おしりの色を変えたようです
龍蛍が玉座に戻ると、朱家当主と花琳が麗珠達の横に並ぶ。
ちらりと麗珠に視線を寄越した花琳は汚いものを見たかのように眉間に皺を寄せると、すぐに顔を背ける。
どうやら半年ほど合わない間にも変わることなく、花琳は花琳のままのようだ。
涙を拭いた明鈴の傍らに立って龍蛍の言葉を待つが、一体どうなるのだろう。
麗珠が退出する場合、私に仕えろとか言っておいて自分が後宮から出て行くという何とも情けない状態だ。
まあ、あのやり取りを見ていたので数か月程度の猶予を貰えるかもしれないし、仮にすぐに退出することになっても雪蘭か玉英が明鈴を守ってくれるだろう。
朱家当主と花琳が挨拶しようとするのを手で制した龍蛍は、つまらなそうに小さく息をついた。
「それで。呼ばれもしないのに後宮に押しかけたようだが。一体何をしに来たのだ」
にこにこと笑顔の花琳に対して、朱家当主は頭を下げたまま動かない。
「朱宮に入る娘、花琳を連れてきたのですが。その、どうやら行き違いがあったようです」
「こちらからの手紙は届いているはずだが。何故それを連れて来た」
それ扱いされていることに気が付いているのかいないのか、花琳はうっとりと龍蛍を見つめている。
確かに見惚れるほどの美青年だが、相も変わらず人の話を聞かないらしい異母妹に麗珠もため息しか出ない。
「その。まさか本当に麗珠が妃になっているとは思わず」
「私からの手紙を疑った、と?」
「いいえ、こちらの誤りでした。大変申し訳ございません」
「青家当主といい、どうも私は甘く見られているようだな。まあ、あまり表に顔を出さなかったせいもあるだろう。今日は許すが、今後は気を付けることだ」
深々と頭を下げる朱家当主を見ると、興味が失せたとばかりに龍蛍は視線を逸らす。
「では、そのまま下がるといい」
「はい。失礼いたしました。行くぞ、花琳」
だが、退出しようとする朱家当主を見て、花琳が驚いた顔でその袖を掴んだ。
「お父様、何故帰ろうとするのです? 帰るのはここにいる異母姉様でしょう?」
「花琳、いいから退出するんだ」
今度は朱家当主が花琳の手を掴んだが、頬を膨らませながらそれを振り払い、花琳は龍蛍の前に出た。
「陛下。朱花琳、参りました」
にこりと微笑みながら一礼する様は、可愛らしい。
見てくれだけで言うのなら嫌いではないが、麗珠はその中身を知っているのでひとかけらたりとも好感を持てなかった。
とはいえ、初見の男性からすれば十分に魅力的だろう。
「そうだな。そのまま帰るといい」
あっさりと告げられた退出を促す言葉に、さすがの花琳も一瞬固まった。
「な、何故ですか?」
「朱宮には麗珠がいる。宮に主は二人必要ない」
「でも、私と交代します」
「何故、そう思う」
龍蛍に問われたのをどう解釈したのか、花琳は得意気に胸を張った。
「異母姉様は卑しい血を引いていて、淑女の嗜みも満足にこなせず、野蛮で物を投げます。私の方が若くて美しくて陛下にお似合いです」
前半はともかく、後半はよくも自分で皇帝に言えたものだ。
玉英は唖然としているし、雪蘭と明鈴からは静かな怒りを感じる。
龍蛍も表情こそ変わっていないが、その纏う空気が何だかピリピリしてきた。
朱家当主に至っては顔面が蒼白で、少しかわいそうなくらいだ。
「申し訳ありません、陛下。すぐに退出いたします!」
朱家当主は花琳の腕を掴んで引っ張るが、意外と力があるのか拮抗している。
「何するの、お父様。私が後宮入りしたらいずれは皇后よ。朱家のためでもあるのよ」
「顔はともかく馬鹿だとは思っていたが、想像以上に愚かだった。手紙をなくしたというおまえ達の言葉を、鵜呑みにした私も愚かだ。いいから、すぐに帰るぞ!」
思い切り馬鹿だとか愚かだとか言われているが、花琳に都合の悪い言葉は聞こえないらしく、親子で不毛な引っ張り合いが続いている。
麗珠が間に入っても揉めるだけのような気もするし、どうしたらいいのだろう。
このままでは埒が明かないと思ったのかいったん手を放した朱家当主は、花琳の両肩に手を置き、その瞳をじっと見つめた。
「いいか。麗珠は既に妃の位を得ている。手紙はおまえ達が言うような手違いではなかったのだ。おまえの出番はない。正当な妃相手に退出を促す時点で我々は大変な失礼をしているのだ。寛大な心で許してくださった陛下に感謝し、これ以上の御迷惑をかける前に帰るんだ」
すると大人しく聞いていた花琳の眉間に皺が寄り、朱家当主の手を払いのけた。
「嫌です。どうせ陛下には沢山の妃がいるのでしょう? 異母姉様一人増えたからとて何ですか。朱宮の主は二人いらないというのなら、皇后になった私に仕えればいいではありませんか」
「花琳!」
さすがに朱家当主が声を荒げたが、それを見た龍蛍が大きなため息をついた。
「花琳とやら」
「はい、陛下!」
龍蛍に話しかけられたことで一気に機嫌が直ったらしい花琳が、猫撫で声で返事をした。
「おまえは自分が麗珠に勝り、皇后に選ばれると思っているようだが。麗珠の血が卑しいというのは、正妻の子ではないからか?」
「はい、そうです!」
元気よく返答する花琳を見て、朱家当主はがっくりとうなだれる。
「それでは、皇后ではなく妃を母に持つ私も、卑しい血ということになるな」
「え? それは」
「それから、淑女の嗜みとか言っていたが、得手不得手があるのは当然。最低限はこなしているし、努力する姿勢があるので問題はない。それから物を投げる。――大いに結構。私はそれに助けられて、今ここにいる」
確かに、麗珠が石を投げて鳥を落とさなければ、龍蛍と出会うことなく後宮を退出していただろう。
暁妃が一人とは限らないのかもしれないが、それにしたって暫くは子供の姿のままだったはずだ。
「え、でも、だって」
どうやら風向きが悪いことはわかるらしく、花琳が狼狽えている。
「それから、若くて美しい、か」
龍蛍は花琳を見て笑う。
それは笑みではなく、嘲笑だ。
「麗珠は美しいよ。見てくれだけにこだわる空っぽの人間の何倍も綺麗で、魅力的だ」
そう言うと、ちらりと視線を麗珠に向ける。
一瞬で優しい笑みに変わるのだから、美貌の皇帝が恐ろしい。
「おまえやその母親が麗珠に何をしていたのかは、追々明らかにするとして。祝いの場だ。今日は見逃そう。――麗珠、来い」
祝いの場というのも意味がわからないが、何故呼ばれるのかもわからない。
だが断る理由もないのでとりあえず玉座の横に立つと、目の前に手を差し出された。
これは、以前にもあった『空気を読め』というやつだろう。
そっとその手に自らの手を重ねた瞬間、玉座が眩く光り輝く。
しかも、その色は白ではなく、桃色だった。
「何で、桃色」
おしりが光る時点で意味がわからないのに、今度は桃色とは。
一体、龍蛍のおしりはどうなっているのだ。
困惑しながら龍蛍を見ると、何故か笑みを返された。
「龍蛍、おしりの色を変えたの?」
「その言い方はやめろ」
やがて辺りを照らす桃色の光が収まると、龍蛍は満足そうにうなずいた。
「見ての通りだ。朱麗珠は暁妃の役割を終え、桃妃となった」
その言葉に四家の姫と朱家当主が息をのむ。
「何、どういうこと?」
「ここで話すのもなんだし、移動するぞ。浩俊、後は頼む」
「かしこまりました。陛下、そして……桃妃様」
浩俊がゆっくり頭を下げると、同時に四家の姫と朱家当主までもがそれに倣う。
何事かと思う間もなく、玉座から立ち上がった龍蛍は麗珠を抱き上げた。
「ぎゃあああ!」
「おまえ、もう少し色っぽい声を出せないのか」
龍蛍に呆れられながら、麗珠はまさかの形で謁見の間を後にした。
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