5-4 甘いスイーツ、苦いチョイス
「……なんかあっという間だったね」
しかし、楽しい時間ほどすぐに終わってしまう。
苦しいことが短くて、楽しいことがずっと続けばどれだけよいか。
「そうだな、ボク的にはまだまだ食べられたというのに」
「まだ食えるのかよ! 三木って結構食べてたよな!?」
人が溢れているサンシャイン通りの入口を横目に、俺たちは道端で小さくまとまって、その場から動かずにただ駄弁っていた。
誰も決定的なことを口にはしない。口にしたら終わってしまうから。
しかし、それでも時間は無情に過ぎ去っていく。有限の時を生きる人間は、決して時の流れに逆らうことはできない。
「そろそろ帰らないとだね……」
「そうだな」
ついに椋梨が現実へと引き戻す言葉を口にした。
三木はそれに応じる。二人とも名残惜しそうな表情を浮かべていた。……二人がそんな表情を浮かべるから、俺は確かなものが欲しくなってしまう。
ここ数日の出来事を経て、少しだけ自分の想いを伝えられるようになった。だから、勇気を振り絞って気持ちを言葉にする。
「また三人で遊ぼう。これからも放課後はみんなで集まってさ。たまにはこうして外に出掛けるのだっていい。……だからこれは最後じゃない、そうだよな?」
今、俺が口にしたことはかなりズレたことなのかもしれないし、勝手に思い上がっているだけなのかもしれない。だとしたらただの恥ずかしいやつだ。
だけど、これが勘違いじゃないなら、それ以上に嬉しいことはない。
「もちろん! というか、今更二人のこと逃がさないからねー! これからもガンガン誘うし、色んなとこいこーね!」
「仕方がない。暇人の水上にしぶしぶ付き合ってやるか」
「……じゃあ、また明日だな!」
もしかしたら、これは勘違いじゃないのかもしれない。
今はただ、こんな前向きな「また明日」を言えることに感謝しかなかった。
「うん、また明日! ……でも、駅までは一緒にいこうよ!」
「たしかにそうだな」
俺たちはまた他愛もない話をしながら、駅までの道のりを歩いた。
そして今度こそ解散となる。椋梨はJR埼京線と京浜東北線で川口駅まで。俺と三木は東武東上線で川越駅まで。ここで二手に別れることになった。
JRの改札に入った椋梨を見届けて、俺と三木は東武東上線の改札を目指す。
「めっちゃ混んでるんだろうな」
「帰宅ラッシュの時間だからな。……水上、ボクに痴漢とかするなよ」
「しねーよ!」
痴漢は立派な犯罪です。しかし、三木って女装しているとこんなに可愛いし、被害にあってもおかしくはないと思ってしまった。お、俺は絶対にしないけどな!
「急行小川町行き発車いたしまーす」
案の定、下り電車は激混みだった。三〇分程度で川越に到着できるとはいえ、この電車に乗って帰宅しているサラリーマンには頭が上がらない。
車内はおしくらまんじゅう状態で、あらゆる人と人が密着している。
そして、それは俺と三木も例外ではなく。
「(おい、くっつくな。水上)」
「(仕方ないだろ、こんな状況なんだから)」
池袋を発車した電車はぐんぐんと埼玉の方に向かって走っていく。電車の揺れに踏ん張って耐えることに精一杯で、他のことを気にしている余裕がない。
……そんな俺をあざ笑うように、車内が激しく揺れた瞬間があった。
「(うわ!)」
「(ちょ、水上!)」
踏ん張りが効かずに三木の方にもたれ掛かってしまった。しかもそれだけに飽き足らず、互いの息がかかるくらい至近距離まで顔が近づいてしまう。
近くで見る三木の顔。
男だってわかっているのに、そんなこと重々承知なのに、陶器のように白い肌、宝石みたいに輝く瞳、長くきれいに生え揃ったまつ毛、それらの要素が事実とは関係なく本能に訴えかけてくる。ドキドキが止まらない。
「(わるい……)」
「(顔近いって……)」
それから途中駅で人が降りるまでそんな問答が続いたのだった。
「まもなく川越、川越です。お出口は左側です」
川越に近づくにつれて、多少車内の混雑も緩和されていた。
なので俺と三木は適度な距離感を保つことができている。……というかむしろ、互いに意識しすぎなくらい離れていた。
相手の顔をまっすぐに見れないくらいには、先程のことを引きずっていた。
「……三木は川越市駅で降りる感じか?」
ただ、このまま気まずい時間を続けているのも嫌だった。
沈黙には耐えられない性分なので、毒にも薬にもならないような雑談を持ちかける。
「……水上はどこで降りるつもりなんだ?」
「俺は川越駅で降りようかなって、なんだか歩きたい気分なんだ」
「なら、ボクも川越駅で降りる」
「そ、そうか」
それは俺が川越駅で降りるからってことだよな……。
三木の家は本川越駅方面と言っていたので、川越駅よりは川越市駅の方が近いはずだ。まぁ、その理屈は俺にも当てはまるんだけどな。今日はなんだか、すぐに帰ってしまうのは勿体ない気がしていた。




