桃妃の正体
「ねえ、いつおろしてくれるの」
「まだだ」
「どこまで行くの」
「桃宮」
「遠いわよ。重いわよ。無理しないで、おろしてよ」
「遠くない。重くない。無理していないし、おろさない」
黄宮を出てからこの調子で、龍蛍と麗珠の意見は見事な平行線だ。
抱き上げられて運ばれるという、乙女ならばときめき必至の事態だが、麗珠の眉間には皺が寄っている。
ときめかないとは言わない。
龍蛍の腕に包まれ、至近距離に顔があるというのは刺激が強い。
だが、それ以外の感情の方が大きすぎる。
黄宮から桃宮というのは後宮内でも一番距離があるし、麗珠は特別太っているわけではないが華奢な四家の姫君達よりは確実に重いだろう。
好きな相手が自分の体重で弱っていく様など、見たくはない。
重さに耐えかねて謝罪される前に爽やかにおろしてほしいと思うのも、きっと乙女心のはずだ。
自身の乙女心の急成長に感心していると、龍蛍が呆れたとばかりにため息をついた。
「おまえ、いつまで俺のことを子供だと思っているんだよ。俺はとっくに成人しているし、それなりに体も鍛えている。麗珠一人を運ぶくらい、何てことはない」
翡翠の瞳でじっと見つめられれば、乙女心が成長した麗珠に抗う術はない。
一転して黙った麗珠をどう思ったのか知らないが、龍蛍は笑顔のまま回廊を進む。
途中、何人かの女官とすれ違ったが、皇帝が妃を抱きかかえて運んでいるのだ。
当然声をかける者もおらず、ただ見守られ頭を下げられ続けたので、精神修行をしているような気がしてきた。
いっそ眠ってしまえば現実逃避できるのではとも思ったが、時々麗珠の様子を窺う龍蛍の瞳が優しくて。
恥ずかしいのに、その瞳が見たくて。
結局、抱き上げられたまま時々見つめ合って運ばれた麗珠は、桃宮に到着する頃には精神的にすっかり消耗していた。
「私、頑張ったわ。凄く頑張った」
「運んだのは俺だから、頑張ったのは俺じゃないのか」
桃宮の庭の四阿で椅子におろされた麗珠がぐったりとうなだれていると、龍蛍が首を傾げながらその隣に座った。
「起きてすぐに悪かったな。でも、来てくれて話が早かった。これでもう麗珠は暁妃じゃない、桃妃だ」
「桃妃」
先程から何度か出ているが、聞いたことのない名称だ。
「桃斑持ちの皇帝が子供の姿だと四家にもわからないように、影官がいる。同様に暁妃に役割があること、それを終えるとどうなるかも秘されている。どちらも二人の身の安全のために定められているとはいえ、説明不足だった。すまない」
「二人?」
皇帝の安全はわかるのだが、二人というのは誰のことだろう。
「子供姿の皇帝は危険だ。だがそれを成長させる存在だと知られれば、暁妃の身も危ない。あくまでそういう名前のただの妃として、隠しているんだ」
「暁妃って、複数存在するの?」
「いや、一人だ。生涯でただ一人だけが、桃斑を持つ皇帝の成長を促す」
暁妃を失えば皇帝は子供姿のまま。
これが知られれば、様々な思惑で暁妃を狙う者が出てもおかしくない。
そしてそれは皇帝の安全に直結する。
だから龍蛍や浩俊は麗珠を『特別』だと言っていたのだ。
どちらにしても暁妃は成長を促すのが役目なのだから、麗珠の『特別』はもう終わりになるが。
「それで、桃妃って何なの?」
「暁妃の力で桃斑が白光を放って育ち、体が本来の大きさに成長する。そして完熟した桃斑が放つ光は、桃色に変化するんだ」
確かに先程の光は桃色になっていたが、あれはおしりの色を変えたわけではなくて、桃斑が成長を終えた証だったのか。
「皇帝の成長を促す白光を導く暁妃から、桃色の光を生む桃妃に変わる。これからは、桃妃として俺のそばにいてほしい」
白い光を放つ時点でおかしなおしりだが、どうやら今後は桃色の光を放つらしい。
皇帝のおしりというものは、常人の理解を超えている。
「今度は桃色の光で何が成長するの? 髭とか?」
「違う。桃妃は桃斑を持つ皇帝の伴侶。つまり――皇后だ」
そろそろ完結!
ピンクに光る皇帝ってどうなの!?(今更)
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