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リムバス王国記

王太子殿下の策謀と結末

リムバス王国物語の王太子サイドのお話です。


元第2王子の婚約破棄の顛末、を先に読んでいただけると、内容が理解しやすいかと思います。




 「お前が次代の王となる頃には王家の権威など形だけの張りぼてになるだろうな」



 リムバス王国王家の第一子として生を受け、いずれは王となるべく育てられた私は父であるザドラード陛下の凡庸さと、母であるアンネクラール妃殿下の執着を肌で感じ、何度となく耳目に触れて来た。


 仲睦まじいと思えた両親に最初に違和感を覚えたのは何時だったろうか。


 2つ下の異母弟ソシアードが産まれてより、物心つく頃から私と弟とは常に差をつけて育てられて来た。

 それは何れは立太子し、その後には国王となることが決まっている私と、本来ならば庶子でありながら、様々な要因で王籍に加えられ、侯爵家へと婿入りすることが決まっている弟では前提が異なるからだと言うことは理解している。


 そもそも、ソシアードの出生に関する事柄は貴族の中では良く知られる醜聞であったゆえ、私は歳のいかない幼子のうちから父の醜態を知っていた。

 であるから、母の懐の深さと義母殿と弟に対する友好的な態度は初めは好ましく思っていたはずだった。


 だが、本心を隠した違和感は子供であった私にも日を追って見えてくる。いや、子供だったからだろう。


 初めは純粋な嫉妬や怒りだった。


 初めから臣籍に降ることが前もって決まっており、内々に王家が乗っ取りを画策していると思われ無いためにと、表向きの次期セルフィス侯爵は婿入りするソシアードであっても実権は何一つ与えられないことが前もって決まっていた。

 としても、ソシアードの教育は教育と凡そ呼べる物では無く、次期国王となるべく厳しく教育される私は能天気に方々へと甘えては我が儘を言うばかりで何も為そうとはしない弟へと失望や怒り、義母殿の立派さに対して、あまりの愚かさに呆れていたのだ。


 とは言え、それは母の意向を汲んでのこと。

 一夫一妻を重んじる我が国においても夫婦間で子を為せない場合に限り、継子を産むためだけに期間を限った公妾を持つことは許されているが、それはかなり厳しい条件なのだ。

 まずもって婚姻より3年以上、行為があっても子が出来ないこと、石女である可能性や相性などで子が成せないと思われることが第一条件であり、そこから、妃殿下より立場が強くなることの無いよう、妃殿下の実家より家格が低く、出来るならば既に子をもうけたことのある夫人を期間を定めて離宮へと囲い、期間内は公妾として扱うというものだ。


 これにより公妾となった者は子が産まれなくとも名誉として扱われ、家に戻された後も「王の公妾」を勤めた女性を粗雑に扱うことは「王家への反意」があると見なされるために、概ねにして大切にされることが常であるし、そもそも「公妾」を出すことは家にとっての名誉でもある。 

 子を成した最には養子として妃殿下の子となるものの、縁組みのさいには公妾本人、夫人の家へと報償金が支払われることとなっている。


 つまり、既に母上との間に私が産まれていた父は妾を作ることなど許されることでは無かったのは勿論、外に子を成すなど論外であった。

 それでも父のお忍びを補佐たちは見逃した。

 自らが凡愚であると自覚していた父は多くを周りの補佐たちに任せ、実務については優秀な母も補佐たちを助けていた。

 無論、全く何も出来ない訳でなく、簡単な事であれば自らの裁量の内に処理していたのだが、影では王弟殿下に継承させるべきであったとか、見目の良さだけの玉座の飾りだとか、まあ酷いいわれようだったそうで、息抜きのひとつくらいはという思いだったようだ。

 平民であれば、万が一には事故死させればという傲慢な考えもあったのやも知れない。

 

 それにしても、まだ口止めを払って娼婦を見繕うなら兎も角、素人女に入れあげて子まで成したのだ。

 妃殿下への裏切り行為に対して、妃殿下自ら寛大にして利のある選択をしたことに臣下は安堵し、国民は喝采を上げて、同時に父の威厳はまさしく地に墜ちた。


 だからこそ、義母殿と弟の処遇は母の一存で決まっていた。


 だからだろうか、最初の疑問は嫉妬や怒りが落ち着いて来た頃、数えで12となった頃だった。


 いくら実権を持たない入り婿になるとはいえ、表向きの当主になろうという人物であれば、むしろ出しゃばらず、荒立てず、それでいて、家の看板に泥を塗ることの無いように礼法作法は完璧でなければならない。


 だと言うに、弟の愚かさは益々と酷くなる一方であり、婚約者のお陰でようやっと王子としての体面を維持している始末、義母殿は憂いておいでになり、厳しく教育し直すか、直ぐにでも野に落として母子ともに都落ちを希望されておられたが、甘やかしてくれる母や父のところに入り浸り、王宮の私室から義母殿のいる離宮へと余り顔を出さない弟は、その嘆きに気付いてすらいなかった。


 事ここに至る当たりで、私は母の弟に対する教育方針に悪意があると疑念を持つようになる。

 庶子となる立場だったものに無理な期待をかけてはいけない。言葉は慈愛に満ちて聞こえるが、勇者の血を引く者を低い所へは置けないと王籍に据えたのは他ならぬ母なのだ。

 義母殿は元より地位を望んでおられぬし、父も家臣たちも母に気を使って、というよりは貴族法に則り庶子とする筈を母の横槍で王籍へ加えることになったと聞いている。

 であるならば、期待をかけて王籍に相応しい教育を施すべきであるし、義母殿の思慮深さを鑑みれば、弟とて厳しく教えられていれば、その身分や立場に相応しい人物に育ったとも思うのだ。

 

 そうした疑念を持ってより、母と義母殿、母と弟の交流を見るにわかったことがある。

 義母殿は自らは決して離宮を出ようとはしない。父も母に気を使い、ほぼ離宮には訪れない。母はそんな義母殿を連れ出しては交流を図り、あれこれと世話を焼くのだ。

 臣下とともに母は嫉妬や怒りを捨て、世俗から切り離された義母殿を思いやっていると思っていたが、逆だったのだ。

 良く考えて見ればわかる。庶子として弟を認知し、臣下の元で王宮から離して育てるのであれば、義母殿もまた王宮から解放されるのだ。

 全くの庶民として扱うことは出来ないまでも、田舎の王領に王妾の邸宅を用意し、使用人とともに住まわせることも出来る。王宮の離宮で暮らすよりは遥かに息苦しく無いことだろう。

 弟に期待をかけるなと言うなら、そもそも身分を与えなければ良いのだ。

 裏切り者を許す母の構図が、皆にその冷静な視点を奪っているが、その色眼鏡を外して見れば、何の事はない母は一貫して嫌がらせをしているのだ。


 憐れな義母殿に気をかける優しい妃殿下を装い。

 愚かな義理の息子を甘やかす継母を装い。

 実の息子は将来の国のためと、厳しい妃殿下の姿を見せるための道具とする。


 納得するしかない、表情を完璧に繕える母のことを読み解くのは難しいが、そう理解してしまえば、瞳の奥の洞穴から、憎悪が見えるようになった。



 学園の最終年、まだまだ健在の父を説得し、隣国への留学を申し出たのは、いずれはこの国の封建的な体制が崩れると予見してではあったが、壊れきった家族から離れたかったこともあった。


 弟の婚約者となった令嬢には申し訳ない気持ちはあったが、万が一の時には全力で取り成し、お家に一切の不備が無いようにと父にかわり厳命して国を出た。


 留学先で私の婚約者候補に弟が粉をかけたらしいと私費で動かしている手の者からの報告が来る。

 私自身の婚約は弟よりも家格の面で負けないようにと、かなり厳選され、厳しい教育が施されていたため、令嬢はかなりご立腹のようだと言う。


 私は丁度よいかも知れないと、敢えて弟とその令嬢の不義の噂を流させることにした。


 

 弟がやらかして、まさか義母殿が自害なされた時、私は幸いに国内へと帰国している最中であった。

 夏季休暇で留学先より戻る最中だったのだ。


 弟に関すること、それも母と私がそれぞれ別の形で介入した結果として王家と貴族家の確執は取り返しのつかないところ迄に広がったが、さすがは義母殿だ、盛大な意趣返しをしてくれる。

 単に我が子可愛さだったやも知れないが、残念だが弟には生きて貰っていては困るし、少し力を付けすぎたルナージュにも沈んで貰わないといけない。


 母は嫉妬と誇りを汚された怒りで執着していたが、だとしても、そのことを駒に利用して、私の治世を磐石なものにしようとしたのだ。


 だからこそ、王家簒奪を企てさせ、謀反人を釣って見せたのだ。だが、それはすでに終わっており、弟のやらかしと、義母殿の自決は全くの予想外だったろう。


 まさか、私が義母殿に「もしもの時はその身をお隠しになられれば、必ずや弟共々保護いたします」と話していたとは知らないだろう。


 愚鈍に育ってしまった弟は私を慕っていたが、私も弟は大嫌いであったし、義母殿は尊敬していたが、それでもあの存在自体が邪魔だった。


 「お隠し」の意味を正しく理解されるあたりは流石は勇者の直系である。改めて、あそこまで愚かに育った弟は母のために如何に歪められたかが分かる。


 だからこそ、義母殿の死に動揺は無い。

 両親に罪を被せ幽閉し、即位すると同時に支持をくれる者をあつめ、予め交流を持っていた民間の商業組織、傭兵団を召集、ここぞと多くの貴族家を追い落とし、各地に働きかける中、混乱に乗じて神聖国が軍を起こす。


 まだ、想定内だ。すでに庶民の方が財力も技術も持っているのだ。組織された傭兵団と我が国の騎士団、兵士団を戦地へと送る。


 私が留学したヤイナム民主議事国は激しい革命の嵐の果てに王統は途絶え、貴族階級にいた者たちも処刑されるか亡命したかで、革命政府には平民しかいなかった。

 国を興してのち、その政治体制は乱れに乱れ、結果として我が国の支援を受けている。

 周辺国はこのことで、平民による革命など愚か極まりないとの認識で共通し、ひたすらにヤイナム民主議事国を貶めている。


 だが、実際に我が国とて、平民の力は増すばかり、土地からあがる税だけでは工業化が進み、交易がより盛んとなった今、貴族たちは事業を手掛け投資をし、利益をあげねば、財政は傾くばかり、だというのに見栄ばかり大切にされる貴族独特の風習は、湯水の如く金を浪費する。


 ルナージュとラドバ公爵の関係は縮図でしかないのだ。貴族の爵位など、今やなんの正当性も持たない。


 それでも、あまり性急に階級の垣根を崩せば国が滅ぶやもしれない。都合が良かったのだ。王家の権威を貶め、貴族に罪を被せ、程好く間引くには。


 国内の混乱をある程度は抑えて、神聖国との和睦へと向かう途中、弟の元婚約者が和平交渉の使者として出向き、まさか義母殿の自決を再現して見せたとの報告が入る。


 幸いにして、何とか一命は取り止めたとの報に、王命として何としても死なせるなと使者に伝令させる。


 正直に言えば神聖国への対応の切り札などいくらでもあったが。実にうまい口実を作ってくれたと私は喜んでいた。


 やはり民の力は強い。「聖女」と祀り上げた彼女の誇張した話を広め、方々へと都合よく吹き込めば、和平と愛国、忠誠と民への深い愛ゆえに心傷めて自害した「聖女」は民の強い支持を得て、聖女を保護する我々を味方するようになる。


 「宗教」も「貴族階級」も最早、価値などない。


 新たな議会を設けて、富裕層に限定して選挙を行い議員を定める。王族の権威が後ろ楯となり、民主議会が発足し、旧貴族家を華族として名誉称号へと置き換えていき、華族年金を定め、ゆっくりと階級制度を無くしていく。


 民衆の力は、この国を根本的に変えていくだろう。

 産まれたばかりの我が子を見る。



 「お前が次代の王となる頃には王家の権威など形だけの張りぼてになるだろうな」



 私は笑顔で次代の王へと語りかけた。





これにてリムバス王国物語はおしまいです。


気が向いたら、続編を書きます。


感想お待ちしていますm(_ _)m

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― 新着の感想 ―
 なるほど、なるべくしてなったという結末ですね。  王太子の腹黒さはある意味王として相応しいと思います。  ただ、それでもいずれは本編のヒロインの尻に敷かれることになる気が。最も現状を理解しているのは…
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