5-3 甘いスイーツ、苦いチョイス
「ねーねーどれから食べる!?」
「落ち着けよ、時間はまだあるんだしさ」
「水上甘いぞ! 時間内にどれだけケーキを食べられるか、ここは戦場なんだ!」
「……三木、お前キャラ変わってるぞ」
俺たちは目的地であるスイパラにやってきた。
人生初のケーキバイキング。店内にいるのはほとんどが若い女性で、数少ない男性たちは彼女と思しき人物と一緒にケーキをパクついていた。場違い感が凄まじい。
しかし、三木や椋梨のテンションが上がる理由もわからなくはなかった。
ケーキコーナーには色とりどりのケーキが陳列されており、これを全部好きなだけ食べていいと言われれば、性別関係なしにワクワクする。それにケーキ以外にもカレーやパスタのコーナもあり、飲み物だって充実していた。
控えめに言ってもここは天国なんじゃないかと思う。
「ひとまず、飲み物とってくるから二人はケーキ選んでなよ。何かリクエストある?」
「いいっていいって。みんなで選んだ方が楽しいよー」
「そうだぞ。水上はあんまり気を回しすぎると将来ハゲるぞ」
「…………だな」
俺はいつもどこか一歩引いたところで、友人たちを眺めていることが多かった。
どこか俯瞰して冷めた目で世の中を見ている自分がいて、何も考えずに心から楽しむことがなかなかできない。
自分は所詮、青春という名の舞台を演じているだけにすぎないと。
そんな厭世的な考え方をして高校生活を過ごしてきた。————だけど、この三人で過ごす時間は自分が舞台の上にいることを忘れさせてくれる。そんな特別なものだった。
「レンくんおいてくよー」
「早くしろ、ハゲ」
「……勝手にハゲ扱いするな! 結構デリケートな問題なんだからな!」
父親、父方の祖父、母方の祖父、みな毛根が死滅している。ハゲのサラブレット。今から将来のことを考えるとストレスで本当にハゲそうだ。
ハゲ発言に対して、厳重に抗議をしながら二人の後に続く。
「おいしいー!」
「モグ……うん、うまいな。モグモグ」
各々が気になるケーキを皿に盛り付けてパクパク……というよりは、バクバクとものすごい勢いで食べ進めている。
「二人ともよくそんなに食べられるな」
俺はパスタ、レアチーズ、ティラミスという布陣に対し、椋梨と三木は皿に五、六個ものケーキを溢れんばかりに盛り付けている。
「甘いものは別腹だよー」
「むしろ、水上が食べなすぎだろ」
「たしかに! じゃ、モモヨのミルクレープ一口あげるよー。ほら、レンくんあーん」
口元に突きつけられるミルクレープのかけら。
たしかにうまそう、うまそうなんだけども…………!
「俺はいいって、自分のやつあるし」
いくらなんでもそんな恥ずかしいことはできなかった。
仮に、あくまで仮にだが、椋梨が彼女だったとしても、こんな小っ恥ずかしいことできるわけがない。いろんな意味で甘々すぎて胸焼けしそうになる。
「はい、あーん」
「だから大丈夫——————」
「あーん(圧)」
物凄い圧を感じる。椋梨は笑顔を浮かべているがその目は笑っていない。その瞳から、絶対に退かないという強い意志を感じ取ることができた。
……ここで無駄に意地を張って、椋梨の機嫌を悪くするのも得策ではないか。
ええいままよ! 俺は覚悟を決めた。
「あ、あーん」
思い切って口を開けていると、ミルクレープのふわっとした感触とフォークの冷たさが舌の上に伝わってきた。
「おいしー?」
「う、うまい……」
要望が満たされたので椋梨は上機嫌だった。
味の感想を求められたが正直味なんてわからない。舌の上に残っている仄かな甘みがかろうじて感じ取れるくらい。とにかく羞恥心以外の感情が湧いてこない。
「…………」
「どうした、三木。手が止まってるけど」
一刻も早くこの感情を紛らわすために、なぜかぼーっとしている三木に話を振った。
あんなにケーキに食らいついていたのに何があったのだろうか。
「……なんかずるいな」
「なにが?」
「ボクにもあーんさせろ!」
「はぁ!?」
三木がいきなり訳のわからないことを言い出す。
一体全体どういう思考回路で、そのような結論を導き出したんだ。
「ボクだけ仲間はずれってのが気に入らない」
「いやいやいや!! だったら三木も椋梨にやってもらえばいいじゃないか!! なんで俺にやろうとするんだよ!?」
「うるさい! とにかく口を開けろ!」
それから何度も押し問答が続いたが、結局は俺が折れる形になる。
押しや勢いに弱い人間で申し訳ありません。もし女子として生まれていたなら、ナンパなどにも簡単に引っかかっていたんじゃないかと思う。
それからも三木や椋梨の無理難題に付き合わされたが、時間いっぱいまでケーキバイキングを堪能することができた。とても充実した時間だったと思う。




