第百七話 貴方ほどの強者はいませんでした
第百七話 貴方ほどの強者はいませんでした
雄叫びと共に突撃してくるダミアンに対し、剣を後ろに引き絞る様に構えた。
相手は吸血鬼。ならば短期決戦をしかける!
「『サンライト・クロス』!」
突如発生した、夜の地上を照らす疑似的な太陽光。人間相手ならば目くらましに、アンデッド相手ならば更に瞳を文字通り焼きかねない輝き。
だが。
『オ゛オ゛オ゛オ゛!!』
止まらないか……!
勢いそのまま振り下ろされたバルディッシュの一撃を避ける。石畳の地面が砕け、衝撃波で体が吹き飛ばされる。
なんだこの馬鹿力は!?
噴火でもあったかの様に舞い上がった土煙と石畳の破片。たたらを踏む様に着地しながら、どうにか視線だけ奴がいる位置に向け続ける。
直後、土煙を引き裂いてこちらの吶喊してくる影を捉えた。
姿をハッキリと見る事は叶わず、半分勘で相手の刃に刀身を合わせる。両腕が持って行かれそうな重さを受けながら、斜め上に剣を振るって相手の斬撃を受け流した。
世界からのバックアップは機能しているはずだ。再現の中でも可能な事にやってから驚いたが、それでもなお圧倒的なまでに力負けしている。
確かに前戦った時と比べて自分用にした分出力は下がっているが───それだけではこの膂力の差は説明できない。
『ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛───ッ!!』
人よりも獣に近い雄叫びをあげて自身を支点にバルディッシュを振り回し、石突きを横殴りに放ってきたダミアン。
その一撃を上半身だけ仰け反らせて回避すれば、続けてバルディッシュが首を刎ねにきた。
屈んで回避しながら、脇を通り過ぎざまに右膝裏へと剣を振るう。
しかしこちらの動きは読んでいたらしく、僅かに足がずらされて膝横の板金で防がれた。
騎士甲冑との戦いではあの板金を叩いて歪ませ動きを封じたと聞くが、硬い!ダミアンの鎧は、通常のそれとは異なる!
地面を抉り飛ばしながら振り向き様に放たれる斬撃。それを剣で受けながら、地面を蹴って勢いに逆らわず跳躍する。
タイミングは完璧だった。だと言うのに両肩は異音を発し、あまりの膂力に体は遥か後方へと吹き飛ばされる。
二、三度石畳をバウンドし、片膝をつく様にして起き上がる。
バルディッシュを構え直すダミアンへと剣を向けながら、己を落ち着かせようと大きく息を吐いた。
技量と言う点で見れば自分が有利。老齢の頃の狡猾さや動きの『上手さ』は奴にない。
だが、それを補って余りある身体能力。駆け引きもなしにひたすら人外の力を押し付けられるだけで、かつて戦った時以上の戦力差を実感させられる。
吸血鬼相手に長期戦は圧倒的不利である事が明白な為、本来ならこちらから攻めるべきだ。
だと言うのに、踏み込む隙がない。あの圧倒的膂力と頑強さを前に、いったいどうやって攻略しろと言うのか。
そう悩む時間も、相手は与えてくれない。
『オ゛オ゛オ゛オ゛……!』
手堅く中段で構えられていたバルディッシュが、突如赤黒い魔力を纏う。
その魔力量たるや、亜竜のブレスすら上回る。
「なっ……!?」
『ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!』
ぐるりと頭上で一回転させた後に放たれる、横薙ぎの斬撃。刃が纏っていた魔力が、その動きと共に解き放たれる。
瞬間、視界が赤黒く染め上げられた。
「ぐっ、ぅぅぅ……!」
咄嗟に地面へと体を投げだした自分の頭上を通り過ぎた、魔力の塊。その風圧に体が浮き上がりそうになるのを必死に堪える。
思わず視線でその斬撃の軌跡を追えば、石造りの頑強な城へと直撃するのが見えた。
轟音が月夜に響き渡る。爪で砂の城を引搔いたかの様に削れる城壁。耳をつんざく破砕音と共に瓦礫が降り注いで、地面に落ちる度に石畳を叩き割った。
その崩壊に巻き込まれまいと跳ね起きた視界の端で、ダミアンがバルディッシュを腰だめに構えているのが見える。
「嘘だろっ……!?」
『オ゛オ゛オ゛オ゛……!』
その構えと魔力の動きから察するのは、第二射。
確信を得ると同時に放たれた斬撃を全力で駆ける事で回避。背後で起きた衝撃波と遅れてやってきた爆音に背を押され、その加速も利用してひた走る。
止まれば死ぬ。諦めても死ぬ。敵は───ッ!?
突如目の前に現れる騎士甲冑。横薙ぎに振るわれたバルディッシュを剣で受けるも、いなす余裕がない。掬い取る様に吹き飛ばされ、崩れた城壁から城内に叩き込まれた。
続けて、魔力の微細な動きに反応し横へと飛び退く。間髪入れずに自分がいた位置に振り下ろされたバルディッシュが床を砕いた。
『ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!』
怨嗟の雄叫びを上げながら放たれる追撃を辛うじて受け流し、避け、後退しながら先の攻撃を思い出す。
間違いない。アレは『短距離転移』だ。地面を駆けた音も、その衝撃もなかった。今の奴に歩法のみでそれらを誤魔化す事はできないはず。
一撃一撃が必殺の斬撃を受けながら、全身から汗を垂らす。
これ程の怪物が、戦闘の最中に転移まで操ってくるのだ。いったい、どうやって……!
「しぃぃ……!!」
『ガア゛ア゛ア゛ア゛!!』
怖気る暇があれば戦え!剣を振るえ、相手を観察しろ!
己を叱咤し、バルディッシュに刃を合わせる。ダミアンの動きはあの夜のものとは僅かに違えど、根っこの動きは変わらない。既知の体捌きである。
であれば、適応してみせろ……!この怪物に!
上段からの一撃を受け、あえて両足で踏ん張る。
己を遥かに上回る膂力。全身が絶叫をあげるのを感じながらも、確かに受け止めた。陥没した床に足を埋めながら、全身のバネを使って弾きあげる。
甲高くも重く響く金属音。片足を床から抜きながら、剣を戻す。
『ガア゛ア゛ア゛ア゛!!』
だがこちらが構え直す頃には、既にダミアンが次の攻撃に入っていた。
己の体を軸とした、横薙ぎの一撃。
それは───既に見た!
「っ……!!」
鍔近くで受けながら、体を後ろに投げだす。未だ床にめり込んだ片足が脱臼寸前になりながらも、衝撃を逸らす事に成功する。
そのままその足を起点に回転し、狙うは甲冑の隙間。左肘。
自分の剣腕のみでは足りない。ならば、相手の力を利用する。
後ろへ倒れながら放った斬撃に攻撃を受けた勢いをのせ、装甲の隙間に滑り込ませた。板金を割り肉を裂いて骨を断つ。
『オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛!!??』
吸血鬼の絶叫が木霊し、紫がかった血が飛び散る。返り血を浴びながらも左手一本でバク転する様に立ちあがり、続けて刺突を相手の顔目掛けて放った。
面頬の下部にある足元を見る為の隙間を狙うも、切っ先は相手が飛び退いた事で小さな火花を散らせるに留まった。
『ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!』
再生しない左腕への嘆きか、単に痛みによる絶叫かをあげるダミアンが、右手一本で握るバルディッシュの穂先に魔力を纏わせた。
それをこちらに振り下ろすも、片腕では制御が効かないらしい。荒れ狂う奔流となって、魔力が無差別に撒き散らされる。
「がっ……!?」
壁や天井を削る赤黒い奔流から逃れるも、飛び散った瓦礫が腹部を直撃した。胃が押し潰されるのを感じながら、こみ上げてきた胃酸を飲み下す。
続けて大小様々な石礫が襲い掛かってくるのは、どうにか腕で頭を守った。
その状態で敵はどこかと視線を巡らせた直後、魔力の揺らぎ。反射で振り向き様に剣を薙ぎ払うも、空を切る。
獣の様に身を低くしたダミアンの姿が、背後にあった。
床の石畳を抉り飛ばしながら振り上げられるバルディッシュ。咄嗟に穂先の根元である柄に足を乗せ、両断される事は避けた。
打ち上げられ背中に迫る天井に体を反転させ足から着地し、即座にそれを蹴って窓へ跳んで外に。直後に天井が赤黒い魔力でぶち抜かれた。
城の外に出た後、息をつく間もなく窓を突き破って一本の腕が伸びてくる。魔力で構成されたその左腕を咄嗟に斬り払うも、それは即座に形を取り戻しこちらの体を掴み取った。
「まずっ」
そして、放り投げられる。空中で手足を振り回し壁にぶつかるのは回避し、三階の窓へと背中から跳びこんだ。
衝撃に顔をしかめながらゴロゴロと床を転がり、立ち上がる。
かと思えば床の一部が吹き飛び、一階にいたはずのダミアンが跳び出してきたではないか。
『ガァァァ……!!』
しっかりと両足で降り立ち、奴は魔力で構成した左腕も使いバルディッシュを両手で構える。
「何でもありか、お前は……!」
『ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!』
こちらの愚痴に咆哮で答え、吸血鬼は襲い掛かる。
重戦車の如くひたすらに前進し刃を振るうダミアンに、こちらは壁も天井も足場にしながら後退と防戦を繰り返す。
剣で流し、籠手で逸らし、足裏で石突きや柄を蹴って逃れる。
直撃は一度も受けていない。だと言うのに全身の関節と筋肉が悲鳴をあげ、骨に幾カ所もヒビが入っていく。自分から飛び散った血が、砂埃と共に城を汚していった。
生物としての規格が違い過ぎだ。攻撃がかすめただけで肉が抉れる。
上に弾いたバルディッシュの刃が天井を打ち砕き、狭い場所でこれ以上は付き合っていられないとできた穴に自分はすぐさま跳んだ。
そんな事を繰り返して、あっという間に城の天井を突き破って外へ出る。
さて、閉所での格闘戦は不利と悟って上に来たものの……。
『オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛!!』
「まあ、飛ぶよな……」
魔力で構成した赤黒い翼を背で羽ばたかせ、ダミアンが空を舞った。自分がかつて戦った時とは違い、あの翼も健在である。
急速に高度をあげ、旋回しながら奴をこちらに左腕を向けてくるダミアン。次の瞬間、詠唱もなしに赤黒いジャベリンが多数展開される。
その数、およそ百。一瞬天が覆われたのかと錯覚する密度に、歯を食いしばった。
『ギィィア゛ア゛ア゛ア゛!!』
血を吐く様な雄叫びと共に、赤黒いジャベリンが自分目掛けて降り注いだ。
城の天井を全力で駆け、尖塔を盾にして凌ごうとする。だが壁を貫通した穂先が迫り、それらを剣で迎撃。
第一波はそれで防ぎきるも、続けて第二波がきた。さながら戦闘ヘリの機銃掃射の如く魔力のジャベリンが補充されては放たれる。
それが何度も繰り返され、あっという間に城の屋根は風穴だらけとなり自分も六階の床に落とされた。
「がほっ……」
立ち込める粉塵にせき込みながら、瓦礫の上で剣を杖に立ち上がる。
いつの間にか幾本か刺さっていた様で、脇腹には風穴が開き無事な所を探す方が難儀な程全身血まみれになっていた。
治療している暇はない。魔力制御で、どうにか止血だけは済ませる。
そうして顔を上げれば、随分と見晴らしのよくなった城をダミアンが見下ろしてしていた。
ジャベリンの掃射をやめ、こちらの位置を探る赤黒い騎士甲冑。それに向け、白魔法を付与したピックを投擲する。
鎧の隙間を狙ったそれは、しかしバルディッシュに叩き落とされた。
『ガァァァア゛ア゛……!』
見つけたとばかりに声を漏らす奴に、あえて隠れもせず一歩前へ出る。
───業腹ながら、真っ向勝負で勝ち目はない。故に、『賭け』に出る。
「どうした、蝙蝠。夜だと言うのに敵の姿を見失っていたか」
嗤う。あの夜こいつの息子を騙す為に習得した『演技』の技能まで使って、全力の嘲笑を浮かべてみせた。
相手は吸血鬼。この月夜だろうと、あの赤い目はこちらの顔と唇を確かに捉えているだろう。
現に、ジャベリンは止まり奴の右腕が僅かに震えているのだから。
「とんだ下手糞だな。こちらは未だ手足の一つも失っていないぞ?身体のバランスが悪いんじゃぁないか?」
『ッ………!!』
「上手くもないのに槍ばかり投げて……そんなに恐いのか?剣の届く場所が」
嘲笑から、不思議そうな顔に切り替えて。
天を舞うヴァンパイアロードを見下した。
さあどうする。今時この程度の見え透いた挑発、子供だろうと聞き流す。
だがそれを言った相手が同種の子供以下と見下す人間であったのならば、如何に。
あの夜戦ったダミアンならば間違いなく通じない。しかし、若かりし頃のあいつならば。それも、会って早々『愛する者でも殺された様に』怒り狂って動きに精細さのない今のダミアンならば。
はたして、この賭けは。
『ガァア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛───ッッ!!!』
僕の勝ちだ。
ダミアンの雄叫びが夜空に響き、奴の体が一瞬でトップスピードにのって上昇。雲の高さすら超えて、更に上へ。
自分の視力では姿を視認できない程の高さに上ったダミアンの魔力が、ある高度で数秒だけ止まったのを感知する。
それに対し、両足を開いて重心を落とした。
「ふぅぅぅ……」
賭けには勝った。だが、戦いは終わっていない。
今よりこちらを斬り殺す……否。粉砕する為に落下してくるダミアンを迎撃する必要がある。
奴は亜竜よりも強い。だが、あの時と違って心臓を抉りだす必要などない。ただ、斬ればいいのだ。
故に今だけ。自分様に改変した聖女の技を彼女のそれへと切り替える。
一撃。一刀でもって殺しきる。さもなければ、死ぬ。次などない。連撃を叩き込む余裕もなし。
音すら置き去りにして迫る怪物を見上げ、息を大きく吸い込んだ。
そして、絞り出す様に吐き出す。
「しぃぃぃ……!」
───地上に太陽が顕現する。
刀身を覆う光が目を焼かんほどに強まり、白銀は邪悪なるもの全てを滅する。
ただ握っているだけで指も腕も砕けそうな剣を腰だめに構え、全神経を魔力制御と探知に集中させた。音の壁を何枚も破った今のあの男に、五感では間に合わない。
第六感、魔力の領域でもって捉えるのだ。
輝ける白光。それに向かってくるダミアンの魔力を捕捉する。不死者にとって天敵たる太陽に跳びこむような暴挙に、しかし奴は一切減速しない。
本当に、とんでもない奴だ。
こんな時だと言うのに漏れ出そうな苦笑を堪えて、この一撃に集中する。
そう、この一瞬。一太刀だけは、彼の聖女に匹敵しなければならない。あるいは、超えなければならない。
聖女と戦いなお三百年の時を生き延びた、ヴァンパイアロードを討ち取る為に。
『オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛───ッ!!』
「はぁぁぁああああああああああ!!」
互いに放った、今の自分が放てる最強の一手。
黒と白が激突し、反発し、食い合っていく。二重の螺旋となって周囲を破壊していく光の中、両手で握りしめた剣を決して離さない。
衝撃だけで全身がバラバラになりそうな中、魔力制御でもって肉体を強引に維持。世界からのバックアップを更に引き出し、補強する。
五秒か、十秒か、あるいは百秒か。
時の流れが狂いそうな衝突は、しかし終わりの時を迎える。
「あ、ああああァァ……!!」
両者の力がほんの一時並んだのなら───後は、技量でもって打ち返すまで。
ずるりと、バルディッシュの刃に刀身が食らいつく。
『ッ……!?』
「アアアアアアアア!!」
両断。
黒の極光を引き裂いて、紅の刃を断ち割る。そして白銀に輝く刃は、騎士甲冑を濡紙の様に斬り捨て心臓へと届いてみせた。
目を焦がす白い極光の中、刀身に纏わせた魔力の制御をあえて乱した。
「弾けろ……!」
瞬間、世界が揺れた。
『ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!』
断末魔を響かせて白光に消えるダミアンの姿を薄っすらと見ながら、こちらもまた炸裂した魔力の奔流に叩きつけられ吹き飛ばされる。
奴のジャベリンもあって限界を迎えていた城もまた崩壊を始め、瓦礫が地面へと降り注いでいった。
宙に投げ出された自分はそれに巻き込まれる事はなく、代わりに何もない石畳へと落下していく。
着地……できるか。
意識が途絶えそうになるのを、気合だけで堪える。魔力は枯渇寸前。手足は何故まだ動くのかも不思議な有り様で血を流し、五臓六腑は各々悲鳴をあげている。
どうにか受け身だけでもと構えた所で、突如世界が切り替わった。
「ぐっ……」
どしゃりと、思ったよりも軽い衝撃だけで地面に倒れ込んだ。
ノロノロと顔をあげれば、そこは見た事のない渓谷。血と吐息を吐き出しながら、剣を杖に立ち上がった。
この流れだと、こうして伏せている時間すらない。激痛でブラックアウトしそうな意識をどうにか保たせる。
幸い、痛みの限界値は高めてある。痛みが減るわけではないが、気絶までの猶予はあった。
「素晴らしい……!!」
拍手が自分を出迎える。
草一本生えず、曇天に覆われた大地。そこに立つ聖女が、満面の笑みで手を叩いていた。
「私の時代の教会戦士も、貴方ほどの強者はいませんでした。心技体。女神様から授けられた異能の力があるとは言え、よくぞここまで練り上げたものです。きっと、素晴らしい出会いに恵まれたのでしょう……」
感慨深げに頷く聖女。恐らく、この狂人が言う『恵まれた出会い』と自分の考えるそれは異なる。
だがまあ、出会いに恵まれたという言葉自体は否定しない。
これだけの激闘を終え、刃こぼれとヒビだらけながら歪みだけはしていない剣を構えなおす。
そんな自分に、聖女が拍手をやめた。
「それでは、第三回戦と参りましょうか」
答える余力もない。自分の体を癒す魔力もだ。
ゆっくりと、聖女が剣を抜く。
彼女の棺近くに置いてあったそれとは違い、砕ける前の『龍殺しの剣』。それが、上段で構えられる。
「では、参りますね」
「……来い」
一秒ごとに広がる血だまりの上で、ただそれだけを呟く。
恐らく、自分は早急な治療を施さなければ一刻も経たずに死ぬだろう。だが、問題ない。
───どうせこの戦いは、互いに一太刀で終わるのだから。
読んで頂きありがとうございます。
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