だから、今は
気が付くと、麗珠は地面に転がっていた。
粗末な小屋のようだが、並ぶ木材と麻の袋に詰め込まれた炭から察するに、炭焼き小屋に付属する建物だろうか。
麗珠は後宮内の物置小屋で暮らしていたが、腐っても後宮。
粗末といえど壁に外を窺えるほどの隙間などなかったし、床板も存在していた。
窓から見える限り屋根は板葺きのようだし、ここが後宮ではないことはわかる。
体を起こそうとして後ろ手に縛られていることに気付いた麗珠は、柱の角を使って縄に傷をつけると、そのまま力任せに引きちぎった。
後宮内の姫だと思って普通に縛ったのだろうが、こちらは長年虐げられた……ある意味縛られる本職だ。
父や兄の目がない時に、手に傷がつかないよう布を巻いた上で柱に括りつけられた経験は、一度や二度ではない。
この程度の縛りで麗珠の行動を制限しようなど、笑止千万である。
「さてさて、後宮じゃないとしても。ここはどこかしら」
体のあちこちに痛みはあるが、これは縛られたりしたせいなのか、乞巧節で階段から落ちたからなのかよくわからない。
何にしても動けるのだから、気にするまでもないか。
硝子のない格子窓からは外が見えるが、空は赤みを帯びていて、夕闇に包まれつつある。
龍蛍のところに行ったのは昼頃。
丸一日経っていない限りは、昼から夕暮れまでの時間眠っていたようだ。
となると、王都から出ている可能性もある。
窓から離れると、扉の横の壁に近付く。
扉と壁の意味がないほどの立派な隙間からは、麗珠をここに連れてきたであろう人物の声が聞こえてきた。
「引き渡しはまだなのか⁉」
「ここで夕暮れ前に落ちあう予定だが、少し遅れているようだな」
「ただでさえ面倒な相手だ。さっさと貰うものを貰って引き上げないと、こっちの身が危ないんだぞ」
何やらもめているが、どうやらここで麗珠を誰かに引き渡すつもりらしい。
隙間から見えるのはいかにもゴロツキという風体の男達だが、後宮で見かけた人影に比べると身長が高すぎる。
今になって考えて見れば、後宮内にあれだけの数の不審者が入り込むのは困難だ。
後宮は男子禁制だし、仮に女装しようとも身長や体格は隠し切れない。
そこまで考えて、麗珠は恐ろしいことに気が付いた。
あの人影は黒い服ではなくて、黒い布を被っていた。
あんなヒラヒラした格好では動きにくいし、かえって目立つ。
それに、黒い頭巾も視界を妨げる。
後宮内に侵入したのだから身を隠したのだろうと何となく思っていたが、少し違和感があった。
それに、手をかわした時に見えた黒い布の下の白い袖には見覚えがある。
「女官の、衣の色」
後宮内の女官は基本的に白い衣を身に纏い、静芳のように上位の女官になると白い衣に模様が入る。
そして、その袖と裳は、主である宮の色……朱宮ならば朱色のものを着るのだ。
あの時黒い布の下に見えたのは、白い衣。
そして、袖の色は――。
麗珠は深いため息をつくと、両手で頬を叩いた。
「今は、細かい所はどうでもいい。後宮内の女官が誘拐に加担していることが問題よ」
あの人影は、恐らく後宮の女官。
だから黒い服を着るのではなく、黒い布を被ったのだ。
いざとなれば布をはぎ取るだけで普通の女官を装えるのだから、動きやすさよりも安全を取ったのだろう。
後宮の女官ならば麗珠を運んだとしても、体調を崩した暁妃を介抱しているとしか思われない。
後宮外に出すのは少し面倒だろうが、木箱にでも詰め込んで上に普通の荷を乗せれば隠せるだろう。
こんなことをするくらいなのだから、警備兵にも協力者がいるのかもしれない。
何にしても、まんまと麗珠は連れ出されているのだから、素晴らしい計画性である。
「今一番問題なのは、後宮内にその女官が残っているということ。他の姫や、龍蛍の身が危ないかもしれない」
麗珠一人ならば、このまま逃げ出して平民として暮らすことも可能だし、それも悪くない。
だが、後宮内に裏切り者がいるのだと伝えなければ、被害者が出る可能性がある。
麗珠はいずれ、後宮を去る。
だが、この形では駄目だ。
心配をかけてしまうし、姫達や龍蛍が危ない。
後宮を去る時には、正々堂々胸を張って正面から出て行く。
だから――今は、後宮に帰るのだ。
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