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ナー部劇風異世界で  作者: たろっぺ
第一章 剣の少年と銃の少女
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第二十三話 早撃ちヘンリー

第二十三話 早撃ちヘンリー



「まぁさかこんな所で百セルの賞金首に出会えるなんて驚きだなぁ」


「おや、知ってくれているなんて嬉しいねお嬢ちゃん。じゃあ、早く出てきなよ。サインとかあげちゃうよ?」


「いやいや。サインを貰ってもあの世には持っていけないからさぁ、代わりに冥途の土産として色々聞きたい事あるんだよねぇ。例えばさ、この村との」


「リロードの時間はやらねぇって言ってんだよ、お嬢ちゃん」


「っ!」


 銃声が響き、隠れている壁の一部が削り取られる。


「二丁持ちの様だが、少なくとも片方は弾切れかそれに近いだろう?ああ、でも込める弾もあるかわからんし、逃げる算段でもつけていたか。何にせよ、だ」


 足音が三つ、じりじりとこっちに近づいてきている。ヘンリーの位置は変わっていないから、恐らく部下の者達だ。


「俺の手配書知ってんなら、短気で臆病な事も知ってるだろう?売りさばく為に生け捕りを考えているが、『もういいや』って思ったら殺しちゃうかもなぁ」


「……シュミット君」


「ええ」


 アリサさんが先ほど使っていたピストルとは別の銃を引き抜き、ハンマーをあげる。それに合わせて自分も重心を落とした。


 降伏?論外だ。世の中、死にたいと思うほど残酷な行為は山の様にある。奴隷が廃止されているなか、奴の様な輩が持っている伝手など碌なものではない。


 何より。


「生け捕りなんて嘘でしょう。明確に殺意を感じています」


「だろうね」


 おおかた、楽に殺せる状況にしたいからそう言っているだけだ。


 自分で臆病を名乗る賞金首が自分の顔と所在を知っている『獲物』を逃がすはずがない。


「十数えてやる。それまでに決めな。じゅーう、きゅーう」


 こちらの思考力を奪う為のカウントが始まる。手下たちも一端立ち止まり、銃を構える様な気配がした。


 焦って飛び出てきた所を狙い撃つ気だろう。


「『チャージ』『アクセル』『プロテクション』……」


 覚えて数日の呪文を唱え、己を強化する。


『強化魔法』


 極めれば人を超人にできる。……理論上はそうだが、それほどの猛者など聞いた事がないと言われる魔法。


 自分は経験が足らず駆けだし程度の技量しかないが、はたしてどれほどか。



 それを試す意味もこめて、お望み通り出て行ってやろうか。



 剣を右手に、特に構えるでもなく走り出す。通路に飛び出した瞬間、ヘンリーと視線がぶつかった。


 ニヤケ面の癖に目だけは笑っていない奴が、両手で構えるショットガンの銃口はピタリとこちらに向けてきている。


───人は、音速を超えて動けない。


 銃弾を見てから避ける事は真っ当な生物の領域を超えており、それは強化魔法を使った所で変わらない。自分の今の身体能力は人類の限界点に近いだろうが、逆を言えば人を超えた所にまで踏み込めていないのだ。少なくとも、今はまだ。


 では、己に向けられた銃口から逃れる術はないのか?


 否である。人は音速を超えられない。それは、『引き金を引く指』も同じ事。


 ヘンリーの視線と、腕の動きから指の動きを予測。壁を削った一撃の弾痕から、込められているのは十中八九スラッグ弾。であれば、



───ダァン!



「まっ」


「しぃ……!」


 銃弾が放たれる『前』に、避けられる。


 すぐ傍を通り過ぎたショットガンの弾の風圧を感じながら、前へ。距離的に剣の間合いではないが、投擲なら届く。


 抜き打ちで放ったナイフを、しかし奴も反応した。咄嗟に左腕を盾にし、喉を狙った一撃を防いだのだ。


「じかよ、おい!」


 ナイフを受けた衝撃そのままに後退するヘンリー。奴との間にいる三人が、今の攻防に理解が追い付いていない様子ながらもピストルをこちらに向け引き金を引いてきた。こいつらもただのチンピラではないか!


 だが、しかし!


「なっ」


「避けた!?」


 拳銃という物をアリサさんの傍で何度も見てきた。なるほど、アレもまた音速を超えた武器である。射程が短いが、それでも切っ先が音速を超える達人の一突きと考えればその辺の無法者が引き金を引くだけで放てるのだから強力だ。


 であれば、『三人の達人が放つ刺突』を避ければいい。幸い、放つ奴らはどいつもこいつも視線どころか銃口のフェイントなどいれないのだから。


 三発の銃弾を回避し、更に一歩踏み込む。相手がハンマーをあげるより先に、二人の首を一刀で刎ね続けて三人目の右手首を落とす。


「化け物かよ!?」


 そこにヘンリーと残りの部下達が放った銃弾が迫る。流石に躱しきれないと、右手首を失った奴の首を掴んで盾に。


 放たれた数発の弾丸。ショットガンは二発とも撃っているから、死体を貫通してこちらを傷つけるほどの一撃はない。


「シュミット君!」


「はい!」


 銃撃の衝撃に逆らわず、盾に覆いかぶされられる様にして後ろへと倒れ込んだ。開けた射線に、ほぼ一発分の銃声で三連射が通り過ぎて行った。


「おいおい……冗談じゃないぜ」


 巴投げの要領で盾にした奴をどかしながら跳ね起きれば、そこには部下と思しき男を盾にしているヘンリーがいた。


「うん、予定変更だ。割に合わん」


 アリサさんが続けて放つ銃弾を仲間の死体で防ぎながら、奴の右足が素早く壁に伸びる。つき出されたブーツの先には罠の起動スイッチがあった。


 こちらを殺める物ではない。しかしアレはたしか……!


「あーばよぉ!」


 勢いよく天井の一部が落ちてきて通路を塞ぐ。土煙をあげて振ってきた吊り天井の厚みは胸辺りほどもあり、姿勢を低くすれば盾にして走る事もできるだろう。


 その即席の壁に向こう側から何発も鉛玉が飛んできた。牽制のつもりだろう。


 散発的な銃声に混じり足音が遠ざかっているのがわかった。


「シュミット君、無事?」


「ええ。ですが逃げられましたね」


「逃がさないさ」


 流れ弾対策で吊り天井の壁に隠れた自分にアリサさんがスライディングで近づき、地図を見せてくる。


 それを受け取れば、彼女は排莢を始めた。


「私達がまだ行っていない方角から奴らは来たし、逃げても行った。たぶん普段使っているルートなんだよ。そこなら罠の位置把握が済んで処理もしてあるはず」


「こういう時対策に罠を残している可能性は?」


「低いね。そんな逃げ道を安心して使えるほど、ヘンリー一味の練度は高くない。そんな腕があるのならどっかに士官した方が楽に儲けられるもの」


 言いながら弾を込め、ニッコリとこちらに笑みを向けてくるアリサさん。


「で、もぉ。もしも残されていたらそん時はよろしくねっ、相棒!」


「わざと引っかかるのは止めてくださいよ?」


「もちろんさぁ!」


 銃撃の止んだ吊り天井の壁から一瞬だけ顔を出し、すぐに引っ込めて別の位置から頭を出す。


 前世のアクション映画で見た動きをしてみたが、攻撃はない。足音的にも本当に逃げたか。


「では、行きますか」


「おうよ!いやぁ、楽しくなってきたぁ!」


 弾込めも終わったらしいアリサさんが満面の笑みでピストルを手に吊り天井の壁を飛び越え、自分も同じく奴らを追う為進みだす。


 楽しく、か。こういった事を楽しむ気質は持ち合わせていないが、しかしヘンリーの首にかかった賞金は魅力的だ。


 百セル。牛四頭分の値段に加え、彼やその部下達の装備品や貯めているお金。はたして合計すれば幾らになるのか。


先ほど仕留めた三人からの剥ぎ取りは後回しとして、大物の首を狙う。まずは殺し尽くしてから、その後を考えよう。


「ええ、楽しくなってきましたね」


 本質的には、たぶん自分も『あちら側』の人間だ。


 鏡を見ずとも人殺しの笑みを浮かべている事を自覚しながら、ヘンリー一味を追いかけた。



*     *     *



サイド なし



「まったく、ツイていないぜ」


 部下達の手前なんでもない様に言いながら、ショットガンを背中に回し右手で左腕の止血をするヘンリー。


 痛みを誤魔化すため『違法な葉っぱ』の混じった噛み煙草を口に放り込み、突き刺さったナイフを見て彼は相手の力量を考える。


 ほんの数メートルの距離でショットガンの弾を避け、あまつさえ反撃してくる輩を彼は知らない。


 更に瞬く間に三人の部下を斬り伏せた腕前に、一つの名前が浮かんだ。


『ソードマン』


 だが、すぐに首を振る。そう呼ばれる男の手配書は見た事あるが、あんな美しい女とも男ともとれる顔ではなかった。


 しかし、ヘンリーは『悪名高いあの指名手配犯』と同等の存在として黒髪の剣士を位置づけ、内心で大きな舌打ちをする。


 落ち目の鉱山を抱えた村に取り入り、村長とその長男を殺して次男を新しい村長に据えたのは、自分を追う保安官や賞金稼ぎから身を隠すため。


 だが旅人や行商人を襲って自分達の食い扶持を稼ぐには限度がある。そんな時に鉱山で二百年前の研究施設が見つかったのだ。


 運が向いてきたと思えばそんな事はなく、金目の物を探そうとして五人もの部下を失ってしまった。


 十体前後のアイアンゴーレムに数多の罠。尋常な警備ではない。きっと、この施設には何かがあるのだ。しかし自分達だけで攻略するには厳しいと、ギルドに依頼をしたのである。


 ある程度アイアンゴーレムなり罠なりを片付けてくれたのなら、疲弊した所を始末してしまえばいい。その後、村に火をつけて『村長家の次男が地位を奪おうとして暴走した結果』にし自分達は金目の物を持ってそれを元手に帝国にでも行こうというのが、彼の計画であった。


 だが、その目論見も異様に強い時代遅れの剣士と、『早撃ち』の異名を持つヘンリーをして舌を巻く腕をもった金髪の少女に阻まれてしまう。


 どうしたものかと、村長になった次男坊を含めても十人しかいない部下を見ながら彼は考える。


 閉所での戦闘は論外。数と射程の利を活かすためにこの施設から急いで出る必要があった。


 だがその後。あの二人組をいかにして倒すかをヘンリーは考え、


──まあ、最後はなる様になる。


 途中で面倒になって考えるのを止めた。


 そもそも、裕福な牧場主の家に生まれたのに強盗で指名手配された男が思慮深いなどというわけもなく、彼はこれまで悪運と銃の腕だけでやってきたのだ。


 そして、悪運はまだ尽きていない。


 左腕はもう駄目だろう。黒髪の剣士が放った投擲は肉どころか骨さえ砕く一撃だった。腕のいい医者に見せても、切断を余儀なくされるだろう。そもそもこのままでは死ぬ可能性もある。



 だが、右腕は無事だ。ヘンリーをここまで生き残らせてきた、早撃ちを行ってきた右腕はまだ生きている。



「ハッ!ツイちゃいねぇが、悪運ならまだあるらしい」


「お、お頭。どうしやす。ここから」


「お前と、お前。そんで村長は俺についてこい。残りは次の道で左に走れ。二手にわかれるぞ」


「え、けど俺らこの研究所の道覚えていないっすよ!?」


「安心しろ、そっちの道はあの二人組が罠を解除したはずだ。攪乱できりゃあいいんだから、後で来た道を引き返して合流しろ」


「へ、へい!」


 嘘である。


 ヘンリーはこういう時の為に村人の命を使って下見していたルート以外、碌に把握していない。冒険者達を殺した後、マッピングしてあるだろう地図を死体から漁ってそれを使い施設を探索するつもりであった。


 つまり、別行動をして囮にする者達が安全な道を進める保証などないのである。


「さて……囮になるのは俺かあいつらか、これも賭けになるねぇ」


 ぼそりと、部下達に聞こえない声量で呟くヘンリー。


 銃声が、彼の耳に届いた。




読んで頂きありがとうございます。

感想、評価、ブックマーク。励みにさせて頂いております。どうか今後ともよろしくお願いいたします。


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― 新着の感想 ―
[気になる点] 「早撃ち」って聞くと「早漏」を思い浮かべますよね。もしかして……? [一言] 牧場主の子供とかかなりの勝ち組なのに盗賊に身をやつすとか終わってるなぁ……
[良い点] (  ̄ー ̄)フッ 勝ったな。 と呟きたくなる展開ですね、これでヘンリーさんが逃げ切ったらきっと神(作者様)に愛されているのでしょう。 [気になる点] 『早撃ち』のヘンリーさん手配書に載って…
[一言] さあ逃げろ賞金首 後ろから「怪人経験値よこせ」が追ってくるぞ!
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