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ナー部劇風異世界で  作者: たろっぺ
最終章 龍殺し
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第百四十九話 執念と愛情と

第百四十九話 執念と愛情と




 急降下した事で、目の前に凄まじい速さで迫る岩の地面。


 この速度で衝突しようものなら、いかに強化魔法を重ねようが五体がばらばらになる事は避けられない。


 だが、背後から猛追する龍を見ればとても減速はできないのも事実。


 チキンレースは、趣味じゃないんだが……!


 地面との距離およそ五メートル。そこで、体の上下を反転させた。頭から岩にダイブする体勢から、両足を地面側に向ける。


 魔力の翼で発生した揚力に、一瞬だけ意識が飛びかけた。だが止まれない。減速も、できない。


 力のベクトルは、前へ。一切減速しないまま、体を横回転させつつ地面スレスレを飛行する。


 飛んだ後に土煙を巻き上げながらホバーの様に移動すれば、背後から凄まじい轟音が響き渡った。衝撃波でバランスを崩しかけながら、チラリと龍を確認する。


 恐らく地面とぶつかったのだろうが、少しでもダメージがあれば……。


『オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛!!!』


 だが、その様な希望的観測は当然の様に覆される。


 龍はその強靭な四肢でがっしりと地面に立ち、それどころか怯んだ様子すらなくこちら目掛けて走り始めた。


 数歩の助走の後、飛翔。相変わらずの速度でもって、ぐんぐんと距離を詰めてくる。


 やはり、白魔法か銀の武器でなければ傷一つつけられないか。


 何とも理不尽な怪物に辟易としながらも、魔力の翼をはためかせる。両脇を断崖絶壁に挟まれた谷底を、ひたすらに飛んでいく。


 曲がりくねった天然の迷路は、決して狭くはない。だがそれでも龍の巨体からすれば細い道に思える様で。僅かに距離が開きそうになった。


 それは、よろしくない。


 高度を上げられては困ると、体を反転。相対速度の関係で瞬く間に近づいた距離で、鼻先に刃を振るう。


 この剣にも慣れてきた。刀身に魔力を纏わせ、延長。込められた白の力さえ同じく引き伸ばしながら、龍の頭蓋を狙う。


 だが、その程度は効かぬと、相手は一切減速せずに突っ込んできた。


 軽い音をたてて砕ける魔力の刃。対して龍の鼻先には、ほんの小さな引っ搔き傷だけが出来上がる。


「くっ……!」


 開かれた顎がこちらを丸のみにしようと迫り、それを降下して回避。一息に迫る地面を一度蹴れば、爪先から膝にかけて激痛が走った。


 だが、問題ない。まだ飛べる。


 大地を蹴った事で得た加速と、次のカーブで強引に距離を離す。それにより、当初の距離にまで戻した。


 この間合いなら、奴は高度をあげない……と、願うしかない。いかんせん、龍の行動原理をそこまで把握しきれていないのだ。


 挑発の類も通じると思えない以上は、これを続けるしかない。


 背後から振るわれる爪を避ける度に乱気流が発生し、轟く咆哮一つで墜落しそうになりながらも、距離を維持。


 そうして進んで行けば、作戦の『第二フェーズ』を行う地点が近付いてきた。


「っ……!」


 飛行魔法に更なる魔力を流し込み、加速。ぐん、と距離が離れてしまうが、この次のカーブを曲がった先を考えれば問題ない。


 むしろ、この程度の距離では足りない可能性もある。


 壁面スレスレを、横回転する様に軌道修正しながらカーブ。背後を龍が前脚を使って崖を蹴り、こちらに追いすがってくる。


 そうして出てきたのは、一直線の道。一筆で引いたのかと思う様なそこを、一人と一体が飛んでいく。


 真っすぐと続くこのルートは、ハッキリ言って賭けだ。それも、決して分の良いものではない。


 それでも、博打の一つも成功しないようであれば、龍殺しなどという奇跡は起こせない……!



 ───ィィィィィ……!



 背後からガラスの擦れる様な音が響く。


 振り返らずとも、信じられない速度で魔力があの大口に集められているのがわかった。


 硬い唾を飲み込みながら、剣を腰だめに構えなおす。


 タイミングを計り損ねれば死ぬだろう。間違いなく、一欠けの肉片残さずこの世から消滅するのだ。


「やってみせろよ……!」


 己に言い聞かせるのは、相棒がこの場にいたのなら言うだろう言葉。


 ああ、やってみせるとも……!



 ───ィィィィィィンンッッ!!



「しぃぃぃ……!!」


 百八十度回頭っ、背後を正面に!


 気合を、覚悟を、決めたのなら!


 放たれる熱線。眼を焼く様なブレスを前に、集中力を最大まで引き上げる。


 亜竜のブレスすら完璧に受けきれなかった自分が、はたしてその何十倍もの魔力量を捌けるのか。


 あの後、皇帝を殺して得た『経験』は全て魔力の制御に注いだ。それでもなお、これは……!


 迫る業火を、刃で受ける。熱を、呪詛を、魔力の奔流を逃さず捕らえる。


 腕が焦げるのは己が未熟と自戒しろ!この刃が鈍れば勝ち目は万に一つも消えると思え!!


「お、ぉぉ……」


 気づけば、声が溢れていた。


「ぉぉぉおおおおおおおおおお!!」


 体ごと、刃を回す。相手に還す必要はない。それほどの余裕もない。


 ただ、天へ!


 熱線は斬撃へと変わり、そこから先までは制御できぬと空へと(ほう)った。


 爆ぜる様な音と共に駆け抜けた青白い光が、暗い雲の中へと消えていく。遅れて、轟音と共に太陽光すらかすむ程の光源が空に生まれた。


 反動で落下しそうになるも、腕も剣も一切の不調なし。多少の痺れはあれど、未だ万全なり。


 墜落寸前でのバレルロール。鼻先を地面から伸びる岩が掠めそうになりながら、加速。


 もうすぐ直線を抜ける。ほぼ直角のカーブを抜けて、熱の籠った息を吐いた。


 己の背後に追いすがる龍。その紅い瞳がすぐ傍までやってきている。


 先の直線で、ブレスの攻防があろうとも彼我の速度差もあってかなり距離を詰められた。追いつかれるのは時間の問題だろう。


 ───だが。どうやら『場数』の差が出たらしい。


 無駄に長生きな蜥蜴よ。お前の幼体と呼ばれる者達が、教えてくれたぞ。


 無限に等しい魔力を有していようが、一度に出せる量は限られている。それどころか、大技を……ブレスを放つ事は、その強靭な肉体でも幾らかの条件があるのだと。


 無論、あの二体の上位互換と言って差し支えないこの龍ならば、その条件も随分と緩いのだろうが。


 流石に、連射まではできまい?そうでなければ、初手から乱れ撃ちで済んでいたのだから。



「発破ぁ!!」



 曲がり角から聞こえた声。それと同時に、耳をつんざく轟音が響く。


『ギャォォオ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛ッ!?』


 体を反転させて振り返れば、そこでは一斉に起爆された『ダイナマイト』により、崩落した崖が龍の体に覆いかぶさっていく所だった。


 事前の計算で推測されたその重量は、数万トンと聞く。


 あまりの重さにあの龍ですら地面に押し付けられた。まっとうな生命体が、あれに耐えられるものではない。


 だが、まあ。


『………ォォォオ゛オ゛オ゛!!』


 まっとうな生物では、ない。


 完全に岩と土砂で覆われた怪物の唸り声が、確かに聞こえてくる。『ガラガラ』と音をたてて、重しが転がり落ちていく。


 ブレスは一時的に封じたが、はたしてどれ程もつか。この拘束も決して長くは続かない。


 視界の端で、照明弾があげられる。そして、それを発射ながら走っていく一団が。崖を爆破し、龍を生き埋めにした公爵軍と協力してくれたドワーフ達だ。


 脱兎のごとき勢いでトラックを走らせていく彼らに、自分も距離を取らねばと高度を上げる。


 石くれ程度で死ぬのなら苦労はしない。


 これは、ただの()()()


 さて、相棒が倒れる前に守った物の力。とくと見せてもらおうか。



*    *     *



サイド なし



 公爵領。とある山の麓。


 人気もなく、周辺には背後の山を除いて背の高い物体はない。


 そこに敷かれた四本のレールの上。左右一列ずつを占有していた、二台の汽車搭載のクレーン車がどいていく。


 そうして現れたのは、およそ陸上にあってはいけない口径の『大砲』。


 全長約四十二メートル。高さ約十一メートル。重量千四百トン。


 そして、脅威の八十センチ砲!


 公爵家が作り出した『欠陥兵器』であり、『対ドラゴン決戦兵器』。


 列車砲。その名の通り、汽車に戦艦にでも乗せる様な大砲を搭載した、この世界における陸上最大のライフル砲である。


「待っていたぞ、この時を」


 その百メートル離れた位置の指揮所に立つのは、シュナイゼル・フォン・ラインバレル准将。


 ラインバレル家の次期当主たる彼は、一区切りついた帝国との戦いを他の王国貴族に投げつけて、この世界の危機に───何より、愛娘の危機にこの地へやってきた。


「我々は、二百年。この瞬間を待っていた」


 最新式の無線機で連絡が飛び交い、シュナイゼル准将のもとへとつい先ほど『合図』が現場で上げられた事が伝えられた。


 故に、彼をその右手をあげる。


「今こそ!祖先が残した禍根を断つ時!────Fireッ!!」


 振り下ろされた右腕。それを撃鉄としたかのように、この世界最大の大砲は今。


 火を、噴いた。



 ───ゴォッ………!!



 凄まじい轟音と衝撃波が辺りを襲う。百メートル離れていた指揮所にさえ届いたそれに家臣や部下達が咄嗟に耳を押さえ蹲る中、准将だけは静かに砲弾の向かう先を見つめていた。


「頼んだぞ、シュミット卿」


 その声が彼に届く事はない。だが、思いは既に託してある。


 娘を思う父親が、家族を失い続けた彼の一族が放った、その一撃は───。



*    *     *



サイド シュミット



「っ……!」


 飛来した鉄塊……いな、『銀塊』の衝撃波に、距離を取っていたにも関わらず押しやられる。


 空に留まるのは危険であり、何より魔力の消耗をさける為近くの崖上へと着地。両足で地面を踏みしめ揺れに耐えながら、目を先ほどまで龍が埋まっていた場所へと向ける。


 ───ゴォォォ……。


 未だ谷底に反響する轟音。巻き上げられた土煙は、もはや火山の噴煙と見分けがつかない。


 ばらばら、とそこらの崖上や谷底に人ほどもある大きさの岩が降り注ぐ。かの砲撃の威力たるや、龍を覆っていた土砂全てを弾き飛ばし、その下に『固定されていた』奴の体へと届く程だ。


 ……幾度も、公爵家は列車砲の試射を行ってきた。それこそ帝国にその存在を察知される程に。


 だが、どう足掻いても動く目標を狙えるだけの精度はない。であればどうするかとなった結果が、これだ。


 凄まじく緻密な計算と、脳みそまで筋肉が詰まっていそうな思考から出された作戦。


 はたして、その結果は。



 ───ィィィィィィ……!



「!」


 奴から距離を取りながら、手持ちの照明弾を発射。直後、轟音と共に煙が貫かれた。


 放たれた青白い光は無茶苦茶に振るわれ、谷底を抉り飛ばし断崖絶壁を切り刻む。自分が一時着陸した場所も崩れていき、急いで上空へ。


 それによって新たに生まれた土煙。それを掻き分けながら、魔力感知で龍の姿を探す。


 見つけた。未だ、奴の魔力は健在である。あの強靭な四肢で大地を掴み、体長五十メートルを超える巨躯を支えていた。


 だが。


『ォォオ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛……!!』


 土煙が晴れると、奴の口から、そして背から垂れる赤黒い血が部分的にガラス化した地面を濡らしているのが見てとれた。


 そして、数秒遅れて龍の背中にめり込んでいた聖別済みの銀で出来た塊が、『ずるり』と落ちて轟音を響かせる。


 ほんの数分前まで奴の巨体を浮かせ、それどころか時速二百キロ以上の加速を与えていた翼。僅かな羽ばたきのみで空を飛ぶという、物理法則を完全に無視した形ある奇跡。



 それが、銀の塊と共に千切れ落ちていた。



『オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛ォォォォォ……ッ!!』


 激痛か、あるいは威嚇か。


 どちらの意図かは不明ながら、龍が咆哮をあげる。その声量に陰りはない。だが、これまでの様に好き勝手飛ばれる可能性はなくなった。それどころか、奴の口端と傷口からは未だ紅い滝が流れている。



 ラインバレル家の執念と愛情が折り重なった鉄槌は、確かにドラゴンを蜥蜴へと堕としたのだ。





読んでいただきありがとうございます。

感想、評価、ブックマーク。いつも励みになっております。どうか今後ともよろしくお願いいたします。


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― 新着の感想 ―
[一言] 事前登録を読み返して シャイニング卿のレッドドラゴン退治メソッド。 囮気球→谷爆破→大砲のコンボが出てきて吹いた。 ナー部劇でサンライトクロスかっけー!とはしゃいだあと 事前登録読んだら陽…
[一言] おおお、、熱いですねぇ。 この手の巨大決戦兵器は、怪獣に壊されるものと相場は決まっているので、正直あまり期待していなかったのですが、会心の一撃とは。
[良い点] これで機動性は落ちたけど、ムダに頑丈な(汗) 直撃したところに風穴くらい空いてもいいのに。 しかし良く当たったなぁ(  ̄- ̄) [一言] にゃ~ん♪  ∧∧ (・∀・) c( ∪∪ )
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