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【コンテスト受賞】後宮で皇帝を(物理的に)落とした虐げられ姫は、一石で二寵を得る  作者: 西根羽南


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嫌だね

「そう、なの?」

「ああ。まずは成熟した桃斑(とうはん)を見せてやろうか。この桃にそっくりだぞ」


 そう言って懐から出したのは、桃の刺繍が施された手巾(ハンカチ)

 乞巧節(きっこうせつ)麗珠(レイジュ)が渡したものにしか見えないのだが。


「何で、これを持っているの」

「麗珠が俺のために刺繍したんだぞ。大切に決まっているだろう。まあ、欲を言えば少し……アレだが」


 欲も何も、結構アレだ。

 桃本来の滑らかな曲線がガタガタなので、改めて見ても切ない。


「来年が楽しみだな」

 その屈託のない笑みから、ガタガタの桃でもまったく気にしていないことが伝わってきて、何だか嬉しい。


「そうだ。明鈴(メイリン)のこと、ありがとう」

「他ならぬ、俺の大切な妃の頼みだからな」

 こういう時は子供のように笑うのだから、本当にずるいと思う。


「それに、あの寵は役に立つ。市井に放つのは惜しいし、父親に悪用されても困る」


 鋭い瞳は為政者のもので、先程の表情との差が凄い。

 木から落ちてきたあの子供は、もうすっかり大人で、この国を背負う皇帝なのだと改めて実感した。



「おまえが成熟させた桃斑、ようやく確認できるぞ。ずっと見たがっていたし、良かったな」

「待って。それ、おしりでしょう? 嫌よ」


「嫌とは何だよ。ずっと見せろと言っていたくせに」

 まるで麗珠がおしりを狙う破廉恥女のような言い方だが、これは納得できない。


「おしりに炭を入れているのかと思って、安全のために確認しようとしただけよ。大体、あんなに見られるのを嫌がっていたじゃないの」


「光っていなければ、いい」

「何なの、その理屈」


 以前から思っていたが、龍蛍のおしりの判断基準がよくわからない。

 呆れて肩をすくめる麗珠を見る龍蛍は、何故か楽しそうだ。



「初めて会った時に、一石二鳥と言っていただろう」

「よく憶えているわね」


 あの時はお腹が空いていて、二羽の鳩を狙って石を投げたのだ。

 そうしたら子供の龍蛍が鳩と共に落ちたのだから、世の中は何が起こるかわからない。


「先天的に持つ寵を天寵(てんちょう)と呼ぶ。それに対して地を統べる皇帝の寵愛を地寵(ちちょう)と呼ぶ。麗珠は天寵で一石を投じ、鳥と地寵を手に入れた。――一石二寵(いっせきにちょう)。狙い通りだな」


 にこりと微笑まれたが、そんなものを狙った覚えはない。

 違うのだと首を振ると、龍蛍の手が伸びて麗珠の髪を撫でる。



「俺のこと、嫌いじゃないだろう?」

「何よ、それ」

 確かに嫌いじゃないどころか好きなわけだが、そんなことを一度だって言った覚えはないのだが。


「桃斑は暁妃と互いに想う気持ちがなければ、成熟しないし桃色の光にならないらしい」

「何なの、その恥ずかしい光は!」


 ということは、告白したわけでもないのに麗珠の気持ちがバレバレではないか。

 急成長を遂げたはずの乙女心が許容範囲を超えてしまい、何を言ったらいいのかわからない。


「それに仮に嫌だと言われても、手放す気はない」

 そう言うと、髪を撫でていた手が腰に回され、一気に抱き寄せられた。


 龍蛍の腕の中で、吐息がかかるほどの近さに顔がある。

 色々な情報が一気に駆け巡った結果何もできなくなった麗珠は、頬を染めたまま大人しく腕の中に収まっていた。


 それを承諾ととらえたらしく、龍蛍は楽しそうに何度も麗珠の頭を撫でている。



「本当はもっと早くに手に入れたかった。でも桃斑が成熟するまでは皇帝といえども半人前扱いで、正式に皇后を迎えられなかったからな。我ながら、よく耐えた」


「……耐えるって、何」

 ようやく慣れて言葉を発することができた麗珠は、恐る恐る顔を上げて龍蛍の様子を窺う。


「目の前に惚れた女がいるんだぞ。手を出したくなるのは当然だろうが」

「惚れっ!?」


 誰もが見惚れるような美しい顔で、とんでもないことを言っている。

 色々な意味で衝撃が割り増しされるので、少し控えてはもらえないだろうか。


「ああ、そうか。そこからなのか。何度か言ったと思うが、この調子では伝わっていないんだろうな」


 ため息と共にそう言うと、龍蛍は麗珠の頬に手を添える。

 翡翠の瞳を真正面から見る羽目になり、麗珠の鼓動は大暴走寸前だ。



「麗珠、好きだ。……おまえは?」


 宝石よりも美しい輝きを放つ瞳に、人形がひれ伏すような整った造作。

 それだけでも心臓に悪いのに好意まであるのだから、麗珠に勝ち目などない。


「私も……龍蛍のこと、好きよ」


 それ以外の言葉を封じられたような状態でどうにか答えると、その瞬間にぎゅっと抱きしめられた


「ああ、わかっていても麗珠に言われたら嬉しい。本当に、嬉しい」


 息ができない程強く抱きしめながら、何度も頭に唇を落とされている気配がする。

 龍蛍は好きだし、抱きしめられたらときめくが、これはちょっと駄目だ。


「離れて!」


 思い切り胸を押す形でやっと少し距離を取ると、麗珠は深呼吸をする。

 乙女心的な呼吸困難がないとは言わないが、現状では本当に息苦しかったので酸素が欲しい。


「何故だ?」

「何より息ができないの! それから、近いのよ。こういうの、慣れていないから」


 物理的にも心理的にも、もう少し難易度の低い接し方から始めていただきたい。

 そうでないと、麗珠は色々な意味で倒れてしまう。

 腕の中で必死に訴える麗珠を見ていた龍蛍は、数回瞬くと、すぐに口元を綻ばせた。



「そうか。それは悪かった」


 良かった、わかってくれた。

 麗珠は、ほっと息をつく。


「これからは。もっと近くにいて慣れような」


 駄目だ、わかっていなかった。

 どちらかと言えば、より悪化した。


「何で、そうなるのよ。ここは適切に距離を取るところじゃないの?」

「そんなわけないだろう。……やっぱり、わかっていないな」


 困ったように笑ったかと思うと、龍蛍の手が麗珠の頬に伸びる。

 しかも、両手で包み込むように触れられているせいで、視線を逸らすことすらできない。



「これから、じっくりと教えてやる。俺がどれだけ麗珠を大切に想っているのかを。……約束しただろう? 俺の寵をやる、って」


 鼻先が触れそうな程の至近距離で囁かれ、そのあまりの色気に麗珠は震えることしかできない。


「お、お手柔らかに……」

 かろうじて口にできた要求を聞いた龍蛍は、翡翠の瞳をゆっくりと細めた。


「――嫌だね」


 すべての反論を封じるように、美貌の皇帝は最愛の桃妃に唇を重ねた。




これで完結です。

お付き合いありがとうございました!

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※今後の予定は活動報告をご覧ください。


中華後宮風ラブコメ「蒙古斑ヒーロー」!

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― 新着の感想 ―
[一言] 完結お疲れさまでした。 皇帝へのプレゼントが皇妃自ら獲ってきた鳥を調理したものになりそうですね。 お尻が光る変わった子供になつかれて、気づいたらその子のお嫁さんになっていた歴代暁妃に合掌。…
[一言] 無事にハッピーエンドになったけど麗珠には是非とも妃になったのちも石を投げてもらいたい 何ならこの件を故事に石を投げて旦那を捕まえる的な風習ができるでも可
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