表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/38

4-1 好きと嫌いはコインの表裏

 日曜日。いつもならダラダラと生産性のない時間を過ごして一日を浪費するところだが、今日はマイプレイスでのアルバイトが通しで入っていた。

 二回目のシフト。今日のメンバーは三木とみつきと見知った二人。

 知り合いがいるので初回よりは緊張していない。……だから大丈夫だと思っていた。

 しかし、現実はそう上手くはいかない。ままならない。

 十三時出勤なので三〇分くらい前に家を出ようと余裕をかましていたが、いざ時計が十二時を指すと段々とソワソワし始め、家の中を意味もなくうろつき始める。

 そして、三分と持たず耐えられなくなって、一時間早いが家を出ることになった。

「いつまで経っても緊張しいはなおらないな……」

 三つ子の魂百までという言葉があるが、本当にその通りだと思う。

 さて、こんなに早く家を出たがまったくあてがない。だからといって、まだ慣れないマイプレイスの事務所の中で、時間を潰すという選択肢もなかった。

 仕方がないので、かなり遠回りをしてマイプレイスに向かうことにする。

 そのため普段は使わない、あえて人通りの多い一番街の通りを歩く。

 通りに面して、均等に配置される背の並んだ蔵造りの建物群。

 川越の街が小江戸と評される所以がこれだ。江戸の面影を残す町並みは、日本人が忘れかけている日本らしさを思い出させてくれる。

 そんな一番街は、休日ということもあってか観光客でごった返していた。

 最近は鉄道会社のPRや、TV番組でも取り上げられることが多くなったため、一昔前よりも観光名所としての認知が高まっているように思う。

 車道を挟むそれぞれの歩道には学生、家族連れ、高齢者、カップルといった様々な人たちが、食べ歩きをしたり、雑貨屋を覗いたりと、各々が川越観光を楽しんでいる。

 女の人の中には着物を着ている人もいて、その艶やかな出で立ちについつい目を奪われてしまう。着物を着た女の人ってめっちゃいいよね。

「(……にしても人が多い!)」

 このまま一番街をまっすぐ突っ切るのは骨が折れるので、ひとつ外れた大正浪漫夢通りのほうを歩くことにする。

 地元民ながら、江戸なのか大正なのかどっちかにしろと思うことはあるが、ただでさえ観光名所が少ない埼玉県だ。観光できる場所は多いに越したことはない。

 大正浪漫夢通りは、一番街より人通りが少ないのですいすい歩くことができた。

 アスファルトではなく石畳が敷かれた道。これがまた風情あっていいのだ。

 この道をずっとまっすぐ進んで行くと川越が誇る商店街、クレアモールへと合流することができる。通称クレモ。川越市民が休日に遊ぶとなったら避けては通れない場所だ。

 マイプレイスは、そんなクレアモールから脇道に逸れたところに位置している。

 そのため、ここからはひとまずまっすぐ進めばいいのだが————

「(なんだろ……)」

 見慣れた通りをしばらく歩いていると、カメラ、照明、マイクといった撮影機材を持った集団と遭遇した。TVのロケかとも思ったが、それにしてはスタッフが少ない。

 よく見ると、黒いTシャツの背中に、大学名と映像研究会という白い文字がプリントされており、どうやら大学生によるサークル活動の一環のようだった。

「はい、OK! じゃあ次は寄りで撮ってみようか」

 ……映像撮影か。今では動画投稿サイトやライブ配信サービスなども増えて、映像というものが身近になっている。誰だってスマホで動画が撮れる時代だ。

 しかし、実際にこうやって大勢で撮影をしている場面を見るのは始めてだった。

「OKOK、じゃあ次は二人が喧嘩別れするシーンね」

 カメラなどを持った裏方の人と、カップル役を演じているであろう演者、恋愛ものの映画やドラマでも撮っているのだろうか。

 当然オリジナルだろうし、誰かしらが台本を書いているということだよな。小説は一人でも書けるけど、映画やドラマはそうはいかない。

 全員で一つのものを作り上げる……か。ちょっと憧れるな。

「あの、なにか? もしかして邪魔ですか……?」

「あ、いえ! 大丈夫です!」

 やばいやばい、さすがにガン見しすぎた。

 不審に思ったスタッフの一人に声をかけられてしまう。

 邪魔をしてしまった……。俺は申し訳ない気持ちになって、逃げるようにそそくさとその場を後にした。


「おはようございます」

 それからも野党議員が法案可決への抗議に使う牛歩戦術や、本屋や雑貨屋、デパートなどを冷やかして回ったりなど、あらゆる手段で時間を潰そうと躍起になった。

 しかし、そんな努力も虚しく、店についたのは結局のところ始業時間の二〇分前。

 ここまで来たらもうどうしようもないので、俺は諦めて事務所の中に入ることにした。

「お、水上クン。おはよー」

 事務所には店長がいて、パソコンでなにやら事務作業をしていた。

「おはよございます。店長……今日は服を着てるんですね」

「あはは、店で全裸になんてそんな毎日なるもんじゃないからね」

「普通の人は一日たりともなりませんよ!」

 この間の全裸事件が忘れられずそんなことを聞いてしまう。

 凌さんも言っていた通り、女子バイトがシフトに入っている日は気を使っているみたいだ。……できれば男性陣にも気を使って欲しいところだが。

「いいね、今日もツッコミがキレキレだね。その調子でよろしく頼むよ」

「仕事は頑張りますけど、ツッコミは頑張りませんからね!?」

 学校ではどちらかといえばボケ担当なのに、マイプレイスには店長をはじめ強烈なキャラが多いので、否応無くツッコミに回ることになってしまう。

「俺は今日キッチンメインだから、ホール周りの事は遥ちゃんに指導してもらうかたちでよろしく! このあと遥ちゃんにも伝えておくから」

「了解しました」

 この間は年上の凌さんに手取り足取り教えてもらったが、今日は同級生の三木に仕事を教わるということで、ちょっとだけ心配だったりする。

 同級生だからこその容赦ない指摘がありそうだし、それに三木は普段から毒舌で歯に絹着せないタイプなので、何を言われるか考えただけでも憂鬱だ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ