5-1 甘いスイーツ、苦いチョイス
「えー! 二人だけでずるい! ハルちゃん抜け駆けだ!」
そんな日曜日の出来事を話したら椋梨がぷくーっと頬を膨らませた。
恒例になってきた放課後の集まり。今日は椋梨からの呼び出しにより開催された。
「ち、ちがう! たまたまバイトが上がった時間が一緒だったから仕方くなくだ! 別に水上だから誘った訳じゃない、本当にたまたまだ!」
「ねぇ、レンくん。たまたまって、なんかエロいよね」
「椋梨……お前は女子力をどこに置いてきちまったんだ……」
もはやおっさんでも言わないような下ネタを繰り広げている。
三木のたま(→)たま(→)というイントネーションに対して、椋梨のそれはたま(←)たま(←)と全然別物になっていた。
「というか! そんな、キン◯マのことなんてどうでもいいんだよー!」
「「いや、誰もそんなこと言ってないから!」」
椋梨と話していると、女子の口からはなかなか発せられない言葉がよく聞ける。
最近ではそのことに慣れ始めている自分がいて怖かった。
「二人だけバイトが同じでずるいーってことだよー!」
「それは仕方ないだろ、たまたま俺と三木の地元が一緒なんだから」
「……そんなこんなで、この三人で遊びに行きたいと思います!」
「どんなこんなだよ」
過程を色々とすっぽかしすぎてよくわからない。
「遊ぶに行くと言っても、ボクたちには共通の趣味が何もないじゃないか」
「そんなことないよー。ほら、みんな変態じゃん!」
「なるほど。それで、百々代。その変態三人はどこで遊ぶんだ?」
「うーん、ラブホ?」
だよな、絶対に言うと思った。
三木もやれやれといった表情を浮かべている。
「では、この提案は却下ということで」
「うそうそ! ハルちゃん冗談だから! んー、どうしよ。ハルちゃんはなにか好きなものとかないの?」
椋梨は必死に食い下がる。どうしても三人で出かけたいみたいだ。
俺個人の想いとしては、この三人でどこかに遊びに行けたらとは思う。となったら、俺は椋梨を援護すべきなんだろうな。
「三木は甘いものとか好きだよな」
「まぁ、そうだな。人並みには好きだ」
人並み……? 俺からすれば人並み以上に好きなように思うが。
何度も引き合いに出してしまって申し訳ないが、カフェオレにスティックシュガーを四本いれる人間は絶対に甘党だ。
「それならスイパラいこ、スイパラ!」
「スイパラ……」
満更でもなさそうな三木。
明らかに、声がワントーン高くなって興味津々といった感じだ。
「レンくんはどう思う?」
「いいんじゃないか、男だけだとなかなか行けない場所だし、興味はある」
「水上はこの機会を逃したら一生行くことはないだろうな」
「うるせー!」
それは暗に一生彼女ができないと言っているようなものじゃないか。
……うん、大丈夫だよな? このままズルズルと彼女ができないまま、童貞のまま、悲しい老後を過ごすなんてことはないよね?
「じゃあじゃあ、スイパラで決定ってことでいいかな!?」
「仕方ない。水上が行きたそうだし付き合ってやるか」
「三木だって行きたそうじゃないかよ……」
なんやかんや、三人でスイパラに行くことが決定した。
行くことが決まったのであれば、次は日程や場所をどうするかだ。話し合いはそちらの方向にシフトしていく。
「せっかくだし、平日に制服のまま行かない? もちろんハルちゃんはセーラー服で。いつもみたいに私のやつ貸すからさ」
「————うん、ありがとう。百々代」
三木は、自分のセーラー服姿をかなり気に入っている。
この放課後の空き教室でしか着る機会がないから、こうしてセーラー服を着て出かけることができるのは、三木にとってもありがたい申し出なのだろう。
「じゃあ、水曜木曜はどうだ?」
この曜日は、俺も三木もマイプレイスのシフトが入ってない日である。
「んー、水曜日はバイトのシフト入ってるんだよねー。木曜日ならいけるよ!」
「ボクも問題ない」
「もちろん、俺も。……というか椋梨ってバイトしてたんだな」
緑ヶ丘学園は私立ということもあって裕福な家庭が多い傾向にある。
バイトすること自体は禁止されていないが、俺や三木のようにバイトをしているのは意外と少数なのだ。
「ちなみにHなお店じゃないよ?」
「だとしたら大問題だわ!」
結果、普通に焼肉屋でバイトしているとのことだった。
……うん、結局のところ椋梨は根が真面目なやつなのである。
「あとは場所をどこにするかだな、大宮とか?」
「大宮……になるのか? そのへんどうなんだ、椋梨?」
俺と三木はスイパラがどこにあるのか把握していない。大宮にはだいたいのものが揃っているので、ないってことはないと思うが半信半疑ではあったりする。
「ノンノン、二人とも。せっかくだし大宮以外にしようよー」
「大宮以外……浦和とかか?」
「レンくんは埼玉にとらわれすぎだよー。東京だよ、東京!」
「東京っていっても広いじゃないか。そこまで土地勘のあるわけでもないし」
もちろん用事があればしばしば行くが、学校が埼玉県内にある以上、そこまで東京に行く機会というのもなかったりする。
「埼玉県民が東京といえば、一つしかないでしょ!」
「「池袋か」」
俺と三木は同時に一つの地名を発する。
——————完全に失念していた。
石を投げれば埼玉県民に当たる池袋の存在を(偏見です)。
最近では、池袋を埼玉に編入しようという話もあるらしい(嘘です、豊島区民の皆様申し訳ございません)。
そんな与太話が出るくらい、埼玉県民にとっての東京=池袋なのだ。
「アクセスもしやすいし、池袋でどうかな?」
「「意義なーし」」
「じゃあ次の木曜日の放課後、池袋のスイパラね! うわーすっごい楽しみ!」
それは俺も同感だった。きっと三木もそうだろう。
週初めはだいたい憂鬱なのだが、この予定のために今週も頑張ろうと思えた。




