第四十二話 沈むのは
第四十二話 沈むのは
開幕のゴングなどない。互いに、無造作に動き出す。
「おっらぁ!」
「しぃ……!」
こちらの剣と奴のカットラスが衝突し金属を響かせた。
重い。剣が持って行かれそうになるも、海賊船に乗り込み甲板へ向かう最中に普段の強化魔法は発動済み。ぐるりと剣を回し、ボニータの右膝を狙いにいく。
だがバインドは奴がぐるりと横回転した事で外された。そのままカポエラの様な連続蹴り。顎に向かってきた踵を避け、二撃目のカットラスを剣で弾く。
直後、船が波でぐらりと揺れた。それに合わせて奴の体が舞い上がり上を取ってくる。
「ヒャッハー!」
真上から打ち落とされる右の拳。回避はできないと判断し刀身で受ける。
メリケンサックの様に装備されたナックルガードと刃が衝突し、火花を散らせた。ミシリと肩が悲鳴をあげたのを感じながら剣を斜めにして拳を受け流す。
落ちる奴の体。そのままの勢いで迫る義足を仰け反って回避し、ついでにその脇腹を剣で狙う。だが、それは左の義手で防がれた。
重い音と共にボニータの体が吹き飛ぶが、奴は新体操か何かの様に側転。四足獣の様に甲板へと手足をついた。
「いいねぇ、うん。流石ダーリンの特別製だ」
ニタリと笑う奴に、剣を構えなおす。
先の攻防で義手と義足の付け根から血が流れたのを見逃していない。当たり前だが、アレらはまだ定着していないのだ。まともな手術もなく取り付けた手足が万全なはずがない。
だと言うのに、余裕の二文字は頭に微塵も浮かばなかった。
ざわざわと毛が逆立つ感覚。これは、背後から狼に首を噛み砕かれかけた時に感じたのと同じもの。
本能的にボニータのニヤケ面目掛けてピックを投げる。音速には届かずとも威力だけならライフル弾なみのそれが、しかし左のカギ爪で弾き飛ばされた。
今更この程度で殺せるとは思っていない。ここから奴がどう動くか───。
「慣れてきたよ。さあ、テンポをあげていこうか?」
「っ!?」
強風がふき、次の瞬間にはナックルガードが目の前まで来ていた。
「くっ」
繰り出される左右の拳打。それに対し上体を左右に揺らして避け、続くカットラスによる蹴りを潜る様に回避。
そのまま床を這うように駆け抜けながら胴へ一閃。だが刃が触れる一瞬前に奴の体が跳びあがって空を切る。
先ほどと場所を入れ替えた形で、反転。振り返りざまに相手が振るってきたカギ爪を籠手で弾き、右手一本で振り下ろした剣はナックルガードで弾かれた。
「イエエエエエ───ッ!!」
猿の様な雄叫びをあげカギ爪が振り下ろされる。それを柄頭で受けるも衝撃で一歩後退。通常の身体強化ではやはりあちらの膂力が上か。
続けて放たれたナックルガードのボディブローを膝で蹴り上げて逸らし、側面へと回り込みながら首へと刃を振るう。
だが突然脱力したようにボニータの体が落ちて避けられた。そのまま奴は右拳を甲板に押し当て体を横回転させてくる。
飛び退いて振るわれたカットラスの蹴りを回避。そこから奴は更に体を回し、今度は体の上下を変えて首目掛けて刃を伸ばしてきた。
「ちぃ!」
「ハハッ」
やりづらい!
剣で弾くも、今度はいつの間にか立ち上がった奴の拳が迫っていた。回避も防御も間に合わずもろに腹部へとナックルガードが突き刺さる。
内臓に響く強打。奥歯を噛み締めて痛みに耐えながら、吹き飛ばされつつ剣を振るう。
袈裟がけに振るった刃は、しかし心臓には届かず右肩を浅く裂く。数歩後退しながら剣を構えなおした。
やはり受けに回るのは危険だ。しかし攻めようにも動きが読めない……!
ぐるりと体を回し遠心力をつけながら繰り出されたカットラスの蹴り。それを剣で迎撃し、打ち落とす。
そのまま斜め下から突き上げる様に喉を狙った切っ先。それは横から繰り出されたカギ爪が刀身を殴りつけて軌道を変えた。
首の皮を浅く切るにとどまるも、そのまま横に振るって切断を狙う。
「おぉっと!」
それに対しボニータはブリッジでもする様に上半身を後ろに傾けて回避。そのままバク転しながら蹴りを繰り出してきた。
当然その足は刃であり、直撃すれば死ぬ。体を傾けて避けるもこめかみが僅かに斬れた。
だが意識を傷口に向ける暇などない。奴の頭がくる位置を予測しそこへ剣を振るう。
回避不可のタイミング。しかし防御は間に合わされた。
「なっ」
だが、完全に予想外の手段。カギ爪で刀身を捕らえられる。
口元を歪ませる海賊。柄を捻りカギ爪の拘束を解きながら繰り出された三連の拳に対処しようとした。
一、二発目は紙一重で回避。三発目は避けきれずに左の籠手でナックルガードに包まれた右拳を受ける。
だが、重い。
「ぐ、ぅぅ……!」
数々の弾丸を受けてきた鋼の籠手。それが遂に限界が近付いたのか、ピシリと異音を出す。そしてその下にある己の腕が悲鳴をあげた。
弾き飛ばされる体。踏ん張ろうにも、衝撃のせいで足が濡れた甲板を滑る。
数メートル後退させられて体勢を整えた頃には視界からボニータはいない。
「下!?」
「正解!」
左斜め下に目を向ければ、そこから繰り出されるカギ爪の一閃。眼球狙いのそれを寸前で顔を傾けて避けた。
数本髪が散るのを視界の端に、奴の頭へと蹴りを放つ。右腕で防がれるも、骨にまで衝撃を伝えた感覚はあった。体術の心得はないが、強化された身体能力から繰り出した一撃は馬の蹴りに比肩する。
跳ねる様に飛ばされたボニータ。そこへ追撃をしかけんと駆ける。
そこで、またぐらりと船が傾き強風がふいた。更には飛び上がった波が甲板を襲う。
「づぅ!?」
押し寄せた海水から咄嗟に目を守る。次の瞬間、水のカーテンを突き破って拳が襲ってきた。
籠手で弾けばそれに入ったヒビがさらに広がり、続けて脇腹を狙ってきたカギ爪を柄頭で殴って外させる。
そこから繰り出された膝蹴りを脛で受けた直後、ボニータの口が動いた。
「ぶぅっ!」
「なっ」
針!?
下唇に潜ませていたのだろう針が三本目へと飛んでくる。それを避けられたのは半分運だったが、それでできた隙にカギ爪が迫る。
咄嗟に右腕をあげ奴の左腕を防ごうとするも、爪の先端が右肩を抉った。
「キィエァァァァァ!!!」
固定されたこちらへと繰り出される拳。顔面、胸、鳩尾を狙ったそれを全て左の籠手で受けきった。
そこで、限界を迎えたそれは砕け散る。同時に奴のナックルガードも割れた。
衝撃でブチリと血をまき散らしながらカギ爪が外れる。それと同時に肩から奴の体へとタックルをしかけた。
甲板を砕く踏み込みと共に衝撃を叩き込み、吹き飛ばす。反動で右肩の傷が悪化するも、まだ動くなら問題ない。
崩れた体勢の奴へと剣を振るう。横一閃の一撃にカギ爪を合わせようとするも、それより先に腹を刃が引き裂いた。
「が、ぎぃ……!?」
内臓まで届いた感触。派手に血飛沫が舞い、そこへ更に逆袈裟に刃を振るう。
そちらはカギ爪で防がれるも、刀身は止まらない。甲高い音をたてて受けられた剣を横に滑らせる。
ボニータの左の二の腕を深く斬り裂く。骨までは届かなかったが、筋肉と血管を深く裂いた。これまでほどの強撃は打てない。
「づ、ぁぁ……!」
うめき声をあげる海賊へ、更に剣を走らせた。
返す刀での左薙ぎ、逆袈裟、唐竹、袈裟。一閃刃が振るわれる度に傷が増える。
「イ゛ェェエエエエエエ───!!」
その流れを阻もうと繰り出された右の拳に柄頭を合わせ、指をへし折る。
波で船が揺れようが剣を振るうのを止めない。反撃でこちらも傷を負おうが、ナックルガードは割れカギ爪を振るう左腕は膂力が低下している。カットラスの蹴りだけを回避し、それ以外はただひたすらに押し込んだ。
このまま決める……!
我流戦法の最大の弱点は防御。その一点だけは一朝一夕では改善できない。
右薙ぎの一閃が、死角となってボニータの眼帯側から迫り首を狙う。それに右手を添えたカギ爪で防がれるも、強引に押し込んだ。
奴の巨体が後ろに流れた瞬間。ざわりと嫌な予感が背筋を襲う。
潮風でさえ覆い隠せない火薬の臭い。本能が告げた方向、そこにこちらへ銃口を向ける誰かがいる。
決して遠くはない。駆ければ一足で剣の間合いに入る程の距離に、鋭敏になった聴覚が死にかけた息遣いを拾う。
ほぼ同時にボニータの顔が強張った。奴も感じたのだろう。火薬の臭いは『二つ』。
本能が回避行動をとらせようとする。己を狙う弾丸から逃れるために。
それを───理性でねじ伏せ、この身の背を狙う銃口を意識の内から投げ捨てる。
本能から全力で飛び退き回避行動に移るボニータと、一瞬にも満たぬ思考で他の敵を眼中から消して踏み込んだ自分。
そして、風の音を引き裂いて響く一発の銃声。
両者の身に銃弾は届かない。代わりに、一人の男がその正確な狙撃ゆえに氷で出来ていると言われた心臓を破壊された。
自分の剣がボニータへと追いすがる。それを奴は義足のカットラスで受けるも、逃げた者と踏み出した者の差が刀身に現れた。
不安定な受けの結果、歴戦のカットラスに明確なヒビが入る。細かな傷ではない、致命的なものが。
衝撃さえ利用して飛び退いたボニータ。奴が船首の付け根へとカギ爪と左足で張り付いたのは、ほんの一瞬。
「ギィィ」
瞬きする間だけ止んだ風。それが爆風の様に吹き荒れ、波が一際高く上がった。
嵐の海の全てを使い、海賊は飛ぶ。
「ィィイ゛イ゛イ゛イ゛イ゛エ゛エ゛エ゛エ゛エ゛───!!」
真っすぐとこちらへと、狂気と憤怒の混じった獣の顔で殺意を瞳に溢れさせながら。
全身のバネを使っての横回転。『射出』の勢いをのせた空中から繰り出される回転蹴り。それを右足のカットラスにのせた、恐らく奴の最高最強の一撃。
回避は不可能。先ほど踏み込んだ分避けるなどという選択をすれば遅れる。
元より、迎えうつ以外の選択肢などない。
「雄々ッ!!」
こちらもまた全身の力を乗せた一突き。切っ先を突きだし、蹴りぬかれる刃に合わせる。
衝突、拮抗は雷光のごとく短く。破砕音は雷鳴の様に。
砕けたカットラスの破片が舞うなか、両者の動きは止まらない。
こちらは甲板を鉄板入りの靴裏で踏み砕きながら振り返りざまに剣を振り上げ、海賊は折れたカットラスを塗れた甲板に滑らせながらカギ爪を突き立てて。
「オオオオオオオ!!」
「エ゛エ゛ァァァァア!!!」
斬撃と掌打。互いに繰り出したそれは───刃が、勝った。
二度目のすれ違い際の一閃。袈裟懸けにボニータの体を裂いた刃には、確かに心臓を叩き割った感触が残る。
右肩の傷口が広がり流れる血が増えるも、無視して海賊へと振り返った。
膝立ちになる様にして停止していたその女の体は、ぐらりと傾き甲板に倒れる。
……仕留めた。
確認のため首を刎ねるかと思った直後、一際大きく船が揺れる。
「ぐぅ……!?」
時間をかけ過ぎた……船が沈む!
堰を切った様に破壊が進む海賊船。あちらこちらでバキバキと音が鳴り、甲板も板が弾け始めた。
自分の足元も板が砕けていき、すぐさま飛び退いて自分が投げた捕鯨銛に向かう。それについた鉄線を斬り裂き、ティターン号に繋がる方を掴んで跳んだ。
とにかくあちらの船に戻らねばならない。乗り込んでから結構な時間が経っていたのか、船は海賊船の沈没に巻き込まれない為に距離を取り始めている。
ピンと張ってあった鉄線が向こうへと向かうのを、左手で握ったまま衝撃に備えた。このままいけば船体に足が───。
その時、後方で金属音がした。
「っ!?」
咄嗟に振り返りざまに首から上を守る様に剣を掲げる。直後、火薬の炸裂音と共に軽い衝撃が刀身に伝わる。
これは……カギ爪?
フックになっている先端。その後ろには、細いワイヤーが繋がっていた。
嫌な予感がして斬ろうとするも、それよりも早くワイヤーがこちらの周りを一周しフックが引っかかる。
首を絞められるのは防いだものの、剣が巻き込まれた。剣腹を己に向ける様にしながら、これを行った者を睨む。
「まだ、動くのか……!」
「道連れにするって言ったぜぇ、小僧!!」
確かに心臓を斬り裂いたボニータが、口から血を溢れさせながら嗤っていた。
奴の義手。そこからワイヤーが伸び自分を逃すまいと巻き付いているのだ。
右手ピンの様な物を投げ捨てながら、ピエロのメイクをした女は犬歯をむき出しにして左腕を引く。
ギリギリと刀身とワイヤーが擦れるのを見ながら、左手で掴んだティターン号に繋がる方の鉄線を左手で強く掴む。だが、こちらも血を流し過ぎた。手袋越しにズルズルと鉄線がずれていく。
「このまま一緒に死んでもらうぜぇ……!」
「くっ……!」
まずい。このままでは自分まで沈没に巻き込まれる。ティターン号は海賊船から今も距離を取ろうとしており、いつ自分の手が限界を迎えてもおかしくはない。
この体勢からではワイヤーを斬れない。なら、奴の義手の付け根が先に千切れる事に賭ける。
「お、ぉぉぉ……!」
血と共に抜けていく握力。それを気合と魔力操作で抑えていた、その時だった。
───タァン……!
一発の銃声。そして、自分に絡みついていたワイヤーが千切れる。
「っ!」
勢い余って剣でワイヤーを吹き飛ばしながら、今度こそティターン号の船体に両足をつけすぐさま切っ先を突き刺した。
「はぁ……はぁ……」
どっと湧き出たあぶら汗を頬に伝わせながら、荒い息を吐く。
すると、自分が握っている鉄線が上から引っ張られた。
「よう、相棒!」
上を見上げれば、甲板の鉄柵から見下ろす少女と視線が合う。
静かな海を連想させる瞳をキラキラと輝かせ、曇天を背にしているのに眩しいほどの黄金の髪を風に揺らさせながら彼女は満面の笑みを浮かべていた。
「助けが必要かな?この天才美少女様の!」
「……ええ、そうですね」
アリサさんの言葉に苦笑いを浮かべながら、足に力をいれて剣を船に刺し直す。
「流石に限界なので、お願いします」
「まっかされたー!大船に乗った気持ちでもう少し頑張ってね!ファイトー!」
「そりゃあ物理的に乗る為に頑張っていますけども……」
相変わらずのお馬鹿様に笑い、船を登っていく。そうしながら、もう一度だけ背後を振り返った。
そこには、嵐の海に飲まれる一隻の船と。
何かを目指す様に、這いずっていく一人の男がいた。
* * *
サイド なし
『くそ、奴ら船の代金を踏み倒しやがった!』
『でも、追いかけようにも奴らが向かった海域は何隻も行方不明に……』
『うるせぇ!ドワーフが自分の作品を盗まれて黙ってられるか!』
『追いついたぞ!奴らだ!』
『船をつけろ!乗り込むぞ!』
『ぶっころせぇ!』
『クロウド!やべぇ、船が!』
『ちくしょう、何でこんな所にクラーケンが……!』
『とにかく触手を斬れ!斧で奴を、がぁぁああ!?』
『……ここ、は……何も見えねぇ……』
『起きたのかクロウド。そうだよな、霧が濃すぎて……』
『違う。何も、何も見えねえんだ。俺の目は、今どうなっている……?』
『食料も尽きちまった……それに、皆病気に……ごぼっ、げぼぉ……』
『おい、サッチ!しっかりしろ!俺が魚を獲って来てやる。だから……!』
『無茶だ、そんな目で……お前は……助けを……』
『……もう何年になるんだろうな、サッチ。一応数えていたが、もうすぐ五十年も霧の中を彷徨っているぜ』
『…………』
『最近、魚が良く獲れる様になったんだ。親父が髭さえあればドワーフはどこでも暮らせるって言っていたが、本当なんだな』
『……霧を、出たのか』
『もうこの船も限界が近いな。儂一人で修理してきたが、流木や乗ってきた船をばらしただけの材料じゃ……』
『これは……人か?』
『───なんだお前。捨てられたのか?』
「ごぼっ……」
海水が口の中に入って来て、クロウドは目を覚ました。
数秒だけ意識を失っていたらしい。彼はすぐに足を動かしながら、目の前の気配に触覚を集中させた。
そこにいる気配を感じ取り、内心で安堵する。海水と血で濡れた髭はその感度を大きく下げているが、それでも彼女の気配だけは見落とさない。
「ごふっ、げほ……んだ、ここは……」
「目が覚めたか。寝坊助め」
ガレオン船──『ティターニア号』。ウィンターファミリー……人生の冬ばかりを過ごしてきた者達が集った船の残骸に乗せられていたボニータが目を覚ます。
彼女は体を起こす事もできず、左目だけを巡らせた。
「おい、ダーリン……あんた、生きて……」
「問題ない。ドワーフはあの程度では死なん」
子供でもわかる様な、稚拙な嘘であった。
いかにドワーフが頑強とは言え限度がある。心臓を撃ち抜かれた後にこうして泳いでいるのは奇跡か。それとも執念か。
何にせよ、彼の命はあと数分もない。
「……あたしらは、負けたのか」
「いいや。お前がまだ生きている。生きて、取り戻せ。人生を」
「……そこに、あんたはいるのかい」
答えはない。ただ、残骸を押す体からどんどん力が抜けていく。
幾分かマシになったものの、未だ荒れる海水が残骸を襲った。
「……よっこら、せ」
雨と海水、そして己の血にまみれながら、ボニータが指の折れた右手でクロウドを掴みあげて己の上に置いた。
「……おい。沈むぞ」
「どっちにしろ、あたしも死ぬさ。こうもバッサリ切られたんじゃね」
ケラケラと笑いながら、むっすりと声をだす恋人の頭を彼女は撫でる。
「……失ってばかりの人生だった。だから、一番大切なお宝まで手放すのは嫌だね」
「……なら、あの世でもう一度旗揚げでもするか。先に逝った、馬鹿どもと一緒に」
「そりゃあいい!ウィンターファミリーが、今度こそ奪われたもんを全部取り戻すのさ!地獄の底だろうが、海だけはきっとある!」
海賊達は笑う。遠くに響く雷鳴にも、吹きすさぶ風にも負けぬ声で。
ほんの数秒笑い声が響いた後、嵐の音だけが夜を包む。
最後に、一際強い波がティターニア号の残骸全てを飲み込んだ。
読んで頂きありがとうございます。
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