何やら、きな臭いですから
「何それ。どういう噂なのよ」
濡れた姿で回廊を通ったので、それを指摘されるのならばまだしも。
何故あれが、池でいちゃいちゃになるというのだ。
「嫌がる陛下の服を脱がそうとして、はずみで池に落ちたのでは?」
「違うわよ!」
後宮の主を昼間の庭で脱がそうだなんて、麗珠はどれだけ破廉恥扱いされているのだ。
ということは龍蛍の無事を確認し、破廉恥行為を諌めるために雪蘭はやってきたのだろうか。
「でしょうね」
意外にもあっさりと受け入れたかと思うと、雪蘭はそっと茶杯を机に置いた。
「お姉様はそんなことをいたしません。ですので、きちんと『お姉様ならば池ポチャをこれ幸いと脱がせる。脱がせようとして失敗して池ポチャし、諦めるような人ではない』と訂正しておきました」
「それも違うわよ!」
池でいちゃいちゃよりも事態が悪化しているではないか。
大体、雪蘭の中でどれだけ麗珠は破廉恥女なのだ。
たいして接していないのに、そちら方向で謎の信頼を得ているのは何なのだろう。
「足を洗おうとして、滑って落ちたのよ」
「何故、突然池で足を?」
「裸足になったから、土で汚れて。そのまま沓を履くのもどうかと思って」
「何故、後宮内で裸足に?」
どんどん眉間に皺を寄せる雪蘭に順番に事情を説明すると、大きなため息をつかれる。
「つまり。青明鈴の手巾を取ろうとして沓を投げ、そのせいで足が汚れたので池で洗おうとし、池に落ちて陛下に引き上げられた、と」
麗珠がうなずくと、更にもう一度雪蘭は息を吐いた。
「まだ、脱がせ合いの方がましでした」
ましも何も、脱がせ合いなどしていないのだから、酷い濡れ衣だ。
「仮にも妃の位を賜った人のすることではありません。少しは女官を使うことを覚えてください」
「でも、出来ることをわざわざ頼まなくても」
「それが彼女達の仕事です。結果、お姉様が危険な目に遭い、陛下を巻き込み、かえって手間をかけさせています」
そう言われてしまえば、その通りだ。
麗珠としては明鈴の手巾を取りたかっただけだし、良かれと思って取った行動だ。
それでも皆の手を煩わせ、心配をかけてしまったのは事実である。
「……ごめんなさい」
しゅんとうなだれる麗珠に、雪蘭は肩をすくめる。
こんな時でも美少女は絵になるので、ちょっと見ていて楽しいのは内緒だ。
「私に謝る必要はありません」
「謝るとしたら……龍蛍、浩俊、桃宮の女官に、朱宮の女官」
「まずは陛下でしょうね」
場合によっては皇帝を危険に晒したわけだし、確かにしっかりと謝罪した方がいいだろう。
「となると。鳥を絞めて届けようか」
「いえ。食べ物は何かあるといけません。……お姉様、嫌がらせを受けていますよね?」
「何で知っているの?」
明鈴と同じく、女官の噂で聞いたのだろうか。
「私もしましたので」
「え⁉」
さらっととんでもないことを言った気がするが、聞き間違いだろうか。
「朱宮の前に蛙を大量に用意させました」
聞き間違いではなかった、現実だった。
あけすけな告白に、呆れる気持ちしか湧いてこない。
「何でまた?」
「何でも何もありません。皇帝だと思っていた人が皇帝ではなくて、四家の姫のうち一人だけが妃の位を賜るだなんて、ずるいですから」
いっそ清々しい逆恨みに、そうかもしれないと危うく納得しそうになる。
「まあ、今思えば愚かなことです。まさか、あんなにいい香りの素晴らしい方だとは思わなかったので」
嫌がらせが愚かだと思う理由がおかしいが、聞きたいのはそこではない。
「そうじゃなくて。何故、蛙とバッタを一緒に置いたの。蛙がバッタを食べちゃうから数が減ったし、蛙をただ置いておいてもどこかに行っちゃうでしょう? ちゃんと考えて!」
麗珠の真剣な訴えに、雪蘭は可愛らしく首を傾げた。
「ちゃんと、の内容がおかしいですね。でも、バッタなんて指示していないのですが。女官が気を利かせたのでしょうか」
なるほど、蛙がどこかに行かないように餌を用意した可能性があるのか。
いや、それならそれで、もう少しどうにかできたはずだ。
「とにかく、食べ物はやめた方が。毒でも仕込まれたら厄介です」
「でも、私が仕留めてさばいて直接持っていくから、誰も触らないわよ?」
「それでも調理段階で……仕留める? まあ、何にしてもやめた方が無難です。何やら、きな臭いですから」
すっと目を細める雪蘭を見て、麗珠はくんくんと臭いを嗅いでみるが、よくわからない。
「臭いの?」
「私は寵のおかげで、匂いと気配には敏感なんです。だから、今はやめてください」
「わからないけれど、わかったわ」
わざわざ朱宮を訪れてまで伝えてくれたのだし、逆らう意味もない。
それにしても、雪蘭の寵は随分と凄い性能だ。
石を投げて鳥を仕留める麗珠とは雲泥の差である。
もっとも、狩人で自立を目指せるので、麗珠にとってはありがたい力だが。
「だから、この間もいい香りとか言っていたの?」
「はい。お姉様からは、甘くとろけるような……でも、今日はあまりしませんね」
「お風呂に入ったからかな。ということは、石鹸の香りではないのね」
「体臭、でしょうか」
それはそれで嫌だが、後は一体何だろう。
雪蘭に会った時に何か変わったことがあるとすれば、龍蛍に会った直後ということくらいだが。
「きっと、お姉様と陛下の香りが混ざるといいのだと思います。暁妃の紹介で玉座が光った時にも、似たような香りがしましたから」
……つまり、龍蛍のおしりが光ったらいい香りということか。
おしりが光ると龍蛍がいい香りになってそれがうつったのか、あるいはおしりの白光そのものにいい香りの成分があるのか。
どちらにしても、原因を伝えてあげられないのがもどかしい。
「今度、機会があったら手巾とか、あげるね」
発光した時に持っているものならば、それなりの効果があるだろう。
お礼の意味も込めてそう伝えると、雪蘭は嬉しそうに微笑む。
「ありがとうございます、お姉様!」
美少女の無垢な笑みは可愛らしいが、約束した内容はおしりが光ることが前提だ。
何だか釈然としない麗珠は、目の前の美少女を愛でるのに集中することにした。
そろそろアレの恋しい季節……。
大丈夫、気配がしてきましたよ……!
中華後宮風ラブコメ「蒙古斑ヒーロー」!
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