませんが、初めてではありませんでしたから」


「あー、もしかして聞いちゃまずい話?」


「いいえ。必要なら後でお話します。特に隠す事でもないので」


 周囲の音に耳を傾けても他に足音はなし。剣を鞘におさめ、一息つく。


「野盗を殺した後はどうするかとか、決まっていますか?」


「大抵は野ざらし。優しい人は目を閉じさせて軽く祈ってあげるかな?」


「なるほど」


 そう言う事ならと、跪いて松明男の見開かれた目を閉じてやる。さて、次はナイフの男か。


 切り落とした首を探していた所で、アリサさんがリボルバーをしまった後に何でもない事の様に問いかけてきた。



「ね、シュミット君」


「はい、なんでしょうか」


「君ってさ、『転生者』だったりする?」



 本当に、まるで世間話でもするかの様な口調。それに対し、ゆっくりと首だけ振り返る。


 彼女はあのチェシャ猫の様な笑みを浮かべ、こちらをその青い瞳でじっと見ていた。





読んで頂きありがとうございます。

感想、評価、ブックマーク。本当にありがとうございます。励みになりますので、どうか今後ともよろしくお願いいたします。


以下、本編とあまり関係のない情報。


Q.都会で黒歴史扱いの瀉血しまくる開拓村の神父って何なの?

A.それの説明をする前にまず、彼の人生について知る必要がある。少し長くなるぞ。

 けど結論だけ言います。『彼が都会にいた頃だと、教会の平民派閥内で瀉血は現役だった』から。

 ……マジで長くなるので、詳しくはそのうち出す『設定』とかで語ります。興味ない人はスルーでOKぐらい本編に関係ないけど。



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― 新着の感想 ―
[一言] ちゃんととどめの確認をするシュミット君マジ手慣れていますね。 農民が野盗化するって戦国時代かな?って思いましたが北で戦乱とかあったようですし、そうなれば傭兵くずれとかも居るでしょうしそりゃあ…
[一言] >彼が都会にいた頃だと、教会の平民派閥内で瀉血は現役だった つまり、相当若い頃に開拓村へ来たという事でしょうか。 設定楽しみに待ってます。 >君ってさ、『転生者』だったりする? その言葉…
[一言] この世界では転生者の存在は常識なのかな?それとも転生者同士でコミュニティでもあるのか?ただ単にアリサさんも転生者である可能性も…謎ですな
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