第百十九話 公爵家の秘密兵器
第百十九話 公爵家の秘密兵器
ラインバレル公爵邸。
王都にも引けを取らない広さをもつ領都の中央にある、茶褐色の城壁に囲われた建物。その大きさは屋敷というより、城と表現した方がいいだろう。
城門を潜れば広大な庭……庭と言う表現があっているのかはわからないが、そこを抜けて城の前に車が停車した。
運転手の男性が開けてくれたドアから降りると、同じタイミングで高さ三メートルはある扉が外向きに開かれる。
「おかえりなさいませ、アリサ様」
ずらりと並んだ使用人さん達が、一様に首を垂れてこちらを出迎えていた。
……世界が違う。
異世界に転生しておいてこういうのもなんだが、まるで異なる世界に来たみたいだ。
今生で蓄えたこの世界の常識が、まるで通じない。
「うん、ただいまー」
それに対し、特に気にした様子もなく入城するアリサさんはやはりお嬢様なのだろう。
お馬鹿様だけど。
「おうシュミット君。君今なんか失礼な事考えなかった?」
「いえ、とくには」
「ほんとかぁぁん?」
胡乱な眼で見てくるアリサさんに、軽く頷いて返す。
「はい。私は貴女様に対する正当な評価を心の中で述べたまでにございます」
「あ、その喋り方やめて。なんかやだ」
「えぇ……」
本気で嫌そうにするお馬鹿様。
こちらは貴女の家に仕える名誉騎士なのですが……?ご実家でまで普段の態度は色々と問題があるだろう。
「───儂が許可する。楽にせよ、シュミット卿」
ずるりと、地を這うように重々しく、同時に強い覇気が込められた声。
敵意も殺意もない。むしろ好意すら感じるのに、自然と自分の背筋は伸びていた。
「あ、お爺様。お久しぶりです」
あっけらかんと言うアリサさんの視線の先。階段をゆっくりと降りてくる老人と、目が合った。
オールバックにされた長い白髪に、胸元まで伸びた白い髭。動きづらいだろう丈の長い黒いローブ姿でありながら、その足取りと姿勢はそこらの若者と比べても凛としている。
そして、鷹の様に鋭い紺碧の瞳。その顔を自分は知っている。肖像画や写真で見たものと同じだ。
『セオドア・フォン・ラインバレル公爵』
ゲイロンド王国で二番目に高い地位をもつ男。
「よく帰ったな、アリサ」
「はい。ただいまです。お爺様」
「アリサよ……」
ギラリと、公爵の瞳が輝く。
その低い声に、自分の頬に汗が流れた。
「昔の様に『じぃじ』とは呼んでくれんのか」
あ、別の汗流れてきちゃった。
どういう汗かって?この国大丈夫かなって心配な汗です。
「いやぁ、流石にこの歳で『じぃじ』呼びは恥ずかしいですよ」
「だが、お爺ちゃんは悲しい。アーサーもそう呼んでくれないし、孫達は儂の事が嫌いなのか……?」
「好き嫌いじゃなくて、純粋に年齢の問題です。お爺様」
「それでも寂しいものは寂しいのだ。ひ孫達とは中々会う時間を作れぬし。じぃじ、泣きそう」
公爵閣下に相応しい顔面と声でクソボケ老人している人物に、お馬鹿様の血筋を実感せざるを得ない。
思えば、ラインバレル家の人間ってこんなんばっかだな……。アリサさんは言わずもがな。アーサーさんはお馬鹿様三号で、シュナイゼル子爵も『パパ泣いちゃう』だったし。
本当に大丈夫なのか、公爵家。
これで全員能力はあるのがなんか腹立つ。
「まあまあ。シュミット君も困惑していますし、立ち話はこのぐらいにしときましょうよ」
お馬鹿様、違います。困惑しているんじゃなくって、将来に不安を覚えているだけです。
言わないけども。他の使用人さん達の目もあるし。
「うむ。それもそうだな。『公爵家の宝剣』を出迎えるのに、これではいかん」
……なんか変な名前で呼ばれた気がする。
人違いかなとも思ったが、公爵閣下の目がハッキリとこちらに向けられている。
「儂の部屋に案内しよう。ついてまいれ」
「はーい。いこ、シュミット君」
「はい」
色々と思う事はあれど、公爵閣下に名誉騎士の分際で何か言うなどありえない。とりあえず彼の後に続く。
初老の執事さんも一人ついてきて、公爵の傍にいるのだが……階段等で彼の手を借りる様子はない。
公爵は六十代後半のはずだが、見た目は七十後半で通じる程に老けている。だが、骨や筋肉は反対に実年齢より若い様だ。
「普段はエレベータで行き来するのだが、偶にはこうして足を使うのが健康の秘訣である」
「は、はぁ……」
こちらの視線に気づいたのか、公爵がそんな事を言ってきた。
エレベータまであるのか、この城……。
広い城の中を歩いていき、彼の執務室にたどり着く。執事さんが開けてくれたドアから中に入り、公爵が座る椅子の前。部屋の中央辺りで自分は直立不動になる。
……なんか、アリサさんは部屋にあったソファーへと自然な様子で座っていたが。
「楽にせよ、シュミット卿。貴公を立たせたままなのは心苦しい」
「はっ。いえ、自分は……」
「よい。座れ」
「はっ」
二度も言われては断れないと、アリサさんの反対側に腰を下ろした。
すると、メイドさんがお茶を持って来てくれる。それを軽く会釈して受け取った。
「さて、何から話すとするか。そうさな。ではアリサが儂を始めて『じぃじ』と呼んでくれた時のことを」
「いや、仕事の話をしようよお爺様。王国は今わりとピンチだからね?」
「しゅん……」
おいこの爺口で『しゅん』って言ったぞ。
「これ以上は孫に本気で嫌われてしまうかもしれん。真面目に話すとしよう」
そう言って、公爵の雰囲気が少しだけ変わった。
自分もどうにか思考を切り替え、仕事の頭へと変える。
「帝国のウェンディゴなる特殊部隊が我が領内に侵入した。アーサーが公爵軍百人を連れ攻撃し、三十一人のうち二十五人を討ち取っている」
「それは……」
もう、自分達のする事はないのでは?
何とも肩透かしな話だが、安全なのは良い事だ。もしかしたらゆっくりできるかもしれない。
だが、公爵の雰囲気からそれで終わる話ではない事を察する。
「問題なのは、残りの六人である。正確には、四人かもしれんがな」
「お爺様、それはどういう事?」
「お主らもウェンディゴ隊が死人の顔を剥ぎ変装に使うという話は聞いておるな?」
「はい」
「それを主にやっている男。ウェンディゴ隊の隊長である男を、アーサーは逃がしてしまったのだ」
公爵が、一度紅茶を口に含んだ。
「……それも無理からぬ状況だったと儂は思っている。なにせ、アーサーの奇襲で死んだはずの敵隊員が、奴の手で蘇り足止めを行っていたのだからな」
「……つまり、噂は本当で奴は黒魔法使いだったって事ですね?」
「そうだ」
アリサさんの言葉に公爵が頷く。
「アーサーは今、教会への報告と被害の確認。そしてウェンディゴ隊の生き残りを捜索している。だが、知っての通り戦争中だ。動かせる人間は多くない。故に、少数精鋭が必要となった」
公爵の視線がこちらに向けられる。
その瞳を、真っすぐ見つめ返した。
「シュミット卿。貴公の戦いぶりは息子と孫からよく聞いておる。頼りにしているぞ」
「はっ。全力を尽くします」
「うむ」
深く公爵が頷き、傍に立っていた初老の執事さんへと視線を向ける。
それに答える様に、彼が一通の封筒をこちらに渡してきた。
「ウェンディゴ隊が狙っている物の確認の前に、話しておきたい事がある。……貴公の出身は、開拓村らしいな」
「……はい」
公爵の言葉に、苦い思いが表情に出ない様堪えた。
名誉騎士として名を上げた以上、出自に関して何か言われるかと思い警戒したのである。
だが、内容は違った。
「……貴公が生まれた村の現在を、知ってはおるか?」
「……?いえ、存じ上げません」
「そうか……」
公爵が、少し迷った後に口を開く。
「シュミット卿の村は、消滅した」
「………そう、ですか」
彼の言葉に、そうとしか答えられない。
「貴公を名誉騎士として取り立てる際、軽く身辺調査を行ってな。別の貴族の領地だった故時間がかかったが、確認が取れた頃には既に無くなっておった。生存者も、おらん」
「……原因は山から降りて来きた熊でしょうか?」
「うむ。確認に行った部隊が現地で仕留めた熊の胃袋から、人骨が見つかっておる」
内心で、だろうなと納得する。
自分が村を出る前に若い雄の熊が今生の両親を食い殺している。更には、あの村の狩人は少ないうえに質もそこまで高くない。
人の味を覚えた熊に蹂躙されるのは、当然だったとさえ思えた。
「……ショックは受けておらんのだな」
公爵の言葉に、少しだけ迷ってから答えた。
「薄情な男と思われるかもしれませんが、これと言った動揺がないのは事実でございます」
こちらを心配そうに見ているアリサさんに一瞥してから、言葉を続けた。
「両親は既に死んでおり、その事は受け入れておりました。開拓村にいた友人は、もっと前に亡くなっています。兄夫婦はいましたが、仲が良かったわけでもありません。悲しもうにも、そうするだけの思い出のある相手がいないのです」
「……そうか」
自分の言葉に、公爵は目を瞑り唸る様に呟いた。
「貴公が生まれ育った開拓村は、王国では普通のものだと聞いた。正直、我が領の開拓村との違いに驚いた自分が未熟に思える。あの環境で過ごした貴公に、儂から言える事はない」
「……公爵領の開拓村は違うのですか?」
彼の言葉が気になって、不敬かもしれないが尋ねてみた。
すると公爵は特に気にした様子もなく頷き、執事さんに視線を向ける。すると、彼が執務室の壁にある本棚から資料を纏めたと思しき本を一冊持ってきた。
「そこに、今年の開拓村に関する記録が書かれている。儂も視察に行ったから、間違いない」
「……拝見します」
執事さんから受け取り、中身を確認した。
そして、すぐに後悔する事になる。
……見るんじゃなかった。
大変そうに、肉付きのいい男達が木を切り倒し運んでいる。
恰幅のいいおばさんから、若い女性までが一緒に布を織っている。
そして、子供たちが元気に走り回っている。
それらの写真は、恐らく特にこれといった加工はされていない。服装や雰囲気から、この日だけ撮られても問題ない様に過ごした様子もない。
そして、それらの写真が貼られているページの文章にも違和感がなかった。
つまり、公爵家の開拓村はこれが『普通』なのだ。
犬の様に地面を掘る事も、人買いがやってくる事も、子供らが使い捨てられる事もない。
ああ、本当に……見るんじゃなかったなぁ。
「シュミット君」
アリサさんの言葉に、数秒だけ目を強く閉じる。
「……恐れながら公爵閣下。私の村は、王国においては普通なのですね?」
「開拓村というカテゴリーではな。儂の領地のは違ったが……それは偏に、余裕があったからであろう。最初に動かす資産があり、人手もあった。故に開拓村の在り方自体が異なる」
この資料にも書いてあったが、公爵領では開拓村には志願者のみが移住しているらしい。
食い詰めた貧乏人や行き場のない犯罪者の流れ着くものではなく、ある程度は身元の知れた者ばかりとか。
同じ開拓村でも、こうも違うのか。
王国では自分のいた開拓村の方が普通で、公爵家のそれが異質。そう言って貰えて、どうにか冷静さを取り戻す。
ああ、まったく。仕事の前に見るべきではなかった。
「失礼しました、閣下。御身の統治の素晴らしさに、このシュミット。感動のあまり言葉を失っておりました」
「……よい。儂も、少々考えが甘かった」
執事さんに本を返し、一礼する。
それに対し、公爵が困った様子で視線を泳がせた。
この人もたぶん、善意で自分の村の事を教えてくれたのだろう。故郷が滅んだ事を知らないままなのは、哀れだと。
その『価値観』が間違っているとも生温いとも思わない。むしろ、貴族としては平民相手にかなり寄り添ってくれている。
公爵という立場に、開拓村への理解など己の領地の分だけでも十分すぎる。本来、知らなくても良い事なのだから。
故に、これは彼の誠意だ。そこに自分が悪感情を抱く事はない。
強いて言うのなら、転生させた女神様に言いたい文句が増えただけである。
開拓村に転生させるにしても、公爵領の村にしてくれと。
「……そろそろ、ウェンディゴ隊が狙っておるだろう『兵器』の場所に行くか。お主らには把握しておいてもらいたい」
「はっ」
公爵に続き、執務室を出る。
その時、アリサさんがこちらの袖をつまんできた。
視線を彼女に向ければ、珍しく困った様な笑みを浮かべている事に気づく。
……そういう顔をされても、こちらこそ困ってしまうのだが。
だが、アリサさんに心配されるのは何となく嬉しくもあり、同時に若干イラっときた。
なので、軽く肩をすくめて苦笑で返す。それに対しこちらの心境を察した様で、彼女も同じように苦笑だけ浮かべた。
お馬鹿様が心配する様な事ではない。自分はいつも通りだ。
「……時にシュミット卿。貴公は自分がどの様に呼ばれているか知っているか?」
歩いていると、公爵が振り返る事なくそう聞いてきた。
「はっ。『ソードマン・キラー』や『剣爛』。あるいは『亜竜殺し』と呼ばれた事があります」
「うむ。その名の中にな、新しく『公爵家の宝剣』というのが加わったぞ。帝国では『ハンテッド川の悪夢』と呼ばれているがな」
「は、はぁ……」
ハンテッド川という事は、塹壕に突撃した件か。
「戦時故、分かりやすい王国軍の勝利は国内外に喧伝しておってな。貴公の名と顔は既に王国中で知られている。まあ、それは元からであったが」
「私が王国の勝利に少しでも貢献できたのなら、それは嬉しい限りですが……」
「少しどころではない。『アレ』をあの戦場に持っていけなかった以上、貴公の働きは城の一つや二つ与えられてもおかしくない大手柄である」
「恐縮です」
「……ねえ、お爺様。その『アレ』ってやつが、ウェンディゴ隊が狙っているものなの?」
「うむ」
「かぁわいぃ孫にそろそろどんな物か教えてくれません?」
「やだ。実物を見せてドヤ顔したい」
「ぼけ爺」
「やめよ。じぃじ泣くぞ」
自分でじぃじとか言わないで下さい、公爵閣下。
それにしても『公爵家の宝剣』、ねえ。
この身は公爵家の名誉騎士なので何も間違っていないのだが、少し引っかかる。
何だか、こう……『堀は埋められている様な感覚』とでも言えばいいのか。言葉として形容しづらい。
籠城戦などした事がないのに、何故その様に思ったのか自分でも不思議である。
お馬鹿様と公爵が馬鹿な会話しながら歩いていき、城の裏手に出て車に乗り込む。
……今更ながら、敷地内を車で移動しなきゃいけないってだいぶヤバいな。大きすぎだろう、公爵家。
城から車で十分ほど移動すると、巨大な倉庫が見えてきた。
前世で言えば体育館幾つ分か。だが、今は倉庫ではなくその前に停められている物にこそ注目が集まる。
「大砲がのった……車……?」
それらを見たアリサさんが、呟いた。
車がそれらの近くで停車し、待ちきれないといった様子で真っ先に降りた公爵がこちらへ振り返る。
「見よ!これこそが公爵家が四十年かけて開発し、遂に完成させた新兵器!動く要塞、『戦車』である!!」
そう、戦車である。
六十四ミリの装甲に、七十五ミリのライフル砲を搭載した車両。履帯の巻かれた車輪は大きく、車体は更に大きい。
幅三メートル五十センチ。全長約九メートル。全高は三メートルほど。その重量はなんと四十トン。
巨象とも言うべき陸戦兵器が、そこにあった。
「え、ええ……なに、この、なに。こんなのをうちは作っていたの?」
「気に食わんか?」
「いや、めっちゃいい!なんかロマンを感じる!!」
「そうであろうそうであろう」
アリサさんの言葉に満足そうな笑みを浮かべて頷く公爵閣下。
「わー、なにこれ、なんで車輪にベルト巻いているの?というか、装甲ぶあつ……やけに斜めに装甲が貼られてる?ああ、そっか。こうした方が力の向きが……それ以上に厚さが増すのか」
「流石我が孫。よい着眼点である。ちなみに、デザインはそこのシュミット卿が行った」
「え、いえ。デザインと言っても、多少口を出した程度ですが」
「その多少の口出しで、二十年は時間の短縮ができた。誇れ」
「は、はい」
公爵の言葉に、戸惑いながらも頷く。
何となく気恥ずかしいし、これを作ったであろう人達に若干申し訳ない。
「これが侵入したウェンディゴ隊が狙っているっていう兵器なの、お爺様」
「いや、恐らく違う」
「えっ。じゃあなんで見せたの」
「孫の反応が見たかった。昔と同じようにはしゃいでくれて、儂嬉しい」
「はっはっは、この爺」
「じぃじと呼んでくれ」
若干青筋を浮かべているアリサさんに、動じた様子もなく公爵は爪先を倉庫へと向ける。
この倉庫、よく見れば片側の壁から四本の『線路』が伸びていた。
まさか、ここで組み立てて運びだすのか?
そう思い線路の先を見ると、白を囲う城壁に繋がっており方角から駅にまで伸びているのがわかる。
……改めて思うが、どんだけ大きいんだ。公爵家。
いつの間にか作業員らしき人がスイッチを操作すると、倉庫のハッチが重い音をたててゆっくりと両側に開いていく。
「あの戦車らは、『サポート役』に過ぎん。公爵家の……王国貴族の悲願とも言える『龍殺し』。それを叶えるため、我らが作り上げたこれこそが真打である」
倉庫内の照明がつき、中の様子を照らし出した。
「刮目せよ!これこそが、龍殺しを成す魔銃なり!!」
───それは、一見機関車にしか見えなかった。
全長四十二メートルの車体に、高さは十一メートルほど。かなり大きいが、しかし自然と目が吸い寄せられるのは車体上部に取り付けられた、巨大な砲だ。
「これは……!」
「八十センチ砲を搭載せし、戦闘列車!その名も、『列車砲』である!!」
『列車砲』
前世においてはアメリカの南北戦争にて初めて実用化された兵器であり、その大砲は本来陸上での使用が困難な戦艦の主砲に匹敵する。
数十キロ先にまで砲弾が届き、その口径に見合う……いいやそれ以上の破壊をもたらす化け物じみた存在。
技術レベルを考えればこの世界でもあっておかしくない物だったが、技術の成長の仕方が前世とは違ったせいか未だ誕生していなかった。そう、この時までは
帝国がこれを脅威に感じ、破壊を狙うのは龍殺しに対する警戒だけではあるまい。それほどに、列車砲とはこの世界の常識から見て常軌を逸した新兵器なのである。
「大きい……お爺様、これは……!こんなものを……!?」
驚いた様子で、しかし上手く言葉にできない様子のアリサさん。
その姿に公爵と二人して頷き、口を開く。
「まあ数十年もしないうちに置物になりますがね!」
「えっ」
「うむ!!」
「ええ!?」
驚愕するアリサさんをよそに、公爵と頷き合った。
なんならこれ……実はまだ完成していないぞ。いや、本体は完成しているのだが、『弾頭』の方が……。
間に合うかなぁ、龍殺し……。
読んでいただきありがとうございます。
感想、評価、ブックマーク。創作の原動力とさせて頂いております。どうか今後ともよろしくお願いいたします。
Q.なんで戦車があるのに塹壕戦で使わなかったの?
A.使わなかったのではなく、使えなかったのです。
主にその原因は、『道』にありました。
公爵領は王国の『南西』。対して東部戦線は『北東』。ほぼ対角線上にあり、最短ルートを通ろうにもそちら側には山が複数あって迂回する必要があります。
作中世界の戦車はまだ足回りが強くなく、走っていくと戦場につくまで何回壊れるかわかりません。
また、列車で運ぼうにも戦車は重く兵器としては繊細な部類に入るので、簡単には運べない事情があります。特に、作中の物はリアルのより古いので。
更に言えば、ちゃんと線路を敷けていない貴族の領地も道中ありますし……。
結果、戦車が戦場に到着するのは早くても『一カ月後』。その間に帝国も準備を整えていますので、ドラゴンが来る前に戦争を終わらせるのはほぼ不可能になります。
なら西部戦線に参戦すればいいとなるかもしれませんが、こっちは王国でも『開拓中』ばかりで道が碌にないのです。場合によっては東部戦線以上に移動で時間がかかるかもしれません。
そして戦場についても新兵器なので、川をきちんと渡れるかの不安もありました。結果、作中で使う事ができなかったのです。
帝国軍
「ぶっちゃけうちの勝ち確盤面だったんだけど?転生者はレギュ違反にしない?」
公爵家
「ある戦場で突然シュミット卿が突撃してきて斬りまくって突破されるようであれば、それは十分に練られた作戦とは言えない」