第九十八話 イチイバル男爵家の危機
第九十八話 イチイバル男爵家の危機
イチイバルに帰還した翌日。
自分は武装をハンナさんに預けているし、アリサさんも弾薬が尽きているので依頼を受ける事ができない。結果、今日の冒険者業は休みという事になっていた。
そんなわけで前世の料理を再現できないか色々試すため、街に出かけようと思っていた……の、だが。
「おはようございます、シュミット殿」
「おはようございます……ブラウン様」
宿の玄関にやってきた男、アンドリュー・フォン・ブラウンと遭遇してしまった。
イチイバル男爵に仕える騎士様がこんな平民が泊る宿に、いったい何の用なのやら。
「様づけなど不要ですよ、シュミット殿。貴方が公爵家の名誉騎士に内定している事は男爵様から聞いております。今の内から対等に接した方がお互いの為になるはずです」
「……承知しました。では、ブラウン殿と」
「ええ。それはそうと……その恰好はいったい?」
ブラウン殿がこちらの服装に首を傾げる。
自分は現在、帽子に首巻、ロングコートを身に纏っていた。言葉を選ばなければ、どう見ても不審者である。
別に好き好んでこんな格好なわけではない。変装のためだ。
「いえ。昨日から記者や街の人に追われていまして」
「ああ、なるほど。有名人も大変ですな。よろしければ、こちらの方で『処理』いたしますが?」
「……いえ。一過性のものでしょう。暫くすれば彼らも飽きますよ」
この世界のお貴族様が平民相手に使う『処理』って、二、三人見せしめにしょっ引くって意味だろうからなぁ……。
倫理観が貴族も平民も前世日本と違い過ぎるので、うかつにその辺りを頼むと大変な事になりそうだ。相手の対応が一般的だとしても、自分は無用な十字架を背負いたくない。少なくとも野次馬をしただけで物理的に人生終了は哀れだ。
「そうですか。それはそうと、男爵様から貴方に屋敷まで来てほしいと言伝を預かっております」
「この前銀食器を売ってもらった話でしょうか……?」
「いえ、そちらは昨日アーサー様の使いの方がいらっしゃり、話はついております。ただ、その際に使いの方からシュミット殿宛ての手紙を預かりまして。それも、個人ではなく公爵家としての手紙を」
「はあ……?」
自分宛の手紙なら直接自分に届ければいいだろうに。同じ街の中なのだから、大して手間は増えないはずである。というか、男爵にそんな事手伝わせる方が失礼……。
男爵に、その手紙を僕に渡させる必要があるという事か?
「わかりました。お伺いさせていただきます」
「ありがとうございます。では馬車に。玄関につけておりますので」
「この恰好で大丈夫でしょうか?」
「……途中で服屋によりましょうか」
「お願いします」
アリサさんにも同行してもらう……のは無理だろうな。このタイミングで来たのだ。彼女抜きで話したいのだろう。
変な内容ではないと良いんだがな……。
* * *
服屋によって手早く買い物と着替えを済ませ、男爵邸に到着する。
馬車から降りながら、無意識に襟を緩めようとする自分の手を制した。
ブラウン殿と店員さんに言われるまま選んだが、どうにも動きづらい。燕尾服とはこうも息苦しいものだったのか。前世も合わせて初めて着るが、既に脱ぎ捨てたい着心地である。
生地も作りも、自分でもわかる程上等だ。だが、これでは戦闘力が落ちる。落ち着かない。
ついでに、値段が高すぎて驚いた。昨日お金をおろしておいて良かったと心底思うと同時に、こんな額を一度に動かすのかと血の気が引いたものである。
……騎士でこれって、正式な貴族はいったいどういう金銭感覚で動いているのか。
そんな事を考えている間に、男爵邸の応接室に到着する。
「やあ、シュミット君!よく来てくれたね」
入るや否や、イチイバル男爵に満面の笑みで出迎えられた。
両手を広げて近づき、固い握手をしてくる彼に若干困惑する。
「え、ええ。こちらこそお招き頂きありがとうございます」
「はっはっは!いやいや。君を屋敷に招きたいという貴族は王国中にいるよ。なんせ亜竜殺しだ!シュミット君、君は既に王国史に残る英雄だよ!」
「恐縮です」
「ささ、座ってくれ。早速で悪いが、話さねばならない事がある」
「はい。失礼します」
男爵が座ったソファーの対面に、一礼してから浅く腰かける。
「まずは改めて今回の活躍を称えさせてくれ。王国の援軍として獣人の領域に赴き亜竜を見事討伐した事、大変見事な働きであった。ゲイロンド王国の男爵として、君に感謝しよう」
「勿体なきお言葉。そう言って頂けると、私も命を懸けた甲斐があると言うもの」
「うむ。君には王家からも何かしらの形で褒美があるだろう。爵位までは無理だろうが……それでも君の次の代からはあり得ぬ話ではないぞ」
笑いながら言う男爵に曖昧な笑みで返す。
成り上がる事が目的なので、王家や貴族から好印象を持たれるのは嬉しい。だが、男爵を相手にどう話せばいいのかがわからないのだ。
今までは基本的にアーサーさんがメインで話していたから、自分一人でというのは初めてである。
公爵家の名誉騎士とは言え、未だ内定段階。それに仕える家が大きかろうが騎士は騎士。本当の貴族と比べれば身分は下だ。
失礼のない様にしなくては。
「ところで……話は変わるんだがね?君はまだ独身らしいじゃないか」
「え、あ、はい。ですが、結婚を申し込まれてはいまして」
「聞いているとも。牛獣人の氏族長が孫娘を差し出してきたとか。他にも、ドワーフの女性からも求婚されているらしいね。アーサー様から聞いているよ」
……いや、僕ハンナさんの事をアーサーさんに言ったっけ?
言った様な、言っていない様な。たぶん言った、はず。というか、言っていないのに知られていたら恐いのだが。
「それに……いや。これはまだ気が早いな。うん」
混乱する自分をよそに、イチイバル男爵が独り言を呟いて頷いている。
「シュミット君」
「はい」
「君には馴染みがないかもしれないが、貴族は複数の妻を持つ事が多い。何故だかわかるかな?」
「はい。万が一にも家の血が途絶える事を避ける為と聞いております」
「その通りだ。我らはいざとなれば、自ら銃を持って戦場に行かねばならない。故に、血を残しておく必要があるのだ。それに婚姻は家同士の繋がりを深める。必要な事なのだ。貴族だけでなく、平民の商人もやっているが……そこは今置いておこう」
この世界は人間や普通の動物だけでなく、魔物もいる。その為人が死にやすい。
だからその理屈はわかるのだが、やはり違和感を覚えてしまう。好き嫌いではなく、馴染がないのだ。そういう文化に。
「そこでだ!氏族長の孫と結婚したとしてもたった二人!それでは少なすぎるのだよ!」
「そう、なのですか?」
「普通の騎士ならば二人で十分!だがシュミット君は亜竜殺しの英雄だ!それも公爵家の名誉騎士でもある!そぉれがたった二人しか妻を持たないのは、良くない事なのだよ!!五人、六人はいなくては!!」
「は、はぁ」
ヒートアップするイチイバル男爵に、曖昧に頷く。
「そこでだ!!」
バンッと、勢いよく何かが机に置かれた。
「うちの娘とかどうかな!!??」
めっちゃくちゃストレートに言うじゃん……。
何が置かれたのかと思えば、お見合い写真だった。
「我が家は女子ばかり生まれ、最近ようやく男児が生まれてホッとしたのだがな。昔は何故五人も娘を授けるのだと女神様に問いかけたものだが、いやぁ、こういう時の為だったのだな!!」
豪快に笑いながら、チラチラとこちらを見るイチイバル男爵。
とりあえず、写真を手に取って見てみる。そこには栗色の長い髪を後ろで結った、中々の美少女がいた。派手ではないが、素朴ながら清涼感のある印象を受ける。
「長女から四女は嫁いでしまったか婚約者がいるが、五女はまだそういった相手がいない!これは運命じゃないか?いいや運命だ!!」
「う、運命かどうかは、私には判断がつきませんが……」
「アーサー様も『そうだそうだ』とおっしゃっていたから、運命に違いない!!」
アーサーさん???
人に禁欲を言い渡しておいて、嫁は増やさせる気か。
……まあ、十中八九そうなった原因は自分が横紙破りをしたせいだろうけども。あの時一番迷惑をかけた相手として、公爵家を除けばイチイバル男爵の名前が出てくるだろうし。
「それにな、シュミット君」
男爵が身を乗り出して声を潜ませたので、空気を読んで彼の口元に耳を近づける。
「五女は今年で十二歳だが、メイドの話では胸の成長が著しいらしい」
「ぶっ」
思わず噴き出した自分に、男爵がニヤニヤとした笑みを浮かべて続ける。
「次女以外の姉達も皆立派な大きさになっておる。流石に牛獣人には勝てないが、人間の範囲なら間違いなくでかいぞ」
「な、その、突然言われましても」
「ちなみに私の妻達もでかい。何がとは言わんが、でかい」
何言ってんだこのおっさん。
思わず素で言いそうになるのを、どうにか堪える。
「君が重度の巨乳好きであるとアーサー様から聞いている。いい趣味だ……私も若い頃はそりゃあもうダークエルフ相手にハッスルしたものだよ……」
しかも何か思い出に浸り始めたぞ、こいつ。
流石にひいた。だが、おかげで冷静さも戻ってくる。
「申し訳ありません。突然の話に理解がついてこず……何分、平民の生まれですので」
「そう、あれは十五歳の夏……おっと。う、うむ。そうだな。平民は一夫一妻が多いと聞くしな」
現実に戻ってきたイチイバル男爵が何度も頷く。
「すぐにとは言わんが……こういう話もあったと覚えておいてくれ。なに、公爵家からはきっと良い返事がくるとも!」
「そ、そうですか」
自分そっちのけで婚約話が進んでいる気がする。いや、貴族とはそういうもの……か?
「さて。未来の婿殿にはもう一つ用事があってな」
未来の婿殿……。
「公爵家より手紙を預かっている。読みなさい、我が息子よ」
息子……。
無駄にキラキラとした瞳のおっさ、イチイバル男爵から、一通の手紙を受け取る。
この蠟印は間違いなく公爵家のものだ。封を開き、内容を確認する。
『童貞なのに嫁が増えてどんな気持ち?ねえどんな気持ち?』
「っ………!!」
「ど、どうしたシュミット君。お腹でも痛いのか?」
「いえ。何でも、ありません」
抑えろ、僕の表情筋と右腕。今すぐ憤怒の形相でこの手紙を握りつぶしたいが、いくら何でもそれはまずい。
これは公爵家からの手紙。高位貴族の文を蔑ろにするのは、その家に喧嘩を売っている様なもの。
でかでかと馬鹿丸出しの一文だけが書かれた一枚目をどかし、二枚目に視線を移す。
『童貞から逃げるな!逃げるなこの童貞!どうてーい!!』
「……コロス」
「シュミット君!?」
ギョッとした様子の男爵に愛想笑いを浮かべる。
「何でしょうか、男爵様」
「い、今とても物騒な言葉が聞こえた気がしたが……」
「何のことでしょうか?私は何も言っていませんが」
「そ、そうか。そうだよな、うん。気のせいのはず……」
自分自身に言い聞かせるように男爵が呟いているのを横目に、三枚目へと移った。
今度こそ真面目な内容が書かれており、思考を切り替えて読み進めていく。
貴族と騎士の手紙なだけあって色々と回りくどい部分もあったが、要約すれば『教会戦士達の仲介もあり、ヴィーヴルが自分を里に招いていても良いと言ってきた』とあった。
亜竜の心臓に続き、『龍殺しの剣』の材料がまた揃うかもしれない。そう思えば一枚目と二枚目の内容も気にならなくなる。
それはそうと、二枚ともアーサーさんの筆跡だったと言う事は決して忘れないが。
「どういう内容だったかね。無論、義理の親子とは言え話せない内容なら無理には聞かんが」
「そう、ですね。教会戦士の方々と会う事になったとしか、私の立場では言えません」
「そうか……」
何かを察した様子で頷く男爵。
義理の親子とかについては、一端スルーした。どうせ自分の意見とか関係ないだろうし。
「出発はすぐなのかね」
「はい。可能な限り早めに出る事になるかと」
「そうか。では、ちょっと待っていてくれ。息子に会わせたいのだ」
「ご子息に?」
「うむ。娘は妻と旅行中だからいないが、息子は家に残っている。未来の家族なのだ、顔ぐらい合わせておいても良いだろう」
ニッコリと言う男爵。ツッコまんぞ。
「ジェームズ!入りなさい」
『はい、父上』
男爵の声に従い、扉が開かれる。そこから利発そうな少年が入って来た。
って、ん?
「あっ……!」
相手も気づいた様で、視線が合う。
間違いない。昨日最初に質問してきた少年だ。
「どうした、ジェームズ」
「え、あ、いえ」
不思議そうな男爵に、ジェームズ少年が動揺を見せる。
……さては、昨日の外出は無断だったな?親御さんかと思った人も、恐らく私服姿の使用人だったのだろう。
お馬鹿様を知っているので、何となく察せた。
「亜竜殺し以来、自分の記事があちらこちらに出回っております。写真で知っている相手がいて、驚いたのかもしれません」
「ああ、なるほど。君は有名人だからな!」
納得した様で笑う男爵から見えない様に、一瞬だけ少年にウインクしてやる。
子供の冒険を親に告げ口するほど器が小さいつもりはない。あの様子だと街の散策に慣れていなさそうだったから、昨日が特別だったのだろう。
そう思い片目をつぶれば、少年はこちらを尊敬するような視線で見つめてきた。悪い気はしない。
「では彼の紹介はいいな。さ、自己紹介しなさいジェームズ」
「はい!ジェームズ・フォン・イチイバルです!よろしくお願いします、『剣爛のシュミット』さん!」
「ええ。こちらこそお会いできて光栄です。ジェームズ殿」
軽く会釈する自分に彼がますます笑みを深める。何やら興奮している様で、耳まで真っ赤になっていた。
なるほど。意外なほど自分は『尊敬』されているらしい。
よく考えれば数々の賞金首を討ちあげく亜竜まで仕留めたのだ。そんな男が目の前に現れれば、このくらいの歳の子は憧れるのかもしれないな。
そう思うと誇らしいと同時に、ちょっと恥ずかしい。
「父上。その、どうしてシュミットさんがここに……?」
もじもじと尋ねてくるジェームズ少年に、イチイバル男爵が力いっぱい頷く。
「うむ!彼はお前の兄になる男だからだ!!」
「……えっ」
硬直する少年。このおっさんは……突然そんな事を言っても分かるわけがないだろうに。彼はまだ十にいくかどうかだぞ。
男爵も言ってから彼の様子に気づいた様で、小さく咳ばらいをする。
「おっと。これは性急過ぎたな。だが、近いうちにお前の姉との婚約が」
「いやだ」
「む?」
「いやだ!僕は認めない!!」
まだ幼いと言っていい少年の大声が部屋に響く。
「僕はシュミットさんが兄になるのなんて、認めないからなぁああああ!」
「ジェームズ!?」
そう怒鳴るなり走り出した息子にイチイバル男爵が驚いて腰を浮かばせるが、自分に一度視線を向けて座り直す。
「す、すまない。息子があんなにも姉を慕っていたとは」
「いえ。これも、仕方のない事です」
きっと、彼が反対した理由は姉弟の仲が良いからだけではない。
自分が開拓村の出だからだ。記事にどこまで詳しく書いてあるかはわからないが、どこの馬の骨とも知れない平民なのは間違いなく載っているだろう。
男爵も何となくそれを察した様で、気まずそうにしている。
「……本日は色々とありがとうございました。それでは、私はこの辺りで」
「う、うむ。すまんな、本当に。帰りもブラウンに送らせよう」
「ありがとうございます」
少しぎこちない空気で男爵家を後にする。
成り上がる過程で出自を理由に否定されるのは想定していたが、自分を慕っていた様子の子供にああも拒絶されるのは流石に傷ついた。
だが、それを気にしている暇もない。今はヴィーヴルだ。
馬車に揺られながら、受け取った手紙を取り出しもう一度読み直す。日程を頭に叩き込んでおかねば。
ついでに一枚目と二枚目は人の目がない所で燃やした。一応すかし等も確認したが、純然たる悪口だったので。
* * *
サイド なし
「ジェームズ……いったいどうしたんだ」
部屋に引きこもってしまった息子に対し、イチイバル男爵が困った様子でドア越しに呼びかける。
「確かに彼は平民の出だが、実績がある。貴族として血筋を重要視するのは必要な事だが、今回ばかりは目をつむりなさい」
男爵は初めてできた息子を大事にしていた。その為、無理に部屋へと入る事はしない。
故に、息子が今なにを悩んでいるのか正確に理解する事ができていなかった。
「何より公爵家との繋がりができる。それは王国貴族として、非常に重要な事なのだ」
イチイバル男爵とて、貴族と平民の境目はハッキリとさせているタイプだ。
だが今回ばかりは例外である。公爵家の力は王家すら上回るのではと噂する貴族もいるぐらいだ。王国の社交界で今後立ち回るうえで、繋がりをもてればそれだけで勝ち組になれる。
何より、彼がシュミットを『ただの平民』として見なくて済む理由もあった。
「それにな、ジェームズ。シュミット君は教会戦士達から『聖女の再来』と噂されているのだ。そこらの平民とは違う」
そう、シュミットは功績を『あげ過ぎた』。
ヴァンパイアロードの討伐に死の街と化したヨルゼンの解放。そして、亜竜討伐。どれか一つだけでも、聖人認定されかねない偉業だ。加えて手足の復元など最高位の白魔法が使えるという噂も流れている。
シュミットは既に、平民や貴族とは別の枠組みにいるのだ。
「教会……?」
そこで、部屋の中からジェームズの声が聞こえた。
息子が興味をもった事を察して、男爵は話を続ける。
「そうだ。教会戦士達は彼が『聖女の技』とやらを再現したのを見たと言っている。シュミット君を聖人認定すべきだと、戦士達と上層部と話し合いの最中だ」
なお、それがシュミットへの報酬で教会が遅れている理由である。
「教会戦士と、シュミットさんは仲がいいの……?」
「そうだとも!共に命を懸けて戦った戦友だ!魂の兄弟と言ってもいい!切っても切れない間柄だとも!」
男爵はここで嘘をついた。
彼はアーサーからある程度教会の事を聞いていても、そこまで詳しいわけではない。口からの出まかせだった。それでも息子が男爵家にとっての大チャンスを逃さずにいてくれるのなら、と。
ガチャリと、扉が開く。
「父上……」
「ジェームズ……わかってくれたか……!」
男爵がしゃがんで息子と視線を合わせる。
ジェームが時折ヴァンパイア退治の本を読んでくれと世話係に頼んでいるのを彼は知っていた。教会戦士達に憧れていた息子が、それならばと受け入れてくれたと男爵は思ったのだ。
ジェームズが、真っすぐと何かを決意した様な顔で父親を見る。
それに対し、貴族として息子が成長したのだとイチイバル男爵は笑みを浮かべた。
「僕、教会戦士になる!!」
「そっちいっちゃったかぁ」
イチイバル男爵家に、大いなる危機が迫っていた。
読んで頂きありがとうございます。
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