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ナー部劇風異世界で  作者: たろっぺ
第一章 剣の少年と銃の少女
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プロローグ

宜しくお願い致します。


プロローグ



 ガタガタと揺れる馬車の中で幾つもの怒号と悲鳴が飛び交っていた。


「おい、もっとスピード出せないのか!?」


「これで目一杯だ!車軸が壊れちまいそうだよ!」


「あああ……神よ、どうかお助けを……哀れな我らにその恩寵を」


「うるせぇ!神様に祈って助かるかよ!」


 視線を馬車の後方に移せば、彼らがああも慌てふためいている理由がわかる。


 遮蔽物のない草原。街道から外れてしまったこの幌馬車を追いかける七匹の狼。そのどれもが目をギラギラと光らせ、獲物を狩ろうと時折吠え立てているのだから。


 これ以上逃げるのは難しい。であれば、やる事はただ一つ。


「荷物を置いていきますけど、盗まないでくださいね」


「は?」


 神様に祈っていた男性に抱えていたボロボロの布でできた袋を押し付ける。これが僕の全財産なのだ。大切にしてほしい。


 あまり広くない馬車で中腰になり、腰に提げた物に触れて感触を確かめる。うん、問題はなさそうだ。


「すぐに戻ってくるので、待っていてください」


「お、おい君!なにを」


 男性が言い切る前に、馬車から飛び出す。


 急速に迫る地面に受け身を取って着地。ゴロゴロと転がる事で衝撃を逃がした。


 当然ながら、突然降ってきた獲物に飢えた獣たちが待つわけがない。先頭の狼がその口を大きく開いて喉元を狙ってきた。


 馬車から悲鳴が聞こえる。だが、関係ない。


 一閃。光が駆け抜けた。


 舞い上がる狼の上顎と血。頭を失った体が勢いそのまま後方に飛んでいき、どちゃりと地面に伏せる。


 右手に握る『剣』を軽く振るいながら、羽織っていた外套を横から迫っていた別の狼に投げつけた。


 視界を奪われもがく狼の首あたりに踵を思いっきり叩き落として、残りを睨みつける。


 五匹になった狼は走るのをやめ、姿勢を低くしこちらを見ていた。それらに視線を合わせつつ、両手で剣を握り直す。日の光に照らされた刀身を見せつける様にしていれば、一番体の大きな狼が吠えた。


 すると、一斉に反転してどこかへと走り去っていく。それを見送り、外套の中で痙攣している狼に止めをさした。かぶせたままの外套が血で汚れてしまうが、手負いの獣ほど恐いものはない。


 一部が赤く染まった布を剥ぎ取り、死んだかを確認。もう着られそうもないので刀身は外套の端で拭う。


「お、おーい!」


 声が聞こえてきて振り返れば、戻ってきた馬車がいたので軽く手を上げて答える。よかった、そのまま行ってしまわないか不安だったのだ。


 剣を鞘に納め、代わりにナイフを取り出す。さて、あの人達に手伝ってもらって皮と肉を剥ぎ取るとしよう。血抜きは……もうほとんど必要なさそうだ。



*  *    *



 シュミット。それが今生における自分の名前である。


 転生の経緯や所謂『転生特典』と呼ばれるものの事はおいおい語るとして、問題は今生の事だ。


 ゲイロンド王国のド田舎。開拓村で農家の三男坊として産まれ、十五年間。毎日毎日農作業と開墾、偶に狩りの勢子せことして駆り出される日々。何度前世の暮らしを夢に見て涙を流した事かわからない。


 だがそんな生活もおさらばだと、近所のお爺さんに森で獲った鳥数羽と交換してもらった剣を携え都会へと上がってきたのである。


 この世界には魔法があり、モンスターがあり、冒険者という職業がある。モンスター以外は直に見た事はないけれど、それでも問題ない。


 自分はこの剣で冒険者として成り上がり、豪勢な生活を送るのだ。


 チートの力で、自分は一端の剣士である。本当は魔法とかも使いたかったが、そこばっかりは仕方がない。これでも、成り上がれるはずだ。いいや成り上がってみせる。


 そう、決意してここまできた。


 遠くから聞こえてくる汽笛。街中を歩くいかにも荒くれ者といった男の腰にはピストルが提げられ、それを睨みつける保安官の様な男はライフルを担いでいた。


 高い城壁に囲われた街の中に並んだ店では紙幣と硬貨で取引が行われ、その文明の高さを告げている。



 ……ここ、中世ヨーロッパな世界じゃないの?



 腰に提げた剣に奇異な視線を向けられながら、まるで西部劇に出てきそうな街並みを呆然と眺める。


 これから……どうしよう。


 完全に人生設計間違えた。あんぐりと口を開けたまま固まる間抜けとしか言えない自分の肩が、突然叩かれる。


 往来の邪魔をしてしまっていたか。推定保安官に目をつけられてはたまらない。そう思い慌てて振り返ると、そこには自分以上に奇妙な存在がいた。


 青いリボンを巻いた黒いカウボーイハットに、ポニーテールに纏められた長い金髪。新雪を彷彿とさせる白い肌に青い瞳の少女が、こちらを見上げている。


「君面白いねぇ!私の相棒にならない!?」


 その美しい顔に子供みたいな笑みを浮かべて、その少女はこちらに右手を差し出してきた。


「……はい?」


 意味が分からず疑問符を浮かべる自分に、彼女は無邪気な笑みのままパチン!とウインクをしてくるのだった。







読んで頂きありがとうございます。

創作の原動力となりますので、どうか感想、評価、ブックマークをよろしくお願いいたします。


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― 新着の感想 ―
[一言] 新作読み始めました、スタートからいきなりコメディさんが過労でぶっ倒れそうな出オチ、非常に楽しみです
[一言] 素晴らしいポンコツスタートですね、期待が高まります。 しかし、田舎には銃も紙幣もなかったのか(笑
[良い点] 新作楽しみです。(*´▽`*) [気になる点] な、なにぃ!巨乳じゃないだと(笑) [一言] にゃ~ん♪  ∧∧ (・∀・) c( ∪∪ )
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