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ナー部劇風異世界で  作者: たろっぺ
第一章 剣の少年と銃の少女
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第二十四話 早撃ちヘンリーとの決闘 前

第二十四話 早撃ちヘンリーとの決闘 前



 走る。この世界では珍しい舗装された地面にブーツで硬い音を響かせて、剣を手に追跡する。


 反響する足音から自分達ではない物を聞き分け、曲がりくねった道を進むなか罠の類を警戒して視線を忙しなく動かした。


 罠を看破する技能は習得したものの、『習熟度』は高くない。注意しなければ……。


「っ!」


「どうしたの、シュミット君」


「敵が二手に分かれました。次の十字路で片方は直進、片方は左の道に!」


 だが血痕がある。あの中で負傷しているのはヘンリーのみ。部下にわざと怪我を負わせたとしても、あの出血量では自分の分を誤魔化すのは無理だろう。


「血を追えば」


「待った。この施設で挟み撃ちの可能性はまずいよ」


 ピストルを手に、アリサさんが不敵な笑みを浮かべる。


「しょうがないからメインディッシュは君に譲ってあげる。この通路でショットガンを相手に無傷ってのは、私じゃ無理だからね。露払いをしてあげよう」


「わかりました。くれぐれもお気をつけて」


「おうよっ!そっちもしくじんなよぉ、相棒!」


 走りながら彼女が掲げた右の拳に、こちらも左の拳を合わせる。それと同時に道を分かれ自分は直進。床についた血の跡を追う。


 それから三十秒も経たずに、銃声が聞こえてきた。それとほぼ同時に、通路の先を走るランタンの明かりに照らされた数人の影を捉える。


「っ、足はえぇなぁおい!」


 相手もこちらの足音に気づいたかそれとも銃声に反応したのか、何にせよヘンリーが振り返り悪態をつく。


 直線コース。強化魔法もあって純粋な脚力で圧倒する自分に分がある。


 このまま突っ込む。そうしようとしたこちらに、奴が吠えた。


「ランタンを捨てろぉ!」


 投げ捨てる様にランタンを捨てるヘンリー一味。直後、銃口がこちらに向けられる気配。


 なるほど、自分が相手の動きで弾道を予測していると見抜いたか。光源がなければ先の様な芸当はできないと。


 叩き割られた奴らのランタン。こちらが腰に提げている物もヘンリー一味の位置までは光が届かない。


 その状況で、『三つ』の銃口が向けられる。


 百セルの額が首についているだけあって頭が回る奴なのか、単なる勘なのか。恐らく後者だが、だからこそ恐ろしい。つまり奴は『銃を扱う長生きの肉食獣』なのだから。


 相手の姿が視えていなければ銃の回避はできない。あいにくと銃弾を目視する事まではできないのだから。



───だが、あいにくと夜目は効く。



「ぶっ殺せぇ!」


 散発的に放たれる弾丸。それらが銃口から出る前に、引き金が引かれた段階でこちらも回避行動に入っている。


 自分の腰に提げたランタンから伸びる薄い光。常人の眼では見えない闇の中でも、この眼ならば朧気ながらヘンリー一味の姿が見えていた。


 村長の銃は足を狙っているのか、下を向き過ぎているので無視。部下二人の銃口が、それぞれ自分の頭と左胸に狙いを定めている。


 それに対し、左手側に跳躍して回避。横を通り過ぎる鉛玉を見送って、一切減速せずにまた床に足をつける。


 だが、奴らの銃口が光った瞬間。一人だけ銃を構えなかったヘンリーの手元が見えた。


「埋まってろ、化け物!」


 自分のすぐ前。奴らが投げ捨てて壊れたランタンの残骸と、そこに微かに灯る残り火。蝋燭の先についたマッチの火程度のそれに向かって、奴が赤い筒状の物を投げるのを見た。


『ダイナマイト』……!?


 起爆を止めるのは不可能なタイミング。残り火目掛けて異様に良いコントロールで投じられたそれが、落ちていく。


 剣で切り払うのは間に合わない。であれば!


 強化された両足に全力で力を籠める。



───ドォォン……!!



 鼓膜が破けたかと思うほどの爆音を『背』に受けて、炸裂の衝撃に後押しされながら奴ら目掛けて飛んでいく。


「はぁ!?」


 爆炎で僅かに映った奴らの顔に驚愕が浮かぶ。流石に、咄嗟に跳躍してダイナマイトを飛び越え、爆風を受けて加速してくるとは予測していなかったらしい。


 一瞬で縮まる距離。一味が再びピストルを構えるより速く、刀身を閃かせた。


 まずは部下の一人の腕を切り落とし、続く二撃目でもう一人の首を刎ねる。


「うおおおおおお!」


 そこで予想外な事が起きた。


 村長が武器も構えず突っ込んでくる。手に持ったピストルすら放り捨て、血走った目でこちらに掴みかかってきたのだ。


 咄嗟に迷う。殺すか、生け捕りか。後でギルドに報告するにしても、彼は証拠足りえるのか。


「せめて最期にうなじをぉぉぉ!」


 村長を殺して後で問題になるのはまずい。そう思って一瞬だけ剣が鈍るも、すぐさま柄頭を鼻っ面に叩き込んだ。


 相手の力量は他の一味と比べて低い。これだけでも制圧できる。


 事実、村長は体を大きく仰け反らせて鼻血を流しながら倒れた。だが、自分は甘く見ていたのだ。


 この変態をではない。


 百セルの首であり、『早撃ち』と呼ばれた男の腕を見誤っていた。


───タァン!


「ぐぅ!?」


 咄嗟に体を傾けて心臓への直撃は避けるも、左肩に衝撃と激痛が走る。


 いくら薄暗いとは言え、いつ抜いたのかわからない程の早撃ち。強化魔法の加護を受けているとは言え、鉛玉は容赦なく肉を抉った。


 痛みで視界が僅かに揺れるも、許容範囲。ヘンリーの姿を瞳に納める。


 続けて親指でハンマーを持ち上げられ放たれた次弾を転がって回避し、三発目は右手首を失った敵の部下に剣を突き刺して前面に押し出し銃撃への盾に。


「ぎゃぁ!?」


「おいおい人間の盾だなんて、人の心がないのかねぇ」


「や、やめ、おかし」


 部下の悲鳴も懇願も無視して続けて発砲する奴に、人道など説かれたくない。


「くっ……!」


 だが、このままならすぐに弾切れを起こすはず。もう一丁ピストルを左腰に提げているが、今度はそれを抜く前に斬り伏せる!


 四、五、六。全て撃ち切ったタイミングで、突き刺していた男の腹を思いっきり蹴り飛ばした。


「っ!?」


 右手を左腰に伸ばしていたヘンリーに死体が直撃して動きを止める。


 獲った!


 そう確信した瞬間、背後から重い音が響く。


「なっ」


「ヒュゥ!」


 驚愕の声をあげる自分に、口笛を吹くヘンリー。


 自分達の視線の先には、一体のアイアンゴーレムがいた。先のダイナマイトで崩れた壁から現れたそれは、まっすぐとこちらに向かってくる。


 まずはお前だと、僕に警棒を振りかぶりながら。


「くそっ」


「やっぱ俺の悪運はまだ残っているぜぇ!」


 叩きつけられた警棒を剣で受け止めるも、膂力の差と左肩の傷で押し切られる。


 頭蓋を粉砕される前に、衝撃をそのまま自分から体を後ろに倒した。剣にかかる圧力が下がった瞬間両足と背筋に力をいれる。


 斜めに体をずらしながら、体を回転。強化で補正された体幹も活かして、不安定な姿勢から斬撃を放つ。


 狙い違わず、切っ先はゴーレムの額にある綴りを一文字削ってみせた。


 勢いそのまま地面に転がるも、すぐさま跳ね起きる。油断なく視線をヘンリーがいた位置に向ければ、既に奴の背すら見えない位置まで逃げていた。


「待て!」


 血痕と足跡からヘンリーの後を追う。


 左肩の負傷が気になるが、それでも今は足を動かした。薬草学の知識からこの程度の傷では直ちに命の別状がない事がわかる。


 逆に、奴の傷は致命傷だ。


 薬か何かで誤魔化している様だが、あの出血量。重要な血管が引き裂かれ、ともすれば骨にまで重大なダメージが出ているであろう。


 ここまで追い詰めて逃がしたくない感情以上に、狩人として『手負いの獣』を村に近づける事への忌避感が勝った。


 奴をこのままあの村に行かせれば、間違いなく酷い事が起きる。それを止めなければと思う程度のモラルはまだ残っていた。


 幸い奴の走る速度は先ほどまでより落ちている事が足音でわかっている。このまま走れば村にたどり着く前に追いつけるだろう。


 そうして追跡していけば、遂に日の当たる所に出た。


 自分達が入った場所よりも狭い出入り口。人一人がやっと通れるぐらいの抜け穴を警戒しながら出れば、弾の入っていないリボルバーが一丁転がっていた。


 視線を巡らせれば、やはり村の方に血の痕が続いている。それを目印に更に走って行けば、よろよろと歩く男の背中を捉えた。


「おいおい……もう追いつかれちまったよ」


 そう紫色になった唇で言いながら、ヘンリーが振り向きざまに一発撃ってくる。それを軽く体を傾けて回避し、更に距離をつめた。


 弾丸を避けられた事に、何故か奴は笑う。


「ヒヒッ……まったく。本当に『奴』かっての。あの噂も嘘じゃなさそうだ」


 そう呟いて、ヘンリーはホルスターにピストルを納めた。


 まさか、降伏するつもりか?


「なあ、ブラザー!あるいはシスター!?俺はもうすぐ死んじまいそうだ!」


 距離十メートルほど。その位置からヘンリーが死にかけとは思えない声量で話しかけてくる。


「勝負しよう!乗らないなら俺はこの位置からでも村に撃つぜぇ!」


「………」


 撃ちたければ好きにしろ。そう返そうとしたが、あの村の住民が全員奴らの協力者とは限らない。脅されただけの者がいる可能性もある。


 ヘンリーの位置から村まで五十メートル近く離れているが、ここは斜め上でしかも遮蔽物がない。


 あいにくとピストルの射程や威力については詳しくないので、この位置から奴が撃った場合それに運悪く当たった村人がどうなるのかはわからなかった。


 別にあの村の住民に恨みはない。この状況から奴に天秤がひっくり返るとも思えないほど優勢でもある。


 ……アリサさんが到着するまでの時間稼ぎとして、話を聞くのもありか?村から敵の援軍と思しきものが出たらすぐに斬りかかるとして。


 立ち止まった自分に、奴はその瞳を輝かせた。


 命の灯が消えかけているはずなのに、その体毛は逆立っている様な気がする。



「決闘さ。わかるだろう?冒険者ならよぉ」



 血まみれの左腕をだらりと下げ、右手はホルスターに納められた銃に触れるか触れないかの位置で保たれている。


 今にも大量出血で倒れそうな奴は、それでも笑みを浮かべたままだった。




読んで頂きありがとうございます。

感想、評価、ブックマーク。励みにさせて頂いております。どうか今後ともよろしくお願いいたします。


今話は少し長くなってしまいましたので、前後にわけました。この少し後に『早撃ちヘンリーとの決闘 後』を投稿する予定ですので、見て頂ければ幸いです。


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― 新着の感想 ―
[気になる点] 明かりがない屋外の暗闇と洞窟の中の暗闇って違いそうなもんだけど。夜目って微かな光でも見えるってことじゃない?
[良い点] 切っちゃうのか!切っちゃうのか弾を!!
[一言] シュミット君リアルラック低そうだなぁ しょっちゅう変態に遭遇するし…
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