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【コンテスト受賞】後宮で皇帝を(物理的に)落とした虐げられ姫は、一石で二寵を得る  作者: 西根羽南


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もう子供ではない

 ゆっくりと瞼を開けると、麗珠(レイジュ)の目に飛び込んできたのは、見たことのない天井だ。


 複雑な格子が美しいが、今はそれよりも体が重い……というか、痛い。

 状況が把握できず顔を横に向けると、黒髪に翡翠の瞳の美青年がこちらを見ていた。


「気が付いたか」

 安堵の表情で息をつくと、龍蛍(リュウケイ)は麗珠の頭をそっと撫でた。


「ここ、どこ?」

 どうやら寝台に横になっていたようだが、やはり状況が飲み込めない。


乞巧節(きっこうせつ)の最中、露台から下りる階段を転げ落ちたんだ。憶えているか?」


 そうだ、確か足を滑らせた気がする。

 どうりで体のあちこちが痛いはずだ。

 あのまま気を失っていたのだとしたら、どのくらいの時間が経ったのかわからない。


 窓から見える空は暗く、月の光が差し込んでいる。

 まだ夜のようだが、さすがに乞巧節はもう終わったのだろう。

 退出するつもりではあったが、何とも情けない形になってしまった。


 ここが朱宮(しゅきゅう)でないことはわかるので、恐らくは乞巧節の露台近く、黄宮(おうきゅう)の一室のはず。

 まずは朱宮に帰らなければ。



 寝台から下りようと体を起こすが、目が回ってふらついてしまう。

 すかさず龍蛍が肩を支えてくれたかと思うと、そのまま寝台に押し戻された。


 麗珠の顔を龍蛍の袖が霞かすめ、その色が濃鼠ではないことにようやく気が付く。

 乞巧節の衣装から着替えているのだから、やはりそれなりの時間が経っているようだ。


「服……」

「ああ。あのままでは休めないから、着替えさせた」

「え?」


 何のことだろうと思いつつ自身の体に視線を落とすと、鮮やかな緋色の衣装から簡素な水色の衣に変わっていた。


「せっかく似合っていたのにもったいないが。まあ、次の機会にしよう」

「着替えって、龍蛍が?」


「まさか!」

 たいした考えもなく口にした言葉だったが、龍蛍がもの凄い勢いで首を振った。


「……それとも、俺に着替えさせてほしかったか?」

 それはないので麗珠も首を振ると、龍蛍は困ったように笑う。



「無理はするな。もう少し休んだ方がいい」

「でも、朱宮に戻らないと」


 眩暈を起こさないように、今度はゆっくりと上体を起こす。

 体が痛いのは階段から落ちたせいだろうが、動けない程ではない。

 どうせ後で移動することになるのなら、さっさと朱宮に戻ってゆっくりと眠りたかった。


「ここから戻る道には、夜に蛇が出ることが多いらしいぞ。だから……」


 蛇という言葉に反応して、麗珠の肩がびくりと震えた。

 自分でも表情が強張っているのがわかるが、龍蛍にも伝わったのだろう。


「そんなに、蛇が苦手なのか?」


 蛇の造形、鱗や舌や動きなど、世の女性達が嫌う要素は特に気にならない。

 問題は、そこではないのだ。


 あえて説明することではないし、本当ならば弱みになる情報を伝えるべきではない。

 そう思うのに、心配そうに麗珠を見つめる瞳を見ていたら、気が付くと口が動いていた。



「私の母親は……蛇に噛まれて死んだの。私を庇って、それで」


 あの時、麗珠がもっと大人だったなら、すぐに助けられたのなら

 母は、死なずに済んだのかもしれない。

 そう思うと、今でも悔しくて悲しくて、涙が出そうになるのを堪えようと唇を噛みしめる。


 すると、うつむいて震える麗珠の頭を大きな手が優しく撫でる。

 顔を上げる間もなくその手は麗珠を引き寄せ、龍蛍の胸に顔を埋めていた。


「ここにいれば、大丈夫。俺がいる」

「……うん」


 こんな風に誰かに抱きしめられるのは、死んだ母親以来だ。

 とても安心して、ずっとこうしていたくなるのは、母を思い出しているからだろうか。


「まだふらついているし、頭も打っているんだ。無理はするな」

「うん」


 じっと大人しくしている麗珠が面白いのか、頭上で苦笑しているのがわかる。

 何度か頭を撫でられた後にようやく解放され、寝台に横たえられた。



「露台の階段が不自然に濡れていたので、今調べさせている。……それにしても、見事に転んだな」

「ちょっと、考え事をしていたの」

「何を?」


 何だかわからないもやもやのせいなのだから、何をと聞かれても困る。

 こちらが知りたいくらいだ。

 上手い返答が思いつかず無言でいると、龍蛍の手が麗珠の頭を撫でた。


「とにかく、身の安全のために今夜はここに泊まっていけ」


 麗珠がただ転んだだけとはいえ、唯一の妃が階段から足を滑らせたのだ。

 階段が濡れていたとなると、念のために調査や警護が行なわれても仕方がないのかもしれない。


「ところで、何故龍蛍がいるの?」


 静芳(セイホウ)か女官がいれば十分だと思うのだが、ことの経過をわざわざ説明に来てくれたのだろうか。

 何とも、まめな皇帝である。


 だが、意外なことを聞かれたとばかりに、龍蛍は肩をすくめて見せた。



「そりゃあ、自分の部屋だからな」

「え?」


 龍蛍の部屋というのは、当然住まいである桃宮(とうきゅう)の中にあるはずだ。

 ということは、ここは黄宮ではないのか。


 しかも桃宮の一室ではなくて、自分の部屋と言った。

 それはつまり。


「……この寝台」

「俺のだな」

 まさかの言葉に、麗珠は体の痛みを凌駕する気合いと速度で寝台から飛び降りた。


「――帰る」


 だが、気合いで痛みは乗り越えられても、眩暈はどうしようもない。

 視界が暗転して力を失った体を、龍蛍が包み込むように抱きとめる。

 その瞬間、夜空を切り裂くような眩い光が室内を埋め尽くした。


 眩暈が収まったのに光が眩しくて、結局目を開けることができない。

 毎度のことながら、龍蛍のおしりの光が凄すぎる。

 すると麗珠は抱き上げられ、あっという間に寝台に戻された。



「いいから、寝ていろ。俺は椅子で寝るから」

「でも」


 麗珠が部屋を出ればいいだけだし、百歩譲ってこの部屋に滞在するにしても、体の大きさからして龍蛍が寝台を使うべきだろう。


「それじゃあ、添い寝でもするか?」

 翡翠の瞳が細められ、その溢れる色気に麗珠は身震いをした。


「――し、しない!」


 子供の姿ならばいざ知らず、すっかり大きくなってしまった龍蛍と添い寝などとんでもない。

 いや、妃としては普通なのかもしれないが……とにかく、駄目だ。

 慌てる麗珠を見て何故か嬉しそうに笑うと、龍蛍は麗珠の頭を何度も撫でる。


「寝るには少し眩しいが、じきに消える。目をつぶっておけ」


 手のひらで目を覆われば、白光も麗珠の目には届かない。

 その手は大きくて、優しくて、何故だか安心する。


 ……ああ、そうか。

 龍蛍はもう子供ではない。


 子供では……ないのだ。


「おやすみ、麗珠」

 その低い声に導かれるように、麗珠はそのまま眠りについた。





メリークリスマス!

オーナメントが桃だらけの蒙古斑ツリーを飾りたい!

中華後宮風ラブコメ「蒙古斑ヒーロー」!

モウコ(ง -᷄ω-᷅ )ว ٩( -᷄ω-᷅ )۶(ง-᷄ω-᷅ )ว ( -᷄ω-᷅ و(و ハァーン☆



「残念令嬢 ~悪役令嬢に転生したので、残念な方向で応戦します~」


1巻の在庫復活!!(一部再度在庫切れ)

2巻の電子書籍も配信開始してます。

セット販売情報もあるので、活動報告をどうぞ。


挿絵一枚目で目が合うけど……読んでほしい……!

最後の挿絵は、マヨが効いています☆

そしてヘンリーが巻き込み残念!


ゼロサムオンラインでコミカライズ連載開始!

よろしくお願いいたします。

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― 新着の感想 ―
[一言] 寝椅子、ソファ的なものはあるんだろうか それと…空気よめ蒙古斑
[一言] ベビ毒はねぇ 割と悲惨な死に様になるそうだから目の前で、となるとね
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