無理でございます
現在、麗珠は片足が裸足、そして土で汚れている。
この足のまま沓を履くのはさすがにどうかと思う。
だが、片足が裸足のまま朱宮まで歩くのも微妙だ。
「よし、洗おう」
幸い、すぐそこに池があるのでちょうどいい。
一応、周囲に誰もいないことを確認すると、近くの木の枝につかまって水面に足を伸ばす。
「もうちょっと、なんだけど……」
近いようで、意外と遠い。
もう少しで足が水に触れるというところで、大きな声が耳に届いた。
「――麗珠!?」
「わっ!?」
突然の声に驚いたせいで手が滑り、麗珠は為す術なくそのまま池に落ちた。
全身が冷たい水に包み込まれたと思う間もなく、腕を掴まれて勢いよく引き上げられる。
水音だけだった世界から一気に音が広がると同時に、咳き込んで口に入った水を吐き出した。
たいした量を飲んだわけではないが、自分の意思とは無関係の水が口に入るのはさすがに怖い。
「大丈夫か、麗珠!」
未だに咳き込む麗珠の背中を龍蛍がさする。
腕がずぶ濡れなところを見ると、どうやら麗珠を引き上げたのは龍蛍らしい。
返事をしたいのだが、とりあえずむせて仕方がない。
「――龍蛍!? 何というところで水浴びをしているのですか!」
遠くから浩俊が叫ぶのを聞いて、龍蛍が忌々しそうに舌打ちする。
「誰がするか! それよりも麗珠、本当に大丈夫か?」
「うん。龍蛍、ありがとう。さすが後宮。池の水も、綺麗」
ようやく咳が落ち着いたので返事をすると、龍蛍がほっと息をつくのが見えた。
これがそこらの池だったら藻が浮いていたりするものだが、見る限りそういうことはないし、水自体も透き通っている。
このぶんなら、多少水を飲んでもお腹を壊すには至らないだろう。
「何で池のそばなんかで……とにかく、濡れたままでは風邪をひくぞ」
「そうね。龍蛍は早く着替えないと」
「俺は腕くらいしか濡れていないから平気だ。それよりも麗珠は全身ずぶ濡れだ」
ということは、龍蛍は腕だけで麗珠を池から引っ張り上げたわけか。
大きくなったとは思っていたが、本当に筋力もついたものだ。
「これなら、片足裸足の方がマシだったわ。急がば回れってやつね」
「何を言っているんだ、おまえは。とにかく、桃宮に行くぞ」
立ち上がった龍蛍は麗珠に手を差し出す。
「朱宮に戻るからいいわ。ここからなら近いし。それよりも、龍蛍も着替えないと風邪をひくわよ」
「――それはいけません!」
走ってきたらしい浩俊は、麗珠の言葉に顔色を変えると、あっという間に龍蛍を肩に担ぎ上げた。
「浩俊! おまえ、何をするんだ。おろせ!」
「あなた達は、麗珠様を朱宮にお送りしてください」
浩俊に遅れてやってきた数名の女官は、その言葉に頭を下げる。
この間、ずっと叫び続けている龍蛍のことは誰も取り合わないのだが、この後宮の主は誰だっただろう。
「じゃあね、龍蛍」
「だから、俺が! くそ、おろせ浩俊!」
「嫌ですよ。私は龍蛍第一です」
「覚えていろよ、おまえぇー!」
絶叫する美青年を担いで笑顔で去っていく美青年を見送ると、麗珠は身震いをする。
気温はそこまで寒くないのだが、やはり濡れているせいだろう。
「麗珠様、私のものでよろしければ」
女官の一人が自分の上衣を脱ごうとしたので、それを押しとどめる。
「朱宮はすぐそこだし、汚れちゃうからいいわ。それで、静芳……朱宮の女官には穏便に伝えてくれる?」
全身びしょ濡れなので穏便も何もあったものではないのだろうが、女官の口添えがあるとないとでは印象が違うはずだ。
すると、女官は数回瞬き、そしてにこりと微笑んだ。
「無理でございます」
朱宮に到着した麗珠は、すぐにお風呂に入れられ、同時に説教をされた。
「陛下が助けてくださらなかったら、どうなっていたことか!」
何度も静芳にそう言われたが、実際のところ麗珠はそれなりに泳げる。
あの池は水も綺麗だったので、藻が足に絡みつくということもなさそうだ。
別に溺れることはなかったと思うと伝えると「そういう問題ではない」と更に怒られた。
最終的には静芳が泣き始めたので、麗珠はひたすら謝り、「もう池では泳がない」という身に覚えのない誓いを立てさせられる。
その夜は暖かい汁物を沢山食べ、毛布も多めにかけられ、ほかほかを通り越して若干暑いくらいだった。
翌日はいつも通りの時間に起きたのだが、何となく体がだるい。
やはり、突然水に飛び込んだので体もびっくりしたのだろう。
こういう場合には、かえって動いた方が調子が戻るというもの。
少し散歩でもしようかと思っていると、静芳から来客が告げられた。
「お姉様が陛下と一緒に池でいちゃいちゃしていた、という噂が流れております」
朱宮を訪れた雪蘭は、お茶を一口飲むとまさかの言葉を麗珠に告げた。
池ポチャ発光しないのかい!
中華後宮風ラブコメ「蒙古斑ヒーロー」!
モウコ(ง -᷄ω-᷅ )ว ٩( -᷄ω-᷅ )۶(ง-᷄ω-᷅ )ว ( -᷄ω-᷅ و(و ハァーン☆
「残念令嬢 ~悪役令嬢に転生したので、残念な方向で応戦します~」
1巻の在庫復活!!(一部再度在庫切れ)
2巻の電子書籍も配信開始してます。
1巻のセールやセット販売情報もあるので、活動報告をどうぞ。
挿絵一枚目で目が合うけど……読んでほしい……!
最後の挿絵は、マヨが効いています☆
書籍2巻、紙&電子書籍発売中!
ゼロサムオンラインでコミカライズ連載開始!
よろしくお願いいたします。




