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2-6 雨のち晴れ、地固まる

『大事な話がある。今からいう場所に来てほしい』

 俺は、唯一の心当たりにこのようなチャットを送った。

 図らずしも、三木から送られてきたものと同じような文面になる。いまなら三木の気持ちが理解できた。いきなり「セーラー服貸してくれない?」なんて送れない。

『まだ学校にいるけど、大事な話って?』

 一分とせずに返信が来る。

『ごめん、大事なことだから直接伝えたいんだ』

『……うん、わかった』

 少し不信感はあるようだが、なんとかここまで来てもらえそうだ。

 まずは第一関門を突破。しかしこの関門は、彼女が学校に残っていた時点でクリアしていたようなものだ。問題はこのあと、そこが最大の関門となる。

「いきなり三木がいたら警戒すると思うから、どこかに隠れといてもらえるか?」

「わかった」

 よし、準備は万全。あとは彼女の到着を待つだけだ。

「はぁ……はぁ……レンくん大事な話って?」

 三分もかからないうちに、息を荒くした彼女が教室の中に飛び込んでくる。

 どうやら、只ならぬ気配を感じ取って急いで来てくれたようだ。

「悪い、椋梨。急に呼び出したりなんかして」

 白羽の矢を立てたのは、昨年のクラスメイトの椋梨百々代だった。

 色々と気まずい出来事もあったが、彼女は俺の知る限りでもっとも口が堅く、信頼における女子だ。一見、軽薄そうに見えるけどかなり義理堅い。

「うん……ちょっと待ってね……。息を整えるね」

 椋梨はスーハーと深呼吸を繰り返していた。その度に胸部にくっついている二つの大きな果実が上下にプルプルと揺れている。

 うーん、えっちだ。これはずっと見てられる。

「だ、大丈夫か?」

「うん大丈夫そう。————あとレンくん。視線でどこ見てるか普通にわかるからねー?」

「すみませんでした」

 ゴリゴリにバレてました。死にたい。

「それで大事な話って?」

「まぁ、なんというか……。椋梨には迷惑をかけてしまうかもしれないけどさ、どうしても検討してほしいことがあって」

 気を取り直して本題に入る。

「それは……モモヨに伝えたい話なの?」

「あぁ、こんなこと椋梨にしか言えないよ」

「そ、そっかー。じゃあ聞かせて欲しいな、レンくんの気持ち」

 ん、俺の気持ち? 別に俺の気持ちとかは全く関係ないけどな。

 なんだか椋梨はそわそわしていて、顔を真っ赤にしながらチラチラとこちらに視線を送ってくる。すごく恥ずかしそうでだけど何かに期待している感じ?

 なんかこの光景デジャブなんだよな。

 相変わらず放課後の空き教室には誰の姿もない(三木が隠れているけど)。

 なんかついさっき同じような場面があったような気がする。でも、まぁいいか。今はとにかくあのことをお願いしなければならない。

「……椋梨。頼む、セーラー服を貸してくれ!」

「んー?」

 椋梨はぽかーんとしていた。

「聞こえなかったか?」

「ううん聞こえたよ、バッチリ。それで、セーラー服ってなにかのメタファー?」

「え、別にそんな文学的表現じゃなくてそのままの意味だけど」

「だとしたら、レンくんのこと殴るね」

「え? ————痛っつつつつつ!!」

 思いっきりビンタされた。そしてようやくデジャブの正体に気がつく。

 こんな呼び出し方、まるで告白みたいじゃないか。最初自分だって勘違いしていたことを完全に失念していた。これは椋梨が勘違いするのも無理ない。

「ねぇ、レンくん。モモヨのこと揶揄ってる?」

 さすがの椋梨もご立腹のようだった。

 普段は人を怒らせたりしないように心がけているので、実際にこうして他者の怒りに相対してしまうと、怖くて震えが止まらなくなる。情けない道化の性だ。

 それでも、今は恐怖に打ち負けている訳にもいかない。きちんと説明しないと。

「本当にごめん! ただこれは冗談ではなくて、ガチで椋梨のセーラー服を借りたいという相談なんだ!」

「……どういうこと? モモヨの制服でオ◯ニーしたいってこと?」

「うん、そう思われると危惧していたが、実際に言われると傷つくな。ちなみにそういう邪な目的で使うつもりは毛頭ございません」

 そもそも、女子がオ◯ニーとか言うなよ……。

「事情はよくわからないけど、レンくんもふざけている訳じゃないってことだよね。……だとしたら、勝手に勘違いして殴ってゴメンね。痛くない?」

「大丈夫。むしろ俺の方こそ、勘違いさせるようなことをして悪い」

 椋梨には悪いことをしてしまった。殴られるのも無理はない。

 それなのに、椋梨は申し訳なさそうな顔でこちらを労ってくれる。……やっぱり、椋梨はいいやつだ。彼女なら信頼することができる。

「それで一応制服を借りたい理由というのは聞かせてもらえるのかなー?」

「わかった。……三木! もう出てきていいぞ!」

 机のかげに隠れていた三木が姿を現す。

「うわ! びっくりしたー!」

「……ごめん、二人とも。ボクのせいで嫌な思いをさせてしまって」

 三木は申し訳なさそうにしていて、その表情に影を落としている。

 俺と椋梨が険悪になりかけたことを気にしているようだ。

「別にいいって気にしなくても。椋梨、セーラー服を借りたいのは三木のためなんだ」

「えーと、一から事情を説明してもらえる?」

 

「なんだー! そういうことか! それなら全然大丈夫だよ! というか、むしろハルちゃんが可愛くなるためにモモヨにも人肌脱がせてよ!」

 事情を説明すると椋梨は二つ返事で了承してくれた。

 自分で声掛けといてあれだけど、ちょっと物分かりがよすぎないか。

「……いや本当、椋梨に頼んでよかったよ。ありがとな」

「ううんいいの。頼ってくれて嬉しかったよ?」

 椋梨は屈託のない顔で笑った。……自覚しているのか、無自覚なのかはわからないが、男心をくすぐるのが上手すぎる。この笑顔は反則だろ。

「水上、椋梨、二人ともありがとう」

 俺に続いて、三木も少し涙目になりながら謝辞を述べていた。いつもはクール系の三木だが、こんな表情をすることがあるんだな。

「もう、ハルちゃんは可愛いなぁ! 本当にち◯ぽ生えてるのかな? ねーレンくん、確認してもいい?」

「ダメに決まってんだろ!」

 こっちの感謝の気持ちとか色々返してくれ。あと、女子がち◯ぽとか言うな。

「ちぇー残念! じゃあ、さっそくお着替えしようか。あ、でもその前にレンくんジャージ借りてもいい? セーラー服脱いだ後の替えがないからさー」

「あ、悪い。気が利かなくて。ちょっと待っててくれ」

 急いで自分の教室までジャージを取りに行く。

 静かな廊下。誰ともすれ違うこともなくストレスフリーで進んでいける。この時間まで校舎に残っていることはないので、なんだか新鮮な気持ちだ。

 理由はわからないが、この非日常になぜかワクワクしている自分がいた。

 ——————今なら、三木と出会った今なら、何でもできるようなそんな気がする。モチベーションが下がって停滞気味だった心に火が灯った。

 また、夢を追いかけたい。そんな気持ちにさせられたのだった。

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