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【コンテスト受賞】後宮で皇帝を(物理的に)落とした虐げられ姫は、一石で二寵を得る  作者: 西根羽南


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乞巧節の夜

 いよいよやってきた乞巧節(きっこうせつ)当日。


 黄宮(おうきゅう)の池に張り出すように建てられた露台は広く、それを覆うようにして広げられた敷物の華やかさに麗珠(レイジュ)は圧倒された。


 雲ひとつない晴れ渡った夜空には美しい月が輝いていて、池の水がきらきらと反射する。

 この景色の中で祈れば何でも叶うのかもしれないと思うほど、麗珠の目に映る光景は美しかった。


 露台に行くにはそれなりの段数の階段を上るのだが、その一段一段にも繊細な彫刻が施されており、ため息しか出ない。


 露台の上には既に四家の姫と控えの女官が数名座っており、それぞれの衣装の美しさに麗珠は目を瞬かせた。



 白雪蘭(ハクセツラン)の衣と(スカート)は夜空に生える真っ白な生地で、裾にほんの少しだけ薄藍の色が入っているのが奥ゆかしい。

 裳には羽ばたく鶴が描かれていて、その白い羽に包まれているかのような美しさだ。


 領巾(ショール)と帯にだけ淡い桜色を使っているのがとても女性らしく、同じ桜色の花を使った髪飾りも雪蘭によく似合っていた。


 玄玉英(ゲンギョクエイ)の衣も白だが、裳は黒でこちらは大人の女性の雰囲気が漂っている。


 どちらの生地にも金糸の刺繍が施されており、まるで夜空に星が散りばめられたかのよう。

 特に黒い帯に施された刺繍は緻密で、それと同じ形に編まれた複雑な形の簪は見事の一言だ。


 青明鈴(セイメイリン)の裳は鮮やかな瑠璃紺で、そこに銀糸の刺繍が施され、夜の海にきらめく水面のように輝いている。


 衣は淡い水色で、同じ水色で小さな花が描かれているのだが、水に浮かんで揺らめいているようで可憐な印象だ。

 淑やかな明鈴にぴったりの、品のある衣装である。



「やだ……全員とっても綺麗で可愛くて美しくてたまらないわ。近くでじっくりと愛でたい」


「麗珠様、まずはご自分の席に着いてください。確かに四家の姫君の装いは素晴らしいですが、麗珠様もまったく引けを取っておりません。私の個人的な感想を述べさせていただくのなら、一番の華やかさと美しさでございます」


「……それ、色が赤いから目立つってことじゃないの?」

 用意された席に腰を下ろしながら、ため息をつく。


 皇帝が一番奥の豪華な設えの席に着くであろうことは、さすがにわかる。

 だが、四家の姫の位置に比べて麗珠の位置が皇帝に近すぎはしないだろうか。

 暁妃(ぎょうひ)の位に合わせたのだろうが、正直四家の姫に近い方が愛でるためにもありがたい。


「何を言うのかと思えば。よろしいですか? 麗珠様は当初は鳥を落としたり、髪などのお手入れが行き届かず多少アレでしたが、土台はいいのです。今では……鳥は落としますが、どこに出しても恥ずかしくない、美しい暁妃です!」


 何故、鳥が減点対象なのかとちょっと文句も言いたいが、静芳(セイホウ)が褒めてくれていることはわかるので口を閉ざす。

 それに土台はともかくとして、麗珠の装いが美しいのは確かだった。



 衣も裳も帯も領巾もすべてが鮮やかな緋色で、そこに輝く金糸の刺繍が映える。

 裳の裾は金の水に浸したかというほど金糸で華やかな植物が咲き誇り、一転して衣は繊細な金糸の花弁が舞い散る。


 帯には金の龍と桃があしらわれ、これが何を意味するのかを静芳から何度も説明されて耳にタコができている。

 結い上げた髪には金細工の簪が挿され、当然とばかりに翡翠の(かんざし)もそこに収まった。




 暫くして周囲の女官達がざわめき始めたので露台の入口の方を見ると、龍蛍(リュウケイ)浩俊(コウシュン)が階段を上ってくる。


 濃鼠の衣と裳はとても落ち着いた色で、龍蛍は大人の男性になったのだと認識せざるを得ない。

 襟や帯などに使われている藤色が濃鼠によく映えて、眩い美貌を更に引き立てていた。


 肩と裾に一ヶ所ずつ金糸の刺繍が入っているのだが、その模様は麗珠の衣と同じように見える。

 髪に挿した翡翠の簪も同じなので、まるで二人でお揃いの装いのようだ。


 麗珠の衣装はすべて龍蛍から贈られたものなので、これもわざとなのだろう。

 妃である以上は他の姫とは違うと静芳が口を酸っぱくして言っていたし、龍蛍も皇帝としてそのあたりを示す必要があるのかもしれない。


 月の光を浴びた美貌の皇帝の姿に女官の間からはため息がこぼれているが、それも納得だ。

 もともと可愛らしい子供だったが、本当に大きくなったものである。


 十歳ほど年下だと思っていた子供が、逆に十歳くらい年上の青年だったなんて、嘘みたいな話だ。

 しかもただ美しいだけではなくて色気も出てきたのだから、始末に負えない。


 美貌の皇帝の唯一の妃が麗珠というのは申し訳なくて仕方がないが、龍蛍はいずれ皇后を迎える。

 普通に考えれば四家の姫ということになるのだが……一体だれを選ぶのだろうか。



「麗珠様。陛下がお呼びですよ」


 静芳の声に我に返ると、少し離れた席から龍蛍がこちらを見て微笑んでいる。

 ゆっくりと立ち上がって移動すると龍蛍の前にひざまずき、手巾(ハンカチ)を差し出した。

 それを受け取った龍蛍は手巾を広げてじっと見つめている。


 真っ白な生地に桃が二つと緑の葉。

 麗珠の刺繍はそれだけだった。


「結局、豪華な模様は無理で。しかもちょっといびつなの。ごめんなさい」


 麗珠の桃はがたついていて、正直美味しそうには見えない。

 糸は一流で色は美しいので何とかそれなりに見えている、という感じだ。


 暫し手巾を見つめていたかと思うと、龍蛍は口元を綻ばせている。

 笑ってしまうほど下手くそということなのだろう。


「これでも、頑張ったのよ」

「わかっている。麗珠が俺のために作ってくれたから、それで十分」


「だって、皇帝に献上する習わしでしょう? 一応は妃ということになっている私から何も渡さないのは、龍蛍の立場がないと思って」


 たった一人の妃から手巾を献上されない情けない皇帝という扱いでは、あまりにも申し訳ない。

 いびつな刺繍とはいえ、ないよりはましのはずだ。


「……麗珠は手強いな。まあ、それもあと少しだ」

「何かあるの?」

 龍蛍は答えずに、ただにこりと微笑んだ。


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― 新着の感想 ―
[一言] 飛ぶ鳥を落とす、のは 権勢が盛んな様を表すことの比喩 で使われる時以外では、姫君に求められる事柄ではないからでは?<減点対象鳥 まあ実際、比喩的な意味でも飛ぶ鳥を落とす勢いではあるので…
[一言] なるほど 乞巧節って七夕の意味なのでしたか。 天に住まう方々の繁殖期ですね!
[一言] >鳥が減点対象なのかとちょっと文句も言いたいが まあこれはねぇ、鳥を落とす女を后に望んだ奴が悪いんであって麗珠からすれば文句言われても、って感じだろうねぇ
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