既に私が貰っている
起きられるか否かで言えば、起きられる。
だが、だからといって飾り立てる必要はないと思うのだ。
静芳が用意した服は、言うまでもなく龍蛍から贈られたもの。
藤色の衣は上品で、それだけならば落ち着いた装いだ。
だが、裳は白い生地に薄手の珊瑚色の生地を重ねてあり、その上に幾筋もの金糸が流れる水のようにあしらわれている。
藤色の衣の上には淡い青竹色の衣を重ねていて、こちらにも金糸の水が美しく流れてきらめく。
帯は濃い藤色の上に白と青竹色を使い、白い領巾にも金糸が散りばめられている。
「控えめに言っても可愛らしい上にきらきらしていて、とても攫われて寝ていた人間の装いとは思えないけれど?」
「それで結構です。麗珠様には一片の傷もつけられず、何の影響もないのだと見せつけてやりましょう」
「見せつけるって……誰に?」
麗珠の問いに、静芳はただ黙って笑みを返した。
「――暁妃、朱麗珠様をお連れ致しました」
よく通る浩俊の声と共に王宮の謁見の間に入ると、そこには既に大勢の人が並んでいた。
玉座には龍蛍。
松葉色の衣に青緑の上衣を重ねているが、そのすべての縁に金糸の雷紋があしらわれていて、それは豪華で目に鮮やかだ。
着ている本人が眩い美青年なものだから、二倍麗しく神々しい。
その下には四家の姫と誰だかわからない男性もいるが、明鈴の隣に立っているということは青家の関係者なのだろうか。
少し離れた位置で数名の兵士も控えており、かなりの緊迫感だ。
前回この部屋を訪れた時には龍蛍の隣に立ち、おしりの光で玉座が白く輝いたわけだが。
まさか、今回も同じなのだろうか。
嫌な予感というのは当たるもので、麗珠は龍蛍の隣に立たされ、浩俊は一段下に控えた。
高い所から見る景色というものは、本当に居心地が悪い。
「やっと全員揃ったな。さて、知っている者もいるだろうが、暁妃が後宮から攫われた」
龍蛍の一言に、広間の中にざわめきが起こる。
「幸い、この通り本人は無事だが。これが、青家当主による策略だと判明している」
玉英や雪蘭は目を見開いているが、麗珠は何となくそれを理解していた。
後宮で襲われた際に黒い布の下に見えたのは、白い女官の衣。
その袖の色は――青。
青家の女官の服だったからだ。
半分眠りながらではあったが、どうやらきちんと伝えられたらしい。
いや、確かあの時龍蛍は「わかっている」と言っていた。
ということは、既に犯人を知っていたのだろうか。
「そんな! 陛下、誤解でございます!」
明鈴の隣にいた男性が声を上げるが、それを浩俊が鋭い瞳で睨みつける。
「青家当主。陛下のお言葉を遮るつもりですか」
静かではあるが迫力のあるその声に、青家当主は唇を噛みしめて頭を垂れる。
「証拠は既に押さえてある。今更真偽を問うつもりはない」
龍蛍はさらりと言ったが、麗珠が伝えてから後宮に戻って証拠集めをして当主を呼びつけるのは時間的に厳しい。
ということは「わかっている」という言葉通り、麗珠を助けに来た時点である程度の手は回していたのだろう。
龍蛍の皇帝としての知らない一面を見たようで、何だか落ち着かない。
「皇帝である私の唯一の妃を後宮から攫うなど、私に弓引くのと同じこと。本来ならば一族を滅ぼしてもいいくらいだが、青明鈴に免じて温情をやろう」
龍蛍に名を呼ばれた明鈴は、硬い表情のまま深く頭を垂れた。
「暁妃の簪を私に届け、青家当主の企みを明かし、暁妃早期救出の役に立った」
その言葉を聞いた青家当主は勢いよく顔を上げると、明鈴を睨みつける。
「明鈴、おまえは!」
今にも殴り掛かりそうな青家当主に対して、明鈴は頭を下げたまま微動だにしない。
「さて。我が暁妃よ。どうする?」
いきなり龍蛍に話を振られたが、あまりにも情報が少なすぎる。
とりあえず、麗珠が攫われたのは青家当主の指示で間違いない。
恐らく明鈴もある程度まではその手助けをしたのだろう。
だからこそ麗珠は攫われたわけだが、その後に龍蛍にすべてを打ち明けたのだ。
あの時、明鈴は麗珠に泣きながら謝っていたし、それまでにも何度か身辺を気遣うような言葉があった。
本意ではなかったというのは、察することができる。
「訴え出れば自分も罰を受けるとわかった上で、行動してくれました。そのおかげで私は見つけて貰えたのです。罪がないとは言いませんが……どうか、温情を」
麗珠がいくら仮初めの妃であろうと、皇帝のものに手を出したのは重罪だ。
明鈴も、訴えたその場で切り捨てられてもおかしくない。
それでも龍蛍に伝えてくれた気持ちを、見捨てたくはなかった。
龍蛍はじっと麗珠の訴えを聞くと、ゆっくりとうなずいた。
「青家当主一家は平民に。次代当主は後で私が選定する」
「お待ちください!」
青家当主が声を荒げたことで浩俊が目配せし、兵士が剣に手をかける。
「いい、控えよ」
龍蛍の一言で兵士は姿勢を正すが、いつでも剣を抜くぞというその空気に、麗珠もまた背筋を正した。
兵士を止めたことで龍蛍が味方だと思ったのか、青家当主の表情が少し和らぐ。
「陛下は誤解なさっています。それに、暁妃様は男達に攫われて一緒にいたのですよね。純潔を失った姫は、妃には相応しくないのではありませんか?」
龍蛍の眉がぴくりと動き、明らかに周囲の空気がピリピリと張りつめたものに変化する。
「私自ら迎えに行き、無事を確認している。何ら問題はない。……それに、朱麗珠の純潔は既に私が貰っている」
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そろそろ終盤!
龍蛍よ。爆弾発言もいいが、発光はまだかね?
中華後宮風ラブコメ「蒙古斑ヒーロー」!
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