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ナー部劇風異世界で  作者: たろっぺ
第二章 王都への道
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第三十一話 駆けつけるは

第三十一話 駆けつけるは



サイド なし



 後方の車両に向けて放たれるガトリングガン。そのマガジンの交換でできる僅かな隙間に、金髪の乙女がライフルを手に顔と銃口を覗かせる。


 その度に、盗賊が必ず一人は死んでいく。百発百中。どこに隠れようが壁を貫通し悪漢どもの頭か胸に赤い花を散らせる様は、まるで死の天使が降臨したのかと見る者に錯覚をさせた。用心棒達は喝采を、盗賊達は悲鳴をあげる。


 座席の裏に隠れ直しながらレバーを動かし排莢と装弾をしながら、アリサはどこに行ったのかわからない相棒の所在に思考を巡らせた。


 ───シュミット君、まさか死んだとか言わないよね?私より先にさぁ。


 白い肌に冷や汗を流しながら、しかし体は冷静にガトリングガンの切れ目に銃口をつき出した。


 その時、彼女の視界の端に何かが映る。


「っ!?」


 屋根にぶら下がり、壁を伝ってきた一人の男。


 手配書で見た事のあるその顔に、アリサは考えるより早く銃口をそちらに向けて発砲した。


 だがその男、ソードマンは片手を離して弾丸を回避。割れた窓ガラスからダイナマイトを投げ込んできた。


「伏せて!」


 そう叫びながら座席の下に跳び込むアリサ。彼女の声に反応できた者は咄嗟に手近な座席に隠れたが、半数以上が爆風に吹き飛ばされる。


 天井や壁。あるいは仲間の体に叩きつけられ、用心棒達が動かなくなる。その中にはガトリングガンを撃っていた者も含まれていた。


 撒き散らされた黒煙が壁に開いた大穴から急速に排出されれば、中に広がる地獄絵図が披露される。


爆発の一瞬だけ屋根の上にいたソードマンが、勢いをつけてその大穴から車両へと跳び込んできた。


「てめぇ!」


「ソードマンだ!賞金首だぞ!」


 それに応戦しようと座席から飛び出した冒険者や用心棒。だが、彼らが狙いを定める頃には既に剣の間合いへと入っていた。


 彼らが銃口を向けた時にはその先に彼はおらず、次々と首や胸を引き裂かれている。それを理解する間もなかった冒険者達の顔は、苦悶ではなく驚愕に染まっていた。


「ヒャッハー!旦那につづけぇ!」


「皆殺しだぁ!」


 ガトリングガンの脅威が消えた通路を走る盗賊達。だが、その先頭を走る男の頭がはじけ飛んだ。


 慌てて盗賊達が座席の裏に隠れるのを視ながら、冷静にレバーを動かすアリサ。そして、振り向きざまにそのライフルを全力で背後へと突きだす。


 少女の首へと迫っていた白刃と、鋼の銃床がぶつかり甲高い音を上げた。


「ほぉ」


「こん、のぉ!」


 予想外の膂力に弾き飛ばされるソードマン。その着地を狙ってアリサが引き金を引く。


 正確に放たれた弾丸はしかし、彼が床ではなく背もたれを蹴った事で回避された。そのまま斬りかかってきたソードマンの斬撃をライフルの銃身が受け止める。


 その体勢からアリサが勢いよく銃を上に振り回し、彼の体を天井に叩きつけた。メキリという音をたてて天井が盛り上がり、その衝撃の重さを伝える。


 だがソードマンは表情一つ崩さず、剣を銃身に巻き付けたかと思えばライフルを横に弾いた。腕が引っ張られ無防備な彼女の首を返す刀で刎ねようとするも、それは目にも止まらぬ速さで抜かれたピストルで阻まれる。


 眉間目掛けて飛んできた鉛玉を斜めにナックルガードで受け流すソードマン。そんな彼から距離を取ろうとアリサが飛びすさった。


「っとに、噂に違わぬ剣腕だねほんと!」


「お褒めにあずかり恐悦至極。だが……」


 ゆらりと剣を構えなおすソードマン。彼に対しアリサがライフルを片手で回転させてレバーを動かし、次弾を籠めた。


 右手一本で放たれた弾丸。少女の細腕では耐えられない反動でありながら、彼女の腕はぶれない。ソードマンの心臓を寸分たがわず狙っている。


 だが───足場が、揺れた。


 がたりと、車輪が何かを踏んだかあるいは汽車全体のバランスが崩れているせいか。何にせよ大きな縦揺れが引き金を引く瞬間に起き、弾丸はソードマンの右頬をかすめていく。


「銃は当たらん物だ」


「嘘でしょぉ!?」


 すぐさま左手の拳銃をつき出すも、銃弾が放たれるより先にサーベルの刃が銃口をかち上げた。


「まずっ」


 ライフルは長く、ピストルは跳ね上げられた。無防備なアリサが頬を引き攣らせ、その細い首を斬り裂かんと剣が迫る。



『■■■』



「!?」


 人間には発音不可な呪文。それが二人の耳に届いた直後、ソードマンの体が大きく吹き飛ばされた。


 後ろの車両までゴロゴロと彼が転がる中、アリサはすぐさま連結部に後退する。


 そこにはフードの下から美しい顔を覗かせ、冷や汗を流すエルフの姫がいた。


 汽車がトンネルに入り暗くなる車両の中で二人の少女が怒鳴りあう。


「センキューリリーシャ様!けど下がって!?危ないんで!」


「私がいなかったら死んでたのに何言ってるのさ!」


「でも貴女に死なれたら大変な事になるんですけどぉ!?」


「いいから前!」


「ぅおおおお!?」


 トンネルを出て明るくなった直後、慌てて物陰に隠れる二人。そこに幾つもの銃撃が飛んできた。


 盗賊達の援護を受けながら、ソードマンがゆっくりと立ち上がる。


「今のはエルフの魔法……となれば、ああ。なるほど。そういう事か」


 首をごきりと鳴らした彼は、何事も無かった様にまた剣を構える。


 その肉体は既にボロボロだ。予想外の力量をもった剣士と少女に、エルフの存在。そのうえ彼は既に若いとは言えない年齢だ。三十も折り返しであり、体力の低下を実感している歳である。


 激痛が走っているはずだ。脳が焼けるほどに全身の痛覚が身体の限界を告げているはずだった。


 だが、それでもダメージを感じさせない立ち姿。魔法や薬物を使っているわけではない。


 その壊れた精神が肉体を掌握し、死に絶えるその時まで倒れる事を許さないだけなのだ。



 剣狂い。その名は、意図せずして正鵠を得ていた。



「撃て撃てぇ!」


「ぶっ殺してから犯してやる!」


「うおおおおおお!仲間の仇だぁ!」


「こっの、うざったい!」


 残り三人となった盗賊達とアリサが撃ち合う。双方から銃弾が飛び交う中を、一人の男が駆けた。


 通常なら自殺行為でしかないそれを、しかしその剣士は成してみせる。壁に座席、天井までをも蹴りつけて大穴が開いて風が吹きすさぶ車両を三次元的に動き、鉛玉の雨の中を走破したのだ。


 生まれる時代を間違えた男。ソードマンの間合いに、『依頼主が本当に求めている首』が納まる。


「っ、リリーシャ様!」


「え?」


 銃撃戦の中で斬りかかってくる存在。なまじ人間の社会を勉強していたが故にそんな狂人を想定していなかったお姫様が、間の抜けた声をあげた。


 アリサがそちらに銃を向けるよりも早く、ソードマンの凶刃が振り上げられる。


「ぁ───」


「お眠りを。エルフの姫よ」


 サーベルが、振り下ろされた。



*   *    *



「ちょ、兄貴!もう少し待ちやしょうよ!」


「いいやダメだ!このままだとソードマンの野郎に全部平らげられる!!」


 また響いた汽車を横転させかねない爆音。それに誰よりも焦りを覚えたのは『気狂いのサム』だった。


 彼は窓から首を突きだし、汽車の進行方向を確認する。そこにはサムの記憶通りトンネルがあった。


「本当に屋根の上を警戒する必要があるんすか!?」


「いいから見張ってろ!相手は『皆殺しのサム』だぞ!」


 冒険者達の中でも比較的若い青年が、銃座でライフルを構えながら下にいる他の冒険者に問いかける。そうすればすぐさま年配の用心棒から怒鳴り声が返ってきた。


 走行中の汽車の上を走ってくる輩など、娯楽小説の中でしか見た事がない。若いからと舐められているのだと憤りながら、その青年はまたボルトアクション式のライフルを手に銃座から周囲を警戒した。


「げっ」


 そして、視界にトンネルが見えてきて口をへの字にする。


 それもそのはず。ただでさえ汽車の煙がもろに来る位置だと言うのに、トンネルとなれば更に浴びる事になるのだ。


 視界が暗く染まり、煙から顔を守る青年。早く過ぎ去ってくれという彼の願いが通じたのか、トンネルはすぐに終わった。


 辟易としながら目を開け、空気を吸おうとした青年。だが、彼の口に入ったのは石炭臭い空気ではなく硝煙の香る鉄の塊だった。


 黒い燕尾服を血と煙で汚した男が、ライフルの銃身を踏みつけて自分を見下ろしている。


「やっ、お勤めご苦労さん」


「むがぁ!?」


 口の中で散弾が放たれ、青年が物言わぬ骸になる。


 ゆっくりと背筋を伸ばし、サムは大きく息を吸い込んだ。汽車の煙でお世辞にも綺麗とは言えない空気なのに、彼の表情は非常に清々しいものである。


「いやぁ、これでようやくパーティーの続きができる。さて、こっちもダイナマイトを使って派手に……ん?」


 その時、サムの視界に信じられない物が飛び込んできた。


「は?」



 馬である。



 トンネルを通過中の後部車両。それに飛び乗らんと、一頭の裸馬とそれに跨る剣を携えた少年の姿があったのだ。


 一瞬、本当にサムの思考が止まる。


 それも無理からぬ事だろう。鞍どころか手綱すらない初めて乗る馬に跨って、山も森も走破して汽車に追いつく様な騎手がいったい人類史上にどれだけいると言うのか。


 本気で意味がわからんと混乱しながら、首から下は反射的にその馬目掛けて引き金を引いていた。


「ヒヒィン!!」


 悲鳴をあげて汽車の横に落ちる馬。だが、それに跨っていた剣士は屋根の上へと転がる様に着地してみせる。


「なんなんだよ、お前はぁ!」


 その姿に吠えながら、サムはすぐさまソードオフショットガンを開き排莢。二発の弾丸を叩きつける様に込める。


 剣士は当然その問いに答える事なく走るが、サムが装填を終える方が速い。


 水平二連の銃口が、黒髪の彼を捉えた。


「とりあえず死ねぇ!」


 放たれる散弾。一直線しか進めない汽車の屋根の上に避ける先などありはしない。


 故に、その剣士は『暴挙』に出た。左腕の籠手を盾の様に掲げて首から上を守り、胴体はボディアーマーに任せて直進したのだ。


 籠手が火花をあげ胴鎧を貫通した弾丸が肉体に食い込み、それ以外は肩やこめかみを抉って血しぶきを舞わせる。


 だが止まらない。剣士はそのまま走り続ける。


 その姿に迷わずサムはもう一度引き金を引こうとした。だが、一瞬先に襲ってきた衝撃が右腕ごと彼を仰け反らせる。


 抜き打ちによる投擲。向かい風さえ穿って飛来した一本のピックがサムの右肩を直撃し、血と肉片をぶちまけながら骨に深々と突き刺さっていた。


「嘘ぉ」


 そうこぼしながらも、彼は動き続ける。衝撃でたたらを踏みながらも左手でピストルを引き抜こうとした。


 だが。


「遅い」


 それは、剣士と共に戦う少女のそれどころか、ほんの少し前に戦った賞金首の『早撃ち』にも劣る。


 左腕が肘から斬り飛ばされ、次の瞬間にはサムの首が切断されていた。


 一瞬の剣閃。銃座へと落下しながら、己の体と剣士の顔を彼は凝視する。


 乱雑に切られた黒髪を風にたなびかせ、凛とした表情で自分と敵の血で美しい顔を彩る中性的な剣士の姿を。


「可憐だ……」


 首に残された僅かな空気を絞り出して、サムは完全に息絶えた。


「うぉ!?」


 頭を失った青年の体を引きずりおろしていた冒険者の眼前に、そんな彼の首が落ちてくる。


 突然の事に短い悲鳴をあげる冒険者をよそに、銃座から更に剣士が一人跳び下りてきた。


「な、なん」


「ここはお任せします」


 それだけ言い残して駆ける少年。


 乗客でごった返す車両を壁と背もたれを跳ねて走り抜け、向かう先は二人の少女がいる場所ただ一点。


振り下ろされる凶刃目掛け、黒髪の剣士は勢いそのままに刃を振るった。


 剣同士がぶつかり合い、甲高い音を響かせてサーベルを持つ男が弾き飛ばされる。


「え…?」


「ご無事ですか?」


 衝撃波でフードの脱げたエルフの姫が、呆然とその背中を見上げた。


 中性的な顔立ちに見合わぬ百八十を超える長身。衣服もボディアーマーもズタズタで、血まみれになった状態でありながら一部の隙もなくやや下段で剣を構える少年。


 彼の姿を一瞬呆けた様に見た後、アリサは白い歯を見せて笑う。


「待ってたぜぇ、相棒ぉ!」


「ええ。お待たせしました」


 ドワーフの鍛えた片手半剣を手に、少年──シュミットが赤みがかった瞳をギラリと輝かせる。


「第二ラウンドです。『ソードマン』」


「……やはり、追ってくると思っていたよ」


 応じるのは、二百もの大金がその首にかけられた落ちた保安官。


 銃弾が飛び交い、蒸気機関車が走る時代。汽笛と銃声が響く中、しかしこの場において───この二人こそが、全ての中心であった。




読んで頂きありがとうございます。

感想、評価、ブックマーク。励みにさせて頂いております。どうか今後ともよろしくお願いいたします。


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― 新着の感想 ―
なる 馬術をとったのか
[良い点] 散弾ではなぁ!(中ダメージ) その後に護衛対象を守護ったうえ首級二つ(予定)とか大金星やろ。
[良い点] 気狂いさんがただのチョイ役になってしまいました、残念。 ピンで出てくれば早撃ちさんより活躍出来たかなと。 シュミット君いいところを持っていきますね、流石主人公! [一言] にゃ~ん♪  …
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