第三十五話 刺客
第三十五話 刺客
暫く進めば、艦内地図らしき物を見つけた。と言っても何階に何がある程度のものだが。
関係者以外が入れるのは一階から六階まで。機関室周りやブリッジは近づく事もできないらしい。
……脱出艇もきちんとあるのだな。ここには一応『乗客乗員全員が乗れるので安心してください』と書いてあるが、そもそも必要にならない事を祈ろう。
更に探索をしていけば、まるでパーティー会場みたいなフロアにビリヤード台やダーツボードが置いてある娯楽室。バーカウンターのあるお洒落な飲み屋みたいな所。
それ以外にも数室分使って彫像や甲冑を置いた美術展らしきフロアや、図書館の様な部屋もあった。豪華客船と言うだけあって航行中乗客が退屈しない様に色々と工夫されているらしい。
食堂らしき場所は現在開いていなかったが、乗組員に軽く聞いた感じ朝昼晩でビュッフェ形式の料理が出るのだとか。
非常に魅力的な話だが、ビップルームの乗客は滅多にこちらには来ない。基本的にルームサービスだ。そもそも、あの二人が何を言おうが自分が行かせないつもりだが。毒などが仕込まれる可能性がある。
そうして回っていれば、途中でドワーフらしき乗組員が歩いているのを見た。男性のドワーフは前世の漫画で見たのとそっくりだったので、ハンナさんとのギャップで逆に驚いてしまう。
背は子供程度なのだが、横が凄い。肩幅はもちろん厚みが。でっぷりとした腹を揺らし豪華客船には似つかわしくないむさくるしい姿でのしのし歩いている。
まあこの船に似つかわしくない人間というのなら、自分もそうなのだが。
それにしても、正直海とドワーフのイメージが繋がらない。その辺りの疑問を質問しに行こうかとも考えたが、かなり不機嫌そうだったので止めた。
アリサさんにでも聞いてみよう。そう考え踵を返し、また別のフロアを探索しに行こうとした時だった。
「あ、あの!」
「はい?」
突然呼び止められて振り返れば、そこには身なりの良い青年たちがいた。
歳は十代後半から二十代前半ぐらい。一瞬『てめぇみてぇな平民がなんでこの船に』的な難くせかと思ったが、どうにも違うらしい。
全員期待と興奮の混じった目をこちらに向けている。
「も、もしかして『ソードマン・キラー』さんですか?」
「……ソードマン・キラー?」
なんだそのネーミングセンス皆無な名前は。
いや待て。ソードマン?
「これ!この記事!」
そう言って一人の青年が新聞紙を差し出してくる。
記事には駅のホームで保安官相手に『皆殺しのサム』や『ソードマン』の襲撃について説明している自分の姿が映っていた。
見出しにはこう書かれている。『最強の剣士現る!?美貌の冒険者、ソードマン・キラー!!』と。
……もうちょっと、こう。いい名前はなかったのか。
チラリと青年達を見れば、キラキラとした目が返ってきた。ああ、うん。これは『疑い』ではなく『確認』だな。誤魔化せる可能性は低い。
「確かに映っているのは自分です」
「おおおお!!」
青年達が悲鳴とも歓声ともとれる声を上げるなり、一気に距離をつめてきて矢継ぎ早に質問をしてきた。
「ソードマンと斬り合ったって本当ですか!?」
「はい」
「汽車に『皆殺しのサム』もいたって記事にあったんですけど!」
「奴もソードマンと一緒に列車強盗をしに来ました」
「男ですか、女ですか!?」
「見ての通り男ですが?」
囲まれて次々質問され、少しだけ冷や汗を流す。
ちょっと、今は聴覚を仕事以外に使いたくないので長話に付き合うのは良くない。
これがまだ敵意のある存在なら対処も容易いのだが、青年達は全員好意的な視線をこちらに向けている。正直、リアクションに困る。
「あの!お名前を伺っても良いでしょうか!?」
「……シュミットと申します」
「シュミット先生!」
「せんせい」
「俺の師匠になってくれませんか!?」
「ししょう」
「あ、ずるいぞお前!?」
「抜け駆けか!?」
何やら青年達側で勝手にヒートアップしている。
さて、どうしたものか。良家に剣術の家庭教師として雇われるのは魅力的だが、今はまずい。
「俺、この時代にまだ貴方みたいな凄い剣士がいるなんて知りませんでした!是非うちで剣術の指南役を!」
「いやいや、ここは俺に!俺にお願いします!」
「月謝は相場の1.5、いいや2倍出しますから!」
……まあ、男と言う生き物は何歳になっても棒振りが好きなものだ。それは自分もわかる。
そして、目の前に新聞に載るほどの『剣豪』が現れて旅の最中という事もありテンションが上がっちゃったと。
この人達はだいたいそんな感じだろう。
「すみませんが、現在別の仕事の為に移動中ですので。そういったお話は全て断らせて頂いております」
「えぇ、そんなぁ」
「別の仕事って、どんなのですか?」
「お答えできません。依頼主である商人の方からは『できるだけ内密に』と頼まれていますので」
商人と言うか、商人と名乗っている高貴な人の御実家だけども。
「え、まさか暗殺……」
「いや地上げ合戦じゃないか?」
「抗争の戦力かも?」
この世界の商人物騒すぎない?
いいとこのお坊ちゃんっぽい青年達から即そんな発想が出てくるとか、やはり日本とは違うのだな。常識が。
「けど、それなら仕方ないかぁ……」
「シュミットさん!これを!これ俺の家がやっている店の住所です!」
「あ、なら俺も!是非俺の店にも!」
「ありがとうございます。時間の都合上、行く事ができるかはわかりませんが……」
この世界の商人では秘密の依頼がされるのは日常らしい。青年達はあっさりと身を引いたが、それはそれとしてとメモに自分の家の名前や住所を書いて渡してきた。
そのまま彼らは手を振って去っていき、ようやく肩から力を抜いてため息を吐く。
「疲れた……」
戦闘とは別の疲労が全身を襲う。
チラリと渡されたメモを見れば、いくつか見覚えのある店の名前もあった。恐らく新聞か何かの広告で見たのだろう。こんな船に乗っているだけあって、太い実家をお持ちの様で。
一応メモは大事に懐にしまい、また歩き出す。
ポジティブに考えよう。こういう伝手は新しい飯のタネになりやすいし、何よりも先ほどの交流は良い『カムフラージュ』になったかもしれない。
五感に意識を張り巡らせながら、のんびりフラフラと探索を続けた。
……時に。船と言うのは『うるさい乗り物』である。
こうして通路を歩いているだけで、色んな音が聞こえてくるのだ。波の音に海水をかき分けて船が進む音、蒸気機関の稼働音に船員たちの大声。
当然、それらを客の耳に届かせない様に防音の工夫は施されている。だが、それでもやはり騒がしいのが船という物だ。少なくとも自分はそう理解している。
だから、例えばこんな大きな船の汽笛が鳴ったとしたら。
───ボオオオオオ……!!
一発の銃声ぐらい気のせいにしか思えないだろう。
「シッ」
「ごぇ!?」
だから分かり易いのだが。
正面にあるよく磨かれた窓ガラスに映る背後の男目掛け、身を低くしながら剣の鞘を勢いよく突きだす。
鞘の先に肉を打った感触。そのまま振り返りざまに相手の右腕を掴んで捻りながら、膝裏に蹴りを入れ床に叩き伏せた。
「武器を捨て降伏しろ。大声は出すな。抵抗の意思があると『こちらが』判断した段階で刺すぞ」
腰からナイフを引き抜き、わざと相手に見える様に刃を動かす。
「ひ、ひぃ……!?」
小さい悲鳴をあげながら、男は右手に持っていた『ナイフ』を落とした。
……意外だな。新聞に載るぐらいだし、自分に使う武器は銃だと思っていたのだが。
意外と言えば、そもそも襲撃者の姿も予想外である。
「た、頼む、出来心だったんだ!こ、殺さないで……!」
船に乗り込む時、やけに鼻息が荒かった乗客である。
紳士然とした格好のこの男が、リリーシャ様への刺客……なのか?
* * *
護衛対象から離れ、一人でフラフラしていたのは『釣り』の為である。
一番良いのはこの船に自分達が乗っている事を悟られない事。しかし、ティターン号にこっそり乗船するには時間の都合上できなかった。他の船を待つのも難しい。
更にあの大きな階段で不特定多数に乗船する所を見られてしまっている。特に自分達三人とも目立つ外見なので誤魔化すのは難しい。
この船に刺客が乗り込んでいるのなら、間違いなく自分達の存在に気づかれているはずだ。であれば、察知できるタイミングで仕掛けてほしいと思った。
暗殺の定石は知らないが、狩られる立場ならわかる。一番怖いのは、『いつ襲われるかわからない』事だと。
銃を持った男が五、六人で襲撃してこようが、部屋に爆弾を仕掛けられようがタイミングさえわかれば対処は容易い。
だが人間というものは二十四時間常に警戒し続ける事はできない生き物だ。必ずどこかで隙ができる。
そのタイミングを狙われれば、チンピラのナイフだって護衛対象に届いてしまうのだ。
ならば、いっそ『狙いやすい状況にしてやればいい』。
密かに乗船するのが不可能であると、港に向かう途中に馬車で移動しながらアリサさんから聞いていた。そこで、リリーシャ様が寝ている間にこっそり今回の作戦を考えたのである。
隙だらけに自分が一人で歩き回り、アリサさん達は部屋に固く籠る。ルームサービスだろうが何だろうが、その間は誰も部屋には入れない。
強引に押し入ろうとすれば、ビップルームに備え付けてある従業員の詰め所に繋がっている紐を引いて人を呼べばあっという間に騒ぎを聞きつけた用心棒達がやってくるだろう。
で、自分の方を各個撃破しようとしてくる輩は逆にこちらで仕留めという寸法だ。
相手がソードマン級の猛者でもなければ、一人でも何とかなる。一度で釣れないなら二度三度と似た様な手を試みるつもりだったが、まさか一発で捕まえられるとは。
そんなわけで、無い知恵を絞って張った罠の結果だが。
「えー……このおじさんはただの不審者です」
アリサさんの無情な一言で失敗と判明した。
「彼が、彼が悪いんだ……私にそっちの気はなかったのに、あんな尻をしていたから!!」
椅子に拘束されたオッサンが叫ぶ。前歯全部折ってやろうか。
身なりも良いし下手に拷も……尋問するのはまずいかなと、アリサさんに一度合流。軽く質問と身体チェックをした結果、彼女は船員を呼び出した。
で、やってきた船長と用心棒に彼を引き渡したのである。
「何というか……災難でしたな」
帽子を被り直しながら、この船の船長。『ニック船長』が神妙な顔でそう言ってきた。
「ですが……本音を言わせて頂くと、あまり大ごとにはして頂きたくない。航海を始めたばかりですし、今回は未遂でしたので……」
そんな顔のまま、船長が目を泳がせた。
アリサさん曰く、このオッサン結構有名な商人らしいからな。船の運営会社としてもこの人を裁判所に連れていくのは色々と気が引けるのだろう。
「そうですねー……彼を襲った事について色々と言いたい事はありますが、せっかくの船旅を台無しにするのは本意ではありませんから」
それはそうと。お顔が怖いのですが、お嬢様。リリーシャ様の方ではなくアリサさんの方。
いつもの笑顔が消え無表情に近い顔で、殺意一歩手前の瞳で船長と例のオッサンを見ている。
「下手人は部屋にでも監禁しておいて下さい。今後何かあれば、当家から正式に抗議があると思って頂きたいですね」
「は、はい!」
何やら可哀想なぐらい冷や汗を流している船長。何というか、ご愁傷様です。
「待ってくれ!その前に私が君を思って綴った詩を受け取ってくれないか!?胸ポケットの手帳に、心からあふれ出した物を書いてある!!」
「……いいでしょう」
正直、自分はこのオッサンが刺客ではないのかとまだ疑っている。
真の変質者だというのなら、『偽村長』の様に怖気が走る手帳を持っているはずだ。そう思い、彼の胸元を探る。
「あぁん♡」
「………」
無心だ。無心になるんだ、シュミット。
野太い嬌声を聞かなかった事にし、手帳を開く。さあ、正体を表せ暗殺者。
一ページ目から十ページまで延々と僕の容姿について事細かに書かれていた。所々この世界の神話や古代の話も交えて賛美されている。
三十ページまで妻子がいる身でこの恋は悪徳なのかと思い悩む葛藤があり、最後にはこの出会いは運命の導きなのだし、何より男同士なのだとしたら浮気にはならないと結論が出されていた。
そして以降数十ページに及ぶ彼と自分の蜜月が詩の形で書かれていた。勿論フィクションであるのだが、異様に内容が濃い。
パラパラと読み飛ばしていたのに、内容が頭に入ってくるぐらいには強い熱意と執念が込められている文章だった。
「うっぷ……」
「シュミットくぅん!?」
とても辛い。
精神に深刻なダメージを受けて片膝をつき、思わず口元を押さえる。なるほど、彼は本物だ。
「落ち着けシュミット君。深呼吸するんだ。私の顔を見て」
そう言って傍に跪き覗き込んでくるアリサさん。相変わらず顔が良いなこの人。
そしてたゆんと揺れた胸。
「ご安心ください。回復しました」
「お、おう」
引かないでください。泣きますよ。
「シュミットって言うんだね……二冊目もあるんだ。そっちも是非」
「そいつを連れていけ」
「はっ!」
ドスのきいたアリサさんの声に、用心棒がオッサンの腕を掴んで引きずって行く。
それを見送り、ようやく静寂が訪れた。
「……ご愁傷様です」
「いえ……」
船長がいたたまれない顔でこちらを見てきたので、そっと目を逸らす。正直今回の事はもう忘れたい。
「船長!」
そんなやり取りをしていると、何やら船員がノックもなしに慌てた様子で駆けこんできた。
彼は自分達の方に一礼した後、船長の耳に顔を寄せる。
「なんだ、今はこの船どころか会社存亡の危機に……」
「それが、機関長が船長と話しをさせないないなら港に帰るぞって……」
「っ、またあのドワーフか。あの種族は本当に頑固だな」
小声での会話だったが、距離も近いのである程度聞こえてしまった。
船長は苦虫を噛み潰した様な顔をした後、すぐに笑顔を作ってこちらに向き直る。
「失礼。急用ができてしまいましたので、私はそちらに行かせて頂きます。なにかあればこのニックに。ティターン号船長であるニックめにお申し付けくださいませ、お嬢様がた」
全力の営業スマイルを最後に、彼は部下と共に小走りで駆けて行った。
「……疲れました。精神的に」
あのオッサンが座っていたのとは別の椅子に、護衛でありながらどっかりと座り込む。
もう……なんでああいうのに自分はやたら遭遇してしまうのだろうか。今回は顔ではなく尻だぞ。意味が分からん。
しかも刺客対策で釣りをしたのに、これではもう誰もあの手には引っかからんぞ。
「本当にご愁傷様、シュミット君」
「人間の国って不思議だね……男の人同士でこういう事件もあるんだ」
何やら頬を赤らめドキドキした様子のリリーシャ様に、アリサさんが苦笑を浮かべる。
「あー、まあ。戒律で異性との婚姻が禁じられている教会の人達や、そういう趣味をもった一部の上流階級なら偶に見かけますね」
教会ってそうなのか……そう言えば開拓村の神父さんもアレだったわ。
前世日本では同性愛は色々とデリケートな話題だったが、この世界だとどういう立ち位置の話なのだろう。
まあ、今その辺を考えると今しがた読んだ存在しない記憶が浮かんできそうなので話したくないが。
「そう言えばアリサさん」
「なんだい相棒」
「この船でドワーフの男性が働いているのを見かけたのですが、そういうのは珍しくない事なんですか?」
「え、まさかシュミットは男のドワーフが好みなの!?」
「いいえ」
世迷言を吐いている……失礼。寝言をほざいているお姫様には視線を向けず、アリサさんに問いかける。
「珍しくはあるけど、ありえない話じゃないね。基本嫌々だけど」
「嫌々なんですか?」
「そ。ドワーフの男の人は髭の根元に凄く神経が集中しているの。それで暗い鉱山の中でも方向や現在地がわかるんだって。ただ、海風はどうにもその触覚に合わないらしいんだ」
「へー……」
そうだったのか。というか、『神経』って言葉あるんだなこの世界。
「では、何故それなのに船に?」
「ドワーフだってお金は必要だからねー。それを稼ぐために蒸気船を持っている会社に就職する事も多いんだ。鉄道よりも船の方が蒸気機関のトラブルが致命傷になり易いから、会社としては大金を出してでもドワーフを船に乗せて管理させたいんだよ」
「ドワーフは鉄に関しては本当に高い技術力を持っているもんね。そこはエルフ的にも認めざるを得ないよ。しかぁし!風を読んだり少しだけど水流を操作できる私達の方が海では強いって事は声を大にして言わせてもらうよ!!個室だし!!!」
「あ、はい」
何やら張り合い始めたリリーシャ様。
というか、風を読んだりとかは帆船に必要な技術で、蒸気船には微妙な気が……いやあった方がいいのは事実だけれども。
「あはは……ま、そんなわけでドワーフを乗せた蒸気船は多いのさ。でも大抵、他の乗組員と問題になるんだよねー」
「まあ、頑固なのは事実ですからね」
よく言えば職人気質。悪く言うと融通の利かない人。それがドワーフのイメージである。ハンナさんも、正直そんな感じだし。
決して悪い人ではない。むしろ善人ではあるのだが、微妙に価値観が人間とは違うのである。あの種族は。
「それはそうとアリサちゃん。話は変わるんだけどさ」
「どったのリリーシャ様」
「もうこの三人だけの時は裸でいてもいい?ほら、シュミットも信用できる人だし。正直服をずっと着ているのしんどいんだよー」
「絶対にお止めくださいリリーシャ様。後で彼が怒られるので」
本当にやめて頂きたい。見たいけどその結果後で国のお偉いさんに睨まれるのは割に合わん。
えー、とぶー垂れるお姫様に『やっぱエルフもわからん』と頭痛を堪えた。
* * *
それから三日間、特に大きな問題もなく航海は進む。
船に乗る前は遊び倒すぞと騒いでいたお馬鹿様二人も、一日目で飽きてしまったのか今はもっぱら室内でトランプやチェスで遊んでいる。偶に巻き込まれて僕だけボコボコにされるが。チェスとか前世でもほとんどやった事ないし……。
刺客が紛れ込んでいる気配は今の所ない。船は合計七日間の航海の後、目的の港に到着する予定である。
だが船と言う閉鎖された空間で油断などできない。寝るときはアリサさんと交代で見張りをし、警戒を続けた。
可能なら暗殺者など現れなければいいと思いながら、船員に艦内にある図書館から持って来てもらった本を読んでいた四日目の夜。
今日は風が強い日で、日が沈んでからは黒い雲が辺りを覆い豪雨がティターン号を襲っている。
沈没とかしないだろうなと思いながら、窓の外を見た時だった。
「あれは……」
一瞬、見間違いを疑った。
蒸気船が海を行き来するこの世界で、それも嵐の夜と言っていい海上を───帆を張った船が一隻進んでいる。
だが幻覚ではないのだと告げる様に、けたたましい鐘の音が船内に聞こえ始めた。
ばたばたと風にはためく『海賊旗』。それがどんどん近づいてくる。
───刺客は内側に潜んでいたのではない。外からやってきたのだ。
未だ強くなる風の音。それが、誰かの高笑いの様に思えた。
読んで頂きありがとうございます。
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