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ナー部劇風異世界で  作者: たろっぺ
第二章 王都への道
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第四十八話 アリサの実家

第四十八話 アリサの実家




 王都、ロンゴミニアド。


 ゲイロンド王国の首都であり、王国の中では東側に位置する。


 元々ゲイロンド王国は東のとある島国だったのだが、自然災害や魔物による被害により緩やかに沈没していった。


 その為、新天地を求めて移住したのがこの大陸だ。当初は魔物の森だったのを開拓し、新たな首都をここにしたのである。


 なお、元々この大陸にあったローレシア帝国とは『ある程度開拓が進んで森を切り倒したらその先に何かいて滅茶苦茶驚いた』という古代の王が残した石板があるとアリサさんから聞いた。


 そんなこんなで、スタート地点が東だったのでその時の中央がここだったのだ。それが西側の森を開拓して領土を広げたので結果的にかなり東に寄った位置になっている。


 眼の前に建つロンゴミニアドの城壁。数十メートル……少なくとも五十は超えているだろうそれは純白の輝きを見せていた。


 城門もまた白く塗装されており、重厚ながら美しいという印象が先にくる。


 そこにいた兵士達は通過する者達を厳しく調べている様で門の前にある列は長い。だがニール子爵から借りた馬車である事と、先に行った早馬の事もあってか列を無視して通された。


 どうにも平民用と貴族用の通路があるらしい。御者台で微妙に気まずい思いをしながら平民の列から目を逸らして門を過ぎれば、一気に視界が広がった。


「これは……」


 コンクリートで舗装された綺麗な水路に、石畳の地面。それを挟む近代的な建物群と木製の電柱らしき物が立ち並ぶ。


 行きかう人々の服装はカッチリした紳士服や婦人服から、薄汚れたシャツにズボンの者まで幅広い。イチイバルすらかすむ程に賑やかで人工物に溢れた街の光景が広がっていた。


 ……開拓村は田舎どころか未開の地だったのだな。いや、未開なのを開くから開拓地だったか。


 兵士に誘導され馬車を止めれば中からリリーシャ様の手をとってアリサさんが降りてくる。


 の、だが……。


「お待ちしておりました。リリーシャ様、アリサ様」


 それを待ち構える騎士たちの集団の圧が凄い。


 完全武装の彼らが跪いており、その先頭にいる兜だけを脱いだ初老の男性が首を垂れたまま言葉を続ける。


「我らの不手際により多大なご迷惑をおかけしてしまい申し訳ございません。『アリサ様のご尽力により』裏切り者が判明した今、我ら王都守備隊が全身全霊をかけてお守りします」


「……ええ、期待しております」


 これ、僕はどうしていたらいいのだろうか。


 装備を見る限りあの騎士集団は真実『騎士』である。要は全員貴族様だ。


 普通騎士とそれが率いる兵達のはずが、騎士のみで部隊を構成している違和感は置いておくとして。貴族の方々が頭を下げているのを見るのは冷や汗ものである。


 勝手に御者台から降りて行動していい空気とも思えない。だがこの位置はなんというか……僕まで頭を下げられている様で後で怒られないか不安でしょうがないのだが。


 はたしてこれはどうするのが正解なのだろう。とりあえず騎士様達に目だけは合わせない様にしておくか。


 それはそうと、リリーシャ様フードで分かりづらいが微妙に怒っている気が……?


 まさか、アリサさんだけ頑張った風に言われたのに怒ってくれているのだろうか。もしも予想が正しいのなら、正直その気持ちは嬉しい。


 だがまあ、流石にその辺を今突っ込まれると困るのは自分なので彼女も言及しないでくれている様だ。


 こんな所で話の中心に持ってこられてはどんな恨みを買うかわからない。とりあえず全力で気配を消していよう。


 僕は窒素……僕は窒素……僕は窒素……。


「それでは、こちらの馬車に乗り換えて王宮へお向かいください。質素な外見で申し訳ありませんが、何分秘密裏に行う会議ですので」


 いやどこが質素だ。


 思わず声を出しそうになるも堪える。確かに黒をベースにしているが所々金で装飾がされているし、牽いている馬達も毛艶が良い。爆弾にした馬車よりも更に豪華だ。


 ……いや。たぶんこの王都では金持ちなら普通に乗っている馬車なのだろうな。


 門の方をチラリと見て、似た様な馬車が通るのを目撃し思いなおす。凄まじいな、王都。


 しかし、こういうのは映画だと実はあの馬車に罠が……というのがお約束だが。


「………」


 アリサさんが止める様子はない。あの騎士は信用できるという事か。


 自分から見ても外観でそれらしい違和感は見当たらないし、口を挟む理由もない。


「アリサ様。御身はいかがなされますか」


「リリーシャ様と共にいたい気持ちはありますが、先にお爺様にご報告すべき事があります。先に屋敷に行ってから王城へ向かうとしましょう」


「かしこまりました。護衛は」


「不要です。リリーシャ様をお守りする事に全力を注ぎなさい」


「はっ」


 力強い返事をする騎士から視線を外し、アリサさんが優雅なカーテーシーをしてリリーシャ様に頭をさげた。


「それではリリーシャ様。私はこれにて。また王城でお会いしましょう」


「……ええ。その時を楽しみにしております、アリサ様」


 エルフ式の挨拶なのか、リリーシャ様も左胸に手を当てて軽く頭を下げる。


 そんな二人の様子に『そう言えばお嬢様だったな』と考え、同時に散々お馬鹿様呼ばわりしていた事に肝を冷やす。


 どちらもその辺りの事を根に持って権力で殴ってくる事はないと思うが、くれぐれも王都で普段の言動はしない様にしなければ。


 TPOは大事である。この世界の場合、命に関わる事も少なくないので。


 そんな事を考えている間に騎士たちは散開。そしてリリーシャ様が乗る馬車も走っていった。


 それらを見送り、アリサさんが軽く伸びをする。


「ん~……最後の最後はあっけない仕事の終わり方だったねぇ、シュミット君」


「そうですね、アリサ様」


「あ~ん?」


 御者台から降りてそう答えれば、アリサさんが胡乱な眼を向けてきた。


「なんだよぉあいぼぉう。その余所余所し過ぎる態度はぁ」


「いえ。王都では普段の無礼な発言は控え、本来の身分に相応しき振る舞いをすべきと愚考いたしました」


「やめてよね~。シュミット君にそんな対応されたら泣くよ私は」


 心底つまらなそうに言うアリサさんに、どうしたものかと頭を悩ませる。


 この人が良いと言っても他の人が許すとは限らない。権威とは嘗められた終わりだという事は、政治に疎い自分でもわかる。彼女に無礼な態度をした事がイコール貴族全体を軽んじていると思われかねない。


「私への普段の態度を見られたらまずい事になる。そう思っているんでしょ」


「はっ」


「ならそれは杞憂だね。『私が許している』のなら他の人も気にしないでいてくれるよ。少なくとも王都の貴族が怒る事はないね。まあ、他の貴族にまで同じ態度をしちゃったらわからないけど」


「……わかりました」


 頷き、肩の力を抜く。


「お、あっさり普段の空気に戻るじゃん」


「まあ、アリサさんがそう言うという事はそうなのでしょう。信じていますし」


「お、おぉう。照れるぜ相棒!いやぁ、これが私達コンビの絆ってやつですなぁ」


「それはそれとして突然道で『無礼者』って斬られそうになったら庇ってくださいね……?」


「そういう所気にするよねシュミット君」


 当たり前でしょうが。貴族様への対応とか一つしくじれば死にますよ。僕は平民なのだから。


「ま、いいや。のんびり私の家に行こ~」


「報告に行くのなら速い方が良いのでは?」


「いや~……たぶんお母さ……んがまた『やっぱり屋敷でずっと一緒にいましょう』とか言ってくる気がするし」


「はぁ……」


 よくわからんが、家にずっといるとかこの人苦手そうなのはわかる。


「それはそうと、別に『お母様』と呼んでもいいのでは?いい加減、ただの商人の放蕩娘では通らない姿を見せられ過ぎましたし」


「う~ん。それはそうなんだけどさぁ」


 腰の後ろで手を組んで唇を尖らせる彼女に、小さくため息を吐いた。


「打ち首獄門にでもされない限りは今更態度を変える気はありませんよ。他の貴族様の目があったら別ですが」


「ほんと?」


「本当です。というか、貴女がお偉いさんの御息女な事はすぐにわかるのに今までも散々『お馬鹿様』と呼んでいたでしょう」


「あいぼぉう……」


 わざとらしく涙目になった後、アリサさんがこちらの背をバンバンと叩いて来た。


 ちょ、痛い。


「そういう気を遣っているのに口下手な所やっぱ可愛いなぁシュミット君!」


「はったおしますよお馬鹿様……!」


「はっはっは!こんなか弱い乙女に腕力で負ける君に言われたくないぜぇ」


「か弱い……?」


「おう何が疑問だ言ってみろやわれぇ」


 そっと目を逸らす。脇腹に伸ばされる指先をガードしながら、王都をのんびりと歩いて行く。


 道中、様々な物を見た。


 蒸気機関を搭載したらしい馬車がレールの上を進んでいたり、ガス灯だと思って眺めていたら電灯だと教えてもらったり。


 他にも王都にしかないと言う珍しい店やら、美しい公園などを見て回った。


 そうして日も傾き始めた頃に、ようやく彼女の足は御実家の方に向かいだす。


 王都は広い。あれだけ大きいと思ったイチイバルの数倍はある。それを徒歩で回るというのは非常に大変なはずなのだが、彼女は終始笑っていた。


「う~ん、久々の王都もこれはこれで楽しいねぇ。やっぱり友達と遊び歩くっていうのが大きいのかな」


「そうですね……興味深い物ばかりで僕も楽しかったですよ」


「おいおぉい。そこは『貴女と一緒だったから全ての物が煌めいて見えましたよ、レディ』ぐらい言えないのくぁい?モテないぜぇ、シュミット君」


「大きなお世話ですよ。僕は貴女相手に口説こうと思わないだけで、決してモテないわけではありません」


「ほほう。じゃあ試しになんか口説き文句を言ってみぃや」


「え………………い、いい天気ですね」


「……なんかごめん」


「謝らないでくださいよ!?違います。今のは、そう。突然やれと言われたからでして」


「皆まで言うな相棒!傷口を広げるだけだから!」


「ぐぅ……!」


 辛うじてぐうの音だけは絞り出す。そもそも前世を含めても恋仲になった相手などおらず、十五年間開拓村で奴隷同然の生活。異性相手への正しい対応というのがわからない。


 こうしてアリサさんと普通に話せているのも、『仕事仲間』『相棒』という役職があってこそ。もしもそう言ったものがなかったら、身分以前に異性だと緊張して目を合わす事も難しかったかもしれない。


「今度おもしろい娯楽小説貸してあげるからね?後そのうち劇場にでも行ってそういうのも学ぼうな相棒」


「……お願いします」


 だから、『それはもうデートでは?』という言葉も出てこない。


 この人と自分は住む世界の違う人間である。背中を預ける相手にそういう目は向けられないし、何より……。


「あ……見えてきた」


 彼女がそう言って、自分も視線を正面に向ける。


 王都で様々な建物を見てきたが、その中でも特に大きな建造物。中央に位置する王城の次に大きな、城と見紛うお屋敷。


『ラインバレル公爵家』


 この王国にある唯一の公爵家。それが彼女の御実家だったらしい。


 最低でも辺境伯の血筋と思っていたが、最高で王族とも考えていたのでまだ予想の範囲内だ。


 この世界について知ろうと読み漁った本や新聞では『王領に匹敵する領地を持つ』ともされ、いかに領土が広いと言ってもそれだけでは説明つかない程に王家ですらやたら気を遣い続けている家。


 確か、現公爵の嫡男であり次期公爵と決まっている『シュナイゼル・フォン・ラインバレル子爵』の奥方は王家の姫だったはず。その娘であるアリサさんは王族の血を色濃く引いているわけである。


 ……マジで打ち首とかされないだろうな。娘に近づく悪い虫とか言われて。


「お帰りなさいませ、アリサお嬢様」


 屋敷の前に立つ門番たちに軽く手を上げて応える彼女の前に、一台の白い馬車が止まる。


 それが当たり前であるかの様にアリサさんが乗り込むのを見て、少し躊躇ってしまった。これは、一緒に乗り込んでも良いのだろうか。


 門番の人達はこちらに視線を向ける事無く、首を垂れたまま。そうして数秒程迷っていると、アリサさんが手を差し出してくる。


「ほら、乗って。シュミット君」


「……はい」


 ……我ながら情けない。こういう所で気後れするのだから、やはり自分は凡人なのだろう。


 真の天才ではない。『反則』頼りのただの男なのだ。


 門から屋敷までの道のりなのに馬車が必要なほどの距離。これでこの屋敷は王都における別荘みたいな物なのだから内心で開いた口が塞がらない。


 数分程でたどり着いた屋敷の玄関。そこにはメイドさんがずらりと並び、中央で老紳士然とした執事さんが立っていた。


「お帰りなさいませ、アリサ様。無事に御帰宅なされた事、嬉しく存じます」


「ありがとう、セバス。早速で悪いのだけれど、お爺様にご報告せねばならない事があります。執務室にいらっしゃるかしら」


「ええ。アリサ様が王都にいらっしゃると聞き、王城での仕事をお休みになるほど楽しみにしておられました」


 ニコニコと微笑ましそうに笑う執事さん。いや、もしかして執事長……?


 たしか、執事を任せられる人達も大抵が貴族の血を引くと聞く。その中の責任者となれば、社会的地位はかなり高い。


 やはい。既に緊張で吐きそうになってきた。


「ではこのままお爺様の所に向かうとしましょう。それと、ここにいる彼は私の大切な友人であり『相棒』です。もてなしてあげてください」


「なんと……!では、こちらの方が『あの』シュミット様ですか」


 執事長らしき人がその細い目を見開いてこちらを見てくる。


 あの、とはいったい?


「シュミット、暫く一人にさせてしまうけど、どうか楽にしていてね」


「はい」


 どうにか動揺を顔に出さない様にしながら頷く。


 城門の時も思ったが、アリサさんの立ち振る舞いも喋り方も何もかも普段と違い過ぎて違和感が凄い。


 そうして歩き去る彼女と入れ替わりに、セバスさんが近寄ってくる。


「では、どうぞこちらに」


「あ、はい」


 慌てて彼の後ろをついていく。


 何というか……靴を履いたまま歩いていいのか躊躇ってしまう程に綺麗な御屋敷だ。


 豪華絢爛と言うほど派手ではないが、上品な印象を受ける廊下。蝋燭の火で照らされたそこを歩いていると、セバスさんが振り返らずに喋り出す。


「シュミット様の事はアリサ様からのお手紙でよく知っておりますよ。凄腕の剣士であり、自分の背を任せるに値する紳士であると」


「きょ、恐縮です。自分の方こそ、アリサ様にはお世話になっております」


「ははっ。昔から少々やんちゃな所のある方ですから、貴方も苦労なさっているでしょう。しかし、どうか嫌いにならないでください」


 表情は見えないが、とても優しい顔をしている事が声からわかる。


 柔らかくも軽やかな口調で老紳士は続けた。


「そして、どうかこれからもアリサ様のお傍に。……いえ、これは出過ぎた事でしたね」


「……?」


「さ、つきましたよ」


 悪い虫扱いされるどころか妙に好意的なセバスさんに疑問を抱くも、客間に到着したらしい。


 問いかけるタイミングを失った自分をよそに、彼は部屋にノックをした。


 ……待て。なぜ客間にノックを?


 咄嗟に気配を探れば、中に一人分の呼吸音がある。そうしている間にセバスさんが中に声をかけた。


「シュミット様をお連れいたしました」


「ああ、入ってくれ」


「失礼いたします」


 止める間もなく荘厳なドアが開かれ、中へと促された。


 顔が引きつりそうになりながらも、一礼して室内に。


「失礼します……」


 そうして入った瞬間、ブワリと目の前に赤い花びらが舞った。


「やあやあやあ!『妹』から君の話はよく聞いているよ!!」


 綺麗な金髪を腰近くまで伸ばし、一本にまとめた美丈夫がそこにいた。


 海を連想させる碧い瞳に白磁の様に白く美しい肌。精悍ながらもどこか幼さを残す顔立ちと、それでいて高級そうな白スーツを着こなす立ち姿。


 極めつけに、『悪戯が成功した子供の様に笑うその表情』。


 ああ、うん。妹という事は。


「私はアーサー!『アーサー・フォン・ラインバレル』!!君の相棒、アリサの兄だ!よろしく、若き剣豪よ!!」


 厚い胸板から発せられる明瞭な声で名乗りながら、未だに抱えた籠から花びらを散らせている人物。


 疑う余地もない。間違いなくアリサさんのお兄さんだ。


 マジか、この一族……。



読んで頂きありがとうございます。

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[気になる点] >未だに抱えた籠から花びらを散らせている ごめんなさいちょっとここの部分の表現について教えてください。 本当に自分で籠から花びらを散らせているのか、高貴さとかの比喩的表現なのか… 「未…
[良い点] 仕えてる者にやらせるのではなく、自分で籠持って花びらバラ撒いてる姿は地味に好印象でした(笑) それはそれで新たなお馬鹿様にノミネートされそうではあるけど些細な事ですね!
[一言] これは「絶対にツッコんではいけない公爵家24時」開催だな! さあシュミット君はどこまで我慢出来るか
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