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【コンテスト受賞】後宮で皇帝を(物理的に)落とした虐げられ姫は、一石で二寵を得る  作者: 西根羽南


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俺の名前は

 後宮には大きく分けて六つの区画がある。


 四家の姫が主となる青宮(せいきゅう)白宮(はくきゅう)朱宮(しゅきゅう)玄宮(げんきゅう)

 後宮と外界との境である黄宮(おうきゅう)

 そして皇帝の宮である、桃宮(とうきゅう)だ。


 皇帝の私生活の場であるその桃宮の部屋に、麗珠(レイジュ)は通されていた。



「……何で? 謁見なら黄宮じゃないの?」


 最初に説明された時に、後宮入りで皇帝に挨拶する際には黄宮だと聞いていたのだが。

 既に後宮入りしている場合には違うということだろうか。

 用意されたお茶はいい香りで、お菓子も見たことのないものだが、今はそれを口にする気になれない。


「まさかの、皇帝自ら毒殺とか……は、ないか。邪魔なら命じれば追放でも処刑でもできるし」


 考えるのに疲れた麗珠は椅子から立ち上がると、窓から庭を眺める。

 さすがは皇帝の私的な空間だけあって、綺麗に手入れされた庭だ。

 池には何匹もの魚が泳いでいるが、あれは何だろう。


「あの魚、美味しいのかな」


 あまり見たことのない色だが、魚には違いない。

 淡水魚なので泥抜きをすればいける気がするが、さすがに桃宮の魚を捕まえるわけにはいかないか。


「……庭の魚を食べようとするな」



 聞いたことがある声に似ているが、少し低い。

 何だろうと思って振り返ると、そこには龍蛍(リュウケイ)……に似た少年がいた。

 白を基調とした裳と衣に、帯と襟は青緑色の生地に金の葉が刺繍されている。


 生地には流水と白い牡丹が描かれ、ところどころに配置された紫色が高貴な印象だ。

 今までは三つ編みでひとつに結ってあった髪も、髷を結って残りは自然に流すという成人男性に多い髪型だ。


 何よりも、その身長に麗珠は目を疑った。


「龍蛍?」

「そうだ」

 声も何だか低くなっているが、これはいわゆる声変わりというやつか。


「ちょっと、また大きくなっていない!?」

「成長期だ」

「いや。いくら何でもひと月ほどで大きくなりすぎよ」


 もともと五歳くらいで、麗珠の腰のあたりに頭があったのに。

 今や同じ目線だし、見た目で言えば十五歳くらいでまさに同じ年頃だ。



「おかしい、おかしいから。それに何なの、その格好……というか、何でさっきから視線を逸らすの」

「いや……」

「ああ、麗珠様。とてもお似合いですよ。実に美しい。龍蛍が直視できないのもわかります」


 明るい声と共に姿を現したのは浩俊(コウシュン)だ。

 こちらもまた、今までに比べてだいぶ華やかな衣装を身に纏っている。


 美青年が衣装まで整えたら、ただの美の暴力だ。

 そんな人に美しいとか言われても、何ひとつ心に響かない。


「本当に、龍蛍のおしりを狙っていた破廉恥女とは思えません」

「誰が破廉恥よ」


 その件に関しては、おしりに光る炭を仕込んでいる龍蛍の方が問題だ。

 麗珠はおしりの安全を保とうとしただけなので、濡れ衣である。


「いえ。今となってはあなたが破廉恥で良かったと感謝しています。どうぞ、そのままの破廉恥な麗珠様でいてください」


「感謝に見せかけた文句よね、それ。……ところで、ここで何があるの? 皇帝陛下に呼ばれたとかで連れてこられたんだけど」


「そうだ。だから俺達がいる」

 ようやくこちらを見てくれたが、やはり龍蛍の声が低いのには違和感がある。



「ということは、直談判の機会を作ってくれたのね? ありがとう」


 浩俊が麗珠を追い出す手続きをしていたはずだが、なかなか手間取っている。

 だから、皇帝に訴える機会を作ってくれたのか。


 しかも皇帝に挨拶もできて、一石二鳥。

 これで晴れて後宮を退出できるわけだ。


「違うな。それならば、わざわざ服を贈らない」

「そうだわ。この服、龍蛍がくれたの?」

 うなずく龍蛍に、麗珠はつかつかと歩み寄ると、指で額を突いた。


「もう。また無駄遣いして! 何だか急に大きくなっているけれど、そういうところは子供なんだから!」


 背後で浩俊が笑っている気配がするが、そもそもは彼が止めるべきなのだ。

 主が大切だからといって、何でも買い与えるのはよろしくないと思う。


「……子供、か」

 ぽつりと呟いたかと思うと、龍蛍は麗珠の手をすくい取る。


「まだ、子供だと思うか?」


 ぎゅっと手を握りしめると、翡翠の瞳がまっすぐに麗珠に向けられる。

 今までと違って真正面にあるそれの美しさに、思わず息を呑んだ。


「な、何なのよ」

 少し体を引く麗珠を見た龍蛍はにこりと微笑むと手を放した。



「さっき、皇帝に直談判と言っていたな。何を言う気だ?」

「そりゃあ、後宮から追い出してくださいって」

 説明するまでもないと思うのだが、一体何なのだろう。


「却下」

 あまりにも眩しい笑顔で言われ、一瞬何のことだか理解が遅れる。


「え?」

「駄目。無理」


「何で龍蛍が決めるのよ。私は、陛下に言うんだってば」

「だから、もう言っただろう」

 楽しそうに笑う龍蛍を見た麗珠は、まさかの可能性に慌てて浩俊に目を向けた。


「じゃあ、宦官じゃなくて皇帝だったの……⁉」


 後宮の中にいる成人男性は、宦官か皇帝。

 何となく似ていると思ったのは美形同士だからではなく、兄弟だったからなのか。



「違います。私は(ヨウ)浩俊。確かに先代皇帝の息子ではありますが、帝位の権利のない影官(えいかん)という役職に就いています」

 聞き慣れない言葉に首を傾げていると、浩俊がにこりと微笑んだ。


「知らなくても無理はないですよ。滅多に就任することはありませんから」

「それじゃあ、宦官ではないのね」


「違いますね。本来後宮内に成人男性は皇帝と宦官のみ。影官は特例中の特例です。役割としては、皇帝の補佐ですね」

 つまりは帝位の権利がないとはいえ皇子なのだから、発言権は十分にあるだろう。


「なるほど。それなら、早速後宮から追い出してくれるかしら」

「それは無理です。陛下が絶対に認めませんし、私も賛成できません」

 巷の女性がときめいて倒れそうないい笑顔だが、言っていることはなかなか酷い。


「何で!? 何の恨みがあるのよ。……まさか、私が仕留めたのは皇帝陛下の飼っていた鳩だったとか? お肉の恨み!?」


「違う、馬鹿。俺が麗珠に残ってほしいから、出すわけがない」

 隣に龍蛍が並ぶが、視線が同じな上に声が低いので、やはり違和感がある。


「俺が、って……」

「やっとわかったか」



「血縁だからって、お願いしたのね? 権力の使い方を完全に間違えているわ。大体、何で私を残すのよ」


 遊び相手として手頃なのかもしれないが、どちらにしても半年もせずにいなくなるのだから、ここで邪魔はしないでいただきたい。


「……本当に気付いていないんだな。その(かんざし)をよく見てみるといい」


 何故ここで簪なのだとは思ったが、真剣な表情におされて仕方なく髪から簪を引き抜いた。

 銀色の簪には緑色の石が使われていて、これは翡翠だと龍蛍は言っていた。


 龍が巻き付いたような意匠が凝っているし、先端の石の部分に付けられた鎖には、桃の飾りと小さな石に銀の絹糸が優美に垂れ下がっている。


「翡翠に、龍、それから桃、だろう? わかったか?」

「何度見ても、高そう」


 正直に感想を伝えると、龍蛍は笑いながら麗珠の持っている簪に手を添えた。

 同時に顔が真横に来たわけだが、ちょっと近すぎやしないだろうか。



「いいか。この翡翠は俺の瞳の色だ」


 そう言うと龍蛍は麗珠をじっと見つめる。

 目の前の翡翠の瞳は、簪の宝石に負けない美しさで輝いていた。


「龍は名前から。それと、天子の象徴でもある」

「そうなの?」


「桃は皇家の象徴。皇家は桃姓だからな」

「へえ」


 もともと龍や桃はおめでたい図案なので巷でも見かけるが、そんな意味があったとは知らなかった。



「俺の名前は、(トウ)龍蛍。――当代の皇帝だ」

光らなくてすみません。

夜には光るかな?

モウコ(ง -᷄ω-᷅ )ว ٩( -᷄ω-᷅ )۶(ง-᷄ω-᷅ )ว ( -᷄ω-᷅ و(و ハァーン☆


中華後宮風蒙古斑ヒーローラブコメ「一石二寵」!

よろしければ、感想やブックマーク等いただけると大変励みになりますm(_ _)m

今日も2話更新予定です。



「残念令嬢 ~悪役令嬢に転生したので、残念な方向で応戦します~」

12/2書籍2巻発売、12/3コミカライズ連載開始!

こちらもよろしくお願いいたします。

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― 新着の感想 ―
[一言] UP主の踊りはいいから、イリスのドレスに昇華してください
[一言] やっと皇帝の名前が出た。 やっぱり後宮入りする前に皇帝の名前を教えて、 もらった時に簪や服を送られるいみを教えても、麗珠なら忘れていたような気しかしない。
[一言] 庭の魚はたぶん美味しいと思うけど食べないよね 金魚は鮒から品種改良した奴だから、きちんと処置して料理すればたぶん美味しい 鯉は言わずもがな。錦鯉の産地では売り物にならないB級品の錦鯉を昔から…
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