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5-2 甘いスイーツ、苦いチョイス

 長かった。今週はいつも以上に長く感じた。

 何かを楽しみに待っていると時間の流れというのは遅く感じる。逆に無為に時間を過ごしていると、案外あっという間に時間は過ぎてしまう。

 ダラダラと休日を過ごしていたらいつの間にか夜だった、みたいな。まぁ、なにはともあれだ。ようやく木曜日の放課後になったのだ。

 俺、三木、椋梨という異色なメンバーは放課後の教室ではなく、渋谷、新宿と共に三大副都心に数えられる池袋に集結していた。

「なんとか集合できたねー」

「……悪いな。学校から一緒にくればよかったところを」

 俺たちはバラバラに学校の最寄駅を出発し、別々にこの池袋を目指したのだ。

 理由はすべて俺の都合。変な噂を立てられたくないから、という自分勝手な理由。この二人は良くも悪くも目立ちすぎるのだ。

「まったく、水上は相変わらずだな」

「いや、本当にこればっかりは申し訳ない……。だけどな、三木。お前のその格好が原因でもあるんだからな!」

 三木は、椋梨から借りた夏服長袖Verのセーラー服を身につけていた。

 緑ヶ丘学園のセーラー服は大きく分けて三種類あり、紺色を基調とした冬服セーラー、白色を基調とした夏服セーラー(長袖Ver)、夏服セーラー(半袖Ver)に分けられる。

 この間着ていたのは冬服セーラーだったので、初めてお目にかかる姿。うん、悔しいことにめちゃくちゃ似合っているし、なんなら俺は夏服の方が好きだ。

 ——————やばいやばい。三木の夏服セーラー姿に魅入られてしまった。とにかく、俺が言いたいのは、三木の女装姿も三人揃って歩けない原因の一つってことだ。

「ボクの女装は関係ないだろ、人のせいにするな」

「関係大アリなんだよ! 三木の女装姿は目立つの! 他の生徒から見たら『え、なにあの美少女』状態だから!」

「び、美少女って……」

 三木は照れて顔を赤くしている。

 そして、ようやく自分が口走ったことの浅はかさに気がつく。

「あ、あくまで一般論だからな!? 俺の感想とかじゃないからな!」

 変な誤解を与えないように必死に弁解した。

 しかし、否定すればするほどガチ感が高まってしまう。そんなどうしようもない状況に四苦八苦しながらも、なんとかその場を収めることに終始する。

「まーまー、こうやって集合できたからいいじゃん!」

「まぁ、そうだな。たしかにこんな美少女二人を連れて歩いていたら、水上が男子からの嫉妬で殺されてしまいそうだし」

 三木は慌てふためく俺を見てすっかり余裕を取り戻していた。

「自分で美少女とかいうな! そもそも男だろ、三木は!」

「ねーねー、レンくん? さりげなくモモヨが美少女ってことを否定してないんだけど、もしかしてレンくんの中でモモヨって美少女認定?」

 チラリと椋梨を見る。三木とは打って変わって夏服半袖セーラーに身を包む椋梨。半袖になることで露出が増え、白く透き通った肌がより露わになっている。

 三木のセーラー服姿はちょっと素朴な清楚女子といった雰囲気で、椋梨のセーラー服姿は垢ぬけた都会の女子高生といった印象だ。スカート丈の短さとか特にな。

 もちろん元の素材も良いのだが、それ以上に椋梨のセルフプロデュース能力は凄い。少しあざといような気もするけど、文句のつけようのない美少女だと思う

 ——————もちろん、そんなことは絶対に口にしないが。

「う、うるさい! 早く目的地に行くぞ!」

「逃げたな」

「うん、逃げたねー」

 後ろで三木と椋梨がクスクスと笑っているが無視を決め込む。

 この会話の流れを断ち切らないことには、また墓穴を掘ってしまいそうなので。

 ……なんて風に思っていたのに、俺への試練はまだまだ続いた。

「ねーねー、レンくんはどっちがいい?」

「選べるわけないだろおおおおおお!!」

 スイパラに行く前にショッピングをしようという流れになり、俺たちはサンシャインシティにやってきた。そこまではいい。問題は、だ。

 真っ先に入った店がランジェリーショップだったことに尽きる。

 そして、俺は究極の二択を突きつけられていた。

 紫色のこうなんかエロいブラジャー・ショーツと、水色のこうなんかエロいブラジャー・ショーツ(語彙力死亡)のどちらが椋梨に似合うかと問いかけられている。

「えー、レンくんは好きな色とかないのー?」

「他意はないんだよな!? 俺が選んだ色によって、椋梨の行動にはなんら影響をあたえないんだよな!?」

「水上……落ち着けよ。普通にキモいぞ」

「逆になんで三木はそんな落ち着いているんだよ!」

 一応、俺たちの性別構成は男2、女1のはずなんだけれども……。どうして俺だけがこんなにもアウェーなのか。

「なぁ、百々代。これなんてどうだ?」

「わーかわいい! あ、こっちとかハルちゃんに似合いそう」

 絶対に俺いらないよね。うん、そうに違いない。

 それにさっきから店員さんの目が痛い。やはり男がいると、他の女性客が心地よく買い物できなくなったりと様々な弊害がある。幸いまだ他の客の姿はないが、あまり長居することは歓迎されないだろう。

「俺ちょっと他の店見てるわ……」

「えーせっかく、レンくん好みのやつ買おーと思ってたのにー」

 椋梨は残念そうな顔をしているがもう限界だ。

 それに、そもそも椋梨の下着がどんなものになったところで、それを俺が見ることはないだろう。……もちろん見れるものなら見たいというのが男の本音ではあるが。

 とにかく、女子と下着選びをするというイベントは俺にはまだ早い。

 これ以上、お店や周囲に迷惑をかけたくないので、俺は逃げるようにランジェリーショップを後にする。

「ふぅー」

 変な汗をかいてしまったので、自動販売機でコーラを買って一休みする。

 ペットボトルを傾けて製法不明の黒い液体をゴクゴクと流し込む。冷えた炭酸が喉を通っていく感触がたまらない。糖分の摂りすぎはよくないとわかっていても、こればっかりは止められないな。

「なにくつろいでいるんだよ、水上」

 突然声をかけられ、驚いて振り返るとそこに三木がいた。

 そのまま三木は何も言わずに、俺が座っているすぐ真横に腰を下ろした。……ふわりと甘い匂いがする。なんで男からこんないい匂いがするのだろうか。

「椋梨と一緒じゃなかったのか?」

「モモヨが本格的に下着を買うらしいから試着したいってさ。さすがに男のボクが付き添っているのもあれだと思って」

「そういうことか。ならもうちょっとかかりそうだな」

 まだ時間はたっぷりとあるので気長に待つことにしよう。

「なぁ、水上」

「ん、なんだ?」

「それ、一口くれないか?」

「あ、コーラね。いいよ、はい」

 三木が飲みかけのコーラを指差しそう言った。最初に味わった清涼感に満足していたので、全部飲んでもらっても構わないくらいのつもりでペットボトルを差し出す。

 500mlってちょっと多いと思うのは俺だけかな。かといって、小さいペットボトルのやつを買うと損した気分になるから塩梅が難しい。

「……自分から提案しておいて申し訳ないとは思うが、水上が口をつけた飲み物を飲んだら妊娠とかしないよな?」

「俺の唾液にはそんな成分は含まれてないから! —————というか! そもそも男同士で妊娠するってことはないからな!?」

 三木はいちいち俺をバカにしないと気が済まないようだ。

 しかし、言われてみれば間接キスであることには間違いない。いや、だけど、男同士でならこんなことはよくあるし、変に意識している俺がおかしいのだろう。

「…………」

「三木どうした?」

「い、いやなんでもない」

 三木はなぜか顔を赤くしていたが、何かを決心したような表情を浮かべると、ペットボトルに口をつけコーラを一気に流し込んだ。

 ————————俺が口をつけたものを三木が飲んでいる。

 やっぱりこれって誰がなんと言おうが間接キスなんじゃないか? そう思えば思うほど恥ずかしくて三木の顔が見れなくなる。

「あ、ありがとう」

「ど、どういたしまして」

 そして、三木が口をつけたペットボトルが俺の元に返却された。

 どうしようもなく気まずい雰囲気が流れる。

 ……きっとお互い気にしすぎなんだな。ここは「俺は全く気にしてませんよ」の雰囲気を出して、この気まずい空気を解消しよう。

 というわけなので、俺がやるべきことは、この三木が口をつけたものに何食わぬ顔で再度口をつけることだ。そうすることで気にしてないアピールをする。

 俺は、恐る恐る、ペットボトルの飲み口を、自分の口元まで持っていく。

「み、水上……」

 三木は驚いた表情をしているが、それはただ三木が意識しすぎているだけなのだ。俺がお前をその呪縛から解き放ってやる。

 でも、本当にいいのか。俺の口をつけたものを三木が飲み、三木が口をつけたものを俺が飲んだらそれは間接キスどころか、ただのキスなんじゃないか?(バカ)

 俺は今、三木とキスしようとしているんじゃないか?(大バカ)

 そう思うと途端に恥ずかしくなって手が動かなくなる。不自然な動作をする俺を見て、三木は怪訝そうな顔をした。

 いや、だめだ。ここで止めれば、それこそ強く間接キスを意識していると伝わってしまう。進むも地獄退くも地獄。同じ地獄なら前のめりの方がいいな。

 俺は意を決してペットボトルに口をつけた。途端に真っ赤になる三木の顔。そして、自分自身の頬が熱を持っていくのを瞬時に感じた——————


「お待たせー。あれレンくんとハルちゃんなんか顔あかいよ?」

「「あかくない!」」

 椋梨が戻ってくるまでの間、俺たちは顔を真っ赤にして終始無言だった。

 いや本当に、なんでこんな中学生のカップルみたいなことしてるんだろうね。

 自分でも自分が情けなくなってしまった。

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