玉座の光の源は
桃宮で会った時は麗珠と同程度の身長で同じ年頃という感じだったが、今の龍蛍はどう見ても麗珠よりも大きい。
十七歳くらいの姿の龍蛍は、以前にも増して麗しく成長している。
整った容姿に凛とした佇まいで、衣装の力もあってとても大人びて見えた。
これは見事な美少年皇帝だ。
感心して眺めていると、壇上から龍蛍が手招きしている。
浩俊の笑顔の圧力もあって仕方なく近付くが、手招きは止まらない。
少しずつ足を進めた結果、龍蛍の隣まできてしまった。
こうして隣に立つと、その成長ぶりがはっきりとわかる。
既に身長は麗珠を追い越しているし、何となく体つきも逞しくなった気がする。
五歳くらいのお子様龍蛍の印象が強い麗珠としては、複雑な気持ちだ。
じっと横顔を見ていると、それに気付いたらしい龍蛍が微笑みかけてきた。
「何だ。惚れたか?」
「違うわよ。また大きくなっているから」
「ああ。やっと麗珠を追い抜いた」
龍蛍は褒めてとばかりに満面の笑みを向けてくるが、何となく三人の視線が痛いのでやめてほしい。
「私も下にいるべきじゃないの?」
「駄目だ。麗珠は俺の隣にいろ」
小声で聞いてみるが、あっさりと却下される。
こうなったらさっさと用件を終わらせて朱宮に戻りたいが、その用件がよくわからないのが困ったものである。
「さて、四家の姫よ。後宮入りして長らく顔を見せなかったことは詫びよう。私にも事情があった。君達に非があったわけではない」
三人はほっとした様子だが、どう見ても十七歳くらいの龍蛍が皇帝であるということに疑問はないのだろうか。
このままだと七歳くらいで即位したことになるが……いや、そもそも即位したのが何歳なのかを麗珠は知らない。
四家の姫に顔を見せたということはこれが成長した姿なのだろうから、かなり幼い時に即位していたことになるのか。
「今日集まってもらったのは他でもない。この朱麗珠を、私の暁妃とする」
まだ龍蛍の低い声には慣れないなと思っていると、三人の息を呑む音が聞こえた。
「暁妃、ですか。……朱妃、ではなくて」
雪蘭が恐る恐るという様子で尋ねると、龍蛍は小さくうなずいた。
「見てもらった方が早いだろうな」
そう言うと、龍蛍はそのまま背後にあった玉座に腰を下ろす。
遠目にも輝いていた銀の椅子は、近くで見ると一層迫力がある。
竜の装飾や桃の文様も描かれているが、何よりも銀色の輝きが凄い。
そしてピカピカの玉座に座っても負けないどころか似合ってしまうのだから、美少年皇帝が本当に恐ろしい。
感心して龍蛍を眺めていた麗珠は、ふとその頭に見覚えのある簪を見つけた。
「……その簪、何だか私が貰ったものと似ていない?」
「そりゃあ、お揃いだからな」
気になって小声で話しかけると、龍蛍はさも当然とばかりににやりと笑う。
「言っただろう。これは麗珠が俺のものだという証だと。それよりも……」
龍蛍は玉座に座ったままで麗珠に向けて手を差し出す。
「何?」
「空気を読めよ。ここは手を出すところだろう」
そんなことを言われても、謁見の間に入ること自体初めてだし、普通がよくわからない。
おずおずと手を差し出して龍蛍の手に乗せると、ぎゅっと握りしめられた。
何の意味があるのかわからず困惑する麗珠を、翡翠の瞳がじっと見つめてくる。
「麗珠。俺を呼んで」
呼ぶと言うからには名前だろうが……ここは謁見の間という公式の場だ。
さすがに一介の姫が皇帝を呼び捨てにするのはまずいだろう。
「……陛下」
「何で突然その呼び方だよ。名前だ、名前」
「だって、公式の場では猫を被るって」
以前に自分が言っていたのに、忘れたのだろうか。
「今はいい。――俺の名前を、呼べ」
よくわからないが、呼べと言うのだから呼ぶのが正解のはず。
麗珠は小さく息をつくと、口を開いた。
「……龍蛍」
その名を聞いた龍蛍は、とろけるような麗しい笑みを浮かべる。
すると次の瞬間、銀の玉座が突然光り輝き、三人の姫が小さく悲鳴を上げた。
まさかと思って視線を向ければ、光を放っているのは龍蛍のおしりだ。
玉座の座面は硝子で、その下はお椀型に抉れていて鏡が複雑に配置してある。
乱反射した光が玉座自体と座っている龍蛍を輝かせていて、何も知らなければ荘厳と言っても差し支えない光景だ。
「龍蛍これ、おしりの……」
「――麗珠」
光に負けない眩い笑みが、もの凄い圧をかけてくる。
龍蛍のおしりが光ることは内緒だから、言ってはいけないのだろう。
「さて。皇帝に光を与える者を、暁妃と呼ぶ。麗珠にその資質があるのは見ての通りだ。本日、正式に朱麗珠に暁妃の位を授ける」
授けるとか言っているが、辞退できるものなのだろうか。
ちらりと様子を窺ってみると、おしりの後光に照らされた美しい笑みが返ってきた。
……どうやら、なかったことにはできそうにない。
「私が顔を出さぬ間は代理を立てていたし、後宮の行事もかなり縮小した。それも徐々に元に戻していこうと思う」
少しずつおしりの光が弱まり、それに合わせて玉座も普通の銀の椅子に戻っていく。
完全に光が消えるのを待って、龍蛍は玉座から立ち上がった。
気になって覗き込むと、やはり座面は硝子張りで鏡が配置されているし、ところどころ空間があるのは恐らく背もたれや肘掛け側にも光がいくように細工されているのだろう。
――この玉座は、おしりが光ることを前提に作られている。
まさかの事実に、麗珠の眉間に少しばかり皺が寄った。
「今日は、顔合わせと暁妃の紹介だけだ。ご苦労だったな。下がっていい」
龍蛍の言葉に従い、三人は頭を下げた。
麗珠も朱宮に帰るため壇上から下りようとしたのだが、その手を掴まれる。
「麗珠には、話がある」
こちらとしては話すこともないが、ここで押し問答をするわけにもいかない。
仕方がないのでうなずくと、龍蛍に手を引かれるまま謁見の間を後にした。
光った、光りましたよ!
玉座ごと光りました!
モウコ(ง -᷄ω-᷅ )ว ٩( -᷄ω-᷅ )۶(ง-᷄ω-᷅ )ว ( -᷄ω-᷅ و(و ハァーン☆
中華後宮風ラブコメ「蒙古斑ヒーロー」!
誰もが蒙古斑ヒーローと呼ぶのでタイトル変更しました。
コメディ感が凄い!
※活動報告でキャラのアバターを公開!
「残念令嬢 ~悪役令嬢に転生したので、残念な方向で応戦します~」
書籍2巻発売中!
ゼロサムオンラインでコミカライズ連載開始!
こちらもよろしくお願いいたします。
※現在1巻の紙書籍が品薄です。
またアニメイト等で2巻が残り僅か。
詳しくは活動報告をご覧ください。