やっと、か
光っていることは隠しようもないのだから、せめておしりを隠そうとしたのだが。
これが正解なのかと言われれば、疑問しかない。
浩俊は口元に手を当てて何かを堪えて咳払いすると、周囲に向かって声を上げた。
「地を統べる尊き天子の光だ! ――頭を垂れよ!」
夕闇の中で昼間かと思うほどの光、それに負けないほどの眩い美貌の青年が二人、更に明らかに正規の兵士と思しき男性が複数。
すべての圧力に負けたらしい男達は、それぞれ足や腕を庇いながらその場にひれ伏した。
「ご、ごめんね」
尊き天子の光に首を垂れる民衆と考えればありなのかもしれないが、おしりの光を皆で崇めるような形になってしまった。
おしりが光るのを嫌がっていた龍蛍からすれば、不愉快極まりないことだろう。
「いや、いい」
一応はこの場を収められたので仕方ないと思っているのかもしれないが、表情が完全に不本意だと言っている。
浩俊は笑いを堪え……切れていないし、兵士達にまで拝まれていて、もう本当にどうしようもない。
夕闇の中だからか今日の光は赤みを帯びて桃色に見え、おかげで一層釈然としない。
何にしても突然光る美青年が現れたのだから、皇帝云々がなくても怖いだろう。
色々思うところはあるが、その点に関してだけは少しばかり男達に同情したくなった。
「……やっと、か」
ため息と共にこぼれた言葉に顔を上げると、にこりと微笑まれる。
至近距離の笑みは危険だとすぐに視線を逸らすと、龍蛍の手が麗珠の手に触れた。
珊瑚の粒を握りしめたままだったことに気付いた麗珠は、慌ててそれを袋に入れる。
「ごめんね、投げるものがなくて。でも、ちぎってバラバラになったけど、ここに全部あるわ」
袋の口を広げて見せるが、炭が入っていたので当然中は真っ黒。
珊瑚の粒も黒く薄汚れていた。
「ご、ごめんなさい」
しょんぼりと首を垂れる麗珠の頭上で微かに笑った気配がしたと思うと、龍蛍の手がゆっくりと頭を撫でる。
「いいよ。いくらでも新しいものを贈る」
「え。別にいいわよ。洗えば綺麗になるもの」
全部破損して粉々というわけではないのだし、また繋いでもらえば十分だ。
龍蛍はため息をつくと、懐から何かを取り出す。
翡翠が美しいその簪を麗珠の髪に挿すと、満足そうに微笑んだ。
確か、後宮で攫われる時に落としたと思ったのだが、何故龍蛍が持っているのだろう。
「この簪は、麗珠が俺のものという証だと言っただろう?」
「う、うん」
何度も言われている言葉だが、好意を自覚すると実に恐ろしい響きだ。
おしり発光装置である麗珠にさえこんな言葉をかけるのだから、皇后や妃はさぞ鍛えられるのだろう。
「ところで、何故龍蛍がここにいるの?」
「まあ、色々。それより」
龍蛍は羽織っていた衣を脱いだかと思うと、それで麗珠をくるみ込む。
「別に、寒くないわよ?」
「そうじゃない。足は出すなと約束しただろう。まったく。おまえはいつまで経っても破廉恥だな」
「何よ、それ。自分だって、毎回おしり……」
言い終えるよりも先に、龍蛍の手が麗珠の口を押さえる。
その手の大きさに大人の男性なのだと再認識してしまい、恥ずかしくなった麗珠は少しうつむいた。
「それで、何をしに来たの?」
「何って。麗珠を助けに来たに決まっているだろう」
当然とばかりに即答され、驚いた麗珠は顔を上げた。
「皇帝なのに?」
「ああ」
「わざわざ自分で?」
「当然だ」
淀みない答えに麗珠が目を瞬かせていると、馬に乗った浩俊が近くに寄ってきた。
「だいぶ荒れていましたよ。麗珠様にもお見せしたかったです」
「荒れて……?」
龍蛍は多少口が悪いことはあっても、基本的に優しい。
荒れると言われても、いまいち想像できなかった。
「うるさい。麗珠が攫われたのに、のんきに待てるか」
少し照れたように視線を逸らす龍蛍には、子供の頃の面影がある。
やはり龍蛍は優しい。
もうすぐ役目を終えて去る麗珠のために、わざわざ来てくれたのだから。
皇帝の安全という面では、決して褒められた対応ではない。
それでも、心配してくれたというのは嬉しかった。
「ありがとう、龍蛍」
お礼の言葉を伝えると、翡翠の瞳を細めて笑みを返してくれる。
それだけで、胸の奥が温かくなる気がした。
――やっぱり、龍蛍のことが好きだ。
だんだんと瞼が閉じていく中、母もこんな気持ちだったのだろうかと思いを馳せる。
好きだから、そばにいたいから。
だから、妾でもいいと思ったのだろうか。
今ならば、ほんの少しだけその気持ちがわかる。
だが、それでも麗珠には無理だ。
「麗珠? 大丈夫か?」
「とりあえず、寝る……」
まずは眠ろう。
それから、美味しいものを食べよう。
そうしたらきっと、すっきりと心が晴れて前に進める。
だが意識が薄らいでいく中、龍蛍に伝えなければいけないことがあるのを思い出した。
「あのね……後宮で、襲ってきたのは……袖の色、が」
「大丈夫、わかっている。――おやすみ、麗珠」
ちゃんと言葉になったのかもわからないが、瞼は閉じ、龍蛍の声だけがかろうじて頭に響く。
額に柔らかな何かが触れたと思う間もなく、麗珠はそのまま眠りに落ちた。
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新年あけまして光ります!
そろそろ終盤!
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