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2-7 雨のち晴れ、地固まる

「悪い、お待たせ。これ俺のジャージ持ってきた」

 急いで教室からジャージを取って空き教室に戻ってくると、三木と椋梨がなにやら女子トーク(三木は男だが)に花を咲かせていた。この二人、意外と相性いいんだな。

「あ、レンくん。ありがとね。ハルちゃんと会話が弾んじゃて」

「早かったな、水上。せっかく、百々代と水上の悪口で盛り上がっていたとこなのに」

「ひでー!?」

 いつの間にか三木が椋梨を名前で呼んでいる。うん、仲が深まっているのは嬉しい。

 けどそれが、俺への悪口を元に生み出されたものだと話が変わってくる。

「ハルちゃん嘘ついちゃダメでしょー。本当はレンくんともっと仲良くしたいって話だったじゃんー」

「え?」

「ちが、ちがうんだ! 百々代が誇張しすぎている! 今後はバイト先も同じだしうまくやっていけたらいいな……ということを言っただけだ!」

「もー素直じゃないんだからー」

 なんか照れるな。よかった、この気持ちは一方通行じゃなかったんだな。三木が前向きに、俺との関係について考えてくれていることが嬉しかった。

「こ、この話は終わりだ! 水上がジャージを持ってきてくれたことだし、百々代のセーラー服を貸してくれると助かる」

「あーハルちゃん話逸らしたー。でもモモヨも早くハルちゃんの制服姿みたい! それじゃあレンくん、ジャージ借りてもいいかな?」

「体育で一回着着たからちょっと臭いかもだけど、一応ファブリーズはしたから」

「全然OKだよー。むしろレンくんの男くさいニオイに包まれたい」

「……やっぱ貸すのやめていいか?」

 こういう反応って、普通は男女逆なんじゃないのか。

「冗談、冗談。じゃあこれ借りてくねー」

 それから数分も経たないうちに椋梨はジャージ姿で戻ってきた。その両手には綺麗に畳まれたセーラー服が抱えられている。

 俺はそんな椋梨の姿についつい見惚れてしまう。なんというか、ブカブカのジャージを身につけた女子っていいな。それが自分のジャージともなると背徳感がやばい。

 いわゆる彼ジャーというやつだ。まぁ、彼氏ではないんだけどさ。

「さて、じゃあ次は三木の着替えだけど……男子トイレで着替えてくるか?」

「あーそれなんだけどね。今トイレで着替えるのは難しいと思う。ジャージに着替えてトイレから出たら、ダンス部の子たちが鏡使って練習してたからさー」

 ここから最寄りのトイレ付近には大きな全身鏡がある。

 どういった目的で取り付けられたのかは皆目見当がつかないが、その鏡はダンス部や演劇部の動作確認に使われていたりするのだ。

「じゃあ、ちょっと遠くのトイレに行くか? ……いやでも、セーラー服を持った状態で校内をうろつくというのは得策じゃないよな」

「あー、モモヨいいこと思いついた! 着替えているハルちゃんのことをレンくんの背中で隠せばいいんだよ!」

「いやいや、バカだろ!? …………いや、別に問題ないのか」

 自分の後ろで女子が着替えるなんて絶対に無理だと思ったけど、よく考えたら三木は男だった。なんなら、体育の授業では同じ更衣室で着替えていたりする。

「水上の後ろで着替えるなんて絶対に嫌だ! 絶対に覗かれる!」

 俺にとっては不本意な理由で拒絶される。俺が三木の着替えを覗くわけがないだろ。だいたい、誰が好き好んで男の着替えを覗こうとするんだよ。

 けど、三木の着替えか————————いかんいかん、頭の中でピンク色のイマジネーションが生み出されそうになったが、慌てて雑念を振り払った。

 こんなことでは、三木の主張を強く否定することが出来ない。

「大丈夫だよ、ハルちゃん。レンくんはたしかにむっつりスケベだけど、人の着替えているところを盗み見ようとなんかしないって」

「椋梨……!」

 椋梨が俺の事を信頼してくれている、その事実に思わず涙ぐんでしまう。……なんかこういうこと思うのは小恥ずかしいけどさ。俺、椋梨と出会えて良かった。

「だってレンくん童貞だし」

「俺の感動と感謝の気持ちを返せ!」

「たしかに、それもそうだな」

「それで納得されるのめちゃくちゃ嫌なんだけど!?」

 くそ、童貞でなにが悪いっていうんだ。

 童貞も守れない男にいったい何が守れるっていうんだよ。

「だ、だいたい! 俺は三木の着替えとかまったく興味ないから! っ痛!」

 童貞童貞といじられた悔しさから、そもそも興味ないアピールをして精一杯の反撃をしようと思ったのだが、不満そうな顔をした三木に脇腹をつねられた。

 なんでそこに不満そうにするのかわからない。

「いいか、着替えるから絶対にこっち見るなよ」

 何はともあれ、三木が教室で着替えることは決定した。

 そのため俺と三木は空き教室の隅っこに移動する。椋梨は念のため廊下に出て、人が通らないかを確認してくれるとのことだ。

「なるベく早くな」

「せかすな、バカ」

 意を決し、三木に背を向けた状態で仁王立ちをした。あまり距離が離れても目隠しにならない。そのため、付かず離れずのギリギリの距離感を保っていた。

 しばらくしてから、学ランのボタン、シャツのボタンを外す音、カチャカチャとベルトを外す音が聞こえてくる。……なんか超ドキドキするんですけど!

 後ろで着替えているのは男だ。頭ではそう理解しているのに、なぜか悶々とした気分になってしまう。肌と布が触れ合う微かな音ですら鮮明に聞こえてきて、その音に耳を澄まそうとすればするほど、邪な気持ちがむくむくと沸いてくる。

「い、いいぞ」

 ようやく終わった。このまま生殺しのような時間が続いていたら、自分がどうなっていたかわからない。いまだに心臓はドクドクと脈を打っている。

「じゃ、じゃあ振り返るぞ————————————なっ!」

 思わず言葉を失ってしまう。

 うちのセーラー服なんて何度も見てきた。入学当初は可愛いなーなんて思ったりもしたが、一年も経てばさすがに見飽きてきた、そう思っていたのに。

 今目の前にいる三木以上に、セーラー服が似合うやつを俺は知らなかった。

「ど、ど、どうだ?」

「…………」

「な、なんか言えよ」

 今口を開いたら、俺はとんでもないことを口走りそうだった。

 衣替え前の冬服のセーラー。上は長袖で肌を隠している。しかし、スカートは短く折られていて、膝上一五センチ以上の短い丈になっていた。

 そのため、ほどよい肉付きの白い太ももが露わになってしまっている。

 男なのになんでこんなキレイな脚なんだよ……!

 たしかによく見ればちょっと骨ばった感じはするけど、正直誤差の範囲で全く気にならないというか。まぁ、結論を言ってしまうと——————

「最高だ」

「は? はぁあああああああ!?」

 なんで口に出しちゃうんだよ、俺。マジで空気読めよ。

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